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ss

そして彼は笑った


「髪、切ってよ」
いつものように笑顔で、手に持った鋏を渡した。
そのまま傍にあった椅子を引き寄せ、彼に背を向けて座る。
長い髪を持ち上げて、手早く大きな布の端を首の周りに巻きつけて準備を整えると、もう一度彼のほうを向いた。
「ばっさりお願いね」

時間を見てシンタローは溜息をついた。
夕飯は一緒に食べると嬉々として連絡してきた本人がいないからだ。
総帥となってからまだ数日しか経っておらず、まだ要人達と顔合わせが残っているのだが、調整のために時間を持て余すことが多い。
本当ならば、さっさと業務に取り掛かりたいのだが、どんなに馬鹿馬鹿しくとも形式を無視すれば後々火種となる可能性がある。
出鼻をくじかれたような形になってしまったが、未だにあの島にいた頃の習性を少しずつ修正するために、のんびりすることにした。
そうなると、屋敷にいることも多くなり、今日みたいに何人かで食事を取ることも増えてきた。
残してしまうことは(これもあの島の影響だが)もったいないと思ってしまうために、あらかじめ連絡をするように言うのだが、研究に熱中しているグンマはもとより、それについて回るキンタローも約束を忘れることが多々ある。
今日は珍しく別行動だったキンタローはもう席についている。
問題は、グンマだ。
「ったく、先に食っちまうか」
昼間とは打って変わって無表情のキンタローに声を掛けると、さっさと茶碗にご飯をよそる。
綺麗に髪を切られたその姿は、先日初めて見た叔父の姿にそっくりだった。
どうして髪を切ったのかはわからなかったが、彼の口から発せられた言葉に、なぜかほっとしてしまった。
その言葉は物騒なものではあったが、キンタローであるとわかったからだ。
その後、暫く睨み続けていたが、不意に視線をはずすとまた鏡を見つめながら、手を握ったり開いたりしていた。
自分を模索している最中なのだろう、感情を持て余し、戸惑っている。
今はグンマが帰ってこないことが心細いように受け取れる。
時計を気にしているが帰ってこないものは仕方がない。
と、汁物をよそったときにいきなりドアが開いた。
「ごめ~ん」
まるで女の子のような謝り方で聞きなれた声が耳に入ってきた。
「ったく、おせーぞ!」
お玉を持ったまま、くるりと振り返り。
「ぐ、グンマ…」
見ればキンタローも驚いて思わず立ち上がっている。
「あ、キンちゃんとおそろいにしちゃった」
いつものようにのほほんとした顔で、にこやかに笑っていた。
ここ数年、整えるほどしか鋏を入れていなかった髪はばっさりと切られ、その言葉の通りキンタローと同じ長さくらいになっていた。
しかし髪質のせいか、全く違う髪型に見える。
「もしかして、似合わない?」
そのまま、椅子に座ろうとしたグンマだが二人の困惑した表情に、顔を曇らせた。
「すっごく軽くなってすっきりしたんだけどな~」
「いや、別にどうってことないけどな…」
なんといっていいか言葉が見つからず、とりあえずグンマの分のご飯と汁物をよそってやりながら、何とか言葉を探した。
キンタローも何とか椅子に座りなおしたが、こちらも言葉が何も出ず、ただグンマを見続けた。
「何で切ったんだよ」
「ん~、なんとなく?」
おいしそうに煮物を頬張りながらの言葉に、しかし、シンタローの中の感情に火をつけてしまった。
「てめぇ!帰ってこないと思ったら、驚かせた挙句、どういうことだ!!」
「え~!何で怒るの~!」
箸を突きつけられ、びっくりしたグンマは頬を膨らませた。
「だって、キンちゃんが髪の毛切ったのみて、僕も切ろうと思っただけだもん」
「そんなら、ミヤギが切ったときにそう思えよ!」
返答が気に入らないのか、それとも口答えされたことがむかついたのか、シンタローは怒ったままだ。
「あの島にいたときはそれどこじゃなかったし、そんな暇なかったもん」
そのまま睨み合いが続いたが、これまで何も言わなかったキンタローが口を開いた。
「もう伸ばさないのか?」
その言葉に、なぜか目を輝かせながら、キンタローのほうを向いたグンマは声まで弾ませていた。
「うん、すっきりして気持ち的にも楽になるからこのままにしようかな、て思ったんだけど、前の髪形も好きだし、迷ってるの」
「…おい」
「ほら、昔僕も髪の毛短かったこともあるし。あ、どっちが似合うと思う?」
そのまま、シンタローを無視するがごとく、椅子の向きを変え、キンタローに矢継ぎ早に質問するが、そもそも答える、ということに慣れていないキンタローはただ聞いているだけ。
「くぉら!キンタローが困ってんじゃねぇか。しかも、俺と話してる最中だろうが!」
「シンちゃん怒ってばかりだから嫌ーい。キンちゃんはちゃんと話してくれるもんねー」
聞こえない、とばかりに耳をふさぐグンマを、がしっと椅子ごと向きを正させると、頭をひとつたたいた。
「ったく、あんま世話かかすんじゃねぇよ。飯作ってやらねーぞ」
「シンちゃんのおーぼー」
「…それは使い方が間違ってないのか」
漸くグンマから開放されたキンタローの一言だが、あっけなく無視されてしまった。



「…どれくらいですか」
彼の強引なその態度に髪を整えながら、確認をする。
「そうだね、キンちゃんくらい?」
正面を向いたまま、彼の声は朗らかだった。
しかし、高松は眉根に皺を寄せてしまった。
「どうしたのですか?この数年、切ったことなどなかったではないですか」
「…キンちゃんの髪を切ったのは、高松だよね」
変わらない、柔らかい声。
しかし、こちらからの問いに答えることもなく、断言をされた言葉がとても深い意味を持つような気がして、髪を梳いていた手を止めてしまった。
「キンちゃんが、切って欲しいって言ったの?」
「…いいえ」
「なんで?」
傍からみれば、ただの世間話のようにしか聞こえないほど。
しかし、どうしても高松にはそうは聞こえなかった。
「叔父様に、似せたかったの?」
「そう、ですね。ですが…」
「高松」
言葉を切られ、おとなしく引き下がる。
口調は変わることもなく、柔らかい。
威圧感もないというのに、黙らなければならないような、何かがあった。
「キンちゃんは、キンちゃんだよ」
「…ええ、そうですね」
その返答をグンマがどう受け取ったのかはわからない。
ただ、彼は振り返り、ただ笑った。
「早く切ってね。シンちゃん達を待たせているから」

















<後書き>
相変わらず、タイトルセンスがありません。
GF祭り(各地で起きてますよね?)に乗り遅れた感じで仕上げてみました。
GF見る前は、グンマさんが切って、それを見たキンタローさんが真似して切った、みたいに考えてたんですけどね。
(このあたりのやり取りはほのぼのしてると思うのですが)

なんか、私の中の高松はことあるごとにグンマさんを畏れます。
で、グンマさんは間違いなくキンタローさんの親代わり(?)にとって代わろうとしてます(笑)
面倒見は悪いほうでないと思うんですけどね。
…でも、どうやったら紳士に育てられるんだろう。
反面教師?




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