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■SSS.66「賭け事」 キンタロー+シンタロー叔父上がお喜びでしたので、とこの国の人間は俺とシンタローを競馬場へと案内して来た。

叔父であるハーレムがガンマ団から離脱してもう数ヶ月余り経つ。
この国はかつて叔父にクーデターを依頼したこともあって有事のたびに本部を介してではなく叔父の部隊に直接依頼していたらしい。
ハーレムの影響下にある国はほかにもいくつかあるようだったが、これは見過ごせない事態だった。
叔父は団からリタイアして悠々自適の生活を送っている、と俺とシンタローはこの国の役人に言った。
以降の依頼は本部で引き継ぐので、と求めたがすでに叔父の方で手回しがしてあったようだ。
ガンマ団を抜けるに当たって用意周到に準備をするのはよく考えれば当たり前だろう。
飛行戦の燃料の補給、食料を行く先々で略奪すればどこからか本部かあるいは敵対組織に依頼が入る。
好戦的な叔父とその部下の性質から考えれば向かってくる敵も大歓迎だろうが、それでは苦労する割合が高くなる。
名の知れた特戦部隊に歯向かうヤツはそうはいないとはいえ、後々の禍根や毒物の混入などのリスクを考えれば縁のある国で出稼ぎした方が楽だ。
この国の要人たちは誰もが曖昧な笑みを浮べるだけで俺とシンタローの要求に回答を出さなかった。
有耶無耶に誤魔化して、俺たちが帰国したらとりあえずハーレムに指示を仰ぐつもりなのかもしれない。
繊維工場の視察も申し入れた俺たちは回答は三日後でよいと告げた。
彼らは一様に微笑を浮べながら頷くとそのうちの1人が俺たちを競馬場に案内してきたのだ。
視察を頼んだ繊維工場ではなくて。

工場どころかたいていこういうときに案内される公共機関ではなく競馬場に連れてこられたことにシンタローは最初、腹を立てていた。
「そりゃあ、この国のレースは観光資源だし、王族も来るから変じゃねえけどよ」
と従兄弟は俺に囁く。俺もシンタローの言いたいことは分かる。
この国の人間は日程を調整する時間を作るためと少しでも俺たちの機嫌が良くなるよう接待のつもりでここへ連れてきたのだろう。
けれど、「叔父上がお喜び」はない。
あのアル中でギャンブル狂いのハーレムと一緒くたにされるとは……。

「ハーレムと一緒にされてもな」
肩を竦めてみせるとシンタローは俺に「まったくだ」とため息を吐いた。
ブザーが鳴り、馬たちが位置に着く。きっとハーレムはこの状態からも大騒ぎしていただろう。
それに金も賭けていたはずだ。部下の小遣いも巻き上げて大分注ぎ込んでいたに違いない。


一斉にスタートする馬はVIP席からだと小さく見える。
シンタローははじめから用意されていたオペラグラスを手にした。
なんだかんだ言って彼も興味があるらしい。手を握りしめて芝を駆ける馬に熱中し始めたシンタローに俺は心の中で「似たもの同士じゃないか」と思った。
ハーレムが離脱したのは他国にも知れている通り、新総帥であるシンタローとの確執が原因だ。
確執と言っても戦闘におけるスタンスの違いから生じた口喧嘩の応酬で伯父貴が出て行ったというのが正しいかもしれない。
アイツの邪魔をしてやる、とシンタローはさっきまで意気込んでいた。けれども。

「よっしゃあ!行け!まくれ!まくれ!抜いちまえ!」
従兄弟の頭の中はハーレムの顔がすっぱりと消え去っているらしい。
他の客はいないから興奮したシンタローが多少騒いだところで恥をかく心配はない。しかし……。

「あー!ちくしょう!馬券買えばよかったぜ!」
黒毛の馬がゴールするなりシンタローは髪を掻き毟った。
どうやら目をつけていた馬が1着のようだ。VIP席にいる俺たちに飲み物を給仕した後も控えていた係員をシンタローが手招きする。

「なあ、次のレースあの茶色いヤツに賭けたいんだけどさ」
金ならあるけどどうすりゃいいんだよ、と生真面目に係員に尋ねるシンタローに俺はため息を吐いた。
……きっとこの国の人間は青の一族は競馬が好きだと思うだろう。



*



オペラグラスを片手にしたシンタローが片手に握っていた馬券を放り投げる。
外れたことに悔しがるシンタローに俺は散らばった馬券を拾い集めてから渡した。

「外れたからといって放り捨てるのは止めろ」
ハーレムと同じで行儀が悪い、と俺が忠告するとシンタローは眉を顰めた。
「ついやっちまっただけだ」
ちゃんと拾うつもりだった、と弁解するシンタローは本部の家でマジックに「吸殻と空になったお酒は片づけなさい」と怒られたときのハーレムと同じ表情だった。

「それに賭け事は叔父貴と同じで向いていないようだな」
ハーレムの横領した金のほとんどがなんとかホイミという馬に注ぎ込んだ裏づけがあったな、と俺は従兄弟に言った。
「……ツいてなかっただけだ!」
おまえだってやってみりゃ当たるのが難しいの分かるぜ。そりゃハーレムは行き過ぎだけどな、とシンタローは口を尖らせる。

「俺は別に団の金まで賭ける気はねえよ。ただゲームをおもしろくするスパイスみたいなもんだろ」
せっかくここへ案内されたのに昼寝を決め込むわけにもいかねえし、とシンタローが言う。

「何も賭けなくても」
いいだろう、大人しく見ていればと俺が言い返そうとするとシンタローが遮った。

「賭けでもしねえと馬が走ってるの何回も見たってつまらねえだけだろ」
あんまりうるさく言うなって、とシンタローは言った。

「おまえだってあと2回もレースを見れば退屈になるぜ」
にやっとシンタローは笑った。
だが、そういわれても俺は賭ける気にはならない。プライベートで来たならともかく来賓なんだから大人しくするべきじゃないのか、とシンタローに言うと従兄弟は「つまんねえヤツ」と鼻を鳴らした。

「……馬に賭ける気はないが」
「なんだよ」

「おまえがあと3回とも予想を外すのは賭けてもいい」
認めたがらないだろうがこの従兄弟はハーレムに似ている。きっと外す。ビギナーズラックなんて言葉も無縁に決まっている。
いやビギナーズラックは金の賭けていない最初のレースだっただろう。きっと。
俺の言葉にシンタローは立ち上がり「言ったな!」と人差し指を突きつけてきた。

「俺が当てたら吠え面かくんじゃねえぞ!」
「それはおまえの方だ」
「俺が勝ったら親父がファンに貰ったとかいう勝負パンツを履いてもらうからな!」
高松の鼻血で溺れてもらうぜ!とシンタローが背を逸らす。

「そっちがその気なら俺は……」
そうだな、と考えて俺はマジック伯父が片時も離さないシンタロー人形の存在を思い出した。

「マジック伯父貴の人形をリビングで作ってもらおう」
見られた瞬間、伯父貴の熱い抱擁が待ってるぞ、と俺が言うとシンタローは「やったろうじゃねえか」と乱暴に椅子に座りなおす。
次のレースを賭けようと係員を呼んだ従兄弟に俺はどうせ外れる、とほくそ笑んだ。

シンタローとハーレムはよく似ている。
いくら馬に注ぎ込んだところで……当たるわけがない。
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