■SSS.45「リップクリーム」 キンタロー×シンタローただいま、と軽いキスを額に落として、それから口唇へと移行する。
ちゅ、と軽く落とした額とは違って少し長めのキスで従兄弟を味わうとかすかにミントの香りがした。
「シンタロー」
「なんだよ?今、コーヒー淹れてやるから待ってろよな」
キスを終えて、俺がジャケットを脱いでいる間にキッチンへと移動していた従兄弟がカップを片手に返事をする。
ネクタイを緩めて、ソファで待っているとしばらくしてシンタローは二人分のカップを携えてきた。
「寝る前だからな。薄めに淹れたぞ」
ほら、とテーブルに従兄弟がカップを置く。俺の隣に座ると彼は早速コーヒーに口をつけた。
「シンタロー。もう歯を磨いたんじゃないのか?」
一口飲んでから、先程尋ねようと思ったことを切り出す。
砂糖が少しとはいえ入ったコーヒーなど飲んでいいものなのか。
いや、また歯を磨けばいいことだが、と首を傾げるとシンタローは目を見張った。
「夕飯の後には一応磨いたけど、俺、まだ風呂も入ってないぜ?」
寝る前に磨くつもりだ、と俺を見て従兄弟が答える。
言われてみれば従兄弟はまだパジャマを着ていなかった。
「そうか。そういえばそうだな」
夕食の後に磨いたといったからその残り香か、とコーヒーを飲みながら思う。
「何で急にそんなこと聞いてきたんだよ」
すると今度はシンタローが不思議そうな面持ちで俺に尋ねてきた。
「何で……って、さっきキスしたときになんとなくミントの香りがしたからだが」
ただ聞いてみただけだ、と従兄弟に答える。シンタローは俺の答えにミント?と考えこんだ。
「歯磨きのじゃないのか」
たしかすっきりするものを使っていただろう、と言うとシンタローはあ!と声を上げた。
「違う違う。今日、歯磨き粉切れててグンマの借りたんだよ。アイツのイチゴ味のヤツ。
おまえが言うミントみたいな香りってこれだぜ」
ごそごそとポケットを探るとシンタローは少し細めの小さな筒を見せてきた。
「リップクリーム?」
「ああ。メンソレータム配合ってなってるからこれだろ?たぶん」
さっき塗ったから、と言ってシンタローはリップクリームの蓋を開けた。
軽くひと塗りするなり、俺の口唇にちゅ、と軽く合わせる。
「な?これだろ」
ポケットへとリップクリームを戻しながらシンタローは笑った。
「ああ、これだ。この香りだな。シンタロー、おまえ口唇が荒れているのか」
口唇を合わせてみてもそんな感じはしなかった。
少しべたつく下唇に指を這わしてみてもささくれ立ったところはとりたててない。
「団内どこいっても暖房つけてて空気が乾燥しているだろ。ひび割れないうちに予防でしてるだけだぜ。
もう何日も前から塗ってるぞ」
意外と気づかなかったんだな、とカップの縁を弄りながらシンタローが言う。
「キンタロー、おまえも使うか?放っておいて口唇荒れたら痛いだろ」
研究室だって暖房はつけているわけだし、とシンタローが再び内ポケットを探り始める。
「いや。いい。もう寝る前だしな」
そういって俺は従兄弟の申し出を断った。
シンタローはふうんと気にも留めていない返事をするとソーサーにカップを置く。
俺が片付ける、と腰を上げるとシンタローは中腰になった俺の額へ少し背伸びをしてキスをする。
お礼のつもりなのか、と思わず頬が緩む。
風呂は沸かしておいたから一緒に入ろうな、と囁かれてカップを手にしたまま俺もシンタローにキスをした。
彼と違って、額ではなく口唇だったけれども。
口唇のむちっとした感触に俺はふと思い立った。
俺の口唇が荒れないのはもしかしてリップクリームを塗ったシンタローにキスをしているからか?
