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5

月の雫

昨日まで研究室に篭っていたのが嘘のように、グンマはk-3地区の情報を残らず入手した。
大きな遠征であったためか、あちらの様子は逐一とは行かないものの、結構な量の情報が流れてきていた。
日に増えてゆく、負傷者と死亡者の数。
その名前のリストを丹念に調べてゆくうち、グンは何度も吐き気に襲われた。
リストと共に、戦況についても遡っていった。それまで聞いていた情報は大まかなものであり、グンマも詳しくはし知らなかった。
そして、今までどれだけ自分が無関心であったのかを知った。
高々、そう、高々一回分の戦況を活字で追っただけだというのに、動悸を止めることが出来なかった。
ここまでの、犠牲を払っても手に入れたいもの。
そんなものにグンマは興味は無い。
今まであの地域で何人の人が死んだと聞いても、まるで他の次元の話だと思っていた。
なのに、知ってしまった今では、この世界を手に入れようと、多大な犠牲を払って平然としているマジックに恐怖を感じていた。
そして今日、グンマは一冊のファイルを抱え、総帥室に向かっていた。
昨日に一緒に届けようと思っていた、次の研究についての書類。この書類は提出期限は無いのだが、自分があれ程やりたがっていたガンボットの研究を行うためにも一日でも早く渡さなければならない。
しかし、腕に力を入れていなければ震えてしまいそうだった。
顔も自然にこわばり、朝に会った高松に心配されてしまった。
それでも何とか、重い足を引きずってここまで――総帥室へと向かうためのエレベータ前まで――やってきた。
降りてくるエレベータを待ちながら、俯いた。
今は何も見たくなかったから。
いつもならば聞いているだけで嬉しくなる、重々しい機械音も心を晴らしてはくれない。
重々しい音が止まり、扉が開く。
顔を上げ、エレベータに乗ろうとしたが、そこである人物と鉢合わせになった。


呼び出しを食らった。
周りはどよめくものの、呼び出されたのが誰であるかを知り、すぐに興味を失った。
その空気を掴み、苦い顔になったがそれも一瞬で消し去り、部隊長に敬礼をするとその場から立ち去った。
向かう先は総帥室。
コタローに一刻も会いたいという気持ちがあるが、一兵士であるシンタローが総帥命令に逆らえるはずが無い。
ティラミスに案内されて、総帥室へと案内される。
これも、指示に含まれていた。
シンタローはここまでの道のりを知っているし、必要な鍵など総て持っている。
それなのに案内をされるということは、身内として呼び出したわけではないのだろう。
些か緊張した面持ちで、無機質な廊下を黙々と歩いてゆく。前を歩くティラミスと自分の靴音のみがただ、冷たく反響する。
ようやく総帥室の前にたどり着いたときに、シンタローは重く息を吐いた。
ただ、呼び出されたというだけで、重圧を感じた。今までのように、何人もの人を介して下された命令を、じかに受けるというただそれだけなのに、呼吸がうまく出来ないでいた。
「連れてまいりました」
いつの間にか開いていた扉からティラミスが先に入り、シンタローの入室を促す。
気合を入れために、一度目を閉じて深く息を吸う。
大きく、一歩踏み出した。




「ただ今、帰還しました」









「久し振り~」
それまでの陰気な気分が一気に吹き飛んでしまった。
その姿を見ただけなのに。
グンマはそんな自分が現金だと思いながらも、下りてきたばかりのシンタローに駆け寄った。
しかしいつものように邪険に扱われると思っていたのに、シンタローは顔を上げることも無く、ただ俯いて歩き始めた。
「シンちゃん?」
暫く止まっていたエレベータは扉が閉まり、上へと登ってゆく。
それに乗るはずだったが、そんなことよりも明らかに様子のおかしいシンタローのほうがグンマにとっては大切だった。
正面に回りこみ、腕を掴んでその顔を見上げる。
自分よりも高い位置にある顔を見るためには見上げるしかない。
それでも、俯いているために眼を見ることは出来ない。
「……叔父様に、なにか言われたの?」
グンマの頭の中でアラームがなった。
聞いてはならないと、どこからか声が聞こえた気がする。
それでも、高松の言葉を信じた。シンタローは大丈夫だといった、その言葉を。


「……コタローが、幽閉された」



その声は弱弱しく、グンマの知っているシンタローの声ではなかった。
シンタローもたった一言、絞り出すことが精一杯で、驚いて眼を丸くしているグンマを振りほどくと、そのまま去っていった。




黙ってシンタローが去っていくのを見送ったグンマがわれに返ったのは、それから暫く経ってからだ。
慌ててエレベータを呼ぶが、その顔は先程以上に緊張していた。
日を改めて提出すればいいのに、なぜかその時はそんなことを考えられなかった。
思考が、麻痺していたのだろう。
ただ、届けなければならないという義務感があった。
総帥室の前に、ティラミス達を通し、部屋に入れてもらう。
あけてもらうまで時間が、とても長く感じた。
「グンマ様が参られました」
声から緊張しているのがわかった。


