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(お題「発火点」のシンタロー側。叔父甥です。女性向けです。ひっそりと裏風味です。苦手な方はご遠慮ください)




長い節くれ立った指が、黒い髪を梳いている。

こめかみの辺りの髪に触れる手で意識を浮上させられて、彼は重い瞼を開けた。状況把握に時間がかかり、ようやく定まった視線の先には腹ばいでうつ伏せに寝そべっている叔父がいた。その様子は眠っているのか、眠っているふりをしているのか判断がつきかねる。
ベッドの叔父側にあるナイトテーブルの上の灰皿からは、消しそこねたのか紫煙が立ち昇っていた。じりじりと焼けていく穂先は、赤とも黄色とも言える火をもって、残りの部分を白い灰に変えていった。火種からまっすぐ上昇する煙は、時折空調が吐き出す空気に揺れながら、天井のあたりで渦を巻き、部屋全体を白く霞ませている。明かりを落とした室内は、余計に視界が悪くなり、身体に残る倦怠感に拍車をかけた。
不本意ながら馴染んでしまった煙草の匂いにうんざりしながら、彼は身を起こし腕を伸ばして、煙草の火を完全にもみ消した。ついでにクッションに顔を沈ませて微かに寝息を立てる叔父を見下ろし、腰のあたりでたわんでいたケットを肩まで引き上げて、らしくない行動をとってしまった自らに嫌気がさして、忌々しそうに髪をかき上げた。
ベッドの上で立て膝をつき、鬱陶しそうに長い髪を後ろに流す。
眠りから覚める直前に、髪に触れていた手の感触を思い出し、まさか、という思いで隣の男を眺め、浮かんできた考えを否定するため首を振った。自己完結とも言える彼の行動に関係なく、叔父は背中を微かに上下させ、ぐっすりと眠っているように見えた。
お互いに寝入ってしまうことは酷く珍しく、そんな格好で寝てよく窒息しないものだと半ば呆れ半ば感心する気分で、彼は叔父を眺めた。一族の中でも特に色の濃い金髪は暗闇の中でも見てとれて、そう言えば小さい頃からこの金髪だけは嫌いじゃなかったと思い出し、その髪に触れようとして手を伸ばし、やめた。
中途半端に持ち上げた手のやり場を無くし、手近にあったクッションを叔父に掴んで投げつけようとして、またやめた。
自分が何がしたいのか分からなくなった彼は、溜息と共に自己嫌悪を吐き出して、気を取り直すためにバスルームへと向かおうとベッドから降りる。乱雑に脱ぎ捨てられたシャツを羽織り床に立つと、身体のあちこちに鈍痛が走り、原因を作った叔父を睨んだ。酔った訳でもないのに頭痛がし、くらくらする。足音を立てない様に注意して、彼はベッドルームを抜け出した。

立ち寄ったダイニングは、昨日の酒宴もそのままで、空になった酒瓶や余ったつまみを載せた皿がテーブルの上に取り残されている。
さしたる理由も無くなし崩しにベッドに入ったものだから、片付けは後回しになっていた。彼はグラスに三分の一ほど残ったブランデーを一口飲んで、微かにむせた。氷が溶けて薄くなった生ぬるい液体はお世辞にも美味しいものだとは言えなかったが、無性に乾いた咽喉を潤すには十分だった。
シャワーの栓を全開にし、熱いお湯を浴びる。ごしごしと顔をこすって少しでも思考を明瞭にしようと努力したが、先ほど飲んだブランデーが頭の働きを鈍くするのか、それともただの寝不足か、それは叶わなかった。妙な解放感と疲労感と倦怠がない交ぜになったままで、身体まで重い。
全て流れてしまえば良い。
叔父の指の感触も、煙草の匂いも、肌に張り付く金髪も、訳の分からない感情も、全て汗と一緒に流れてしまえば良い。
そんな自暴自棄な気分で、彼はシャワーに打たれていた。
二の腕の内側に赤紫色の痕が残っているのを発見し、わざと分かりにくい場所に残した叔父に舌打ちする。外側からは決して見えない位置に一つか二つ程度、いつも印のように残すのは、一体に何を意味しているのか。叔父なりの意味があるのだろうか。
似たもの同士の彼らは、相手が似たり寄ったりな考えをしていることに無意識的に気が付いていたが、わざと気が付かないふりを押し通していた。
お互いが何を考えているか知りたくもない。知ってしまえば恐らくこの関係は終る。曖昧なままの関係は彼にある種の苛立ちをもたらすが、だからと言ってこの感情が何を示しているのか、はっきりさせてしまうのは漠然とした恐ろしさがある。
自己嫌悪と自嘲しかもたらさないくせに、手放せないのはその裏にある感情をどこかで自覚している証拠だったが、それを認めるわけにはいかなかった。

髪からしずくを垂らしながらバスルームを出るて戻るとすでに叔父の姿はなく、ほっとしたような気分で彼はベッドに腰を下ろした。シャワーを浴びたせいか、煙草の匂いが更に敏感に鼻につく。
灰皿を見ると先ほど消したはずなのに、再び紫煙が立ち昇っていた。見ると、起きて一服したのか新しい煙草に火が点いて、そのままになっている。わざとらしく残された煙草は所在なさげにぽつんと放置され、彼の目にはそれを残して去った叔父の姿が浮かんで見えて、彼はまだ半分も吸ってないのに灰皿の上でくすぶる煙草を拾い上げ、口に咥えた。
「馬鹿じゃねぇの」
煙と共に吐き出した言葉は彼自身と叔父に向けられたもので、彼らの関係を表すかのように相変わらず部屋の空気は澱んだまま、抱く感情の所在を不確かにしていた。


(2006.6.26)

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