明日からは俺も塗ろう。
シンタローの口唇からみずみずしい潤いを奪わないようにしないと。■SSS.48「心臓」 キンタロー×シンタロー「俺はお前を好きなようだ」
思わず耳を疑った。
幻聴だとか、なんかの罰ゲームだとか思いつく限りのことは想像してみた。
だが、目の前の男のあまりにも真剣すぎる表情に笑い飛ばそうと思った気が萎えていく。
「あの……な、キンタロー」
エイプリルフールまでずいぶん時間があるぜ、と引きつった笑みを浮かべながら言うと従兄弟は眉を顰めた。
「何を言っているんだ、シンタロー。俺は本気だぞ」
いいか、もう一度言う。俺はお前のことが好きだ、などと真剣な表情で従兄弟は俺の肩に手をかけた。
「返事は今でなくてもいい。だが、俺は本気でお前のことを愛してるんだぞ」
寝ても覚めてもおまえのことしか考えられない。仕事も手につかないんだ。
シンタロー、おまえ以外の人間じゃこんな気持ちにならないんだ。俺はおまえが好きでたまらない」
親父じゃないんだ、下手な冗談はよしてくれと俺は言おうとした。だが、キンタローは、
「LIKEでなくLOVEでだ。従兄弟としてでなく、一人の男としてでだ」
と至極真面目な顔で言う。
退路を立たれて俺はぐっと詰まった。
だが、いくらなんでも……。
「おまえ、絶対勘違いしてるぞ!どうせ、ワケわからねえ心理学の本でも読んで影響されただけだ!
本を読んで得ただけの知識で物事を理解しようったって世の中そんなに甘くねぇぞ!
心臓がどきどきするから恋だとか四六時中相手のことが気になるから恋だとか、そんなもんは全部錯覚だ!!
どきどきするのは不整脈だ!親父じゃねえけど、少しおまえは疲れが溜まってるんだよ!
俺が気になるのは俺がひよっこ総帥だからだって!じゃなきゃ、アレだ。
ズボンのチャックが開いてたり、髪が長いのが鬱陶しくて視界に入ってきただけだ。な、そうだろ?
よく、考えてみろよ!!キンタロー!!」
一息に怒鳴るとキンタローは少し考え込んだ。
俺の肩に置いていた手が口元へと持っていかれ、考え込む姿勢を作っている。
爪の先まで調えられた長い指に一瞬見惚れているとキンタローがぼおっと突っ立っていた俺を己のほうへと引き寄せた。
「ッな!おいッ!!」
ちゅ、と軽く落とした額とは違って少し長めのキスで従兄弟を味わうとかすかにミントの香りがした。
「シンタロー」
「なんだよ?今、コーヒー淹れてやるから待ってろよな」
キスを終えて、俺がジャケットを脱いでいる間にキッチンへと移動していた従兄弟がカップを片手に返事をする。
ネクタイを緩めて、ソファで待っているとしばらくしてシンタローは二人分のカップを携えてきた。
「寝る前だからな。薄めに淹れたぞ」
ほら、とテーブルに従兄弟がカップを置く。俺の隣に座ると彼は早速コーヒーに口をつけた。
「シンタロー。もう歯を磨いたんじゃないのか?」
一口飲んでから、先程尋ねようと思ったことを切り出す。
砂糖が少しとはいえ入ったコーヒーなど飲んでいいものなのか。
いや、また歯を磨けばいいことだが、と首を傾げるとシンタローは目を見張った。
「夕飯の後には一応磨いたけど、俺、まだ風呂も入ってないぜ?」
寝る前に磨くつもりだ、と俺を見て従兄弟が答える。
言われてみれば従兄弟はまだパジャマを着ていなかった。
「そうか。そういえばそうだな」
夕食の後に磨いたといったからその残り香か、とコーヒーを飲みながら思う。
「何で急にそんなこと聞いてきたんだよ」
すると今度はシンタローが不思議そうな面持ちで俺に尋ねてきた。
「何で……って、さっきキスしたときになんとなくミントの香りがしたからだが」
ただ聞いてみただけだ、と従兄弟に答える。シンタローは俺の答えにミント?と考えこんだ。
「歯磨きのじゃないのか」
たしかすっきりするものを使っていただろう、と言うとシンタローはあ!と声を上げた。
「違う違う。今日、歯磨き粉切れててグンマの借りたんだよ。アイツのイチゴ味のヤツ。
おまえが言うミントみたいな香りってこれだぜ」
ごそごそとポケットを探るとシンタローは少し細めの小さな筒を見せてきた。
