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■SSS.59「aromatic」 キンタロー×シンタロー軽くタオルドライをしたものの髪はまだ水気を持っている。
パジャマの上からタオルを引っ掛けた状態でとりあえず水分補給をしようと向かったキッチンから水音が聞こえた。

「誰かいんのか?」
ドアを開ける前に呼びかける。いるのが父親だとすると髪を乾かしきっていないことを小うるさく咎められる。
がしがしと拭き取りながら俺は「おーい」と叫んだ。できれば俺が強い態度を取れるグンマであって欲しい。
けれども水音が邪魔をして相手に聞こえなかった。

「親父~ぃ?」
グンマだといいな、と思いつつ室内に踏み入れると短めの金髪が見えた。
髪の長さは父親と同じくらいだけれども微妙に違う。金色だけれども父よりは色合いがうすく、それに空色のスーツを着ていた。
父親はイイ年をして未だにピンク色のジャケットを羽織る男だけれども、この色は着ない。
シンクの前に立っていたのはもう一人の従兄弟、キンタローだった。

「なんだ、おまえか」
タオルから手を離して呟くと背を向けていたキンタローが蛇口を止める。
平たい皿を拭きながら、キンタローは俺に向かって「シンタローか」と言った。

「ナニ?おまえ今メシ食ったのかよ」
「ああ」

夕食の席に着いたときに確かグンマからキンタローは研究室にこもっていると聞いていた。
こんな時間まで、と咎めるような視線を送ると仕方がないだろうとばかりに肩を竦められる。

「今日中に片づけたいことがあったんだ」
そう言いながらキンタローは食器棚に皿を仕舞う。それから、彼は横にある冷蔵庫を開けた。

「これでいいのか?」
炭酸水のボトルを掲げられて俺は頷いた。
「ああ。風呂入ってノド渇いちまったからな」
相変わらず従兄弟は自分のことは何でも分かるらしい。
礼を言いつつ、受け取るとキンタローはパタンと冷蔵庫のドアを閉めた。

「なんだよ?」
キッチンの電気は俺が消すぜ、とスーツのジャケットを着たままでいるキンタローに俺は言った。
ボトルの蓋がきゅぽんと小気味のいい音を立てて、それから炭酸の泡が浮き上がる小さな音が耳に入ってくる。
しゅわっと立った音を楽しみつつ、口をつけると口腔へと気持ちのよい冷たさが満たされた。
寒くなってきたけれども、やはり風呂上りには冷たいもののほうが美味い。

「キンタロー?」
いいんだぜ、とボトルから口を離して部屋に引き上げるよう促す。
だが、彼は俺に従うのではなく違う言葉を口にした。

「何のにおいだ?」
「はあ?」

キンタローは俺に近づいて、ボトルを手にする俺の手首を掴んだ。

「なッ!おい、ちょっと待て!零れるだろッ」
なんなんだよ、とボトルに慌てて蓋をする。
キンタローはといえば、身を屈めて俺の手に鼻を寄せていた。掠めるように吹きかかる息がくすぐったく、変な気分になる。

「レモン……?いや違うな」
石鹸を変えたのか、それともバスオイルかなどとキンタローは考え込みながら呟く。

「レモンって……ああ、分かった。このにおいいは柚子だぜ。冬至だろ」
風呂に柚子を浮かべたんだよ、と掴まれた手を払って説明してやるとキンタローは納得したような顔をした。
「そうだったな。おまえは昔から日本式で過ごすのが習慣だった」
日本支部で暮らしてたからか、とうんうんと頷く従兄弟に俺はそうかもなと投げやりな返事を返す。

「柚子湯に入りてえんなら、まだ何個か冷蔵庫にあるぞ」
キッチンペーパーに包めば掃除も楽だ、と教えてやるとキンタローはそうなのかと感嘆したように言った。





それから俺は炭酸水の残りを飲み干しながらキンタローに柚子の包み方をレクチャーしてやった。
適当にすればいいのに真剣な顔で柚子を包むキンタローの表情は見ていてなんだかくすぐったい気がする。
そのうちコタローが起きたときにはこうやって冬至の日を過ごすのかな。
そんなことを思い描いていると2個目の柚子に切れ込みを入れたキンタローが不意に問いを発した。

「伯父貴とグンマは使わなかったのか?」
何でこんなに買っておいたんだ、と不思議そうに聞く。
「残りは明日柚子釜にする……ああ、親父とグンマ?あいつらはやらねえよ」
「柚子釜、か」
「そ。たまには手の込んだもん作ってみたいし。
親父とグンマはバラとかバニラとか甘ったるいもんがすきだろ。柚子はミカンの入浴剤とかよりにおいがキツイからな。
いい柚子だと次の日まで体に香りが染み付いてるし」
だから柚子湯に入るのは俺とおまえだけ、とキンタローが包丁を洗い終わったらボトルを軽く水洗いしようと思いながら答える。
キンタローのほうも俺の行動が分かっていて、洗い終わっても蛇口は閉めなかった。


