約束だぞ、と甥っ子が言った。
分かった分かった、と叔父は答えた。
その時は、守るつもりの約束だった。
PROMISE
部屋に戻ってきたとき、シンタローはすでにかなり酔っていた。
それでも強気な俺様振りはいつも通りで。
「おいおい大丈夫かよ?」
ふらついたところを抱きとめたハーレムにぴしっと指を突きつける。
「―――俺に触んじゃねェ、いいな!」
眼球すれすれに突きつけられた人差し指を見ながら、ハーレムは思わず溜息をついたのだった。
そもそもシンタローをここまで酔わせた原因はハーレムにあった。
長期の遠征から戻ってきて、今夜は久し振りに暇が出来たから食事でもしようと電話したのはハーレムの方だったのに、すっかり忘れて特戦部隊を連れて飲みに行ってしまったのだ。
携帯に電話がかかってきてハッと思い出したのだが時すでに遅く、勘定をちゃっかり部下達に押しつけて本部に戻った時には若い恋人の不機嫌ボルテージは最高潮に達していた。
慌てて宥めて遅い食事に連れ出したのだが、その席でシンタローはさすがのハーレムが心配になるほど早いピッチで酒を飲み続けた。
そして話は冒頭に戻る―――という訳なのである。
「マジで言ってんの?」
「あったりまえだろ! いいか、絶対触んなよ」
「っておまえ久し振りに逢ったってのに」
「約束すっぽかしたのはどっちだ、ああ?」
睨みつける眼は完全に据わっていて、あんなに飲ませるんじゃなかったとハーレムは今夜二度目の溜息をついた。
「・・・分かったよ」
「約束だからな!」
「ハイハイ」
ふてくされてごろりとベッドに寝転んだハーレムの上にさらりと黒髪が落ちてきた。
「あん?」
腹の上にどさっと重みがかかって思わず呻く。
眼を開けるとシンタローが真上からハーレムを見下ろしていた。
「重えよ」
「うっせ、おまえよりは軽い」
「大体おまえが触るなっつった―――」
ハーレムの言葉は、突然のキスで途切れていた。
シンタローの舌がゆるりと入ってくる。
いつもより熱いような気がするのはアルコールのせいだろうか。
思わず伸ばした手は、ぴしゃりと叩かれた。
「触らねェって約束だぞ」
くぐもった声は子供っぽく拗ねていて、ハーレムは苦笑して手を引っ込めた。
その間もシンタローのキスは続いている。
普段は最初からハーレムが主導権を握っているため、そのキスはどこかぎごちなかった。
だがその拙さがかえってハーレムの欲望を煽りたてて、ハーレムは早くもさっきの約束を後悔し始めていた。
―――これァ結構キツイ。
酒と煙草の匂いに混じって鼻先をくすぐるシンタロー自身の匂いは仄かに甘い。
シンタローがすっと唇を離した。天井の照明がシンタローの身体で遮られる。
もともとそんなに酒が強い訳ではないシンタローの目許はうっすらと赤く染まり、ふっくらとした唇は拗ねた子供のように濡れていた。
―――てめェその顔は反則だろうが!
抱きしめて押し倒したくなるのをハーレムは必死で堪えた。
そんな叔父の胸中を知ってか知らずか、小憎らしい甥っ子はニッと笑ってハーレムのシャツのボタンを外し始めた。
「おい、シンタロー」
「触るなよ、約束破ったら眼魔砲だからな」
シンタローの舌がそっと肌に触れる。
いつもハーレムにされている事を思い出しながらなぞっているのだろう。
お世辞にも巧みだとは言えない動きだったが、それでもそれがシンタローの唇だと思うだけでハーレムの身体は自分でも驚くほどに反応していた。
腹の奥から熱い塊が込み上げてきて、今すぐシンタローを滅茶苦茶に貫きたくなる。
「おまえが悪いんだからな」
耳許で囁くシンタローの声は熱く、甘い。
「ハイハイすいませんでした」
「おまえに逢えるのだけを楽しみにしてたのに」
言葉が無防備にぽろぽろと零れてくるのは酔っているからだろうか。
―――随分と可愛いことを言ってくれんじゃねえか。
「なのに忘れるたァどういうことだ。ボケんのはまだ早いだろオッサン」
「だーから謝ってるだろ。・・・触んのも我慢してるしよ」
「俺は待ってたんだぞ」
「分かったって」
「おまえの帰りを、ずっと待ってた」
シンタローの指がハーレムの髪を弄んでいる。
そういえば小さい頃からこの長い金髪を触るのが好きだった、とハーレムは思い出した。
今でもハーレムの髪を指に巻きつけて眠りに就くのがシンタローの癖だ。
(きっと自分じゃ知らないんだろうけどな)
小さな子供みたいにハーレムにしがみついて眠ることも。
そのせいでいつもハーレムが翌朝は筋肉痛になっていることも。
―――そして、自分が今どんなに淫らな顔をしているかということも。
「浮気されたくなかったらさ」
その首筋に触りたい。
抱きしめてキスをして、切ない声をあげさせたい。
「もっとちゃんと俺にかまえよ、ハーレム。―――」
その瞬間、ハーレムの中の何かが音を立ててブチ切れた。
がばっと跳ね起きたハーレムに一瞬シンタローがきょとんとする。
その隙を衝いてハーレムは一気にシンタローを押し倒していた。
「あっオイ何すんだてめェ!」
「うるせェ、坊主」
ハーレムがニヤリと笑い、シンタローは大きく目を見開いた。
「大人をナメんなよコラ」
「なっ・・・」
「人のこと散々挑発しといて今更だっつの」
「触らねェって約束したろーが!」
「約束?・・・あー、したかもなァ」
呼吸すら奪うような荒々しいキスが、抵抗をあっさり封じ込める。
「けどよ、シンタロー」
感じるところを知り尽くした舌に蹂躙され、唇を離したときには漆黒の瞳は涙に洗われたようにしっとりと潤んでいた。
「―――約束なんてのは、破るためにするもんだろ?」
(・・・勝手なこと言うなアアァ!!)
