忍者ブログ
* admin *
[1]  [2]  [3]  [4]  [5]  [6]  [7]  [8
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

ks
何処か遠くで鐘が鳴り始めた。
百八つの煩悩を落とすという、除夜の鐘が。



素顔のままで



「何を考えてる?」
さらりと髪を梳かれ、シンタローは視線を隣の男に移した。
「・・・去年の今頃何してたかなって」
「今みたいにおまえとベッドの中にいたぞ」
「・・・一昨年は?」
「同じようにこうしてベッドの中に」
「んで今年もかよ! 全く除夜の鐘もテメーには何の効き目もねェな!!」
だが有能な補佐官で親愛なる従兄弟でもある恋人は不敵に眼だけで微笑した。
「煩悩を落とす鐘か。―――成程、俺には関わりなど無さそうだ」
そのほうがいいか、と囁かれて思わず眼を閉じる。


聖人君子のようになった俺の方がいいか?
おまえを求めることもせず、おまえを泣かせることもせず。
この手もこの指もこの唇も、もうおまえに触れることはない。
そんな俺の方がおまえはいいというのか?



耳朶に吹き込まれる熱い声は強い魔力を帯びていて、それだけでシンタローは大きく呼吸を乱してキンタローの広い胸にしがみついた。
大きな手はむしろ赤ん坊をあやす母のような優しさで長い黒髪を撫でているだけなのに、その温もりがシンタローの全身を震わせては宥め、そしてぐずぐずに溶かしてゆく。
「大丈夫か?」
からかうような声が気に障って金色の頭をばしっと叩いてやった。
「今ので脳細胞が五億は死んだぞ。脳細胞は再生しないんだ。いいか人の脳というのは」
「うるせェ、二度言うな!」
もう一度殴ろうとした手首をがしっと掴まれ、視界がふわっと反転した。
「答えをまだ聞いていないぞ、シンタロー」
深く澄んだ青い秘石眼に真上から覗きこまれる。
「おまえがそのつもりなら、泣いて縋って答えるまで虐めてやる」


有言実行の男の物騒な宣言に思わず身体が竦みあがる。
降伏するのは癪だがここは致し方ない。


「・・・今のままのオマエでいい。―――」


途端ににこりと浮かんだ子供のような笑みに思わず微笑を返し、今年もまた同じ年越しになることを覚悟してシンタローは瞳を閉じたのだった。

PR
kks

   もろびとこぞりて


「あっこの表紙も可愛いな」
シンタローはどこへ行ったのだろうと探していたら、書籍売り場で発見した。
隣で店員らしき人物が一生懸命、児童書を並べて見せている。
「まだ買うのか…」
「あっキンタロー、これ見ろよ、これ良くねえ?」
さっき玩具売り場でどれだけ買ったと思っている、と言いかけた台詞を喉元で飲み込んだ。

店内はクリスマス一色。
賑やかな音楽が流れ、赤と緑が華やかに飾りつけられている。

「その本はコタローには少し難しいんじゃないか」
「んなことねーよ、コタローは賢いから。大丈夫だって」
上客と見て、店員が「素敵なお話ですよ」とにこにこ接客している。
「弟さんはどんなお話が好きなんですか?」
何気ない問いに、シンタローは少し切なそうに微笑んだ。

彼の襟元を深い緑色のマフラーが彩っている。出かけるとき、もう一人の従兄弟が無理やり巻いたものだ。
「今日は寒いんだから、ちゃんとあったかくしてかなきゃ!」
僕も行きたいと随分騒いでいたが、グンマは研究が佳境に入っているところらしい。
「別に要らねえよ、キンタローの車で行くんだし」
「駄目だよ、風邪ひいちゃったらどうすんの」
何のかの言ってもシンタローはグンマに甘い。押し切られた形でマフラーを首にかけた。
「僕の分もいっぱい買ってきてね」
そう笑って見送ったグンマに頷いたが、まさかこんなに買うとは思わなかった。
節約の2文字を金科玉条にしているシンタローが、今日ばかりは値段も見ずに品物をレジカウンターに積み上げていく。
愛してやまない小さな弟のために―――眠り続けるコタローのために、誕生日とクリスマスが共に来る日を祝って。

