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9

月の雫

不意に止まった、ガンボット。
まさかコントローラーが壊されるという事態を想定していなかったため、稼働時間のことを忘れていた。
「コンセント貸して~」
朗らかなその声に対し、帰ってきたのはドスの聞いた声と拳だった。



「もう来んじゃねえよ」
泣きながら帰ってゆくその背中に、シンタローはやれやれとため息をついた。
親父も何考えているのだか。
グンマがやってくるとは、考えていなかったため些か驚いたのは確かだ。しかし、いくらなんでも従兄弟が来たくらいで帰るつもりなど毛頭無い。
「仲が良かったのか?」
いつものようにチャッピーの背中に乗りながら、こちらを見上げる視線に少しだけ考え込む。
「ま、昔はな」
14のときに士官学校に行ったシンタローと同じく14のときに研究施設を廻るようになったグンマとはそのときから徐々に距離が出来ていた。
そういえば、誕生日でもないのに時々、怪しげな包みが届いていたことを思い出す。
開ける気がなかったため放置していたもの。
自分より屋敷に戻る機会があったグンマはそのことも根に持っているかもしれない。
「ったく、仕方ねぇな」
こうして会うのも久し振りなのに、話さなかったことを少しばかり気にかけている自分に苦笑する。
「また来るといいな」
ガンボットが暴れた跡がそこらにあるというのに、無表情に見上げながらそんなことを言う。
「また壊されるかもしれねぇのによく言えんな」
呆れながらもその頭を撫でてやる。
そんなことをいいつつも、気になっていると分かっているパプワは口端を少しだけ持ち上げた。
「賑やかなのは好きだぞ」
率直なその意見に、困ったような顔でシンタローは笑った。
賑やか、を通り過ぎていると思うのだがこの島ではまだ許容範囲内らしい。
「時々ならいいかもな」
そういいながら、最後に喧嘩したのはいつだったかとふと思い出してみた。






ぼろぼろになりながらも、早速無事に残った日記に先程の勝敗について書き込む。
シンタローに負けたわけではないが、負けは負けだ。
「シンちゃんのバーカ」
負けた悔しさはあるものの、不思議と心が温かかった。顔が綻ぶのを止める事が出来ない。
「いばりんぼー、自己チュー」
残さず書いてしまえば、残るのはすがすがしい気持ちのみ。
まるで、昔のようだった。
くだらない発明を、と呆れていた。少し前までは一瞥するだけで何の反応も示さなかったというのに。
元気になってもらおうと送った何種類もの曲を詰めた目覚まし時計も、スイッチを押せばくるくると回り出すガンボットも、総て包みを開けられることも無く放置されていたことをグンマは知っている。
久し振りに怒られた。昔はおっかなくって仕方が無かったのに、今はそこに嬉しさが加わった。
きっと、この島がシンタローを変えてくれたのだろう。
そう思うと、心の中でなにかがちくりと痛んだが、気が付かない振りをする。
ぼこぼこに殴っておいて、座り込んで盛大に泣いていると手を差し伸べられた。
『ほらよ』
ぶっきらぼうなその言葉。
いつも、そうだった。喧嘩した後はそうして立ち上がるのを助けてくれた。
暖かい手は優しさを象徴しているようで嬉しかった。
「――お帰りなさい」
悔しくって、言えなかった言葉。
大切なものをその手に掴むことがきっと出来たのであろう彼に伝えたかった言葉。




総帥であり、父親であるマジックは、秘石眼を持って生まれなかったものの、眼魔砲を撃つことの出来るシンタローに多大なる期待とを背負わた。
そのことがシンタローに抜けることの無い迷路に閉じ込めた。
もがきながら傷ついて、そんな姿は見ていられないものがあった。決して超える必要の無いその壁を、皆が当然のように押し付けた。
その筆頭がここ数年姿を現さない二人の叔父、サービス。
シンタローに眼魔砲を教えた、シンタローが尊敬する人。修行中に何を告げたのかは知らない。しかし、そのことがより一層シンタローの退路を断ってしまったことだけは解っていた。
背負わされたシンタローには関係ない夢を、各々ぶつけていった。
そのことが、どうしてもグンマには赦せなかった。
何も知らされずに、ただ背負うことだけを望まれた従兄弟――
そんな彼に、グンマは知って欲しかったことがある。


完璧である必要は、どこにも無いということ。
一人である必要は無いということ。


きちんと彼を受け止めてくれる人がいるということ。完璧でなくとも、誰も責めたりしないということ。



最後の一言を書き終え、そっと日記を抱き締める。
シンタローがいなくなった日に書いた日記よりも長くて、楽しいことの書いてある日記。


彼を受け止め、彼がありのままでいられる場所が出来たこと。



「寂しいけど、仕方ないよね」
ちょっと笑いながら、先程走ってきた方向を見つめる。
そろそろ、帰らないと高松が帰ってくるまでに間に合わない。
不幸な助手に命の危険が迫る前に帰ってやらなくては。
大急ぎで船に乗り込むと指示を出す。
先程のように複雑な笑みではなく、零れるような笑みを浮かべながら。


きっと彼が自分の意志で、呪縛から逃れようとするだろう。それは、確かな予感。
証拠は、彼の表情。たったそれだけの証拠だがグンマを信じさせるには十分すぎるモノ。
その結果がどうなろうがグンマには関係ない。
ただ、シンタローさえ真っ直ぐに生きて行ければいいのだ。
それが、グンマの望み。


「あ」
島から離れて暫くしてからグンマはあることを思い出した。
しかし、直にどうでもいいと思い直す。
たったひとこと、伝え忘れたというただそれだけ。


“また来るね”



それだけのことだから。






<後書>
シンタローさんさえ幸せならばそれでいい、グンマさん。
まだまだ問題が山済みだと知っていても、とりあえずシンタローさんが笑っているならいっか、とか思っていそうです。
一族のしらがみから何とか助けたいと思っていても、弱気になっていたのと、シンタローさんに意地を張られると思って何も出来なかったんじゃないかなと。


ではでは、次は近いうちに~。



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