14000HIT記念SS
聖夜の天使
「うわーん!!!!シンタローッッツ!!!」
「なんだ!どうした!!」
執務室に詰めていたシンタローは、突然の訪問者に慌てた。
「ミヤギくんを怒らせてしまったっちゃ!!!」
闖入者は部下のトットリだった。
警備の者は驚いたらしいが、シンタローが信頼する部下の1人であるトットリの一大事らしい様子に慌て、連絡を入れるヒマも無かったらしい。
士官学校時代からの仲間で、旧パプワ島でも行動を共にしたトットリは顔パスで執務室に通れるが、それでも普段は警備が事前に連絡を入れることにしている。
「おいおい、どうしたんだよ」
20代後半の男にあるまじき童顔のトットリは、今にも泣きそうな顔で訴える。
「だって・・・クリスマスイヴから遊びに行こうっていってたんっちゃが、一緒に休みがとれなかったんっちゃ。去年もだめだったから・・・」
「へ?だってお前のとこだと、今だと結構休みは申請通りになるんじゃね?」
シンタローはとりあえずトットリをソファに座らせる。
「それが・・・部下たちも休みたいって言うから・・・。そっちを優先して休ませたんっちゃ・・・。少し前か後にずらして欲しいって言ったら、ミヤギくんはだめだって」
それを聞いて、シンタローは目を細める。
全くこの男は優しすぎる。
「そっか・・・。お前は優しいよな。去年は部下に譲ったんだろ?だったら今年はお前がとればいいのに」
「でも・・・部下もいっぱいできたし・・・。去年出てもらった部下には休みをあげたいっちゃ」
シンタローはトットリの頭をよしよしと撫でた。
「全く。優しい上司を持ってお前の部下は幸せだよ」
「そう・・・?」
「ああ。でもミヤギは納得しねーよなー・・・」
「それが問題っちゃ」
トットリはため息をつき、シンタローは思案顔になる。
「よし、じゃあ仕事の後部屋でなんかやればいいじゃん。料理作ってさ。ダメかな」
その提案にトットリは慌てた。
「え?でもクリスマス用の料理なんて作れないっちゃ・・・」
「まかせておけって、オレが教えてやるよ!ちょっと部屋も改造しようぜ!」
「ホント!?」
トットリは感激でシンタローの手をとった。
「もちろん」
シンタローは笑顔で頷いた。
その後料理を教える日程を打ち合わせすると、トットリは上機嫌で帰っていった。
シンタローも優しい友人のために何かできると思うと嬉しい。
料理は得意中の得意である。
まずは材料を買いに行くところから始めよう。
で、部屋の演出も考えなければ。
他人のことなのに、なぜこううきうきしてしまうのだろうか。
シンタローはふと思いついて、キンタローに連絡を入れた。
キンタローにこのことを話すと驚いていたようだが、協力してくれるとのことだった。
クリスマスまで後2週間。
5日後。
トットリは部下に定時であがることをあらかじめ宣言しておき、時間通りすぐに上がって着替えると待ち合わせの場所に向かった。
駐車場に行くと、シンタローとキンタローが寒い中車の外で待っていてくれた。
2人とも私服に着替えており、背の高い2人はまるでモデルのようだった。
シンタローとキンタローはトットリの都合のいい日を聞くと、その日の仕事を早めに終わらせ、定時であがったのだった。
「よし、行くぜ」
シンタローは車の後部席にトットリを乗せると、自分も隣に乗り込んだ。
キンタローが運転し、出発する。
事前にトットリに聞いていたミヤギの最近の好みなどから、今日行く店は決めてある。
まずはインテリアショップに向かった。
「うわー・・・。オシャレな店ッちゃ」
トットリは呆然と店の外観を見上げる。
「お前の部屋こぎれいなのはいいけど、飾り気がないだろ。少し飾ったほうがいいんじゃないかと思って」
店に入ると、色鮮やかなソファや、クッション、食器類、ランプなど美しくレイアウトされている。
「ボクこういうの全然わかんないっちゃ」
見てはみるものの、何を買えば良いのかわからないトットリ。
「そーだよなー。とりあえず予算からいって、考えたんだが、ソファでもどうだ?」
「そうっちゃねー」
トットリはとりあえず気に入った形の2人用ソファに座ってみる。
「わー、いい座り心地っちゃ」
「どれどれ」
シンタローが隣に座ってみたので、トットリは少しだけどきどきした。
「お、2人座ってちょうどいいんじゃねーの」
トットリは色や座り心地が気に入り、値段も予算内だったので、これを購入することにした。