コワイ、ニゲタイ


なのに、グンマの足は勝手に部屋の中に進んでゆく。
「――お久し振りです。おじ様」
蚊の鳴くような小さな声で挨拶をする。
視線は合わせることが出来ず、俯いたまま。
「シンちゃんに、先程会いました」
「そうか」
おじ様も、会ったのでしょう、とは怖くて聞けなかった。
手に持っていたファイルを渡す際に、マジックの顔が眼に入った。
常ならば、優しそうな表情が浮かんでいるというのに、苦渋に満ちた顔をしていた。
こんな顔を見るのはグンマは初めてだった。
マジックの機嫌が悪いときには、それとなく高松がグンマを近づけないようにしていたし、なによりマジックも優しく振舞っていた。
しかし、今はそんなことを演じることすら出来ないほど、マジックの感情は高ぶっていた。
「グンちゃんは…」
「…何でしょう?」
唐突に話しかけられ、身を硬くする。
互いに視線を合わせようとしない。
「シンちゃんに、なにか聞いたのかい?」
「―――ハイ」
一瞬嘘をついてしまおうかと思ったが、そのようなことをして何になるのかと思い、きちんと答えた。
声は、先程よりもますます小さくなっていたけれども。
喉がからからに渇いていて、このままでは死んでしまいそうだ。
「―――――――――ぅ」
時計の音が大きく響く中、それでもその呟きは発した本人が思った以上に、部屋に響いた。
「なにか言いたいことがあるならいいなさい」
強い重圧を感じて、がたがたと体が震え、瞳からは涙が零れた。
秘石の力が宿っていない、蒼い瞳から。
じっと、ただ見ている―それだけに恐ろしい―そんな重圧に耐えられず、ようやく口を開いた。
「きっと、シンちゃんはもう笑わないと思う」


唐突に、衝撃がグンマの横を走った。


声にならない悲鳴と、爆音。
「下がりなさい。コントロールをするのが難しいみたいだからね」
グンマが振り向くと、そこには貫通こそしなかったものの、深くえ抉れた穴が壁に開いていた。
自分には無い力を眼のあたりにし、こくこくと頷くと力の入らない体をどうにか引きずるようにして部屋を後にした。




グンマが部屋から退出した後、マジックは自分があけてしまった穴の前に立った。
特注で作らせた壁は、どうにか暴走した力を凌ぐことが出来たらしい。
「全く、傷つけずにすんでよかった」
いくら力が暴走したとはいえ、自分の甥を傷つけるつもりなどマジックには無い。
放たれた力事態それほど大きなものではなかったが、直撃すればただでは済まないだろう。
ほっとするものの、どこか釈然としないものが残った。
あの時、間違いなく力の本流はグンマへと向かっていった。しかし、秘石の力はグンマの横を通り過ぎ、後ろの壁に大きな穴を開けたのみ。
それも力の暴走だと片付けてしまってよいものだろうか?
しばしの間、悩んだが結局結論が出るわけでもなく、マジックは再び仕事を開始した。




エレベータに乗り込んだところで、なんとか涙が止まった。
そしてエレベータの扉が開くやいなや、駆け出した。
一刻も早くこの建物から離れたかった。
もう、どんな通路を走ったかなど憶えていない。ただ、早く自分の居場所に戻りたかった。
自分の部屋に戻ると、鍵を掛け、椅子に座った。
「日記…」
引き出しを開け、日記を取り出す。
そして、新しいページを開くと、日付を書こうとペンを握った。
「書かなきゃ」
今までだって、つらいことがあっても日記を書かなかった日は無い。
シンタローに負けた日も、叔母が亡くなった時も。
その日に何があったかを忘れないように。いつか、そんなこともあったと言えるようにと。
それなのにペン先は震え、おかしな曲線を日記に描いてゆく。
不意に、視界がぼやけた。大粒の水がぽたりと日記を濡らす。
「間に、合わなかった」
声が潤んでいるのを、どこか他人事のように聞いていた。


弟が出来たと喜んでいた顔を見てに安心していた。
守るものが出来たシンタローならばきっと大丈夫だとだと思っていた自分がいた。


守りたかったモノは彼のプライド。
たとえ負けたとしても、立ち上がっていけるという希望。




何も出来ずにぼろぼろに引き裂かれてしまった。



彼らの、想いが。





<後書>
ようやく、一区切りついた気がします。
グンマさんがなぜシンタローさんに勝つことをこだわったかを書きたかったのですがいかがなものか。


次は、ようやく彼らの物語の始ったところが書けたらと(といいつつ、お子様は出なさそうですが…)


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