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12

月の雫

着いた途端に生き生きとし始めた彼に、ほっとしつつも一抹の寂しさを覚える。
きっと、先ほど来たときには要点だけを言ったのだろう。少年とシンタローの会話はとても暖かい。
「ちゃんとメシは食ってたのか?」
「当たり前だろう。なんせ」
「育ち盛りだもんな」
屈託のない笑顔。朗らかな、笑顔。
視線を合わせるために屈み込んでいるその姿は、この島での彼のあるべき姿。
柔らかな雰囲気は、それが一朝一夕で出来たものでないことを如実にあらわしている。
否、時間だけではない。一緒に過ごしてきた長さでいえば、グンマとの方が明らかに長いはずだ。
問題はいかに過ごしてきたかだ。
そのことがあまりにも悔しくて、屈みこんでいるシンタローの隣に強引に座り込む。
「シンちゃん、紹介してくれるんでしょ?」
「僕はお前のことを知っているぞ。グンマって言うんだろう」
ごく自然に、けれどもあからさまに邪魔をしたのに、返ってきた反応はあっけらかんとしたもの。
素直な反応に、拍子抜けすると共にちくりと針が刺す。子供相手に自分は警戒し、そして嫉妬している。
「うん、僕も知っているけどちゃんと挨拶するのは初めてだからね」
「うむ。中々礼儀正しいな。どこかの誰かとは大違いだ」
誰を対象にした嫌味かあからさまに漂わせたその一言は、しかし結果通り相手に届いたというのにパプワはじぃっとグンマを見つめる。
その視線は、ごく純粋に見ているようにも、そして何かを判別するかのような、心の奥底をのぞかれている気分になる。
「コンニチハ」
けして不自然ではない、しかし人形のような完璧な挨拶。
視線に負けたわけではない。ただ、緊張している自分がいる。
「うむ、これからよろしくな」
なのに、その返事はとても素直。気がついているはずなのに、と思うのは買い被りだったのかとその緊張を解きへらりと笑うと小さな手が指し伸ばされた。
「そのほうがいいな」
「…ありがとう」
気を緩めてしまったこと、そしてそのことに気が付かれた事に反応するものの笑ってその手をとった。
この、小さな手が変えたものがどれだけグンマにとって大切なものであるかと思えば、何もいえなくなる。
感謝の気持ちを込めて軽く握りなおすと、分かっているよといわんばかりに微笑まれた。
たったそれだけで、自分が完敗したことがよく分かった。
そしてそのお陰で振り切ることが出来た。

―――気がした。


祠から地下通路を通って抜け出す。
グンマの中には彼が帰ってこないという不安はない。
否、それは嘘だと自分をあざ笑う声がどこかから聞こえた。
“確かに、シンタローは帰ってくるだろう。しかし、それは本当に、自分の知っているシンタローだといえるのか?”
その声は囁いてくる。
あのジャンという番人と融合したら、そこにいるのはシンタローなのかそれともジャンなのか。あるいはまったく別の人格なのか。
あれ程、彼の体を望んでいたのに今では精神のままでいいからそばにいて欲しかった。
シンタローが体をなくした後。触れられないことで彼がこのままではないかという思いが生じ、躊躇いが生まれた。
双方が傷つくならば、伸ばした手を引っ込めればいいと思っていた。
でも、パプワと話すシンタローを見てよく解ってしまった。
必要なことは、きちんとコミュニケーションを取れること。そして、相手を思う気持ちがそこに存在することなのだと。
なんて簡単で、難しいことなんだろうか。
そのさじ加減を、パプワはごく自然にやって見せた。
結果は瞭然としている。

「ねえ、高松」
体力のないグンマを気遣いながら隣を走っている高松に声を掛ける。
「僕は、この島に来てよかったと思っているよ」
走っているせいでいつものようなトーンでは話せなかったが何とか笑うことが出来た。


たとえ、赤の番人でもなんでも。
シンタローが従兄弟であると、グンマはこれから先も思えるだろう。


そしてなにより。

心が決まった。


彼のためならば、何でもできる気がした。
今まで見たいに隠れてではなく、堂々と。

それがたとえ嫌われる結果になったとしても。
離れていくかもしれなくとも。




笑顔でいてくれるとするならば、それでいい。







<後書>
ようやく二人が顔をあわせましたグンマさんとパプワ君。
仲は良いでしょう。きっと。
このときにはすでに戦闘モードに入っていたので、グンマさんも戦いに参加する決心はついていたかなと。


相変わらず、ぶつ切りですみません…


次は、え~と。

…ようやくサービス叔父様との話し合いかな?(昔、日記で書いていたのですよ)

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