次に間接照明や置物、クリスマス用の飾りなどを選ぶと、他にスタイリッシュな食器類を買うことにする。
食器についてはシンタローもトットリも模様のついたものと真っ白なもの2種類でかなり悩んだが、キンタローに聞くと白いほうがいいと言ったので、そちらにすることにする。
シンタローは自分でも気に入った別の食器があったらしく、キンタローに手にとって見せていた。
ちょっとだけ2人から離れたところでトットリは見ていたが、間接照明に照らされた2人の様子はますます美しく、そして仲睦まじく、お似合いとしか言いようがなかった。
いつかミヤギとそういう風に見られるようになりたいなあと思うトットリであった。
次に3人は食材を買いに行き、チーズや肉類、パスタの材料、サラダの材料を買い込む。
最近ミヤギはパスタが好きだとのことだったので、イタリアンを中心にコースを作ることにしていた。
そしてトットリの部屋に行くと、シンタローが指導して料理を作ることになった。
キンタローはトットリの部屋まで食材などを運ぶのを手伝うと、部屋に戻った。
「キンタローって結構いいヤツっちゃね」
トットリがつぶやくと、「知らなかったの?」とシンタローは笑った。
戻った時には9時を回っていたが、とりあえず前菜用のパスタ、仔牛のカツレツ、サラダ、スープなどを作ることにする。
トットリは元々料理はしていることはあって、シンタローが教えればすぐにできた。
シンタローは盛り付けのコツなどを教え、レシピを書き残した。
結局2人で作った夕食を食べ、シンタローは後片付けも手伝い、11時前に帰った。
クリスマスイヴの3日前、ソファ類が届いたというので、シンタローとキンタローは2人でトットリの部屋を訪ねてみる。
「お、いいじゃねーの!」
こぎれいだが殺風景だった部屋に、落ち着いた色のソファが配置され、間接照明がいい雰囲気を出している。
「ちゃんとお前の部屋にも合ってるし、いい感じじゃん」
飾りも丁寧に飾られ、大人のクリスマスを演出するにはいい感じだった。
「ミヤギは大丈夫だったか?」
「うん。とびっきりの料理を作るからって言っておいたっちゃ。ちょっとまだ怒ってたけど、来てくれるって言ってたっちゃ」
「良かったな」
シンタローの笑顔に、トットリは嬉しそうに頷いた。
「じゃ、これオレたちから」
シンタローが言うと、キンタローが手に持っていた細長い紙袋を差し出した。
「?」
開けてみると、高級そうなシャンパンのフルボトルが入っていた。
「えっ。こんな高そうなシャンパン、もらっていいっちゃ・・・?」
「クリスマスプレゼントということで。ちゃんと報告しろよ」
「楽しみにしている」
2人の温かい笑顔に、トットリは涙ぐみそうになった。
「2人はどうするっちゃ?クリスマス」
「コタローの誕生日もあるから、オレたちは明日2人でディナーに行く予定」
シンタローは少し照れくさそうに笑った。
「誰にもいうなよ」と言い、2人は笑顔で部屋を出て行った。
トットリはまるでシンタローとキンタローは天使のようだ、とガラにもないことを思っていた。
シンタローは部屋に戻る途中、ずっと笑顔だった。
キンタローはそんな従兄弟の様子を見て、自然と自分も笑顔がこぼれるのがわかった。
明日のディナーはきっとトットリとミヤギの話題でもちきりだろう。
しかしキンタローは、そんな優しい従兄弟だから好きなのだろうと思った。
end
***
ひろこ様、14000HIT申告ありがとうございました!
これまで来てくださった皆様も、本当にありがとうございました!
初めてキリリクを頂いて、とても嬉しかったです。
珍しくイベントネタをいれ、クリスマスネタにしてみました。
トットリの方言に関してはもう大目に見てね!ミヤギならある程度予想がつくんですが(笑)
このSSはひろこ様のみお持ち帰りOKです!
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キンシン好きに捧げる30の御題
1・シンクロ (20050927up)
「何を考えている・・・?」
肩を抱き寄せ、ささやくように従兄弟に問えば、「多分オマエと同じこと」と言う。
ならば、何も言うことはないな。
額にかかる髪をかきあげてやると、従兄弟はいたずらっぽく笑うが、その目は熱を帯び甘い期待に潤んでいた。
2・距離 (20050927up)
離れていると思うことってあるかって?
