■SSS.80「ゲームはいつでもいい」 キンタロー×シンタロー「……チェス?」
部屋に入るなりシンタローは目聡くテーブルの上のボードと駒に気づいた。
古びたボードの上にはやりかけのゲームが広がっている。
ボードの傍らには好ゲームを収めたチェスの棋譜を伏せたままにしてあった。
「この本の再現してんのか」
棋譜を取り上げるとシンタローは「へ~」と言いながらぱらぱらとめくり始めた。
分かりやすいんだかそうじゃないんだか、分かんねえなと言いながらシンタローは手元の駒を指で突く。
「おまえはチェスは……」
「やったことねえよ」
「そうか」
「なんでだかうちにはなかったんだよなあ。他のゲームは何でもあったけど」
本をばさりと置くとシンタローはしげしげと駒を取り上げた。
クイーンの王冠は宝石の丸い部分が少し欠けている。硬い駒を爪で叩きながらシンタローは「壊れそうもねえのになあ」と呟いた。
「なあ、これどうしたんだよ」
「……父さんの部屋にあった」
「ふうん」
そっか、と言いながらシンタローはクイーンを慎重にボードの上に置いた。
「俺はチェスのルール分かんねえからなあ」
勝負できないな、とシンタローは言いながらソファに腰掛けた。
「出来るんなら今すぐにでもやるんだけどな。麻雀もカードもおまえに負け越してるし」
「俺だって別にチェスは出来ないぞ。まだ誰とも対戦したことがない」
本で覚えているところだ、と答えると従兄弟はでもなあと仰いだ。
「おまえ、すぐ覚えんだろ。勝負強えし、ギャンブル得意じゃねえか」
「……そうか?」
単におまえが賭け事に弱いだけじゃないのか、という言葉は飲み込んだ。
そんなことを言ったが最後、従兄弟の負けん気に火が点いてこれからありとあらゆるゲームをしなければ行けなくなる。
さり気なく俺はチェスの本をテーブルの端に寄せる。
それから駒もケースにきちんと仕舞う。ボードも畳むとシンタローは「片付けちまうのか」と眉を上げた。
「別にやっててもいいんだぜ」
俺はその間、テレビでも見てるしとシンタローはあっさりと言い放った。
「いや……チェスはまた時間の空いたときにやるさ」
せっかく一緒にいるのにバラバラの時間を過ごしていたってちっともおもしろくない。
首を振るとシンタローは「じゃあ」と口を開いた。
「とりあえず茶でも飲むか。久しぶりにお前の淹れるコーヒーが飲みたい」
笑いかけてくるシンタローに俺は、
「少し待っていろ。めずらしい豆が手に入ったんだ」
従兄弟の額に軽いキスを落とすとキッチンへと向かった。
部屋に入るなりシンタローは目聡くテーブルの上のボードと駒に気づいた。
古びたボードの上にはやりかけのゲームが広がっている。
ボードの傍らには好ゲームを収めたチェスの棋譜を伏せたままにしてあった。
「この本の再現してんのか」
棋譜を取り上げるとシンタローは「へ~」と言いながらぱらぱらとめくり始めた。
分かりやすいんだかそうじゃないんだか、分かんねえなと言いながらシンタローは手元の駒を指で突く。
「おまえはチェスは……」
「やったことねえよ」
「そうか」
「なんでだかうちにはなかったんだよなあ。他のゲームは何でもあったけど」
本をばさりと置くとシンタローはしげしげと駒を取り上げた。
クイーンの王冠は宝石の丸い部分が少し欠けている。硬い駒を爪で叩きながらシンタローは「壊れそうもねえのになあ」と呟いた。
「なあ、これどうしたんだよ」
「……父さんの部屋にあった」
「ふうん」
そっか、と言いながらシンタローはクイーンを慎重にボードの上に置いた。
「俺はチェスのルール分かんねえからなあ」
勝負できないな、とシンタローは言いながらソファに腰掛けた。
「出来るんなら今すぐにでもやるんだけどな。麻雀もカードもおまえに負け越してるし」
「俺だって別にチェスは出来ないぞ。まだ誰とも対戦したことがない」
本で覚えているところだ、と答えると従兄弟はでもなあと仰いだ。
「おまえ、すぐ覚えんだろ。勝負強えし、ギャンブル得意じゃねえか」
「……そうか?」
単におまえが賭け事に弱いだけじゃないのか、という言葉は飲み込んだ。
そんなことを言ったが最後、従兄弟の負けん気に火が点いてこれからありとあらゆるゲームをしなければ行けなくなる。
さり気なく俺はチェスの本をテーブルの端に寄せる。
それから駒もケースにきちんと仕舞う。ボードも畳むとシンタローは「片付けちまうのか」と眉を上げた。
「別にやっててもいいんだぜ」
俺はその間、テレビでも見てるしとシンタローはあっさりと言い放った。
「いや……チェスはまた時間の空いたときにやるさ」
せっかく一緒にいるのにバラバラの時間を過ごしていたってちっともおもしろくない。
首を振るとシンタローは「じゃあ」と口を開いた。
「とりあえず茶でも飲むか。久しぶりにお前の淹れるコーヒーが飲みたい」
笑いかけてくるシンタローに俺は、
「少し待っていろ。めずらしい豆が手に入ったんだ」
従兄弟の額に軽いキスを落とすとキッチンへと向かった。
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