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月の雫

飲みきったティーカップの底を穴が開く位、見つめていた。
その時、信じることしか出来なかった。
信じたかった、その言葉を。




高松のラボの扉が開くと同時にグンマが入り込んできた。
そして、なにかを言おうと大きく口を開けた瞬間。
「シンタローさんなら、明日帰って来るそうですよ」
いきなり自分の知りたかったことであるひとつを言われ、グンマは口を大きく開けたまま、眼を丸くした。
先程聞いた話が本当であるか、なぜ黙っていたのか、そして無事なのか…
怒鳴りながら、そのことを詰問しようとしていたのに、いきなり出鼻を挫かれて、グンマはふてくされた顔をする。
「お茶を入れますね」
そして、反論の隙を与えずに隣の部屋へと移動した高松の背を何も言えずに見送ったグンマは近くにある椅子に座る。
人差し指で机の上をリズムを取るように叩き、もう一度、頭の中で何を聞くべきかを考える。思考の切り替えはスムーズに行われ、何をするべきなのかを直に考えると実行に移すため、大きく深呼吸をした。
沢山の植物に囲まれ、あれほど見たがっていた緑だというのに、その眼には映ってはいない。ただ、じっとタイミングを計っていた。
水が沸騰した音はとっくに止んでいる。
「何で黙っていたのさ」
そして、高松がこちらへ戻ってくるタイミングにあわせて、質問をぶつけた。
また、高松のペースに乗せられない為には、先手を取らなければならない。
それでも高松は慌てた様子を見せることなく、にっこりと笑いながらグンマの前に紅茶を置いた。
「グンマ様の気を散らさないためですよ」
「散らないよ、それくらいじゃ」
今までもシンタローが遠征に向かったことなど、何度もあった。
嫌なことだが慣れてしまっているといってもいい。
それに、シンタローはいつでも帰ってきた。
だからグンマも初めのうちならともかく、最近では麻痺してしまったかのように動じなくなっていた。
心配をしないというと嘘になるだろう。
高松はその理由がわかっていた。
「今まで彼が行っていたような戦場ではないのですよ」
その言葉に含まれる、真剣さにグンマはびくりと体を震わせた。
「でも、そんな場所におじ様が送るわけ…」
「あの方は確かにシンタローさんに甘いですが、総帥でもあります。おそらくはその辺りのことが絡んでいるのでしょう」
シンタローの実力は同期で敵うものはいない。
それこそ、今まで今回のような激戦区に連れて行かれなかったのが不思議なくらいの力は備わっていた。
不満という形で、その声が大きくなっていることをキャッチしたマジックが、今回のような処置をしたのだろう。
とっくにグンマのティーカップは空になっている。
高松がお代わりを注ぎたくとも、グンマがカップを手に持ったまま底を食い入るように見つめているため、それも敵わない。
暫く、高松が紅茶を飲む音だけが部屋に響く。
「シンちゃんは、無事なの?」
散々躊躇って言葉を紡ぐ。
急に、今までのように安心感がなくなってしまった。
どこかで、シンタローは怪我ひとつせずに帰ってくるものだと心の中で思っていた。それが奇妙な安堵感を生んでいたのだ。
縋るような眼に、内心ほっとしつつも高松は答えた。
「多少の傷はあるそうですが、元気だそうですよ」
きつく握り締められていた、ティーカップの持ち手から、力が抜ける。
そのまま、グンマは椅子の背もたれに寄りかかると、ほっとて笑顔を見せる。
「そっかぁ。あ、じゃあ、明日お帰りって言いに行くね」
「それは駄目です」
軽い気持ちで言ったのに、厳しく止められ、グンマは眼を見張る。
「どーして?…もしかして、本当は大怪我をしてるの」
急に不安そうな眼をして、高松の袖を掴む。
とっさのことで大声を出してしまったことに、慌てるもののいつものように優しく語りかける。
「シンタローさんは帰ったばかりで疲れているでしょうし、コタローさんに付きっ切りになっていますよ、きっと」
その言葉に思い当たることがあるのか、グンマも掴んでいた袖を離す。
シンタローのブラコン振りは父であるマジックと同じくらい凄いものがある。
以前にグンマがコタローを泣かせて以来、近くに寄らせようとしないくらいだ。
「せっかくシンちゃんがいないなら、コタローちゃんに会いに行けばよかったな」
同じ敷地にいるというのに、年に数度しか会うことの出来ない従兄弟。
自分よりも年下に会うことが稀であるため、グンマはコタローに会いたがっていた。
しかし、それは高松にとっては望むところではない。
そして、グンマに今回のシンタローの遠征の本当の目的について悟られずにすみ、ようやく緊張を解いた。


その瞬間だった。


「本当に、それだけだよね?」
グンマが聡いと知っているものは少ない。
簡単に騙されるようであれば、高松もここまで緊張はしなかった。
例えば、これがシンタローであればこちらのペースに簡単に乗るだろう。
しかし、グンマは違う。
これは高松の感でしかないのだが、グンマはこうして話しながらどこかで全体像を平行して作っているのだ。
そして、すぐにピースが足りないことに気が付く。
高松は眼を細めると気が付かれないように細く息を吐いた。
「ええ、本当ですよ」
平常心で答えるようにと、心を落ち着かせる。
「そっかぁ」
「なにか、気になったことでもあるのですか?」
なにか自分がミスを犯したのかと思いながら尋ねる。
「ううん。ただね、ティラミスの様子がおかしかったから」
その言葉に高松はほっとしながら、今度こそ本当に笑いかけた。
「マジック様のお客様がきっと重要な方だったからですよ、きっと」
「そうだよね。シンちゃんになにかあったら叔父様が大暴れしているよね」
ようやく納得したグンマは、山のように盛られたお菓子に手をつけることができた。
そして、高松に止められはしたものの、シンちゃんに挨拶くらいはしてもいいよね、と考えながら…










<後書き>
久し振りに出した、グンマ様天才説。
ふ~、今回はそれだけで満足。(おい)
なんとなく、皆様わかってらっしゃると思いますが次回はあれです。
マジック総帥出番なるか?

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