残されたもの
やるべき事は山積みだった。
本部へと連絡を取り、指示を出す。
一日連絡を取らなかっただけで大量の仕事が溜まっていた。
本来ならば総帥自らが連絡を行うのに、今回に限ってキンタローが連絡をしてきたことに驚きを隠せない本部のオペレータが困惑の色を浮かべていた。
いつものように無表情で、シンタローは今コタローと一緒にいて手が離せないと伝えると、ようやく合点がいったのかあっさりと仕事を送ってきた。
今、キンタローたちがいる地点から本部はまだ遠い。
よっぽどの機密事項で無い限り、ハッキングを恐れてこちらに送ってこなければそれだけで総てが麻痺してしまうだろう。
一度、支部に寄れば機密事項だろうがなんだろうがガンマ団独自のネットワークを介して何の心配も無く送ることが出来るのだがそうも言ってられない。
ごく限られたもの以外、総帥が行方不明だという事実を知られてはならない。
これがガンマの作った船の中にいる幹部によって決まった意見だった。
もしこのことが外部に漏れたならば、ようやく安定してきた新生ガンマ団の存在が危ぶまれる。
暫くの間は、キンタロー、マジックの二人で総帥の仕事をこなしてゆくという結論に達し、またハーレムも現場復帰が決まった。
これで、暫くは大丈夫のはずだった。
組織としては。
後、2日ほどで本部に着くだろう。
キンタローはすっかり冷めてしまった紅茶を流し込み、送られてきたデータの検証を始めた。
本部より送られてきた“総帥の”仕事は思ったよりも速く片付いた。
二人で処理しているというのもあるが、急ぎの用件以外は対して難しいものではなかったことが要因であろう。
そこで、キンタローは自分の造った飛行艇の改良をするため、残ったデータをかき集め分析を始めた。
机の上には、先程置いたティーカップと片付け終わった仕事、そして一台のパソコン。
脱出してきた際に残っていた自分の私物をグンマがキンタローの為に用意した部屋(ちなみに部屋はこの場にいないシンタローのものまであった)に移ってきた。
しかし、元々たいした荷物を持ってきていないキンタローは着替えをクローゼットに入れると、今端末に繋いでいるパソコン以外の荷物は無かった。
そのせいか、大きな部屋が殊更大きく見えた。
本当に、ありえない事態だったのだろうか?
なにかに打ち込んでなければ、そんな考えに陥ってしまう。
心戦組だけでなく、ガンマ団の敵となりうる存在の動向に眼を配るよう、指示を出してあった。
しかし、少し前に局長自ら小部隊にて出動したという報告以来、何の音沙汰も無かった。
その時は、小船にての出動とのことであり特に気も留めてはいなかったものの、今回のような戦艦で出てきたとなればもっと前になにかわかっていたのではないかと考えてしまう。
思考の迷路に迷い込み、思わず手が止まる。
そして、最後に行き着くのはあの映像。
豊かな黒髪が、風に舞う。
紅い服が、彼の笑顔がやけに印象的だった。
あの時、もし先に行かなければ、助けることが出来たかもしれない。
爆音がして、思わず振り返った。
考えるより先に、体が動いていた。
二人しかいない空間を見た瞬間から、記憶が飛んでいる。
そして次の記憶は、攻撃によって空いた穴の淵から落ちていくあの笑顔を見たところに唐突に繋がっていた。
なのに、どこかで安堵している自分がいる。
いや、安堵というのはおかしいかもしれない。
――帰ってきた――
安らぎを感じた。
そして、そのことがなぜかシンタローの無事を確信させた。
大丈夫だと伝えても、なお不安そうな顔のグンマの頭を軽く撫ぜ、次々と指示を出した。
――らしい。
ほっとした後の記憶が、曖昧になっている。
いくら順序良く、並べようとしてもどこか抜けているか、まるで実態感の無い夢のようだった。
そして、気が付いた。
初めて、離れたのだと。
今度いつ逢えるのか解らない。
生きていると確信できるものは何もない。
今まで度々、離れて行動していたときとは違う、なにかがあった。
「…生きていてくれ…」
ようやく、シンタローの心情が覗くことが出来た気がした。
<後書>
今書かなきゃ以下略第二弾。
キンタローさんが、初めてシンタローさんと自分達の意志以外で離れたのではないかなと。
体が分かれてからも、互いに互いを意識していたわけですし、その後はサポートだ何だと一緒にいたわけで。
なにかで数週間離れたとしても、なにかしらの手段で連絡を取っていたと考えると、今回のことをどう思っているのかなと。
グンマさんとかコタローさんは前のガンマ団のときに、シンタローさんがどこかに行くたびにそんな思いをしてたと思うのですが、キンタローさんは初体験だったのでは?
キンタローさんは鈍くは無いと思うのですが、やはりまだ生まれてから4年ですし、身を持って体験することは沢山あるだろうということで。
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