そりゃあるね。
だって、何も言わなくても肩揉んでくれたり、キスしてくれるヤツがいないんだから。
3・視線の先に (20051011up)
吹き抜けになった食堂を見下ろせる上階の廊下のガラス窓から、たくさんの研究員に紛れたキンタローが見えた。
研究棟から士官食堂に食事にやってきた白衣を着た研究員の連中が、キンタローを取り囲んでいる。
ああ、みんなで一緒に昼休みに来たんだな、と思って、また、オレ以外のヤツと交流することもすごく大事だよな、と思う。
オレは急いでたから早足だったけど、つい視線はキンタローに釘付けになっている。
あの角を曲がったら見えなくなるな、と思った時、ふと、キンタローが顔を上げた。
そしてオレに気づいて、ふわっと笑った。
オレは片手を上げてウィンクして見せて、立ち止まることなく角を曲がった。
キンタローの視線につられて研究員の連中が上を見ても、視線の先には誰もいなかっただろう。
キンタローが誰を見て笑ったか、気づくやつはいただろうか。
4・しぐさ (20051011up)
キンタローが長めの前髪をかきあげる。
研究でパソコン仕事が多いのだから、結構邪魔じゃないかな、と思うけど・・・。
似合うから、切れなんて言わない。
5・総帥服 (20051011up)
赤い服を脱ぎ捨てると、オレは乱暴に床に叩きつけた。
チッ。
服に着られてんじゃねーよ、オレ。
9・写真 (20051011up)
思い出すと赤くなる。
今日、偶然キンタローが携帯をいじっている所を見た。
あの待受画像・・・オレじゃねえか。
恥ずかしいから変えろって言ったけど、キンタローはなぜだって取り合ってくれない。
そんな風に呼ばないで
「やったーvv」
カラカラカラ・・・という軽い音と共に、絶対に語尾にハートマークがついてそうな、嬉々とした声が響く。
「く…ッ!」
対するは悔しそうな低い男の声。
手にした長方形の木製のブロックが、ふるふると震えている。
見事にちらばったブロックたちを見て、見物していた黒髪の従兄弟が、鼻白んだ。
「おいおいキンタロー!よりによっててめーと罰ゲームなんてゴメンだぜ!」
「もう、往生際悪いよ、お兄ちゃん」
そうつぶやく、晴れやかな笑顔の少年、コタロー。
兄を黙らせるには、有効すぎる笑顔だった。
「じゃあこれで、シンちゃんとキンちゃんがバツゲーム決定ね」
そう微笑むのは、年長組の唯一の勝者、グンマ。
木製のブロックを積み上げ、そこからブロックを1つづつ順番に抜いては上に積み重ね、バランスを崩したものが負けという、原始的なゲームをしていた青の一族若手組は、今勝敗が決したところだった。
負けたものが抜けていきつつ、先に負けたもの2人が何か罰ゲームをするというルールでやっていたのだが、最も早くブロックを崩したシンタローは2回戦をはらはらしながら見物していた。
2回戦は、キンタロー、グンマ、コタローの見事な集中力で1回戦より長く続いていたが、最近グンマとコタロー2人でこのゲームをよくやっていたらしく、経験者に利があったようだった。
初めてにしてはよくやったキンタローだったが、元来負けず嫌いの彼は、明らかに落胆していた。
「キンタローお兄ちゃんは初めてだったなんて、信じられないよ」
コタローが微笑むと、キンタローは我に返ったように、ぎこちない笑いを返した。
「じゃあ罰ゲームは、ボクとコタローちゃんが1つづつ出すということで」
綺麗にブロックを箱に収めたグンマは、コタローに微笑む。
青い目をわくわくと煌かせた少年は、得意げに胸を張った
「もちろん、今日1日はボクが女王様ね!お兄ちゃんたちは何でもボクの言うことを聞くこと~」
それじゃあ普段とたいして変わらないじゃないかとキンタローは思ったが、口には出さずにいた。
「ええもちろん、何でも言うことを聞かせていただきますです!」
シンタローは涎を垂らさんばかりの勢いで頷いた。
天下のガンマ団総帥・・・。
極度のブラコンであるという事実だけは、なんとしても隠しておきたかったな・・・。
グンマは微笑みながら、内心でため息をついた。
「グンマお兄ちゃんは?」
「じゃあ、キンちゃんとシンちゃんは女王様の下僕をしながら、お互いを『ちゃん』づけで呼び合ってくださーい」
「ええ!?」
さっきまで弟の可愛さに頬の緩みっぱなしだったシンタローが、青ざめて振り返った。
「そんな気色の悪いことができるか!!!」
今にも掴みかからんばかりの勢いのシンタロー。
よりによって、好敵手と認めている大の男を、『ちゃん』呼ばわりだとう!?
キ、キンタローちゃん??
