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shs

広報課にあったというガンマ団員アンケート結果を持ってきたのは、ロッドだった。
「アンケートなんか採ってやがったのか?」
「それが笑えますよぉ、公表できなくなっちまって」
どういうことだと紙を受け取ったハーレムは、中身に目を走らせて声を殺し俯いて笑った。

総帥がカッコいい、とか。
総帥がシンタローだからここにいる、とか。
総帥が本部に全然戻らないのが不満だ、とか。

「シンタローのことしか書いてねーじゃねえか」
「ね? こんなもん、前総帥やキンタロー様には見せらんねえって、広報の奴ら青くなってましたよ」
「言えるな」
青の一族は愛情も独占欲もその表現方法も桁外れだ。
特戦部隊はさっそく、彼らがこれを見たら何発の眼魔砲が飛ぶか、賭けを始めている。

それにしても、とハーレムは会話を耳にしながら紙を指で弾いた。
シンタローというのは、つくづく不思議な男だ。

南の島から戻って以来、総帥代行をしている長兄は、シンタローが実の息子でないと分かってからも、団員一同にウザがられる程の溺愛っぷりである。
シンタローの命を狙ったことのあるミヤギ・トットリ・アラシヤマ・コージは新総帥の側近になった。
一度は辞めた津軽ジョッカーや博多どん太も、シンタローの総帥着任と同時に舞い戻ってきた。
グンマだって出生の秘密を知っていろいろと思うことはあるだろうに、いまだにシンちゃんシンちゃんとうるさい。
そして何と言ってもキンタローだ、と、かつて自分が擁立しようとした甥っ子を思い、ハーレムは笑いを堪えた。
シンタローへの殺意だけで立っていた男が、いま彼を救うために徹夜を続けている。
まったくたいしたもんだ。
周りから見れば、シンタローはもうすっかり新生ガンマ団の総帥なのだろう。

―――目を背けているのは自分だけだ。

別にシンタローに不満がある訳ではない。
ガンマ団に留まって自分らしく生きることも、やろうと思えば出来たかもしれない。
けれどハーレムは故意にでも新総帥に逆らわずにはいられなかった。

理由は分かっている。
自分は、シンタローを子どもだと信じたいのだ。


青の一族に黒眼黒髪の子が生まれたときは驚いたが、ハーレムはハーレムなりにシンタローを可愛がった。
精神的に幼さ(というよりガキっぽさ)の残る彼は、子ども扱いされたくない気の強いちみっ子と合っていたらしい。
可愛くないガキだ、ムカつくナマハゲだと言い争う姿は、周りから見ればどちらが子どもか分からず、また周りから見れば楽しそうだった。

なのに、久しぶりに兄に会いに行ったとき。
「ハーレム叔父さん!」
駆け寄ってきたシンタローは思ったより成長していて、そして、
―――あの男に似ていた。

マズいと思ったときにはもう遅かった。
ハーレムはシンタローの腕を振り払い、体を嫌悪に震わせていた。
今も忘れない。
シンタローのひどく驚いた―――傷ついた顔を。


ちょうどあの頃から、シンタローはさまざまなことを知り始めていた。
父親のやっている仕事。総帥の長男という言葉の持つ意味。一族の異端である自分。
団員たちはマジックにおもねり、シンタローに媚びを含んだ笑顔を向けた。そして彼が去るとささやくのだ。
(成長すればもしかしたらって思っていたが)
(駄目だな)
(あれは秘石眼じゃない)
実力があれば良いのかと、シンタローは士官学校に進んで優秀な成績を取り、戦闘試合があれば必ず優勝してみせた。
それでも声は止まない。
(決勝の相手はグンマ様の作ったロボットだって)
(八百長じゃないの?)
眼魔砲を撃てるようになってさえ、誰かが言うのだ。

(だってシンタローは総帥の息子だから)

失望や嫉妬や敵意の視線のなか、彼は一刻も早く大人になろうとしていた。
弟の誕生をあんなに喜んだのも、守るべき誰かが欲しかったせいかもしれない。
けれどあのとき、シンタローがもっとも助けを必要としていたとき、ハーレムはその手を振り払ったのだ。


今になれば分かる。
体を取り戻したキンタローを手元に置いたのも、彼をシンタローと呼んだのも、すべて自分の罪悪感から来ている。
ジャンに似ていなければ、シンタローを受け入れられた。あんな顔をさせずに済んだ。
だからジャンに似ていないシンタローを求めたのだ。
そうしてあの島で皆がそれぞれの真実を知り、戦いの末に運命を乗り越えていった。
ハーレムもそうした。
長兄の、次兄の、末弟の心を抱きしめ、若い甥たちに未来を託した。
なのにシンタローへの気持ちだけは残っていたらしい。

あの日、少年だったシンタローともう一度逢いたい。


「隊長、隊長はどうします? 今んとこ本命はねー、マジック前総帥が10から15発、キンタロー補佐官が5から10発」
シンタローが子どものままであったら、自分たちはあの日からやり直せる。だから大人だなんて思ってやらないし、あいつの命令なんて聞いてやらない。
「えらくおとなしい予想じゃねえか。多分もっと派手にやらかすぜ」
「マジかよ、本部壊れんじゃね?」
俺は訳の分かった大人になんかならない。

だからお前も、どうかそのままで。

痛みが人を大人にするのなら、シンタローは大丈夫だ。あの島は決して彼を傷つけたりはしない。
ストレスが溜まったときは、手近に自分の元部下がいるのだし。
「いつ見せます?」
「シンタローが島から戻ったらだな。あいつがキレた兄貴とキンタローにキレ返して、眼魔砲を何発撃つかも賭け対象にするから覚えとけよ」
ちょうどそこで酒がなくなり、ハーレムは新しい瓶を取りに立ち上がった。
「兄貴がどんな顔すっか楽しみだな」
だから早く戻って来いなんて、そんな甘っちょろいことは思ってやらないけれど。

酒を探して棚の奥に消えた隊長を確認し、特戦部隊は賭けノートに新たな項目を付け足した。

『アンケートを公表できない本当の理由は、自由意見欄のほとんどがシンタロー総帥への愛の告白で埋まっているせいだと知ったとき、キレたハーレム隊長が撃つ眼魔砲の数は?』

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