「また車に積んできた方が良さそうだな」
「次は俺が行くよ、駐車場まで何度も往復させんの悪いし」
「それは構わないが、そろそろ乗り切らなくなるぞ。送ってもらうか?」
どうしようかと首を捻ったシンタローが、ふと俺の手元を見た。
「お前、何か買ったの?」
「…ああ」
玩具を車に積みに行き、店内に戻る途中で買い物をした。

グンマは大切な従兄弟であり、家族であり、同志でもある。
それに俺もコタローのことを愛している。

(だけど、どうしようもないんだ)

「じゃあ送ってもらうか、手続きしてくる」
レジカウンターに足早に歩いていくシンタローの背中を見ながら、俺は手に持っていた袋を握り締めた。

グンマに借りたマフラーを巻いて、コタローへのプレゼントを選んでいるお前の姿は微笑ましい。
俺だってグンマもコタローも大好きだ。

だけど―――シンタローを愛する気持ちは何にも代えがたいから、やはり少しだけ嫉妬する。どうしようもないことだ。


店内では賑やかに「もろびとこぞりて」が流れている。
「なぁ、なに買ったんだ?」
会計を終えてシンタローが訊ねてきた。
楽しそうな彼の笑顔を見ていると、俺の気持ちも浮き立ってくる。

誰に借りるのでもなく、俺があげたい。
誰に贈るのでもなく、お前に贈りたい。


一目で気に入った真っ白なマフラーをいつ渡そうか。

曖昧な笑みではぐらかしたが、機嫌のよいシンタローは特に気にもせず、周囲には聞こえないくらいの小声で歌っている。
「Joy to the world, The Lord is come…」

全世界の喜びだって?
悪いがそんなもの、知ったことじゃない。

「シンタロー、ツリーも飾り付けるんだろう。急がないと」
「はーいはいはい」
歌詞を遮って早足で歩き出す。

俺の歓喜は、今ここにいるお前の存在なのだから。

ks
おうちでねこをかうときは
あめもむちもやくにたちません
ねこのきがむくまで
しんぼうづよくまちましょう



COME ON, MY SWEET



俺の部屋には時々猫がやってくる。
偉そうで、我が儘で、勝手な黒猫。

「こっちにおいで」
ちょっちょっ、と呼んでも見向きもしない。
美味しいご飯を作っても、ふかふかの寝床を用意しても、まるで知らんぷりを決め込んでいる。
俺は肩を落として溜息をつく。
まあ、とっくの昔に諦めてるんだ。
だって猫の気を変えさせることなんて神様だって出来やしないだろう?

暫くその猫のことなど忘れた振りをして本を読んでいると、猫はちょっとずつ近づいてくる。
視界の隅にちらちら動く黒い影をなるべく見ないように、俺は視線を逸らしている。
猫は漸くその気になったのか、俺の足に甘えるように身体を擦りつけてきた。
だが肝心なのはここからだ。
すぐにその漆黒の背中を撫でたりしてはいけない。
苛々した猫にフーッと唸られて、嫌というほど引っ掻かれる羽目になる。
足の間をぐるぐる回る猫を、そうだな―――五分くらいだろうか、放っておく。
そうすると猫は痺れを切らしたように俺の膝に脚をかける。
そして甘えた声で一声鳴くのだ。

―――全くだらしがないことだが、その声に俺は至って弱い。


「・・・おまえは我が儘過ぎるぞ」
抱き上げると猫は真っ黒な瞳で俺を凝視めて可愛らしく首を傾げる。
「そんな顔をしても駄目だ」

そっと俺の頬に触れる前足には鋭い爪を隠しているくせに。
大人しく抱かれていたかと思えばその一瞬後には、俺の胸から飛び出していってしまうくせに。

そう―――猫という生き物と共に暮らすには、無限の忍耐が必要だ。

(それでも俺はおまえに夢中だから)

少しは手加減してくれないか、シンタロー。

ks
普段とは違う寂しげな笑みを浮かべた後、ドクターは去った。
テーブルの上の紅茶はすっかりと冷めて手付かずの焼き菓子がなんとも寂しい。
僕、部屋に帰るねとグンマは静かに言い、ドクターの歩んで言った方向とは逆へと足を帰っていった。
ダイニングに残ったのはシンタローとキンタローの二人だけだった。