想像して鳥肌がたったシンタローは、ぶるっと襲い掛かった悪寒に耐えた。
「そんなことでいいのか?」
対する相方は、意外そうな表情。
「そんなことでよかったら、ラッキーだったな、『シンタローちゃん』」
「やめろぉおおおおお!!」
罰ゲーム通り呼ばれて、シンタローは壁際まで後退した。
2人への罰ゲームの効果の違いを予想していなかったグンマは、これはこれでおもしろいと思い始める。
「ダメだダメッ!俺はこのゲーム降りる!」
身勝手に言い放って、シンタローは悪寒に体を震わせながら、本当に部屋を出て行こうとした。
「降りるも何も、もう勝敗は決まってるじゃなーい。罰ゲームは罰ゲームだよう。それともシンちゃん」
セリフの途中から、グンマのトーンが変わる。
「逃げるの?」
微笑みながら言うその声音は、挑発というには優しすぎたが、直情的なシンタローを立ち止まらせるには十分だった。
キッと振り返ったシンタローは、「あぁ!?」とグンマを睨む。
一瞬頭に血が上りかけたらしいが、弟の手前ということもあって、思い直したようだった。
「ま、まさかだろ!俺が今まで敵前逃亡したことがあったか、なあ、『キンタローちゃん』」
ハッハッハと、乾いた笑いを上げるシンタローに、グンマは「OK、その調子~」とはやし立てた。
「まあ、あの島のナマモノ以外では、敵前逃亡はなかったな」
と真面目に答えるキンタロー。
「さ、コタロー様v何でもお申し付けくださいませ。私めと『キンタローちゃん』と、何でもさせていただきます」
ええい、ままよ。
「なんだかお兄ちゃんたち気色悪いなあ」
シンタローの内心の悪寒を知ってか知らずか、コタローが呆れ顔でつぶやいた。
end
**********************
従兄弟チャットで出たお題、「お互いを『ちゃん』づけで呼び合うシンタローとキンタロー」を書いてみました~。
わははは。
キモイね!
書いててとってもおもしろかったです!
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キンシン祭り!!
KILL LOVE 記念SS *10月11日にworks部屋に移動しました。
ここにいて
ふと本から目線を上げると、珍しくソファでうとうとしている金髪の従兄弟が目に入った。
時計を見ると、夜の12時を回っている。
いつの間にか話の展開に夢中になってしまったらしい。
最近小説など読む時間もめっきり減ってしまっていたが、この間偶然本屋で手に取った短編集がおもしろかったので、同じ作家の長編を買い部屋に帰ってくると早速読んでいたのだった。
3分の1くらい読んだところで、キンタローがやってきた。
今日は研究会に行って遅くなるはずだったが、どうやら会の後にいつも開かれている飲み会は辞退して帰ってきたらしかった。
シンタローは彼が帰って来たのなら続きは後にしようと思って栞を挟んだが、キンタローは自分も読まなくてはいけない本があるから、と言ってそれを制した。
どうやら研究会で次回使う論文を読まなくてはならないらしく、それならと2人で読書の時間となったのだったが。
疲れてしまったのだろう。
手からたくさん付箋がついた論文集が滑り落ちてしまいそうになっている。
そっとその手から論文集を取ると、今まで開いていたところにペンを挟んでテーブルの上に置いてやった。
しかし、ソファに座ったまま寝ていると疲れがとれない。
明日も仕事があるし、ベッドに連れて行った方がいいだろうと思ったが、同じ背格好の大の男を起こさないように抱え上げるのは至難の業だった。
仕方なく起こそうとして覗き込むが、その安らかで端正な寝顔にしばらく見入ってしまった。
始めて会った時は長かった金色の髪は耳の下の辺りまで切ってしまったが、俯いていたたため長く残された前髪が顔の上半分を覆ってしまっていた。
そっと髪をかき上げると、父親のルーザー似というよりは伯父のマジック似の凛々しい、形のいい眉毛が現れる。
いつもは気難しそうに寄せられているそれも、今は穏やかだった。
閉じられたまぶたを飾る睫は金色で、自分のものよりもかなり長い。
唇は自分のと似ている、とシンタローは思った。
あまり間近でじっくりと顔を眺める機会などなかったな、と思いつつ、ふと、自分にはやっぱり似ていないな、と思う。
時折、息があまりにも合うためか、考え方が似ている部分があるのか、雰囲気なのかわからないが、双子のようだと称されることがある。
確かに、24年間も一緒の体に入っていたんだからそういうこともあるかもしれない。
でも、姿形はやっぱりグンマやマジックの方がよっぽど似ている。
(オレが本当に一族の人間だったら、こんな顔だったんだろうか)
不意に、普段極力考えないようにしている暗い思いに囚われそうになり、大きく頭を振った。
今更考えても仕方の無いことを、時々考えそうになる。
その度に自己嫌悪に陥り、闇色をした何かに押し潰されるような、誰にも言えない不安と恐怖に苛まれる。
