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kkk
■SSS.30「1ミリの狂いもなく」 キンタロー×シンタローピリピリとした空気を打ち破ったのはそれを作り出した元凶である男だった。
「もういい、下がれ」と冷たく硬い声でキンタローが言うと背後から回されていた腕が震えた。

「キンタロー?」

どうしてだよ?と従兄弟に視線を向けるも、彼の表情は険しい。
背後にいる部下は不興をかったと思い、きっと凍り付いているだろう。
そのためなのか、止まったままの指が震え、メジャーを取り落とした。
かちゃんと金属の音が床に大きく響くと、落とした部下は慌てて拾おうとする。
けれども、再度の「下がれ」という命令で取るものも取らずに彼は走り去っていった。
剣呑なひかりが宿る青い目を見たらここで暮らす誰もが凍りつき、保身のためにはなんでもするのは決まっていた。
青いひかりが今度は掌中に灯るのを見たくはない。
当て布やテープ、待針、メジャー、物差しなどは壊れてもどうとでもなるが己の体だけはどうにもならないものだ。
青白い顔で早々に辞去した部下を見送り、ずっと見物していた従兄弟へと視線を向けると彼は眉根を寄せている。

「なあ、なに怒ってんだよ」
腕を組んだまま仁王立ちでいるキンタローに尋ねると彼は目を軽く伏せた。

「キンタロー?」

少し離れていた位置にいたキンタローが静かに近づく。
なにに対して彼が苛立っているのか分からない。
はじめこそ、これを開発するために連日睡眠を削っていたのが祟って目つきが鋭くなっているのだろうと思っていた。
だが、あくびひとつ、眠そうな顔をしないで指示を飛ばすキンタローにそんな考えはすぐに吹っ飛んだ。

コイツは絶対気に入らないことがある!

そう思い立ったのは俺だけではなかったようだ。
必要なものを運びいれた団員は早々に辞去し、設計図を見ていたグンマも研究室へと戻った。
ただ一人、採寸の役を仰せつかった団員のみが今にも斃れそうな表情で手を動かしていた。
下がれといわれるまで、彼もきっと同僚のように出て行きたかったに違いない。


キンタローは足音も立てずに近づくと、軽くしゃがみこんだ。
部下が落としていったメジャーを拾い、指先でしゅるしゅると弄ぶ。


「なあ、なんかあったのかよ?まだ途中だろ。誰でもいいから呼んで来いよ」
 
俺は要らないといったのにキンタローが耐熱スーツも必要だと言い切ったのだ。
そんな火炎地獄みたいな戦場なんてないだろうといくら言っても聞かず、備えあれば憂いなしと言いくるめられてしまった。
それならそれで誰でも使えるものを作ればいいというのにキンタローは、

「部下には量産型でいいが、おまえはそうはいかない。もともといざという時しか使わないんだ。
体に合ったものがいいだろう」
と言い、あっという間に採寸の場を設けたのだ。
仕事が押しているというのに誰も文句を言うことはなかった。
重い総帥服では測りづらいというので、仕方なく私服へと着替えた。
襟足や肩周りを図るために髪を高く括らせられ……。
  

「暇じゃねえんだからとっとと終わらせようぜ。さっきからどうも頭が痛いんだよ。
いつもポニーテールなんてしねえしさ」
 
高く結った髪が引き攣れてこめかみの辺りがじんじんする。
ぐしゃぐしゃとかき回し、髪を解きたいのを我慢していると訴えるとキンタローは「分かった」と答える。

「そんなぴっちりしてなくていいから適当に図ろうぜ。今日一日こんなので潰したくないしな!
えっと……何番にコールすればいいんだよ?さっきの団員、おまえんとこの部下だよな」

開発担当の部署へはどこへ掛けたらいいんだろうか、と内線を手に取る。
しかし、メジャーを弄んでいたキンタローの手によってプッシュしようとしていた指は阻まれた。
そればかりかブチッと彼は線を本体から引っこ抜く。

「キンタロー!!電話切ってどうすんだよ!!」
呼ばなきゃ採寸の終わんねえだろ!!分かってねえな!と横にいるキンタローの襟首を掴む。
スーツの襟元は形が崩れたが、気にしていない様子でキンタローは「落ち着け」と言った。

