忍者ブログ
* admin *
[1397]  [1396]  [1395]  [1394]  [1393]  [1392]  [1391]  [1390]  [1389]  [1388]  [1387
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

■SSS.64「独占欲」 キンタロー→シンタロー遅咲きの桜が緑色の芝を埋め尽くそうとはらはらと花びらを風とともに落としていく。
花びらを落とす風はまだ春が本格的に訪れていないことを示すかのようにキンタローの首筋をひんやりと撫でるようにそよぐ。
木陰をゆっくりと抜けて、やわらかい日差しが注ぐテラスへと着くと車椅子を押していた黒髪の同行者がほうっとため息を吐いた。

「きれいだろ?コタロー」
シンタローは車椅子に座らせた子どもにそう問いかけた。
問われた子ども、シンタローの弟のコタローは何も答えない。
当然だ。この子どもが意識を手放し深い眠りに着いてからすでに1年が経つ。
方々手を尽くして最新の医療を注ぎ込んでもコタローは目覚めてはくれなかった。
病棟の最上階に隔離したこの子を兄のシンタローは暇をみては見舞った。玩具や花、ぬいぐるみを携えたシンタローと同行する度にキンタローは兄馬鹿振りを微笑ましいと思うよりも痛ましい気持ちを感じていた。
今だってそうだ。
患者の脳波に刺激を与えるのによいと聞いて散歩に連れ出した従兄弟にキンタローはやりきれない気持ちを感じている。

「いい天気だよ。目が覚めたらお弁当作ってくればよかったって思うぞ」
絶好の花見日和だ、とシンタローは弟へと微笑みかけた。
お兄ちゃんなんでも作ってあげるよ。ケーキでもハンバーグでも、とシンタローは弟の淡い金髪を梳きながら口にする。
目が覚めたら何をしてあげようか、とシンタローが口にするのはいつものことだ。
はらはらと落ちるピンク色の小片を手のひらに受けながらキンタローは眉を寄せた。
緑の芝を隠すのを飽きない桜は立ち止まる兄弟にもゆっくりと落ちていく。
淡い金色の髪に落ちた花びらをつまみあげるとシンタローは顔を上げた。弟の洋服を払いながらシンタローは笑う。

「本当、すげえよなあ。おまえにもついてるぜ、キンタロー」
くすりと笑いながらシンタローは指差した。指摘されてキンタローはスーツの肩を払う。
髪にもついてるぜ、と言われて頭を振ると噴出す声が聞こえた。

「なんか、おまえ犬みてえ」
笑うシンタローにキンタローはムッとした。
自然と歪む口元にシンタローはますます笑う。ほころびる花のように笑うシンタローの目には間近の弟は映っていない。
黒い目に揺らぐ金色がコタローのものではなく自分の髪であることにキンタローは安堵した。
髪が乱れるのにもかまわずに手でかき上げる。その仕草を「ムキになんなよなあ」とシンタローは呆れた様に言った。
キンタローを見る彼の表情はいつもどおりで、さっきまでのコタローを見つめるやわらかで切ない顔ではない。

きっと他愛無いこの会話が途切れれば、散歩を切り上げて病室へと戻ればまたシンタローは胸が締め付けられる様な顔をする。
そう思うとキンタローはもう少しだけ彼の視線を自分へと止めておきたかった。
従兄弟が愛する弟と過ごす時間は自分といるときよりもずっと少ないというのに。

「うるさい。おまえにも付いてるぞ、シンタロー」
ほら、とキンタローは躊躇いつつも手を伸ばした。

大人気ないかもしれない。
従兄弟の視線を小さな弟から奪ってしまうのは。
ただの自己満足だ。俺が目覚めないコタローに話しかけるシンタローを見たくないからというのは。


けれど。


黒い瞳が映す存在は他の誰よりも自分だけであってほしいとキンタローは思った。
性質の悪い独占欲だと感じてはいたけれど触れた指を引っ込めることは出来なかった。

「ああ……ここにもあるぞ」
うすいピンクの花びらは払い落としてもまた振ってきてきりがない。
どこだよ、と髪に手をやろうとする従兄弟をキンタローは押し止める。

「片手で車椅子を支えるわけにいかないだろう。じっとしてろ、俺が取ってやる」
おまえもすごいぜ、と散らばる花びらを見ながらシンタローはキンタローに言った。
そうか、と答えながらキンタローはゆっくりと長い髪から花びらを掬い取る。
悪いな、適当でいいからさ、と振り散る花を見上げながらシンタローは肩を竦めた。

きっと彼はキンタローの行動を親切心から出たものだと思っている。
混じり気のない純粋な気持ちからでなく、あってはならない感情がこもったものだというのに。

触れていたいから、自分を見てほしいからだというのが本当の理由だと知ったら俺たちの関係はどうなるんだろう。
木々がそよぐ音に紛れるようにキンタローはため息を吐いた。

好きだと言ってしまえば、楽だけれど……。

そんなこと言えるわけがない、と黒い髪に触れながらキンタローは眼下の小さな従兄弟を見た。

幼い従兄弟は眠りから醒める様子がまったくない。
子どものやわらかな頬に花びらが落ちるのを認めながらキンタローは従兄弟の髪から指を離した。■SSS.65「サングラス」 キンタロー←シンタロー飛行場の電光掲示板は1時間も前から同じ文字しか表示していない。
秘密裏に入国してくれと頼まれて、観光客を装ってきたのが悔やまれる。
こんなことなら部下たちと同じようにジープで隣国から入ればよかった。
この地域では飛行機だの電車だのの乗り物の時間が正確でないことは理解しているつもりだったけれども、こんなに暇を持て余すなんて思っても見なかった。
飛行場にはこじんまりとした土産物屋が一軒しかない。

「……ちくしょう。暇だー」
暑いしうぜえ、と俺は何度目になるか分からない言葉を吐いた。言いながらさらにこの状況が嫌になってくる。
隣に座っていたキンタローが顔を上げることすらせずに「そうか」と返してきた。

そうか、じゃねえよ。おまえは暇じゃないからいいだろうけどなッ!