「リップクリーム?」
「ああ。メンソレータム配合ってなってるからこれだろ?たぶん」
さっき塗ったから、と言ってシンタローはリップクリームの蓋を開けた。
軽くひと塗りするなり、俺の口唇にちゅ、と軽く合わせる。
「な?これだろ」
ポケットへとリップクリームを戻しながらシンタローは笑った。
「ああ、これだ。この香りだな。シンタロー、おまえ口唇が荒れているのか」
口唇を合わせてみてもそんな感じはしなかった。
少しべたつく下唇に指を這わしてみてもささくれ立ったところはとりたててない。
「団内どこいっても暖房つけてて空気が乾燥しているだろ。ひび割れないうちに予防でしてるだけだぜ。
もう何日も前から塗ってるぞ」
意外と気づかなかったんだな、とカップの縁を弄りながらシンタローが言う。
「キンタロー、おまえも使うか?放っておいて口唇荒れたら痛いだろ」
研究室だって暖房はつけているわけだし、とシンタローが再び内ポケットを探り始める。
「いや。いい。もう寝る前だしな」
そういって俺は従兄弟の申し出を断った。
シンタローはふうんと気にも留めていない返事をするとソーサーにカップを置く。
俺が片付ける、と腰を上げるとシンタローは中腰になった俺の額へ少し背伸びをしてキスをする。
お礼のつもりなのか、と思わず頬が緩む。
風呂は沸かしておいたから一緒に入ろうな、と囁かれてカップを手にしたまま俺もシンタローにキスをした。
彼と違って、額ではなく口唇だったけれども。
口唇のむちっとした感触に俺はふと思い立った。
俺の口唇が荒れないのはもしかしてリップクリームを塗ったシンタローにキスをしているからか?
明日からは俺も塗ろう。
シンタローの口唇からみずみずしい潤いを奪わないようにしないと。■SSS.48「心臓」 キンタロー×シンタロー「俺はお前を好きなようだ」
思わず耳を疑った。
幻聴だとか、なんかの罰ゲームだとか思いつく限りのことは想像してみた。
だが、目の前の男のあまりにも真剣すぎる表情に笑い飛ばそうと思った気が萎えていく。
「あの……な、キンタロー」
エイプリルフールまでずいぶん時間があるぜ、と引きつった笑みを浮かべながら言うと従兄弟は眉を顰めた。
「何を言っているんだ、シンタロー。俺は本気だぞ」
いいか、もう一度言う。俺はお前のことが好きだ、などと真剣な表情で従兄弟は俺の肩に手をかけた。
「返事は今でなくてもいい。だが、俺は本気でお前のことを愛してるんだぞ」
寝ても覚めてもおまえのことしか考えられない。仕事も手につかないんだ。
シンタロー、おまえ以外の人間じゃこんな気持ちにならないんだ。俺はおまえが好きでたまらない」
親父じゃないんだ、下手な冗談はよしてくれと俺は言おうとした。だが、キンタローは、
「LIKEでなくLOVEでだ。従兄弟としてでなく、一人の男としてでだ」
と至極真面目な顔で言う。
退路を立たれて俺はぐっと詰まった。
だが、いくらなんでも……。
「おまえ、絶対勘違いしてるぞ!どうせ、ワケわからねえ心理学の本でも読んで影響されただけだ!
本を読んで得ただけの知識で物事を理解しようったって世の中そんなに甘くねぇぞ!
心臓がどきどきするから恋だとか四六時中相手のことが気になるから恋だとか、そんなもんは全部錯覚だ!!
どきどきするのは不整脈だ!親父じゃねえけど、少しおまえは疲れが溜まってるんだよ!
俺が気になるのは俺がひよっこ総帥だからだって!じゃなきゃ、アレだ。
ズボンのチャックが開いてたり、髪が長いのが鬱陶しくて視界に入ってきただけだ。な、そうだろ?
よく、考えてみろよ!!キンタロー!!」
一息に怒鳴るとキンタローは少し考え込んだ。
俺の肩に置いていた手が口元へと持っていかれ、考え込む姿勢を作っている。
爪の先まで調えられた長い指に一瞬見惚れているとキンタローがぼおっと突っ立っていた俺を己のほうへと引き寄せた。
「ッな!おいッ!!」
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