(女性向けです。叔父甥です。裏風味です。苦手な方はご遠慮下さい。)
隣の男がうつぶせのまま半身を起こし、ナイトテーブルの上の煙草を掴んだ。
鬱陶しそうに金髪をかき上げながら、火をつける。ライターの火で仄暗い部屋がオレンジ色に染まり、叔父の横顔を映した。叔父はクッションの上に肘をついてだるそうに煙草を吸っている。
ナイトテーブルの上に灰皿が置かれるようになったのは、いつの頃か。
思い出そうとしても具体的なことは思い出せず、とりあえず叔父の部屋だったことと、お互いそこそこ酒が入っていたことしか記憶に無い。酒が入っていたものの、その場の勢いと言うことだけではなかったらしく、それ以来何度かベッドの中から叔父を見ていた。
叔父が何を考えているのか、回数を重ねるごと分からなくなっている。ことの最中に目を合わせると、叔父は一瞬ばつの悪そうな表情になり、それから顔を歪めて笑う。そしてすぐ首筋に顔を埋められるので、叔父がどんな表情をしているのか結局いつも判らなかった。
こっちがくすぐったさに身をよじると、ますます調子に乗ってきて、視界が叔父の金髪に占領されて何もかもがどうでも良い気分になるのに、わずかに残るなけなしの理性を最後まで手放そうとしないのは、叔父に対するせめてもの抵抗だった。
「シーツ焦がすなよ」
叔父と同じようにうつぶせになりながら、煙草の灰が落ちそうになっていたので注意すると、叔父は慌てて灰皿に手を伸ばした。むき出しの腕はうっすらと汗ばんでいて、何故か急いで目を逸らす。
「アンタってさ」
「何だよ」
こちらの言うことなど聞いて無いようで、その癖しっかり聞いていた叔父の返事は、煙草をくわえているせいでくもぐって耳に届いた。再び叔父に目をやると、相変わらず読めない表情で煙草を吸っている。せっつくように肩に肩をぶつけられたが、自分でも何が言いたかったのかはっきりしなかったので、適当に言葉を濁した。
「いつもより酒飲まねぇよな」
叔父は一応酒を飲むことを目的に部屋を訪れるはずなのに、寝室に行くようになる時は、最初からいつもより酒を飲まない。構わずにこっちが飲もうとしても、それとなく取り上げられる。前々からの疑問をぶつけると、叔父は顔を逸らして盛大に煙を吐き出してから、軽く肩を竦めた。
「酒は感覚が鈍くなるからな」
その当然と言った口調が可笑しくて、その言葉が指す意味も羞恥も忘れて声を出さずに肩を震わせて笑っていると、叔父は不機嫌そうに「けっ」と言いながら灰皿に煙草を置いた。
何がおかしいのか知らないが、肩を震わせて笑う甥が憎たらしくて、灰皿に煙草を置いてから甥の上にのしかかった。
自分の行動がよほど予想外だったのか、甥はもがいて暴れたが、しばらくすると大人しくなった。暗闇でもはっきりと判る黒髪を一房掴んで弄ぶ。
甥をどうしたいのか分からないまま、このような関係になったことに対して思うところは無いでもないが、最近では考えることも馬鹿らしいので、あえて考えないようにしている。
髪を強く引っ張って、無理やりこちらを向かせた。行為の途中、自分の真下で熱を孕みながらもどこかに一点醒めた色を浮かべる目は、今は髪を引っ張る手を離せと言葉よりも雄弁に語っている。後ろを振り向くような窮屈な格好では苦しいのだろう。
言う通りに手を離し甥が油断した隙に、顔だけでなく身体も仰向かせると、きつい目で睨み付けられた。軽いアルコールだけではない理由で、かすかに目元が染まっていたが、険のある目つきはいつもと変わらない。その気の強さに欲情する。
笑われた仕返しとばかりに、こちらも笑いながら甥の身体に指を這わせた。甥は声を上げないようにきつく唇を結んでいる。時折こぼれる吐息が肌にかかって、背筋が震えた。無駄に声を出されるよりも性質が悪い。
途中、ベッドサイドのテーブルに目をやると、煙草はすっかり灰になっていた。
自分は滅多に吸わない癖に、ナイトテーブルに灰皿を用意する甥は、何を考えているのだろう。
「アンタってさ…」
先ほどと同じ台詞を熱っぽい声で言われて、今度は返事を返さずに無視しても良かったのだが、背中に手を回されて背にかかった髪を引っ張られたので、動きを止めた。乱れたシーツや、その上に散った黒髪が薄闇でも見てとれる。汗ばんだ甥の身体は密着していると言って良いほど酷く間近にある割に、どこか現実味を欠いていた。
「何だよ」
じっとこちらを見つめる黒い目に絡め捕られて、自分が誤魔化している感情に向き合った気がしてばつが悪くなり、それを悟られないように顔を歪めて低く笑う。ぱっと手が離されたので、すぐに行為を再開した。
「何考えてんだか分かんねぇ…」
真下でぼそっと呟いた口を、「お互い様だろ」と言って塞いだ。
(2006.4.7)
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