月の雫
心と頭が連動してくれない。
ぐるぐると回るこの気持ちは、一体どう処理するべきなのだろう。
これは意地とかではなく、受け止められないからだと分かって呆然としてしまう。
従兄弟じゃなかったとか、血が繋がっていないとか関係ない。
このまま帰ってしまえば解決すると思ったがやはりそういうわけにもいかなかった。
今までの、シンタローという人物は影だという。
知らない人が知らない声であざ笑うかのように、いや、実際にこちらを見下していたのだろう。
でもそんなことは、問題じゃない。
必要なのは、こんな知らない人からの評価じゃなくって、笑っている彼からのもの。
番人だろうが、影だろうが関係ない。
従兄弟の“シンタロー”は彼だけなのだから。
鶏の背に乗り、空を飛ぶ。
頬に当たる風が気持ちよく、少しだけ気分が軽くなった。
一番の要因は彼が戻ってきたからだけど。
それでも全快しない理由は、何か言いたげにしている視線があるからだろう。
そして、もう一人の、本当の従兄弟。
どうやら高松の説明に納得したらしい従兄弟は、しかしまだシンタローに拘っている。
それは今の彼に何もないからだろう。
幸いシンタローが取り合わないから、笑って済ませられるといったところか。
ただ、グンマもそれどころではないというのが現状だ。
頭の中が整頓できずにいるのは確かだ。
否、してしまうのが怖いのだ。
「おい」
シンタローから声をかけてくれるなんて、常ならばないことなのに、なぜか心はざわついたまま。
「顔色悪いぞ」
頬に触れる手が、彼がここにいることを教えてくれる。
暖かい手。
言葉に出せない一言が頭に過ぎり、ふわりと笑う。
その手に、自分の手を重ねることにより、彼がここにいることを確認する。
もう、恐れるものはない。
彼はここに在る。
皆、気がつくべきなのだ。
「僕の従兄弟はシンちゃんだけだ」
だって、君は違う。
24年間、閉じ込められていたという彼に対して、グンマは手厳しい。
彼がしていることは無駄に時間を空費しているだけ。
今までの自分のようになって欲しくないから。
過去を振り返るな、なんてことは言えない。
過去があるからこその人であり、その積み重ねが認識されることだから。
だからこそ、気がついて欲しい。
名前とか、誰の子供であるかが重要なんじゃない。
本当に大切なこと。
おそらくは生死をかけた戦いに、グンマがついていくことに困惑された。
戦闘に不向きである以上残るべきだといわれたが、どうしても自分の目で見たかっのだ。
「それに、もう一人のシンちゃんが行くのに何で僕が行っちゃいけないの?」
そう、この島を破壊しようときた彼も行くというのに、自分を止める理由などないはずだ。
「あのなぁ…」
「何か問題でもあるの?」
「在りますとも!もしグンマ様に何かあったらこの高松…!」
「僕はもう、ルーザー叔父様の息子じゃないよ」
その一言で押し黙るのをみて、息を大きく吐く。
しかし気にかかっているのは一人、否二人。
「何で君は行くの?」
不意に声をかけられ、虚に突かれたのように驚く。
もう一人の従兄弟はしかし、何も言うことができないのか口を幾度か動かしただけで何も言わない。
誰も何も言わない。
それは彼が叔父たちと戦う理由がないことを知っているからだ。
「ね?」
にこり、と今までと態度を一変させたグンマに皆があっけに取られる。
その様子をしってかしらずか、グンマは胸を張って続ける。
「彼が行くなら、僕も行くよ。僕だってこの島を守りたいんだから」
何がどのようにして繋がっているのかわからない。
その沈黙を破るかのように、シンタローがグンマの頭をぐしゃりとかき混ぜた。
「ったく、自分のことは自分で何とかしろよ?」
「うん!」
いってやりたかった一言がある。
その力ゆえに彼を悩ませ、自分の家族達が数奇な運命をたどった。
生まれてついたその能力に身を滅ぼしたもの、蝕まれ今もなお縛られているもの。
――死んでからも開放されぬその魂。
「僕達は、石ころのおもちゃなんかじゃない」
知っていた、この力を。
総てを破壊してしまうほどに大きく、それゆえ無意識に抑えていた力。
怖かった、争うこと、奪うことが。
けれども、今は違う。
逃げることによって避けていたこの力を今。
道を開くために使おう。
――始めて見たその光は、とても綺麗で、悲しい色だった。
<後書>
捏造部分が薄いです。
グンマさんってば、一族対決のときが一番男前だなと思います。
PAPUWAでは、仲のよい家族をやっていますが、このあたりではちと違う感じ。
彼が守りたいのは、シンタローさんしかいないので(笑)
ここまでお付き合いありがとうございました。
一応、次で最後、というか後日談風になります。
…いつからかいてたっけこのシリーズ…
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