もろびとこぞりて
「あっこの表紙も可愛いな」
シンタローはどこへ行ったのだろうと探していたら、書籍売り場で発見した。
隣で店員らしき人物が一生懸命、児童書を並べて見せている。
「まだ買うのか…」
「あっキンタロー、これ見ろよ、これ良くねえ?」
さっき玩具売り場でどれだけ買ったと思っている、と言いかけた台詞を喉元で飲み込んだ。
店内はクリスマス一色。
賑やかな音楽が流れ、赤と緑が華やかに飾りつけられている。
「その本はコタローには少し難しいんじゃないか」
「んなことねーよ、コタローは賢いから。大丈夫だって」
上客と見て、店員が「素敵なお話ですよ」とにこにこ接客している。
「弟さんはどんなお話が好きなんですか?」
何気ない問いに、シンタローは少し切なそうに微笑んだ。
彼の襟元を深い緑色のマフラーが彩っている。出かけるとき、もう一人の従兄弟が無理やり巻いたものだ。
「今日は寒いんだから、ちゃんとあったかくしてかなきゃ!」
僕も行きたいと随分騒いでいたが、グンマは研究が佳境に入っているところらしい。
「別に要らねえよ、キンタローの車で行くんだし」
「駄目だよ、風邪ひいちゃったらどうすんの」
何のかの言ってもシンタローはグンマに甘い。押し切られた形でマフラーを首にかけた。
「僕の分もいっぱい買ってきてね」
そう笑って見送ったグンマに頷いたが、まさかこんなに買うとは思わなかった。
節約の2文字を金科玉条にしているシンタローが、今日ばかりは値段も見ずに品物をレジカウンターに積み上げていく。
愛してやまない小さな弟のために―――眠り続けるコタローのために、誕生日とクリスマスが共に来る日を祝って。
「また車に積んできた方が良さそうだな」
「次は俺が行くよ、駐車場まで何度も往復させんの悪いし」
「それは構わないが、そろそろ乗り切らなくなるぞ。送ってもらうか?」
どうしようかと首を捻ったシンタローが、ふと俺の手元を見た。
「お前、何か買ったの?」
「…ああ」
玩具を車に積みに行き、店内に戻る途中で買い物をした。
グンマは大切な従兄弟であり、家族であり、同志でもある。
それに俺もコタローのことを愛している。
(だけど、どうしようもないんだ)
「じゃあ送ってもらうか、手続きしてくる」
レジカウンターに足早に歩いていくシンタローの背中を見ながら、俺は手に持っていた袋を握り締めた。
グンマに借りたマフラーを巻いて、コタローへのプレゼントを選んでいるお前の姿は微笑ましい。
俺だってグンマもコタローも大好きだ。
だけど―――シンタローを愛する気持ちは何にも代えがたいから、やはり少しだけ嫉妬する。どうしようもないことだ。
店内では賑やかに「もろびとこぞりて」が流れている。
「なぁ、なに買ったんだ?」
会計を終えてシンタローが訊ねてきた。
楽しそうな彼の笑顔を見ていると、俺の気持ちも浮き立ってくる。
誰に借りるのでもなく、俺があげたい。
誰に贈るのでもなく、お前に贈りたい。
一目で気に入った真っ白なマフラーをいつ渡そうか。
曖昧な笑みではぐらかしたが、機嫌のよいシンタローは特に気にもせず、周囲には聞こえないくらいの小声で歌っている。
「Joy to the world, The Lord is come…」
全世界の喜びだって?
悪いがそんなもの、知ったことじゃない。
「シンタロー、ツリーも飾り付けるんだろう。急がないと」
「はーいはいはい」
歌詞を遮って早足で歩き出す。
俺の歓喜は、今ここにいるお前の存在なのだから。
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