忍者ブログ
* admin *
[1047]  [1046]  [1045]  [1044]  [1043]  [1042]  [1041]  [1040]  [1039]  [1038]  [1037
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

ths


子供にとってその叔父は、とても「叔父さん」とは思えない叔父だった。
もう一人の叔父の方は、知的な喋り方や身のこなし、そして完璧とも言える容貌の持ち主で、子供心に十分尊敬に値する叔父だった。
父親やそんな叔父と同じ兄弟なのが信じられないほど、もう一方の叔父はがさつで乱暴で、容貌も獅子舞そっくりだった。いつも父親に金をせびっている姿しか見ていないせいもあるかもしれない。とにかくあまり良い印象ではないことは確かだった。
とは言っても子供は人見知りする性格ではない。子煩悩とは言え、仕事が忙しい父親が構ってくれない時にその叔父が本部にやってくると、勝気だが人懐っこい笑顔を浮かべながら、叔父と一緒に遊ぼうとする。
子供を見るたびに、叔父の目に何か影のようなものが走るのに、子供自身は気が付いていない。
それは好ましいものの類では無いのだが、敏感な子供が気付かないよう隠しているあたり、子供が思っているほど叔父はがさつではないようだ。
「おーじーさん」
「あんだクソ餓鬼」
叔父を発見した子供は小走りに駆け寄って、その足元に飛びついた。
父親不在の暇を持て余した子供にとって、大人気ない親戚は絶好の遊び相手と言える。総帥の子供だからと壊れ物を触るように扱うことは無く、忙しいからと煙に巻いたりもしない。最初はぶつぶつ言いながらも、最終的には本気になって遊んでくれる叔父に、子供は何だかんだで懐いていた。
「遊んでよ」
「俺はそんな暇ねぇんだよ」
子供に纏わりつかれた叔父は、少々鬱陶しそうな表情で、それを振り払おうと努力している。
「嘘ばっかり、暇そうにしてたじゃない」
不服そうに見上げると、子供の黒い目に苦虫を噛み潰したような顔の叔父が映った。
「うっせぇな。俺はお前の親父に用があって来たんだよ。親父はどこだ、親父は」
「パパはお仕事だって。電話があってどこかに行っちゃった」
どこか諦めたような口ぶりでそう述べる子供に対し、叔父は一瞬憐れむような目を向け、すぐにふいっと逸らした。
「ちっ。入れ違いかよ」
忌々しそうな舌打ちに負けずと、子供は叔父の裾を引く。
「暇になったんなら遊んでー」
ぐいぐいと引っ張られて根負けしたのか、目線に合わせてしゃがみこんだ叔父に、子供は嬉しそうに笑った。笑顔を返されtが叔父は、居心地悪そうに眉間に皺を寄せ、ふと思いついたように子供に尋ねた。
「なぁお前、自分ちの稼業のこと知ってるか?」
思いがけない内容の質問に、子供は記憶を掘り返しているのか、ぐるりと目を上にやって考え込む。
「ううん、知らない。前にパパって何してるのって聞いたら、まだ知らなくて良いって」
「ふうん、兄貴も子供にゃ甘ぇな」
「叔父さんは知ってるの?」
「知ってるも何も、俺も一応部下だからしな。…教えて欲しいか?」
叔父の青い目に睨まれて、子供は一瞬怯んだが、勝気な性格がそうさせるのか「うん」と勢い良く頷いた。叔父は同情のような嫌悪のような感情を覗かせて、そんな子供の様子をじっと観察している。いつもと違う雰囲気を感じ取ったのか、子供は叔父の目を見つめ返すことをせず、うろうろと視線を彷徨わせた。
「やっぱ、やめた」
「…けち」
どこかほっとしながら、子供は一応文句を言ってみせる。何故だか理由は知らないが、父親がまだ知らなくて良いことなら、きっと知らなくて良いのだろう。子供は叔父の真面目な視線に不吉なものを感じた。

「おい、まだかガキ」
「まーだだよ。ちゃんと十数えてよー」
一族のみに開放されている広場のような場所で、二人はかくれんぼをして遊んでいた。遊びたがる子供に逆らえば、後で子供の父親に何を言われるか分からないと観念し、叔父はやる気無さそうに数を数えている。
子供はかくれんぼについていつも不満を持っていた。父と遊べば鼻血の痕ですぐ分かるし、従兄弟と遊べば中々見つけてくれず結局泣き出してしまうので、いつもまともにかくれんぼで遊んでくれる相手がいない。
やっとまともなかくれんぼが出来る、と子供はわくわくしながら出来るだけ発見されにくそうな場所を探し、小さな身体をより小さく縮めて隠れた。
幼い子供の目線は大人よりかなり低く、思いもよらない場所に隠れるものだ。絶対に見つからないと自信満々で子供は叔父がうろたえる様子を思い描き、にやりと笑った。
だが子供の予想は大きく外れ、五分も持たずに発見されてしまった。猫の子のように首根っこを持ち上げられて、叔父の得意げな顔が子供の眼前に広がる。
「甘いな」
大人気なく勝ち誇る叔父を見て、子供の勝気な性格が遺憾なく発揮された。隠れる側と見つける側を交代することなく、次こそは絶対見つからない、と意固地になって、必死で隠れる場所を探索した。
三回連続であっさり発見され、子供の苛立ちは限界に達した。
「何でそんなにすぐ見つけるんだよ!」
「すぐに見つかるお前が甘ぇ」
「一生懸命かくれたのに…」
ふて腐れて不満を漏らす子供の頭の上に、ぽんっと叔父の手が乗った。
「お前の隠れてる場所な、俺がガキん時使った場所と同じなんだよ」
「えーそれって、目のつけどころがハーレム叔父さんと似てるってこと?」
「じゃねぇの?光栄に思え」
「…サービス叔父様なら嬉しいけどナマハゲに似てるって言われても嬉しくない」
ぐしゃぐしゃと乱暴に髪をかき回されて、子供は抗議の悲鳴をあげた。慌てて叔父の手の下から逃げ出す。
「ほんっとーに可愛くねー甥っ子だな、お前。もう帰るぞ」
「もう?まだあそぼーよ」
「ガキは日が暮れたら家に帰れ。飯食って寝ろ」
「はーい」
不承不承肯いた子供を引き連れて、二人は帰路に着く。夕日を照り返しきらきらと輝く叔父の金髪を、子供はうっとりと見上げた。親戚の中でも特に黄色味が強い金髪を、子供は内心気に入っていた。
「叔父さん、髪の毛の色だけはキレイだよね」
「だけ、は余計だろ」
心底面白くなさそうな大人気ない返答にくすくすと笑いながら、子供は自分の真っ黒な髪の毛をつまんだ。
「僕もおっきくなったら、叔父さんみたいなキレイな色になるかなぁ」
叔父は顔を顰めて子供の方に振りかえり、何か言いたそうに口を開いたが、出てきたのは和やかなその場に似合わない重苦しい溜息のみだった。
「さぁな、知らね」
怒ったような物言いに子供がきょとんとしていると、叔父は乱暴に手をつなぎ、引っ張るように歩いた。子供の手をすっぽりと包みこむ大きな手はやけに冷たくて、その体温に子供は目を丸くしていた。


(2007.7.4)

戻る

PR
BACK HOME NEXT
カレンダー
04 2025/05 06
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
最新記事
as
(06/27)
p
(02/26)
pp
(02/26)
mm
(02/26)
s2
(02/26)
ブログ内検索
忍者ブログ // [PR]

template ゆきぱんだ  //  Copyright: ふらいんぐ All Rights Reserved