月の雫
壁に取り付けられているコルクボードには何枚もの写真が貼られている。
もう、一年前になるシンタローとの戦いの時にとった写真も飾ってある。
「元気かなぁ?」
暫く会っていない従兄弟のことを思いながら、パソコンに向ってデータ処理が順調に行われているかを確認する。
思いのほかガンボットの出来が良く、叔父であるマジックにほめてもらったのも束の間、今度は大嫌いなシステムの構築の仕事を任された。
暗号化のプログラムの組み換えと、ハッキング防止のセキュリティ対策。
専門外であるものの、断ればきっとこれから先ガンボットの研究が出来なくなる。
仕方が無く、一時中断してこちらに取り掛かって早数ヶ月。ようやく満足のゆくものが出来た。
こうしたものは苦手であるものの、きちんとしたものが作れるのがグンマであり、どれだけ馬鹿にされていようとも、天才であることは周知である。
そして、今しがた仮想空間にて動かしたデータと共に報告書をまとめる。
これで暫くは自分の研究に取り掛かれるはずだ。
グンマはうきうきしながら、書類を届けるために部屋を後にした。
本来ならば総帥に手渡しするはずだったのだが、生憎、重大な仕事をしている最中ということだったので側近であるティラミスに渡した。
そして、その足で高松のいるラボへと向かう。
久し振りに緑を見たくなったのもあるし、終わったことを伝えたかった。
開放感から浮かれすぎていて、つい近道をしようとして一般通路を通ってしまった。
去年のことがあってから、グンマは一族専用の通路を使うようにしていたのだ。
そして気が付いたのは、大勢の声がしたから。
慌てて戻ろうとしたが、幸か不幸か誰とも出会わずに、ずいぶん長い距離を進んでしまったところまで来てしまっていて、グンマはどうするべきか迷い辺りを見回す。
「――で、シンタローさんはいつ戻ってくっべ?」
「話によっと、来週らしいっちゃ」
方言が一際激しい会話だが、話されている内容に思わず耳を澄ました。
「どこに飛ばはれとったんでしたっけ?」
「オメ、そういう言い方しか出来んのか?」
「だから友達が少ないだわや」
漫才のようなやり取りに、グンマは気が付かれないようにと注意しながら、会話を良く聞こうと集中した。
「なに言ってますん。ほんとの事でっしゃろ?K-3地区なんて誰も行きたがりまへん」
「だからシンタローさんが行ったんだべ。実力さ買われたんだ」
「いい加減、嫉妬するのはやめたほうがいいっちゃ」
最近篭っていて全く情報が入ってきていなかったせいか、シンタローがそんなところにいっていたなど知らなかったグンマは眼を丸くする。
K-3地区については、激戦区に指定されたというのを篭る前に聞いた。
それ以降、どうなったかは興味が無かったため知ろうもしなかった。
そんなところにシンタローが行ったとなれば、毎日のように会いに来ていた高松が知らないはずが無い。
幸い、彼らとはぶつからずにすむ。
グンマは急ぎ足で高松の元へと向かった。
覚悟を決め、高松は研究室でグンマが来るのを待った。
意図的に隠されていた情報に、きっとグンマは怒るのだろう。
昨日、明日には終わると告げた、満面の笑みを思い出す。
一族のものの特徴である金髪は太陽の光のような色で、瞳は澄み切った空のように明るい青。
系統としては、サービスのような色合いなのに、冷たさを感じさせないためか、全く別のものようだ。
そう、他の誰の色でもない、金髪碧眼。
父親であるルーザーのものとも、実の父親であるマジックのものとも違うその色に安堵したものだ。
しかし、それでも赤子たちに罪の証を見つけたとき、愕然とした。
シンタローが黒髪であったときよりも、驚きを隠せなかった。
なぜ、それまで気が付かなかったのかわからない。
髪と瞳の色を見ただけで安心したからかもしれない。
ふと、泣いているときに瞳が光っていないことに気が付いた。それが始り。
本来、秘石眼は感情が高ぶったときに蒼く光るという。
そして、その感情の高まりが強ければ強いほどその力は増し、ついには衝撃波が繰り出される。
しかし赤子の時にはただ瞳が輝くだけ。
成長するにつれ、力の存在を感じることによってコントロールすることが出来るのだという。
――コントロールするには個人の力の大きさ等で格差が生じるらしいが…
それはさておき、グンマが秘石眼ではないかもしれないという疑念を持った高松は、直ちにマジックに報告をした。
そして、グンマの体には確かに一族の血が流れていることは確認できたのだが、秘石眼を持っているかはついに分からずじまいとなった。
かたや黒髪で容姿からして一族の血を引いていないように見えるシンタロー。かたや金髪碧眼だが、秘石眼を持たないグンマ。
まるで自分達の罪を具現化したような姿に、高松はそこで自分達のしでかしたことに対する後悔の念が生まれた。
加えて、グンマは生まれつき体が弱く、寝込むことがしばしばあった。
看病をしながら、その小さな体に何度も心の中で謝罪をした。
誓いを立てたのは、そのときだった。
必ず、立派に育てると。
ドアが電子音を立てる。
インターフォンも鳴らさずに開けようとする者はただ一人。
愛しい、忠誠を誓ったかの人だけ。
<後書>
いろいろ、手を加えているため、いろんな人が出てきます。
いろんなサイトで高松がグンマを育てるにあたってどう思ったのかとかをいろいろ見て回って、自分の中でも考えてみました。
でも、あの性格なのに罪の意識なんて持つかなぁ、と思ってしまったのも事実(笑)
それでも彼のグンマに対する愛情は本物だと思うので、その事だけは曲げたくないです。
…例によって方言はいい加減です。物を知らなくってごめんなさい…
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