時折、外から吹き込んだ熱風が肌を炙るというのにキンタローは涼しい顔をしている。
もちろん、俺と同じように汗をかいているけれどこいつはちっともヘバらない。
キンタロー。おまえ、よく平気だな!馬鹿みたいに体力はあるよなあ、と嫌味を言えば「おまえは髪が長いから余計暑いんじゃないか」とさらっとかわされた。
そのキンタローは、飛行機が来ないと言われても俺と同じように暇を持て余すことはなかった。
俺が暇だと文句を言ってもたまに口を挟むだけでずっと手元の本に集中している。
俺も何か本か携帯ゲームでも持ってくればよかったとキンタローを見るたびに思う。
そうしたら、少なくとも無駄な時間にはならなかった。大体、この空港のヤツらは補給に何時間かけるつもりなんだ。

(……クソッ)

イライラして余計に暑く感じる。水でも飲もうとガンマ団を出るときから携帯してきたペットボトルに手をやる。
触れた瞬間、軽いペットボトルが爪に弾かれて横に転がった。
……どうやらいつのまにか飲みきっていたらしい。
キャップを開けて逆さまにしてみると手のひらにぬるい水滴がふたつばかり落ちた。

「……そこの店で水買ってくる」
おまえもいるだろ、と立ち上がるとキンタローが僅かに顔を上げた。
頼む、と短い返事が返ってきたのを俺は背中で受けた。



*



足音を立てて戻ってきたのにキンタローの姿勢は変わらない。
相変わらず手元の本に集中している。驚かせてやろうと思ってたからちょうどいい。

「買ってきたぞ」
にやけてくる口元を抑え込みながら俺はキンタローの肩を叩いた。
キンタローの目線に合うように膝を少し落とす。伸ばした髪が前へと落ちていくのを片手で押さえながら、俺はペットボトルを突き出した。
読書を邪魔されたキンタローが顔を上げる。

「シンタロー。……なんだ?サングラス?」
どうしたんだ、とキンタローが目を丸くしながら言った。
「そこの土産物屋で買ったんだよ。日差し強いだろ。どうだ?似合うか」
サングラスの縁を指で軽く叩いてみせる。なんか言えよ、とキンタローに重ねて言うと従兄弟は褒めるどころか思いもかけない言葉を口にした。

「……そうだな。似合うというか……ハーレムみたいだな」
「は……」
ハーレム?どういうことだ、それは。
あのアル中の団の金を横領したロクデナシみたいだと?ちょっと待て、キンタロー!

「おい、待てッ!どういうことだよ!ハーレムみたいって!?」
聞き捨てならねえ、と掴みかかるとキンタローは「落ち着け」と手を挙げる。

「どういうことも何も……。単純に叔父貴のような風体というか、一般人には見えないと思っただけだ」
競馬場にいる叔父貴を想像してみろ、とキンタローは言った。おまえはその横にいてもおかしくないぞ、と断言されて俺はキンタローの肩を掴んでいた手を緩める。
「……あ、そう」
つまり俺はそっちの筋の人みたいってことか、と理解する。
それはある意味似合っているということなのか。どうなのか、と考えて俺は混乱した。
俺があのおっさんみたいな危険人物と同類だとするとコイツはどうなんだよ……。

「じゃ、おまえは……」
キンタローをじっと見ると彼は首をかしげた。おまえと同じだと思うが、と淡々と言われて俺は確かめたくなる。

「ちょっとかけてみろよ。おまえ、俺と違って根っからの軍人っつーわけじゃねえし」
白衣着てるとグンマと同じで強そうには見えないしな、と俺はかけていたサングラスを渡した。
キンタローはため息を吐いてしぶしぶサングランスをかける。

「……」
「……どうだ」
似合わないだろう、と言われて俺は沈黙する。
「シンタロー?」
「……まあ、観光客には見えねえな」

俺が答えるとキンタローはそうだろうと頷いてサングラスを外した。
それから、キンタローはペットボトルを取り上げると再び本に向かってしまう。一連の行動を見て、俺は一瞬、もったいないと感じた。


(……さっきの見て科学者だと思うヤツはいねえだろうな)


観光客どころかカタギには見えないタイプだけれど、うさんくささは感じない。
ハーレムと同じタイプの人間には見えなくて、そういうことよりもむしろ。


(……ちょっとカッコイイなんて思っちまったじゃねーか)

PR
BACK HOME NEXT
カレンダー
04 2025/05 06
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
最新記事
as
(06/27)
p
(02/26)
pp
(02/26)
mm
(02/26)
s2
(02/26)
ブログ内検索
忍者ブログ // [PR]

template ゆきぱんだ  //  Copyright: ふらいんぐ All Rights Reserved