幼い頃から、父親や一族の人間とは明らかに違う髪の色、瞳、顔立ちに劣等感を持っていた。
本当はマジックの血を引いていないのではないかとか、引いているとしても一族の人間として出来損ないだ、と皆が言っているような気がして。
周囲の視線が痛くて。
マジックは黒髪も黒い瞳も、この肌の色もこの顔も好きだ、母親譲りだ、と言い続けてくれたけど、実はその全てが、自分のものではなかった。
母親も何も関係がない、赤の番人ジャンそっくりに作られたのだという、残酷な事実。
そして、青の番人の「影」という、無慈悲な創造主の思惑から作り出された目くらまし。
人はオンリーワンだから大切なのだという言葉がある。
でも、自分にとっては全く慰めにも何にもならない言葉だった。
急に動悸がすることに気づいて、シンタローは思わず胸を抑えた。
まずい。
冷や汗が出て、呼吸さえするのが苦しくなって、口を押さえてわめきちらしたいような気持ちを抑える。
キンタローの髪から手を外し、しゃがみこんだまま床に手をついた。
そうしないと、脚ががくがくと震えて尻餅をついてしまいそうだった。
やめろ。
キンタローが起きちまうだろ。
そしたらきっとキンタローのことだからどうした、って聞いて慰めようとしてくるだろ。
今は、だめだ。
それだけは。
目を思い切り瞑って、その発作のような動悸をやり過ごそうとする。
もし、とか考えるな。
もっと前向きに、これからのことを考えればいい。
もっと考えるべきことはたくさんある。
しかし、どくり、どくりと心臓は痛いほど跳ねて、まるで自分のものではないかのようだった。
ジャンの心臓が、抵抗してるのか?
オレが、青の番人の・・・影だから?
オレは、オレは、また、いつか、この体から出て行かなくてはいけないのか・・・?
そしてまた、別の体に宿って、他人の人生を奪うのか?
それならいっそ、シンタローという魂が消えてしまえば・・・、未来永劫、罪悪感に苦しまなくて済むのかもしれない・・・。
「・・・シンタロー・・・!!?」
切羽詰った声が、頭上から聞こえた。
顔を上げるのもつらくて、口を押さえたまま下を向いていると、キンタローが飛び起きて片膝をついて覗き込んだ。
「どうした!具合でも悪いのか!?」
心の底から心配そうにキンタローが震える肩を抱いた。
「立てるか?」
胸の痛みと息苦しさに全く返事が出来ないでいると、キンタローは「少し我慢してくれ」と言い、脇と膝裏に腕をいれシンタローの体を抱き上げた。
そのまま大股で寝室に運ぶと、ゆっくりとベッドに横たえた。
「医者を呼んでくるか?」
毛布をかけながら、キンタローが伺う。
シンタローは、ゆっくりと首を横に振った。
「―」
かすれて、よく声が出ない。
ちゃんと発声したつもりなのに、きちんと言葉になっていないようだった。
キンタローが長身を屈めて、口元に耳を寄せてくれた。
もう一度言うと、キンタローは「わかった」と安心させるように微笑んだ。
キンタローは自分のハンカチを取り出して、額や首の汗を拭いてくれた。
思わずその手をとって少し引き寄せると、わずかに頷いてシンタローの脇に添い寝してくれた。
子どもの頃はマジックが遠征に行って家にいなかったのが寂しくて、家にいるときはよく一緒に寝てくれとせがんでいた。
また怖い夢を見て一人で眠れないときは、マジックのベッドに行って一緒に寝てもらっていた。
その記憶がぼんやりとあるキンタローは、きっと従兄弟は眠るまで側にいて欲しいのだとすぐに察した。
キンタローはまるで親が子どもにするように、シンタローをそっと腕の中に包んだ。
そして背中をゆっくりとさすってくれた。
その温かさが心地よくて、暴れていた心臓は徐々に落ち着きを取り戻していく。
呼吸も落ち着き、青ざめていた頬にも血の気が戻るのが分かった。
「悪ィ・・・」
上目遣いに失態を詫びるが、その声は自分が思っていたより弱々しかった。
キンタローは心配そうに見つめたが、やがてシンタローの額に唇を落とした。
まるで彼の唇が触れた場所からシンタローを労わる気持ちが伝わってくるようだった。
「シンタロー・・・。愛している」
唇を離すと、まっすぐに目を見つめて言ったキンタローの言葉が、緩むのをこらえていた涙腺を溶かした。
ガキだな、オレは。
まるで、言って欲しかったみたいじゃねぇか。
自分の浅ましさにまた自己嫌悪に陥りそうになったが、溢れる涙を止めることはできなかった。
「愛してる」
表向きは科学者らしい合理的な性格をしているはずの彼が、愛という言葉を囁く時の、なんと情熱的なことか。
その熱さが、冷たい心の闇を溶かすかもしれない。
もう1人で、抱え込むな。
耳元で囁かれた言葉が胸に染みて、シンタローは子どものように声を上げて泣いた。
end
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キンシン祭り!!