*


「追いかけろよ」
俯いて、シンタローは従兄弟の肩口へと顔をうずめた。
俺も帰ると静かに立ち上がった従兄弟を引き止めたはいいもののシンタローはどうしていいのか分からなかった。
この場には諭してくれる父親も叔父たちもいない。
何を言っていいのか分からなかったが、それでもシンタローは彼らが離れて暮らすのは嫌だった。

「何故、だ」
「なんでって……それは」

従兄弟たちにとって親代わりのドクターが彼の元を辞するのは何故だか寂しい気持ちがした。
従兄弟たちが後見人とも言うべきドクターをうざったく感じることも感情的にはよく理解できる。
シンタローだって何かにつけて過保護な父親がいるのだ。

けれども。

「何も離れて暮らすこともないだろ」

寂しくないのか、と尋ねると埋めた肩がびくりと震えた。

「なあ、キンタロー。もう少し話し合えよ。なあ」
ドクターの悪いところは直してもらってさ、とシンタローは言う。
けれどもキンタローは背を向けたまま首を振ることすらもしなかった。




「……は」

掠れた声にシンタローは顔を上げた。
何を呟いたのか聞き取れない。
もう一度聞かせてくれと、乞うとキンタローはため息を吐いてもう一度口を開いた。

「おまえは俺が……いや俺とグンマが独立するのは反対なのか」
「そういうわけじゃ……」

「だったら」
これ以上は言わないでくれと金色の髪が揺れるのを見てシンタローは口を噤んだ。
視界の中で揺れた金色が薄い青へと変わって正面から抱きとめられても、シンタローは何も言えなかった。
キンタローの表情が去っていった高松と同じくらい寂しげな顔をしているのを見ると、もう何も言葉が出てこなかったからだ。
■SSS.45「リップクリーム」 キンタロー×シンタローただいま、と軽いキスを額に落として、それから口唇へと移行する。
ちゅ、と軽く落とした額とは違って少し長めのキスで従兄弟を味わうとかすかにミントの香りがした。


「シンタロー」
「なんだよ?今、コーヒー淹れてやるから待ってろよな」


キスを終えて、俺がジャケットを脱いでいる間にキッチンへと移動していた従兄弟がカップを片手に返事をする。
ネクタイを緩めて、ソファで待っているとしばらくしてシンタローは二人分のカップを携えてきた。
 

「寝る前だからな。薄めに淹れたぞ」
ほら、とテーブルに従兄弟がカップを置く。俺の隣に座ると彼は早速コーヒーに口をつけた。

「シンタロー。もう歯を磨いたんじゃないのか?」
一口飲んでから、先程尋ねようと思ったことを切り出す。
砂糖が少しとはいえ入ったコーヒーなど飲んでいいものなのか。
いや、また歯を磨けばいいことだが、と首を傾げるとシンタローは目を見張った。

「夕飯の後には一応磨いたけど、俺、まだ風呂も入ってないぜ?」
寝る前に磨くつもりだ、と俺を見て従兄弟が答える。
言われてみれば従兄弟はまだパジャマを着ていなかった。
  
「そうか。そういえばそうだな」
夕食の後に磨いたといったからその残り香か、とコーヒーを飲みながら思う。

「何で急にそんなこと聞いてきたんだよ」
すると今度はシンタローが不思議そうな面持ちで俺に尋ねてきた。

「何で……って、さっきキスしたときになんとなくミントの香りがしたからだが」
ただ聞いてみただけだ、と従兄弟に答える。シンタローは俺の答えにミント?と考えこんだ。

「歯磨きのじゃないのか」
たしかすっきりするものを使っていただろう、と言うとシンタローはあ!と声を上げた。

「違う違う。今日、歯磨き粉切れててグンマの借りたんだよ。アイツのイチゴ味のヤツ。
おまえが言うミントみたいな香りってこれだぜ」

ごそごそとポケットを探るとシンタローは少し細めの小さな筒を見せてきた。

「リップクリーム?」
「ああ。メンソレータム配合ってなってるからこれだろ?たぶん」
さっき塗ったから、と言ってシンタローはリップクリームの蓋を開けた。
軽くひと塗りするなり、俺の口唇にちゅ、と軽く合わせる。

