忍者ブログ
* admin *
[1045]  [1044]  [1043]  [1042]  [1041]  [1040]  [1039]  [1038]  [1037]  [1036]  [1035
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

sh


「ねぇシンちゃんいるー?ってどうしたの悲愴な顔して」
彼が従兄弟に会うために秘書室を訪れると、そこで出迎えてくれたのは疲れた顔をしてげんなりしている良く見知った秘書官二人だった。
総帥室と扉続きで位置する秘書官詰めのこの部屋は、いつもはこの二人だけ出なく他の秘書達も複数いるのだが、今日に限ってやけに広々としている。
「総帥でしたら、現在ハーレム様と取り込み中です。お急ぎの書類ですか?」
いち早く気を取り直した秘書の片方が、彼の疑問に答えた。
「そういうわけじゃないんだけど、シンちゃんの顔見たくって」
秘書の答えに納得し、彼は手にした研究の予算案を秘書に渡す。そこまで重要な書類ではないのだから、秘書から従兄弟に渡して貰えば良い。
秘書は紙の束にざっと目を通しながら、確かに早急に総帥の承認は必要でないと確認したのか、「お預かりします」とことわってから、部署ごとに区分されたボックスの中に保管した。
「他の人達は?避難させたの?」
「はい、一応」
「危険ですからね」
三人が顔を見合わせて苦笑していると、重厚な扉の向こうで、なにやら派手に言い争う声が聞こえてきた。やってるな、と思っていると、次に聞こえてきたのは破壊音と地響きで、秘書官二人の顔色はますます悪くなっていく。ああまた修理費が、と言う力無く呟かれた言葉に同情しつつも、止めに入ろうなどと命知らずなことは考えない。
彼の従兄弟と叔父は団の方針を巡って対立しており、それに伴って特戦部隊が解雇されるとかされないとか様々な噂が流れているが、その真偽の程はどうあれ、喧嘩ばかりしているのは確かなようだ。
「ほーんと、仲良いよね」
「…そうでしょうか」
「仲がよろしいのでしたら、もう少し友好的に話し合って欲しいんですけど」
敵国との話し合いだってもう少しマシですよ、と思わず本音を漏らす秘書官達に、まぁね、と彼は一応頷いて見せた。
「でも、あれだけ手加減無しで喧嘩出来るのって、ある意味仲良い証拠だと思うんだけど…」
まだ不服そうな秘書官達にどう説明しようかと、彼が言葉を選んでいると、秘書室の扉が開く音がした。
先ほどの破壊音と振動で総帥室で何が起きているのか分かりそうなものなのに、あえてやってくるなんて物好きな、と彼が感心しながら来訪者を見るべく後ろを振り向くと、そこに立っていたのはもう一人の従兄弟のキンタローだった。
「グンマいたのか。シンタローはいるか?」
「いるけど、いま入んない方が良いよー。叔父さまと喧嘩中だから」
「またか。本当にあの二人は仲悪いな」
呆れたように溜息を吐くキンタローに、秘書官達が賛同するように溜息の追従をする。長い溜息が吐き終わるのを待ちながら、そうかなぁ、と異議を申し立てようと彼が口を開きかけると、叔父の嬉しそうなからかいの声に、忌々しそうに怒鳴り返す従兄弟の声が重なって、再び破壊音が鳴り響いた。秘書官達はすでに諦めの境地に達したような表情になっていた。
その音を聴きながら、彼の脳裏に何かが過ぎる。
「ええと、何だっけ。何かぴったりなことわざがあったような気がするんだけど」
「あの二人にか?」
扉の向こうを指差す従兄弟にこっくりと頷きながら、彼はこめかみの辺りを指で軽く叩きながら、該当する言葉を検索していた。
「うーん、どうだったっけ。仲がどうこう言うやつ」
「犬猿の仲、ですか?」
「ううん、違う。喧嘩がどうとか」
あまりにも彼が真剣に悩んでいるので、現状からの逃避か、秘書官達も含めて四人で頭をつき合せながらあれやこれやと提案してみる。
「相手の無い喧嘩は出来ない」
「それも違う」
「夫婦喧嘩は犬も食わない」
「あー近いかも」
「シンタローに怒られるぞ」
総帥室からの音量に負けまいと、ぎゃぁぎゃぁ騒いでいると、三度目の衝撃が足元を揺らした。

「あ、思い出した。『喧嘩するほど仲が良い』だ」

ぽんっと手を打って彼が喜んでいると、総帥室の扉が開き、やけに風通しのよくなった室内から叔父が出てきた。にやにや笑いながら出てきた叔父は、金髪の甥っ子二人の姿を認めると、慌てて表情を作りなおす。
「そんなとこで固まって、何してんだお前ぇら」
「さっさと出てけよ、オッサン。ってなんだグンマにキンタロー。お前ら来てたのか」
叔父の声に従兄弟も何事かとひょっこり顔を覗かせたが、彼らを見ると途端にバツが悪そうに顔をしかめる。
「研究室の予算案渡しに来たんだけどね、取り込み中だったみたいだから、皆でシンちゃんとハーレム叔父さまについて話してたの」
「何だそりゃ」
二人そろって心底面白く無さそうに眉根に皺を寄せる。その良く似た表情に、彼は笑いをかみ殺した。
ね、ぴったりでしょ、と彼が従兄弟と秘書官達に目で伝えると、三人は先ほどよりも更に長い溜息で同意を示す。
「お前達二人が仲が良いは分かったから、とにかくあまり壊すな。室内で眼魔砲を打つな。修理費が馬鹿にならん」
懇々と諭すキンタローの台詞の後半は耳に入っていないのか、叔父と従兄弟は彼と秘書官達の目の前で、「仲良くねぇ!」と同時に叫んだ。


(2006.7.22)

戻る

PR
BACK HOME NEXT
カレンダー
04 2025/05 06
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
最新記事
as
(06/27)
p
(02/26)
pp
(02/26)
mm
(02/26)
s2
(02/26)
ブログ内検索
忍者ブログ // [PR]

template ゆきぱんだ  //  Copyright: ふらいんぐ All Rights Reserved