そらの色
願わくば、あなたが幸せであれば良い
あなたが笑っていれば良い
言葉で表せばただそれだけ
けれど、なんて儚い願い
空から降ってきたのは赤い上着。
その上着を許されている者はガンマ団ではただ一人。
見上げると黒い髪を押さえながらこちらを伺う彼の人。
ここ、実験棟の屋上にあるバイオ植物園と司令塔の屋上とは10階ほどの差があるが、彼の人が誰であるか理解できた。
彼の人が手招きをしているのを見て、降ってきた上着と彼の人とを交互に見比べる。
持って来い
そう言うことなのだろうと思い、ため息をつく。
ここから彼の人の元へ行こうとするならば一旦実験棟から出て、司令塔を上らなければならないのだ。しかし、躊躇の色を見せずに階段を降りていった。
「わりぃ」
頭をさげる彼の人―シンタロー―にキンタローは無言で上着を返す。
その上着は総帥のみが纏う事を許された色、深紅色の上着。以前までは畏怖の対象となっていたものだ。
「助かったぜ、これ無くしたらどやされるところだ」
しかし、今着ている者からは恐ろしいという気持ちは沸いてこない。
威圧感は感じることはあれど、息苦しさは感じない。
しかも、いまの彼の人はその威圧感すら感じさせない人懐っこい笑みを浮かべていた。
「何をしていたんだ?」
上着を受け取った後もそこに佇むシンタローに呼びかける。
「んー、きゅーけー」
くるり、とこちらに背を向けるとフェンス代わりの手摺にひじを突く。
そこからは先程キンタローがいた植物園がある。
上着を脱ぎ、ズボンとタンクトップ姿の彼の人の姿はいつかの南国を思い出される。
「髪」
「あ?」
「縛らないのか?」
風は強く、長い髪はばさばさと靡いている。それがなんとなく痛々しく感じられた。
ただそう思っての発言だったのだがその言葉に彼の人は表情を無くした。
「…ああ」
そこで触れてはいけないことだったと思い至る。
彼の人の心の奥底の光。
消して触ることのできない、その光はあまりにも強すぎて…
時々、目に浮かぶ澄み切った青空。
穏やかな風は潮の香りを連れてくる。
それは全てが彼の人からの視線であり、その思いも知っている。
灰色の空に切りつけるような風は彼の人には似合わない。
そう思った瞬間、キンタローはシンタローの肩を掴んでいた。
「あんだよ?」
「戻るぞ」
その淡々とした言葉にキンタローのほうを向いたシンタローはむっとする。
「別に良いだろ、少しくらい休んだってよ」
「ここは、お前に似合わない」
「はい?」
あっけにとられているシンタローの腕を掴むと強引に歩き始めた。
「お、おい」
シンタローが呼びかけるものの、キンタローは自分の言葉を反芻していた。
では、どこが似合うのだろう、と。
南国のあの島だろうか、それとも総帥室であろうか?
無論後者だと思っているのだが、心のどこかでそれを否定する声が上がる。
彼の人が望んでいるのは後者。欲しているのは前者…
キンタローはおぼろげながら気がついていた。いや、知っている。
彼の人の気持ちを、24年間見てきたのだから。
しかし、きっとそのまま伝えても彼の人は聞き入れない。それどころか怒り出すだろう。
そしてキンタローは経験が少ないせいか直接的な物言いしかできない。
このまま何も言わなければ彼の人は不機嫌になるのも知っている。
だから、ひとこと
「あそこには、色が無い」
と、ただ一言。
あなたに似合うのは空色で
あなたが望んでいるのも空色
それは同じモノではなくって
でも灰色のそらは決して似合わない
<後書き>
“真夏の残像”のキンタローバージョンみたいになってしまいました。
南国~が終わった時くらいの時間帯くらい。キンタローさんが丸っこくなってた感じだったのを見ると、シンタローさんとの関係はそれほど軋轢はなかったのかな~と思っています。シンタローさんはそのあたりあまり気にしてなさそうだし。
で、ここ最近のPAPUWAではキンタローさんの世話の焼きっぷりが凄くってこんな感じに…
あ、このときのキンタローさんはまだ人との話し方に不慣れです。ということに勝手にしました(笑)
だって、南国~とPAPUWAだと雰囲気が二転三転しているように見えてしまうんですもの。
絶対ここ数年間でいろいろ器用になっていかれたと勝手に妄想しています。
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