KILL LOVE 記念SS *10月11日にはworks部屋に移動しました。
不法侵入者 1
遠征中の予定が早まって、思っていたよりも早く団に帰ることになることはままある。
一ヶ月は不在かと思われた新総帥の部屋は、予定より2週間も早く主を迎えた。
「それにしても今回は早く帰れて良かったよな~」
私服に着替えたシンタローは、冷蔵庫から冷えた白ワインを取り出しながら相棒に話しかける。
「そうだな。あの政治家の影の説得工作が効を奏した。おそらく次のリーダーになるだろう」
キンタローも従兄弟が用意したカナッペをテーブルに運びながら応えた。
まだ陽も完全には落ちていない夕方ではあったが、夕食までまだ時間があったため、2人で早々に飲み始めてしまおうというものだった。
シンタローがワイングラスに2人分のワインを注ぐと、小さな2人だけの酒宴の準備ができた。
「とりあえず無事帰って来れて良かった。乾杯だな」
「ああ」
キィン、とまるで金属のような高い音が部屋に響き渡った。
すっかり暗くなった頃には、ワインの空き瓶が2つもテーブルの下に並べられていた。
キンタローはグラスを置いてソファに凭れ掛かると、L字型ソファの斜め向かいに座る従兄弟を見遣る。
あまり酒に強くはないシンタローは、同じく深く腰掛けて頬を赤く染めている。
「3本空けちまったな…」
そう言って残念そうに3本目の緑色の瓶を光に透かして、揺らしてみている。
そんな他愛もない仕草が可愛らしい。
普段から大所帯に囲まれて暮していると、こうして2人だけになった時間というのは貴重に感じる。
仕事で外出すれば側近やSPがついてくるし、プライベートでも一族や高松らがなんやかやとシンタローやキンタローに構ってくる。
しかしどうやら今日は2人が予定より早く帰ってきたこともあってか、マジックはまだ帰ってきておらず、プライベートスペースは非常に静かだった。
「あー眠ぃ・・・」
シンタローは半分落ちかけた目をこすった。
しかし、今従兄弟に眠られると千載一遇のチャンスを逃すかもしれない。
キンタローは、立ち上がると彼の側に寄った。
「シンタロー・・・」
「・・・ん?」
天井を向いていたシンタローは、少し落ちた瞼でキンタローの方を見た。
あくびをかみ殺していたのか、黒い瞳が潤んで揺れていた。
その様子が可愛らしくて思わず笑みが出る。
隣に座り、おろした長い黒髪を撫でる。
まっすぐにその瞳を見つめると、こちらの意図をようやく察したのか、彼は戸惑ったように視線を下に逸らした。
恥ずかしがっているのだろうか。
強がりで尊大な従兄弟が頬を染めてうつむいている様子は普段の彼からは想像もつかない。
そっと手を頬に添えると、やっと赤い顔をあげた。
ゆっくりと、お互いの唇の距離が無くなっていく。
とうとう、触れるか、というその時。
ガチャン!!
2人の背後で盛大な物音がした。
「誰だ!!」
びくりとして一斉に振り向くと、あろうことかシンタローの部屋の自動扉が閉まりかけるところだった。
誰かが、慌てたように逃げていく影。
ありえない。
ガンマ団総帥たるシンタローの部屋は、指紋認証でロックがかけられているため、在室している時は一族の人間ですら簡単に開けることはできないのである。
・・・まあ、一族、特にシンタローを異常なまでに溺愛している人物の対策にキンタローがつけたロックであるのだが。
実は公私とも相棒を自認しているキンタローの指紋も登録してあったが、それは2人とグンマしか知らなかった。
キンタローが駆け寄ると、ドアのところになんと割れた酒瓶が落ちていた。
派手な物音の正体はこれらしい。
瓶に入っていたウィスキーらしき琥珀色の液体がカーペットに染みを作り、強いアルコール臭を放っている。
「ちっ。一体誰だ!?勝手に入ってきやがって・・・!」
キンタローは無言で、影が逃げた方へためらいもなく全速力で駆けていく。
シンタローも後に続いた。
T字になった廊下で一瞬立ち止まったキンタローに追いつくと、無言で二手に分かれた。
しばらくして、2人とも部屋に戻ってきた。
全く人影の行方がわからない。
しかも、なぜ酒瓶?
