忍者ブログ
* admin *
[1387]  [1386]  [1385]  [1384]  [1383]  [1382]  [1381]  [1380]  [1379]  [1378]  [1377
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

sgs
雪のように白く
黒檀のように黒く
血のように赤く
世界で一番美しい
その人の名は



SNOW WHITE



それはもう随分昔のことだった。俺たちはたぶん七つか八つだっただろう。
一緒に絵本を読んでいた時、不意に顔を上げて従兄弟が言ったのだ。

―――このお姫様って、シンちゃんみたいだね。


「僕は今でもそう思ってるけど?」
背後から聞こえる声は昔と変わらず明るい。俺は溜息を吐いてペンを置いた。
窓の外ではしんしんと雪が降っている。室内は暖房が効いて快適だったけれど、午後の総帥室は雪に全ての音を吸い取られたかのように静かだった。
「相変わらず夢見がちな奴だな・・・あ、もうちょっと右」
「ここ?」
「あーそこそこ」
あの頃の俺たちは殆ど背の高さが同じだった。
でも今では俺の方がずっと大きい。この従兄弟とて人並みの身長はあるのだが、人一倍大柄な男が揃った一族の中では時に華奢にすら見えてしまうのだった。
凝った肩を揉みほぐしてくれる手も俺に較べれば一回りは小さいだろう。
「それにしても凝ってるね~。シンちゃんお仕事し過ぎだよぉ~」
「仕方ねえだろ、総帥なんだから。それにキンタローはもっと働いてるゾ」
補佐官を務めるもう一人の従兄弟は、新兵器の開発のために昨日も徹夜したらしい。それは新しい理論を発明するだけしてプランの具体化は人任せにする天才科学者のせいだ。
そう言うとその張本人は頭上でくすくす笑った。
「だってそーいうのは僕よりキンちゃんの方が向いてるんだもん」
「手伝ってやれよ」
「あ、それ無理。キンちゃんと高松の話聞いてたら3分で寝ちゃう」
「・・・・」
「でもちっちゃい頃のシンちゃんて可愛かったよねー、超絶可愛かったよ、あの頃は」
「強調するな。今は不細工みたいじゃねえか」
「おとーさまが心配するから僕たち外で遊べなかったじゃない? だからお肌も白くってさ」
「まあな」
「髪の毛だってさらさらヴァージンヘアでさあ」
「今でもさらつやだぞ、俺は」
「子供だったから唇もぷくぷくだったし」
グンマの手は肩を解し終わって首筋に移っている。
(・・・全く変な奴)
こいつはギリギリの線でレッドゾーンを逃れている危ない男だが、マッサージは上手い。
こうして時々ふらりと総帥室に現れて肩を揉んでくれる。それは俺の疲れが溜まる時期と不思議と一致していて、そのことに俺は今初めて気づいてちょっと驚いていた。
「あんな綺麗なお姫様を何で魔女は殺したがってるんだろうって、僕凄く不思議だったんだ」
「それはやっぱ、嫉妬じゃねえの」
欠伸しながら適当な返事をする。
と、不意にグンマの手が止まった。
「ねえ、シンちゃん」
「あん?」

「もしかしたら魔女はあのお姫様が好きだったんじゃないのかな」


突然首筋に鋭い痛みが走った。
「―――つっ・・!」
それは思わずびくりと身を竦めてしまうほどの痛みだった。
「だからきっと、殺して独り占めしたかったんだよ」
温かいものが触れてまたぴりっと痛みが走る。その感触から、歯を立てた痕にそっとグンマが口づけたのだと分かった。
「ここは今でも日に灼けてないんだね」
「グンマ・・ッ」
昔と変わらぬ明るい声が、昔とは違う熱さでうなじを撫でてゆく。
「綺麗だよ、シンちゃん・・・赤い血が白い肌に滲んで」
俺よりも小さな手が、俺の髪を梳いて顎をすくいあげる。
「この髪の毛も、昔よりずっと綺麗。―――」

雪のように白い肌と。
黒檀のように黒い髪と。
(そして血のように)
赤い唇で、グンマがにっこりと笑った。

(違う、あれは)

「―――僕にとっては今でもシンちゃんが一番だよ」

(あれは俺の血だ)


(毒の林檎と分かっていても)
口にせずにはいられない。
重なる唇を受け止めながら俺はきつく眼を閉じた。

窓の外では白い雪が、激しさを増しながら降り続いている。

PR
BACK HOME NEXT
カレンダー
04 2025/05 06
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
最新記事
as
(06/27)
p
(02/26)
pp
(02/26)
mm
(02/26)
s2
(02/26)
ブログ内検索
忍者ブログ // [PR]

template ゆきぱんだ  //  Copyright: ふらいんぐ All Rights Reserved