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緩やかな呪縛

それは彼を縛る鎖。
優しさを装ったそれは彼を緩やかに拘束する。


「シンちゃ~ん!」
甲高い声と共に隣にいたはずの従兄弟が走り出す。
「げ」
あからさまな拒絶の声を無視して、白衣をはためかせながら勢いのままにグンマは抱きつく。
嫌がりながらも昔のように引き剥がそうとしないため、この頃は会う度にこうして突進をすることが多くなった。
「お前も止めろよな…」
マイペースにゆっくりと歩いてきたキンタローにそう毒づくシンタローだが、相変わらずの無表情で流される。
上機嫌のグンマを張り付かせたまま、大げさにため息をつくと、そのまま歩き始める。
「へへへ」
「ったく、俺は疲れてんだぞ。疲れを倍増させるようなことするなよな」
「お疲れ様~。でも今回も圧勝だったんでしょ?」
「ん~、まあな」
それが当たり前だというように答えるシンタロー。
戦況については、たとえどんなことでもグンマは逐一チェックしていた。
特にシンタローが出陣するものは総て。
そして、結果が出たらシンタローの元へと駆けつける。
今回のように、現地に直接赴いている場合ならばこうして彼の通りそうな通路で待ち伏せをする。
出陣すれば勝利を挙げる。
それはもはや真実であり、そのジンクスを破らぬためにもシンタローは死守してきた。
しかしその伝説ははっきりいって、最初の頃に総帥自ら前線に赴く機会が多く、一回でも負ければそれでガンマ団が潰れるという危機を乗り越えてきたからだ。
キンタローはそのことに対して、ガンマ団がなんとか軌道に乗り落ち着いた頃に聞いたことがある。
シンタローが受けているはずのプレッシャーは、並々ならぬ重さであると踏んでいたのだが、しかし返ってきた答えはあっけらかんとしたもの。
『あ~?とりあえず勝つことだけ考えてたからなぁ。あんま考えてなかったな』
そういった感情だけは隠すのがうまい彼が強がりで言っているのではないかと最初は疑っていたが、それが本当であると知ったときには愕然とした。
確かに総帥となったことにより、その肩の荷は格段に重くなり、段々とその重さを増していく。
しかし、それでも前に進む力は衰えることはない。
どんな岐路に差し掛かろうとしても、どの道を進むかと迷ったことはあっても進めないと膝を折る姿を見たことなどないような気がする。
シンタローが完璧でないことをキンタローは良く知っている。
何度もそんな姿を見てきた。
無論、楽な道を選んでいるわけではない、全く成長していないわけでもない。
なのに今の彼はガンマ団の中で総帥という、絶対神のように扱われることもしばしばであった。
それは生来の俺様な所と相乗してその認識を拍車を掛ける。
なぜか、違和感を感じた。
綺麗過ぎて何かを見落としている気がする。
「おや、今日は皆一緒なんだね」
「あ、おとー様」
隠居して以来、表に顔を出すことがなくなったマジック。
息子二人を出迎えるその姿は威風堂々としているものの、独裁者としての仮面を捨て、今はよき父として笑っていた。
ようやく築けた家族の形だというのに、奇妙に映るのはきっとキンタローの気のせいだと思っていた。