酒瓶で襲い掛かるつもりが、落としてしまって慌てて逃げたのだろうか。
間抜けなヤツだ。
キンタローはまず指紋認証ロックの制御板が故障していないかどうかを確認した。
一度閉めてシンタローに開けさせたが、特に故障している様子はなかった。
こじ開けられた様子もない。
次にキンタローはタオルを手に巻いて慎重にビンの欠片を集めると、指紋をとるためにそれらをとっておくことにした。
「何たることだ・・・オレの作ったセキュリティが万全ではないということだな。とにかく、SPとハウスキーパーに連絡を」
キンタローは掃除をさせるべく連絡をとった。
ハウスキーパーとSPはすぐやってきて、こぼれたウィスキーの処理をし始めた。
「彼らに捜索を手伝ってもらうだろう?」
駆けつけたSPを指しながらキンタローが尋ねるが、先ほどから無言だったシンタローは何やら考え込んでいるようだった。
何かアイデアがある時の顔だな、とキンタローは思い、その顔が正面を向くのを待った。
ゆっくりと、シンタローは顔を上げ、こう告げた。
「オレらの他に、オレの部屋に入れる可能性のあるヤツが一人だけいる」
「何・・・?誰だ、グンマか?」
「いや、グンマとオレの指紋は違うだろ?」
指紋が違う、と言われて、キンタローはあまり思い出したくない1人の人物が頭に浮かんだ。
「…ジャンか…!」
シンタローは眉をしかめ、いかにも不愉快だと言いたげな表情で頷いた。
そう。
認めたくない事実ではあるが、シンタローは今、赤の番人ジャンのものだった体を使っている。
パプワ島でシンタローに体を明け渡し、精神体になったジャンは新しい体を赤の秘石からもらったはずであるが、オリジナルの肉体と全く同じ肉体を所有している可能性は高い。
全く故障している様子のない右指の指紋認証のロックが外せるとしたら、指紋が同じ人物 ― つまり、ジャンくらいしか考えられないのだ。
「ちっ。とりあえず、ヤツを探そう。とっちめてやる」
シンタローがとんでもないところを見られたのという羞恥に真っ赤になりながら怒る。
頷くと、ジャンがいるはずである研究棟に電話をかけた。
「ああ、キンタローだ。ジャンはいるか?」
若い研究員が出たが、ジャンはいないと言う。
どうやら、誰かに呼ばれて1時間ほど前に研究棟を出て行ったが行き先はわからないという。
「そうか。わかった。もし戻ってきたら連絡をくれ」
シンタローは不機嫌そうに眉根を寄せ、とにかく電話をかけまくれ、と言った。
しかし高松にはシンタローがかけた。
キンタローがかけるとメロメロになってしまい、しかも話を引き伸ばそうとするのでうっとうしかったから。
案の上「知りませんよ」とそっけない。
同時にキンタローがグンマにかけてみると、ジャンを先ほど一族のプライベートスペースで見たという。
「どこで見たんだ?」
と聞くと、ハーレムの部屋の近くだという。
「うし。とりあえずハーレムの部屋に行ってみよう」
SPらに指示を出し、2人でハーレムの部屋に向かうことにする。
飛行船で暮らしていることが多いので滅多に戻ってこないハーレムの部屋は、1つ下の階にあった。
しかし任務で今はある国に行っている筈で、予定では部屋の主はいないはずであった。
部屋の前に立つと、いるかどうかはわからなかったがとりあえずインターフォンのボタンを押す。
すると、無人だと思っていた室内から人の声がした。
「・・・あん?」
内側からドアが開くと、まずあふれ出してきたのはものすごい酒の匂い。
さっきまで2人も酒を飲んでいたので鼻が利かなくなっているはずなのに、それでもわかるほどの酒の匂いだった。
「ハーレム叔父貴」
1人であれだけの量を飲んだのだろうか?
日本酒、ウィスキー、ブランデー、ビールなど様々な空瓶がテーブルや床に散乱していた。
キンシン祭り!!