「な?これだろ」

ポケットへとリップクリームを戻しながらシンタローは笑った。

「ああ、これだ。この香りだな。シンタロー、おまえ口唇が荒れているのか」
口唇を合わせてみてもそんな感じはしなかった。
少しべたつく下唇に指を這わしてみてもささくれ立ったところはとりたててない。

「団内どこいっても暖房つけてて空気が乾燥しているだろ。ひび割れないうちに予防でしてるだけだぜ。
もう何日も前から塗ってるぞ」

意外と気づかなかったんだな、とカップの縁を弄りながらシンタローが言う。

「キンタロー、おまえも使うか?放っておいて口唇荒れたら痛いだろ」
研究室だって暖房はつけているわけだし、とシンタローが再び内ポケットを探り始める。

「いや。いい。もう寝る前だしな」

そういって俺は従兄弟の申し出を断った。
シンタローはふうんと気にも留めていない返事をするとソーサーにカップを置く。
俺が片付ける、と腰を上げるとシンタローは中腰になった俺の額へ少し背伸びをしてキスをする。

お礼のつもりなのか、と思わず頬が緩む。
風呂は沸かしておいたから一緒に入ろうな、と囁かれてカップを手にしたまま俺もシンタローにキスをした。
  
彼と違って、額ではなく口唇だったけれども。



口唇のむちっとした感触に俺はふと思い立った。
俺の口唇が荒れないのはもしかしてリップクリームを塗ったシンタローにキスをしているからか?



明日からは俺も塗ろう。
シンタローの口唇からみずみずしい潤いを奪わないようにしないと。■SSS.48「心臓」 キンタロー×シンタロー「俺はお前を好きなようだ」

思わず耳を疑った。
幻聴だとか、なんかの罰ゲームだとか思いつく限りのことは想像してみた。
だが、目の前の男のあまりにも真剣すぎる表情に笑い飛ばそうと思った気が萎えていく。

「あの……な、キンタロー」
エイプリルフールまでずいぶん時間があるぜ、と引きつった笑みを浮かべながら言うと従兄弟は眉を顰めた。

「何を言っているんだ、シンタロー。俺は本気だぞ」

いいか、もう一度言う。俺はお前のことが好きだ、などと真剣な表情で従兄弟は俺の肩に手をかけた。

「返事は今でなくてもいい。だが、俺は本気でお前のことを愛してるんだぞ」
寝ても覚めてもおまえのことしか考えられない。仕事も手につかないんだ。
シンタロー、おまえ以外の人間じゃこんな気持ちにならないんだ。俺はおまえが好きでたまらない」

親父じゃないんだ、下手な冗談はよしてくれと俺は言おうとした。だが、キンタローは、

「LIKEでなくLOVEでだ。従兄弟としてでなく、一人の男としてでだ」
と至極真面目な顔で言う。
退路を立たれて俺はぐっと詰まった。
だが、いくらなんでも……。


「おまえ、絶対勘違いしてるぞ!どうせ、ワケわからねえ心理学の本でも読んで影響されただけだ!
本を読んで得ただけの知識で物事を理解しようったって世の中そんなに甘くねぇぞ!
心臓がどきどきするから恋だとか四六時中相手のことが気になるから恋だとか、そんなもんは全部錯覚だ!!
どきどきするのは不整脈だ!親父じゃねえけど、少しおまえは疲れが溜まってるんだよ!
俺が気になるのは俺がひよっこ総帥だからだって!じゃなきゃ、アレだ。
ズボンのチャックが開いてたり、髪が長いのが鬱陶しくて視界に入ってきただけだ。な、そうだろ?
よく、考えてみろよ!!キンタロー!!」


一息に怒鳴るとキンタローは少し考え込んだ。
俺の肩に置いていた手が口元へと持っていかれ、考え込む姿勢を作っている。

爪の先まで調えられた長い指に一瞬見惚れているとキンタローがぼおっと突っ立っていた俺を己のほうへと引き寄せた。

「ッな!おいッ!!」
BACK HOME NEXT
カレンダー
04 2025/05 06
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
最新記事
as
(06/27)
p
(02/26)
pp
(02/26)
mm
(02/26)
s2
(02/26)
ブログ内検索
忍者ブログ // [PR]

template ゆきぱんだ  //  Copyright: ふらいんぐ All Rights Reserved