「ねえ、シンちゃん」
マジック、シンタロー、グンマそしてキンタローというなんとも奇妙な関係で食卓を囲み、食後のお茶をしているときだった。
「あぁ?何だよ?」
不機嫌そうな返事だが、ほんの少し前ならば無視をされていたこと思えば格段の進歩だろう。
マジックもそのことをよく知っているから、ニコニコと笑いながら本題を切り出す。
「ちょっと小耳に挟んだんだけど、今大変らしいね。なんでも、K国でクーデター起こったんだって?」
K国はつい先日、ガンマ団が内戦を収めるために軍隊を派遣し、その成果は上長だったはずだ。
それなのに、今回起きたクーデターのお陰でK国の大統領から要請がまた来ているのだ。報酬はもちろんなしで、だ。
「何ならパパが――」
「うっせぇ、くそ親父。なにかしようとしたらただじゃおかねぇ」
「あ~あ、パパってばシンちゃんを怒らしてる~」
即座に切られて、人形を握り締めながら泣いている姿に、父に掛けるにしては薄情な言葉を掛けるグンマ。
対するシンタローは僅かに眉を寄せただけで、お茶をすする。
「――ごっそさん。俺はもう一仕事してくるから」
何事もないかのように、しかしどこか急ぎ足で部屋から出て行くその姿を見送っても、マジックは動こうとはしない。
ただ残された食器を片付けるだけ。
「追いかけないのか?」
どこか手持ち無沙汰で、持っていたコップをもてあそんでいたがそれも取り上げられたため、鼻歌を歌いながらキッチンへと向かうその後姿に疑問をぶつける。
昔ならば、親ばか全開でいろいろやっていたはずなのに、あの島から戻ってきてからとてもおとなしい。
特に総帥としての仕事を手伝おうとするそぶりを見せることはあれど、大抵の場合は静観している。
「いいんだよ、これで」
その返答は問いかけた相手ではなく、いまだにお茶をすすっていたグンマからなされる。
ばっさり切った髪をまた伸ばし始め、ピンク色のリボンで結んでいる。
それが昔よりも幼く見せるが、その分彼の本質を見誤ってしまうものも大勢いる。その頭の中にある聡明な頭脳は、稀代のものであるのにも拘らず、だ。
キンタローはグンマと共に研究を重ねるごとに、シンタローのときとは違った視線で見ることが出来た。
決してシンタローの前では見せない、その頭の回転のよさに驚き、なぜその姿を隠しているのかが不思議だった。
そして、時折見せる何か、そう得体の知れないものをグンマに感じることがある。
今もそうだ。たった一瞬であるが、気配がした。
恐ろしいものではないが、いつもの風貌からは考えられない。
「じゃ、僕もそろそろ行こうかな」
手に持ったカップをキッチンまで運ぶといつもの笑顔のまま、食事前に脱いだ白衣を着る。
「キンちゃんはどうするの?」
最近はシンタローのそばにいることが多くなったキンタローに問いかける。
シンタローの意向により、総帥の物々しい警備をやめてから、格段に狙われる回数が増えた彼を守るため、そして遠征先にて数少ない理解者となるためキンタローは影のように付き添うようになった。
最近では総帥のぴりぴりした雰囲気を和らげるとのことで、キンタローに付いてきて欲しいという声も上がるようになったくらいだ。
「そうだな。向こうに行く」
きっと今頃、部下に当たるつもりがないのにぴりぴりとした空気を振りまいているシンタローを止めなくてはならない。
「じゃ、がんばってね」
対した感慨もなく、グンマは笑う。きっとシンタローの前であれば、散々ごねるのだろう。
しかし、その理由がいまだにキンタローにはわからずにいた。


どこか愛嬌のある戦艦が、大地から離れたとき、シンタローは自分の部屋にいた。
一枚の写真を眺めながら黙っているその姿はいろんな意味で恐ろしい。
「いい加減、子供のように拗ねるのはやめたらどうだ」
それは一本の通信によってだった。
後処理もほぼ終わり、引き上げようとしたときにそれは入ってきた。
まるでタイミングを計ったかのようなその通信はグンマから。場所は、彼らの弟の部屋からだった。
『見て見て~、おとー様の力作だよ』
その腕に抱えられていたのは大きな熊のぬいぐるみ。
『コタローちゃんへの贈り物だって。今日からあの部屋に入れるんだよ』
大きなスクリーンに映される総帥と同い年の青年と、ぬいぐるみは奇妙なことにマッチしているが、先ほどまで戦場にい兵士たちを脱力させるには十分だった。
しかも、その通信はそこで終わった。
否、その後にも続きそうだったのだが、あいにく電波状態が悪かったのか2分ほど声と映像が途切れた。
それ以降、あちらからの連絡はない。
(まったく…)
グンマの意図はわからないが、シンタローを怒らせるには十分すぎた。
その後、大雑把な指示を出してすぐに帰還しようとする従兄弟を尻目に、補足説明を加え何とか後処理を済ませた。
いつものこととはいえ、キンタローは深くため息をつく。
あの親子は何かある度にシンタローを怒らせ、しかもそれを楽しんでいる節がある。
そのことは如実であり、対象者であるシンタロー本人にも再三忠告したのだが、効果は薄い。
今のところぎりぎりのラインで抑えているものの、いつ仕事に差し控えるかと考えると気が重い。
今回の人形にしても、昔シンタローが買ってやったアライグマの縫ぐるみに対する嫌がらせのようにしか見えないのは気のせいなのだろうか。
本当に些細なことではあるが蚊が目の前を通り過ぎるかのように、気が散ってしまうことには変わりない。
とりあえず、目の前でふてくされている自分の上官を何とか宥めなくてはと大きく息を吸った。


