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■SSS.78「おはよう」 キンタロー→シンタロー「何時に寝たんだ?今日も時間いつもどおりだろ」
その言葉の後にさあっとカーテンが空いて、日の光が部屋に差し込んだ。
わざわざ起こしにきてくれたのか、と抜け切らない眠気の中にも俺は嬉しさを感じる。
愛しい従兄弟の顔を見ようと目を明けるときらきらとした朝の光が眩しくて目に痛かった。
眩しさに顰めながら上体を起こすと、俺は瞼を擦った。
それから窓を開けた後、ベッドに近寄ったシンタローの質問に答える。

「……5時頃だ」
俺の答えにシンタローは眉を寄せた。2時間しか寝てねえのかよ、と従兄弟は呟く。
「5時ならそのまま徹夜の方が……」
言いかけてシンタローは俺がここ何日かろくに睡眠をとっていないことに気づいたらしい。
おまえな、と眉を顰めながらシンタローが俺を咎める。
「そんなんじゃぶっ倒れるぞ」
「移動中に仮眠を取るから平気だ」
俺の答えにシンタローはチッと舌打ちした。体壊しても知らねえぞ、とぶつぶつと呟いている。
それには心配ない、と答える前にシンタローがはっとしたような表情を浮かべた。

「どうした?」
「寝る時間少ねえのになんでわざわざ部屋に戻ってきてるんだよ」
「部屋に?」
シンタローの問いに疑問を覚えていると従兄弟は「だから」と声を上げた。

「研究室にはスリープカプセルがあるだろ。部屋に戻らなくてもそれで寝ればいいじゃねえか。
研究室の戸締りとか火の元に時間取られねえし」
ここへ戻ってくる分、睡眠時間が減ってるだろとシンタローは言った。
「たしかにそうだが……」
「だが?」
なんでだよ、とシンタローは首を傾げた。
確かに従兄弟の言うとおりだ。スリープカプセルなら短時間の睡眠でも体が疲れないような設計になっているし、目覚まし機能を設定しておけば起こしてもくれる。けれども。

(閉じ込められる気がするんだ。あれは……)

人一人が横になるだけの狭い空間。寝返りを打つこともできない。目を明けると透明な壁が外とを隔絶する。
時間が車では自動的にロックされるスリープカプセルは俺に圧迫感しか与えない。
閉じ込められてどこにも出れない、そんな思いが湧き上がって24年間のトラウマが刺激される。

(あれは嫌いだ……)

便利だろうがなんだろうが嫌いなものは嫌いでしかない。
スリープカプセルで仮眠を取っていたときのことを思い出して胸がじくじくとと痛む。

「キンタロー?」
どうかしたか、とシンタローが俺を覗き込む。
屈みこんだシンタローは長い髪が前へとさらさらと揺れていた。

「いや……なんでもない」
首を振るとシンタローは怪訝さの抜け切らぬ表情のままならいいけどなと答えた。

「ベッドのほうが体に負担がかからないだろう」
それを考えていただけだ、と俺は口にした。シンタローは「ああ、言われてみりゃそうだな」と頷く。
従兄弟の顔からは俺の態度を訝しむ色が消えてくれて俺はほっとする。
よかった。スリープカプセルを厭う理由を告げるわけには行かない。そんなことを口にしたらこの従兄弟は苦しむだろうから。

軽く伸びをして、ベッドから降りると、シンタローは「朝メシ食うよな?」と尋ねてきた。
足りない睡眠時間のおかげで食欲はそんなにない。しかし、食べなければ体の疲労は溜まる一方だ。
もちろん、と頷くと従兄弟は「じゃあ、作ってるからシャワー浴びて来いよ」とバスルームを指した。

「けっこう寝癖ついてるぜ」
言いながら従兄弟は俺の前髪を摘み上げた。髪がわずかに引っ張られる。
ふるふると首を振るとシンタローが忍び笑いをしながら指を離した。

「おまえの朝はコーヒーとトーストだろ。……卵はスクランブルエッグでいいか?」
向かい合ったままシンタローは俺に朝食について尋ねる。こくりと頷くとシンタローはよし!と言いながら俺の肩を叩く。
それを合図にバスルームへと動き出すと俺の先を歩いていたシンタローが「ああ、キンタロー」と振り返った。

「なんだ?」
まだなにか、と振り返ったシンタローに近づくと従兄弟がにやりと笑う。
「朝の挨拶がまだだったよな」
おはよう、と言いながらシンタローは俺の頬に顔を近づけた。やわらかな感触が頬の一部にもたらされる。
それがなんなのか思う間もなく頬から軽い音が鳴ると、それからすぐにやわらかな感触は消えた。
「――!」
キスされた?と思い至って俺はかっと目を見開いた。眩しさはあったがそんなことを気にする余裕はない。
口唇が触れられた場所に思わず手を当ててしまうと従兄弟は笑い出した。

「目、覚めただろ」
言われたとおり、眠気は吹っ飛んだ。眠気だけではなくスリープカプセルのことで抱いたもやもやとした気持ちも。
だが……。

「……朝から人を揶揄うな」
ため息を吐くとシンタローは笑いながら部屋を出て行った。
頬に残る感触を払おうと俺はふるふると首を振る。けれどじんわりとした温もりは消えてくれずに、更なる熱を浮かび上がらせていく。


(期待……してはいけないんだろうな)


従兄弟が俺に恋愛感情を持っているとは思えない。家族としての愛しかないはずだ。同じ気持ちなわけがない。
俺の片想いでしかないんだ。これは単なる悪戯だ、落ち着けと俺は自分を言い聞かせる。
けれど、頬から広がっていく熱は体の隅々まで気持ちを高ぶらせていって仕方がない。
ぎこちなくバスルームのノブを握りこむとひやりとした感触がした。
けれどその冷たさは指の熱で徐々に温もってしまって、俺から熱を奪い取ってはくれなかった。

「まったく……人の気も知らないでこんなことを」
立ち尽くしたまま、俺はため息を吐いた。
恋する相手からのキスは嬉しい。挨拶に過ぎない軽いものだけれども嬉しいには変わりない。こんな挨拶したことないのだから。
けれど、今のは想いが成就したわけでもなく単なる悪戯だ。嬉しいけれど、同時に厄介な気持ちも浮かんでくる。
俺の気持ちなど知らないシンタローの悪戯なんだけれども。

「朝から煽らないでくれ……」
心臓がバクバクといったまま収まらない。水でも浴びよう、とのろのろと俺はバスルームの扉を開けた。

頭の中に眠気などもうどこにもない。
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