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sg

(お題「ひみつだよ」のシンタロー視点)

この従兄弟は判り易いようで、判り難い。
呆れるような子供っぽい行動をとるかと思えば、時々はっとするほど鋭いことを言う。馬鹿と言う単語がぴったりなのに、科学者としての頭脳は一級品らしい。どこまでが本気で、どこまでが冗談なのか。どこか読み切れないところがある。
かと言って読めない部分もまとめて信用してしまうのは、子供の頃から変わらない、笑ったり怒ったり泣いたりするくるくる変わる素直な感情表現のせいかも知れない。
そしてたぶん、この従兄弟は嘘を吐かない。


「何かあったの?」
総帥室にやってくるなり、従兄弟に顔を覗きこまれ、思わず少しだけ後ろに引いてしまった。
「何でもねぇよ」
出来るだけそっけなく言葉を返す。何でもないどころか、今回の遠征で実に色々なことがあったのだが、いつも通り言葉を濁すことにした。
従兄弟に言っても分からないだろうから説明しない、と言うわけではなかった。単に心配をかけたくなかっただけだ。嬉しいことや楽しいことなら、話をしてその感情を共有し一緒に喜んで欲しいとは思うけれど、何も負の感情まで共有することはない。
気が重くなるような話は、吐き出した方は多少すっきりするかも知れないが、話された方は多かれ少なかれ色々考えてしまうだろう。補佐官兼相談相手の従兄弟ならともかく、この良く笑うロボット馬鹿の従兄弟には、重い話をしたくなかった。
「またそうやってシンちゃんは…」
当の従兄弟は頬を膨らませて非難がましい目でこちらを睨んでいる。いくら睨んでも大きな青い目をした童顔では迫力に欠ける。その子供っぽい表情に、少しだけ笑うことが出来た。
「何だよ」
「何でもない」
仕返し、とばかりに同じ台詞を返された。
膨れっ面に苦笑しながら本来の目的である書類を受け取る。細かい字で書かれた研究報告書は内容把握が難しい。質問しないと理解出来ないところも多々あるので、読み通すまで部屋にいて貰うのが常だった。
大概従兄弟は来客用のソファに座って、何やら楽しげににこにこしているのだけれど、今日は行き成りデスクの後ろにすっと回り、こちらの背後に立った。
何をしているのかと不審に思いながら、とりあえず放って置いて書類に集中していると、後ろから腕が伸びてきて、唐突に抱き締められた。
「ホント何なんだよお前…」
「何でもないよ」
そう答えた従兄弟の腕にぎゅっと力がこもった。視界の隅で金髪が揺れる。体重はかけられてないので重くはないが、くっつかれては書類が読みにくいので、回された腕を軽く叩いて「良いから放せって」と促した。
「良いの。だって今は僕の方がお兄ちゃんだもん、甘やかさせてよ」
従兄弟が誕生日を向かえたのはつい先日だ。こちらが十日後の誕生日を向かえるまでは確かに従兄弟の方が一つ歳上になる。だからと言って、この行動の理由にはならないように思う。
「どういう理屈だよ、そりゃ」
「お兄ちゃんって呼んでくれたら放してあげる」
「ぜってーやだ」
くすくすと笑う振動が伝わってきたので、つられて笑ってしまった。ちゃんと笑えたことに安心する。どれだけ色々なことがあっても、きっとこの従兄弟がいる限り笑うことが出来るのだろう。
「ねぇシンちゃん…」
「だから何だって」
「僕はずっとここにいるからね」
肩に頭を持たれ掛けながら言われた言葉に、書類を捲る手が止まった。
「ばーか。知ってるよ」
嘘を吐かない従兄弟の本心は気が緩むほど心に響いて、ふっと肩の力が抜けて行った。

本当に、この従兄弟はあなどれない。


(2006.5.17)

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