その数時間後、本部に到着した戦艦が格納庫に収納される前に、表面上は、冷静になったシンタローがキンタローを従えてマジックのいる部屋へと向かう。
「シンちゃん、真っ先にパパの元に来てくれるなんて…」
「ガンマ砲!」
抱きつこうとこちらに向かってきたのが運のつき。
ぷすぷすと煙を上げながら、倒れているマジックに止めを刺そうと蹴りを入れるその姿に止めるタイミングを計っていると、不意に袖口をひっぱられた。
「ここはおとー様に任せて僕たちはコタローちゃんのところに行こうよ」
小声でにっこりと、有無を言わさぬ彼の言葉にキンタローは目を見張る。
しかし、驚いているキンタローに気づいた用でもなく、そのまま腕を引っ張って阿修羅のごとく父親に制裁を下しているシンタローをおいて二人は抜け出した。

「…何を考えているんだ」
心底、呆れてただそれだけを口にするが、答えはない。
エレベータには二人だけ。
一族のものが使うためのこのエレベータには当然監視カメラや盗聴器の類はない。
誰に聞かれることもないので、キンタローは長い間疑問に思っていたことを口にする。
「そんなにシンタローと喧嘩をしたいのか?」
先ほど、繰り広げられていたのは最早喧嘩のレベルを超していたが、それはこの際おいておく。
「…キンちゃんの目にはそう見えるんだね」
ようやく返ってきた返事は、しかしきちんと答えられていない。
「――グンマ」
「やだなぁ。そんな怖声ださないでよ」
ぜんぜん怖がっているように見えないその態度は、知らない人ならばある程度はごまかせるかもしれない。
「それで、どういうことなんだ」
「そうだね――失いたくないから、かな」
軽い振動を感じ、ついでドアが開く。
いつも思うが、グンマはこういったタイミングが恐ろしくうまい。
今も颯爽とエレベータから降り、問いかけようとしたキンタローを先制するかのように、そして自然に指導権を握っていく。
「ほら、キンちゃんもコタローちゃんに早く会いたいでしょう?」
その笑顔は、もういつものものだった。


あれは何年前だったか、思い出せない。
けれども、あのときの言葉の意味を理解した気がする。
彼をたきつける言葉は、他に目を向けさせないための布石。
露骨過ぎるそれに、しかし誰も気がつかない。
「どうかしたの?」
隣でにこりと笑っている従兄弟が心底憎い。
「いや、なんでもない」
失った痛みを知らないから、彼を留める術がわからなかった。
いつかいなくなるという、その意味をきちんと理解してなかったのが原因だろう。
繋ぎ止めることは出来ないから、少しでも長くいられるようにと願わずにいられない。
そして、そんな思いが緩やかに絡みつく。
決して不快に感じず、しかしどこか重さを感じるそれは彼に今を、現実を見つめさせるには十分なもの。
改めて、この一族の執着深さに驚き、そしてその血が流れていることを実感する。
目の前に広がるのは青い海。
あの島へ帰っていった彼は、こちらに戻ってくるのだろうか?
無事であることはわかっている。しかし、心まではわからない。
緩やかな鎖は、もし彼が帰ってきたときには幾重にも増えていることだろう。
いつか帰ってしまうかもしれないことを恐れて、しかしそんなことを全く表に出すこともなくにこやかに、彼を監視するかのように目を離さない。
それでも好きだから、その鎖を強めることはしない。



その思いは、とても綺麗で、残酷だった。





<後書き>
え~、ここまで書いておいてなんですが、実はキリリクの没原稿。
理由はあちらのリクエスト内容を見ていただければわかるかと。
パプワのパの字も出ていない…
没理由はそんな感じで。
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