KILL LOVE 記念SS *10月11日にworks部屋に移動しました。
不法侵入者 2
「あんだよ、2人揃って」
硬い金の髪を奔放に伸ばしたハーレムは、ドアの側面に寄りかかってぼりぼりと頭を掻いた。
「いや、ハーレム、団に戻ってたんだな」
シンタローは口を開くとこの叔父とケンカばかりするため、キンタローが淡々と尋ねる。
「ああ。さっさと仕事終わらせて帰ってきた。おめーらもずいぶん早かったじゃねーか」
だるそうに言う叔父の息は酒臭い。
「ああ。全て順調に行った。・・・ところで、この近くでジャンを見なかったか?もしかしたら一緒にいるんではないかと思ったんだが」
キンタローが静かに尋ねると、ハーレムの片眉が跳ね上がった。
「あいつなら、逃げてったぜ」
「逃げた?」
ニヤリと笑う叔父。
シンタローはこの笑みを見るとムカツク、と言っていた。
「ああ。酒持って歩いてたからよお、一緒に飲むべって言ったんだけど、逃げたんだよ、アイツ。だから追いかけた」
「・・・」
「でも、上の階で見失っちまって」
金の髪と黒の髪の従兄弟同士は、顔を見合わせた。
つまるところ、こういう推測が成り立つ。
何らかの事情でウィスキーを抱えて一族のプライベートスペースを歩いていたジャンが、不運にもハーレムに見つかって酒目当てで追い回された。
そこで、機転を利かせて隠れるつもりで無人だと思っていたシンタローの部屋に入った。
しかし、予定外に早く帰ってきた2人がいた(しかも取り込み中だった)ため、慌てて逃げた。
・・・ということだろうか。
「どうする・・・?」
「ジャンのやろー。やっぱりむかつくからとっちめる」
シンタローは見られたというショックを再び思い起こしたのか、膨れっ面で唸った。
先ほど探してもいなかったのだから、すぐ見つかるだろうか。
せっかくマジックもいないのに、このままジャンの捜索に時間をかけていては、2人の時間が短くなってしまう。
「とりあえず今晩はロックの設定を変えて、アナログな物理鍵を使うという方法はどうだ?」
「オレは今すぐアイツを一発殴って記憶を消したいんだが」
「ジャンだっておそらく悪気があったわけではないだろう。とりあえず、ジャンを見たら通報するように通達を出しておけばいい」
優しいのか優しくないのかわからない提案をすると、しばらくむっとしていたシンタローも渋々頷いた。
「そうだよな。逃げられるわけないし・・・」
そんなやりとりをしながらシンタローの部屋に向かっていると、件の人物が、所在無げにドアの前に佇んでいるのが見えた。
「ジャン・・・!てめー!勝手に人の部屋入ったな!!」
「うわ!シンタロー!やめろその構え!!」
シンタローが眼魔砲の構えを取り出したので、ジャンは泣きそうな顔で慌てて降参のしるしに両手を上げた。
面差しが似通っている ― いや、全く同じ顔の2人が対峙しているのは奇妙な光景だった。
「悪かったよ!謝りに来たんだ。ハーレムがあのウィスキーをとりあげようとしたから・・・。慌てて逃げ込もうと思ったんだ。一度閉まったら、ハーレムだって中に入れないだろ?」
2人が推測した通りの理由だった。
「それでオレたちがいたものだから、驚いて落としたのか」
キンタローが静かに尋ねると、ジャンは2人の顔色を伺いながら頷いた。
「いないと思ってたから・・・。すまん。本当に悪かった。もう二度と勝手に入ったりしない」
ジャンは本当に申し訳なさそうに謝罪した。
それがまるで若い頃のシンタローを見ているようで、キンタローはなんとなくそれ以上責める気になれなかった。
「もうお前が入れないようにロックのシステムを変更する」
感情を押し殺して淡々と告げると、ジャンはバツが悪そうな顔をした。
「・・・それに見たことは誰にも言わない」
言いにくそうに付け加えた黒髪の男に、
「あ、あれはだなっ!!目にゴミが入ったからキンタローに見てもらってただけだ!!」
シンタローが真っ赤になりながら吠えた。
思わず従兄弟を見る。
目を閉じながら目の中のゴミを見ることなど不可能なのだが、いつも正直に思ったことを話すと怒られるので、口を挟むのは差し控える。
ジャンは、困ったような顔つきになった。
「だいたいよー。てめえ、なんでこんなトコいるんだよ」
シンタローは不機嫌も露に、ジャンが一族のプライベートスペースにいたことを詰問する。
腕組みをした彼は、返答次第では本気で殴るかもしれなかった。
「いやあ・・・。実は、サービスが一緒に飲もうって言ってくれたから・・・。一番いいウィスキーを買って持ってきたんだ」
「え・・・!?サービス叔父さん、帰ってきてるのか?」
シンタローの顔が、サービス、という言葉に一転して輝きだした。
放浪癖のある敬愛する叔父が、家に戻ってきているなんて。
「お前たち、予定より早く帰ってきたから知らなかったんだよな。2日前にふらっと帰ってきたんだよ」
さっきまでの不機嫌はどこへやら。
シンタローはサービスに会わせろ、とジャンを急かし始めた。
キンタローは額に手をあてて嘆息する。
この様子では、シンタローはサービスに会いに行って一緒に飲もうと誘われるかも知れない。
せっかくの2人の時間が、不法侵入者によって奪い取られてしまった。
キンタローは2人の後をついて行きながら、どうやってこの不法侵入者に仕返しをしようかと考えていた。
end
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