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卓上のデジタル置時計が時間を示す数字を一つ進めたところで彼は顔を上げた。
まじまじと時計を見ても、指している時刻は先ほどから2分間しか経過していない。何度も横目でちらちらと時計を確認していたせいか、時間の感覚が妙に間延びして、彼には一秒が一分ぐらいに感じられた。
万年筆の先が書類に引っかかって、小さく黒い点を作った。修正するのが面倒くさく、そのままにしておく。処理しなければならない用件は腐るほどあるくせに、集中出来ない。紙に印刷された文字を目で追ってるはずなのに、気付けばまた時計を確認していた。見ると先ほどから一分も経過していない。
背もたれにもたれかかり、背伸びをしてみる。
肩を回しながら、机の前方に据え置かれた来客用のソファに座る従兄弟を見れば、だらしない姿勢で論文を読んでいる。そのページが一向に進んでいない。ずっと同じページを読んでいるようで、おかしいと思い観察してみると、何秒かおきにちらちらと腕時計を確認していた。
自分と同じことをしている従兄弟の様子に、思わず噴き出す。
怪訝な表情で顔で上げた従兄弟に、「お前さっきから全然ページ進んでねぇよ」と指摘すると、「それに気付くシンちゃんだって、仕事してないんでしょ」と返された。
「…何してんのかなー」
どうせ同じことに気を取られているのだろうと、主語を誤魔化して述べてみれば、矢張りそうだったようで従兄弟は「何してるんだろうねー」と同意を込めて頷いた。
「発表は午後からだから、もうそろそろ時間だと思うんだけど」
「何か変なことしてねぇだろうなーアイツ」
「大丈夫だよ、初めての発表って言ったって、キンちゃんだもん。高松もついてるんだし」
「それが余計に心配っつーか」
ここにはいない従兄弟の始めての学会発表に、母親の様に世話を焼き、いそいそと会場の大学までついて行ったドクターの顔を思い浮かべ、彼はそわそわと落ち着きなくまた時計を確認した。
「何かあったら連絡するように言ってあるし、大丈夫だと思うけど」
「心配だよねー」
従兄弟が論文の束をテーブルの上に投げ出した。ぱさっと乾いた音がする。「一応キンちゃんが提出した論文を昨日読んだんだけどさ、特にこれと言って問題はなかったんだけど…」と、ますますだらしのない姿勢をとりながら従兄弟は指先で紙の束をつつく。
「だけど何だよ」
「質疑応答で、結構厭味な質問されるときもあるし。専門外の人とか、こっちが思いも寄らない角度から突っ込んでくるときもあるし」
「キレねぇかな…アイツ」
「だから高松がついているから大丈夫、と言いたいところだけど、」
「ドクターが変な質問した奴にバイオハナマスとかけしかけそうですっげぇ嫌な想像した」
「ないこともないしね」
はぁ、と二人同時にため息を吐く。従兄弟に習って彼も書類を机の端に押しやって、万年筆の蓋をした。新米科学者の従兄弟から無事に発表が終ったと連絡があるまで、どうせ今日は仕事にならない。なら、と椅子から立ち上がった彼に従兄弟が視線を向けた。
「シンちゃーん、どこ行くの?」
「茶淹れに行くんだよ。お前もいるか?」
「うん。ついでにおやつも食べたい」
「へいへい」
一昨日作ったシフォンケーキがまだ残っていたなと思いながら、デジタル時計を確認する。
最後に確認してからまだ10分も過ぎていない。従兄弟からの連絡はまだ先だった。


(2007.7.8)

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