「そこ閉じたら出来上がりだからな」
ちゃぷちゃぷとボトルを揺すりながら水で洗う。
するとキンタローはできたぞと袋仕立てにしたキッチンペーパー俺に見せながら口を開いた。


「これで今日は俺も柚子湯だ。……そうすると俺とおまえだけが明日同じにおいなんだな」
キンタローの言葉は思いついたまま口にしたものでとくに含むような響きはない。
だから、普通に相槌を打てば言いだけのことなのにそうだな、と答えた俺の声は思いもかけず上ずった。


「シンタロー、それは」
「え、ああ?」
柚子の入った袋を手にしたキンタローが怪訝そうに俺を見る。

「いつまで洗ってるんだ……捨てるぞ」
変なヤツだな、と言いながらキンタローが俺の手からボトルを取り上げる。
一瞬だけ触れた指先が不意に先ほど手首を掴まれたときに感じた呼気を思い出させ、冷めたはずの肌が風呂上がりのように火照り始める。

(ちくしょう。これから寝るのに考えちまうじゃねえかよ)

この後、キンタローの肌が自分と同じ香りがするのだ、と意識して俺はどうしようもなくどきどきした。
誤魔化すようにかき上げた髪の先からも柚子の香りがして、どうしていいのか分からない。■SSS.60「可愛くない」 キンタロー×シンタロー渡された紙は5枚もあって俺はうんざりした。
ターゲットの部隊に潜入するくらい士官学校生の時分からもう何度もやってるのだ。
それでも生真面目にペンを持ってチェックしようとするキンタローには逆らえず、俺はしぶしぶテストを受けるはめになる。
5枚にわたってびっしりと潜入組織のデータやら俺の偽名での設定、この場合はどういう行動をとるべきか、などといった問題が印刷されている。
とっとと終わらせてコタローの顔でも見に行こうと俺は1問目に目を走らせた。


*


「その発音は綺麗過ぎる」

俺だって口に出してから気づいたんだ。
もっと乱暴にクチを聞けって言うんだろ。分かってるっつうの。さっきまで出来てたんだからな。
ちょっと間違っただけじゃねえか、うるせえな。

「俺は指摘をしたまでだ。ボロを出して捕まりたくなかったら気をつけろ」
現地の発音に近づけろ、と笑みを浮かべながらキンタローは俺を見た。
くそっ。むかつくヤローだぜ。
だいたいなんでコイツが監督するんだよ。
他にもいるだろ、他にも。

「そこの発音は正しくはこうするべきだ……分かったか?シンタロー」
ちくしょう!その口、止めろ。自分が優位だからって笑いやがって!!
あーホントむかつくヤツだ!本当になんでコイツなんだよ!!

「……手の開いてるのが俺で残念だったな」
次の問題はまだか、とキンタローはチェック表にバツをつけながら俺を見る。
やってやろうじゃねえか。


「――で、どうだよ?合ってるか?」
間違っていないはずだ。めちゃくちゃ自信がある。ほら、とっとと言えよな。
睨みつけるとキンタローは息を吐いて、
「……正解だ。次もそうだといいな、シンタロー」
と言った。
いちいち気に障るやつだぜ。
まあいい。とっとと終わらせるか。コタローが待ってるんだ。俺の可愛い弟のコタローが。

「顔が緩んでるぞ、シンタロー。コタローのことは後で考えろ」
……うるさい。なんでもかんでも俺のこと分かりやがって。
24年間観察してたからって言われりゃおしまいだけどな、いちいち指摘すんじゃねえよ!
コタローと違って可愛げのないヤツだぜ。

「コタローのことは後にしろ」
次も間違えるつもりなんだな、と笑われて俺は本気で腹が立った。
ああ、ホントうるせえヤツだな!可愛くねえ!

「間違える気なんてねえよ。ほら、次だ。次」
チェックしろと言ってキンタローを睨むと笑った。



「――どうだよ?合ってるだろ。完璧な発音だし、これ以上ない答えだと思うぜ」
正解だという自信はさっきよりある。
得意気にキンタローに宣言すると従兄弟はふっと口元を緩めた。
さっきまでの俺の失敗を指摘するような笑い方とは違う。どちらかといえばやわらかい印象の笑みだ。

「……おまえのそういう、俺に対してむきになるところは可愛いな」
ああ、それは正解だ、と付け加えてキンタローは俺を見た。
次はどうなんだ、と問いかけるキンタローに俺はぐっと詰まる。
慌てて紙を1枚捲ると笑い声を噛み殺す気配が伝わってきて、俺は照れくさいと同時に苛立ちも感じた。
むかつく。ほんとむかつく。
なんでそういうこと言い出すんだよ。

「次は……ちょっと待ってろ」

集中しろ、集中。これが終わったら
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