「落ち着いていられるかよ」
「採寸は続けるに決まっているだろう。だが、誰も呼ばなくていい」
「どういうことだよ!?」

単純なことだ、とキンタローはうすい口唇に笑みを履きながら言う。

「シンタローのボディスーツは俺が採寸することにした。シンタローの体を他人に触れさせるのは我慢がならない。
髪を上げた時点であの団員は帰せばよかったな。おまえのうなじまで見せて……失敗した」

あの男の記憶は消せないものか、と本気で思案しているキンタローが怖い。

「……キンタロー」
それで怒ってたのかよと思わず脱力するとキンタローはにっこりと笑った。
安心しろ、という彼が一番安心できない。

「1ミリの狂いもなく測ってやるから」
「え!?おい……キンタロッ!適当でいいって……」



メジャーを手にしたままキンタローは俺が逃げられないようにしっかりと押さえつけた。
床に転がされて、馬乗りに乗り上げらる。
おいおいちょっと待てよ、と冷たい汗が背筋に流れた。

「キンタロー!!誰か来たらどうすんだよッ!!」

この体勢はヤバイだろ!!と暴れてもキンタローは意に介さない。

「機嫌の悪い俺のところに誰か来ると思うのか?
見られたとしてもたかだか採寸だ。途中でおまえか俺がその気になっていない限り、な」

恐ろしく機嫌のいい表情でキンタローが囁く。

なあ。俺、耐熱スーツなんか着る予定ないんだけど……。
そんな戦場ってあるのかよ、と全身をくまなく採寸し始めるキンタローに以前言ったことを蒸し返す。

けれども、キンタローが止めるはずもない。
何を言っても状況は変わらず、そして明らかに採寸にかかる時間をオーバーしていたというのに誰も助けには来なかった。■SSS.31「タイ」 キンタロー×シンタロータイを直してやるとリキッドは短く礼を言った。
別段、どうということもない。
曲がっていたのがなんとなく気になって直したまでだ。
眼前で繰り広げられる結婚式は、今までシンタローが見たものとは違ってナマモノ同士のものだったが、それでもやはり微笑ましく心が洗われる光景のものだった。

突然の式に朝から追われていた所為で少し眠い。
新婦が気恥ずかしげに目を伏せたのを見ながら、シンタローはこっそりとあくびをする。
目ざとく見つけたリキッドにここぞとばかりにじっと見られたが何も言わずに蹴ってやった。

(俺に文句言おうなんざ10年早いんだよ)



***



時代錯誤な重たい引き出物をパプワの分も運んで、家に帰るとすぐさまリキッドがジャケットを脱いだ。
日頃の肩の凝らない服装と違って疲れたのだろう。
それでも脱ぎ散らかしはせずに皺にならないようにきちんと畳んでいる。
式場で簡単なものを摘んだとはいえ、育ち盛りのパプワがアレで満足するとは思えない。
早く夕メシにとりかからねえと、とシンタローもジャケットを脱ごうとボタンに手をかけた。

「あ。シンタローさん、脱いだらこっちに掛けてください」
一応、洗っておきますんで、とリキッドがズボンを脱ぎながら言った。
おう、と返事をしてシンタローはジャケットを脱ぐと、とりあえずその場に軽く畳んでおいた。
いつものランニングを引き寄せておいて、タイごとシャツを取り払おうと首元を緩めると、シンタローの目に下だけ着替え終わったリキッドが目に入った。

タイとシャツの間を指先で強引に緩めている。

(おいおい。それじゃシャツもタイも傷むだろうが……)

ああいう形のタイはアイロンかけるのが面倒なんだよな、とシンタローは自分のことを棚に上げてそう思った。
キンタローだったらきちんと順序良く着替えるだろう・
それこそ横着して、シャツと一緒に脱ごうとしてる俺を怒るんだろうな、と脱いだシャツを足元に放りながら思う。
ランニングを被り、結んだ髪を左右に振りながら頭を出すと、ちょうどリキッドがほどいたタイを手に取ったままシャツを脱ぎかけているのが見えた。


(キンタロー……)


その仕草はキンタローとは似ていない。
従兄弟のようにしゅるりと小気味よい音を響かせて首元からタイを抜き取ったわけでもない。
滑らかな指先でもない。着替える時にボタンを外
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