シンタローの心の叫びは、不敵な笑いの前に儚く玉砕したのだった。
翌朝ハーレムを待ち受けていたもの。
それはいつもの筋肉痛と、三人の部下から無情にも突っ返されてきた勘定書の束、そして怒りの大魔神と化した可愛い甥っ子からの眼魔砲だった。
今回のハーレムの教訓。
―――約束は厳守するべし。特に、俺様な恋人が身近にいる場合には。
分かった分かった、と叔父は答えた。
その時は、守るつもりの約束だった。
PROMISE
部屋に戻ってきたとき、シンタローはすでにかなり酔っていた。
それでも強気な俺様振りはいつも通りで。
「おいおい大丈夫かよ?」
ふらついたところを抱きとめたハーレムにぴしっと指を突きつける。
「―――俺に触んじゃねェ、いいな!」
眼球すれすれに突きつけられた人差し指を見ながら、ハーレムは思わず溜息をついたのだった。
そもそもシンタローをここまで酔わせた原因はハーレムにあった。
長期の遠征から戻ってきて、今夜は久し振りに暇が出来たから食事でもしようと電話したのはハーレムの方だったのに、すっかり忘れて特戦部隊を連れて飲みに行ってしまったのだ。
携帯に電話がかかってきてハッと思い出したのだが時すでに遅く、勘定をちゃっかり部下達に押しつけて本部に戻った時には若い恋人の不機嫌ボルテージは最高潮に達していた。
慌てて宥めて遅い食事に連れ出したのだが、その席でシンタローはさすがのハーレムが心配になるほど早いピッチで酒を飲み続けた。
そして話は冒頭に戻る―――という訳なのである。
「マジで言ってんの?」
「あったりまえだろ! いいか、絶対触んなよ」
「っておまえ久し振りに逢ったってのに」
「約束すっぽかしたのはどっちだ、ああ?」
睨みつける眼は完全に据わっていて、あんなに飲ませるんじゃなかったとハーレムは今夜二度目の溜息をついた。
「・・・分かったよ」
「約束だからな!」
「ハイハイ」
ふてくされてごろりとベッドに寝転んだハーレムの上にさらりと黒髪が落ちてきた。
「あん?」
腹の上にどさっと重みがかかって思わず呻く。
眼を開けるとシンタローが真上からハーレムを見下ろしていた。
「重えよ」
「うっせ、おまえよりは軽い」
「大体おまえが触るなっつった―――」
ハーレムの言葉は、突然のキスで途切れていた。
シンタローの舌がゆるりと入ってくる。
いつもより熱いような気がするのはアルコールのせいだろうか。
思わず伸ばした手は、ぴしゃりと叩かれた。
「触らねェって約束だぞ」
くぐもった声は子供っぽく拗ねていて、ハーレムは苦笑して手を引っ込めた。
その間もシンタローのキスは続いている。
普段は最初からハーレムが主導権を握っているため、そのキスはどこかぎごちなかった。
だがその拙さがかえってハーレムの欲望を煽りたてて、ハーレムは早くもさっきの約束を後悔し始めていた。
―――これァ結構キツイ。
酒と煙草の匂いに混じって鼻先をくすぐるシンタロー自身の匂いは仄かに甘い。
シンタローがすっと唇を離した。天井の照明がシンタローの身体で遮られる。
もともとそんなに酒が強い訳ではないシンタローの目許はうっすらと赤く染まり、ふっくらとした唇は拗ねた子供のように濡れていた。
―――てめェその顔は反則だろうが!
抱きしめて押し倒したくなるのをハーレムは必死で堪えた。
そんな叔父の胸中を知ってか知らずか、小憎らしい甥っ子はニッと笑ってハーレムのシャツのボタンを外し始めた。
「おい、シンタロー」
「触るなよ、約束破ったら眼魔砲だからな」
シンタローの舌がそっと肌に触れる。
いつもハーレムにされている事を思い出しながらなぞっているのだろう。
お世辞にも巧みだとは言えない動きだったが、それでもそれがシンタローの唇だと思うだけでハーレムの身体は自分でも驚くほどに反応していた。
腹の奥から熱い塊が込み上げてきて、今すぐシンタローを滅茶苦茶に貫きたくなる。
「おまえが悪いんだからな」
耳許で囁くシンタローの声は熱く、甘い。
「ハイハイすいませんでした」
「おまえに逢えるのだけを楽しみにしてたのに」
言葉が無防備にぽろぽろと零れてくるのは酔っているからだろうか。
―――随分と可愛いことを言ってくれんじゃねえか。
「なのに忘れるたァどういうことだ。ボケんのはまだ早いだろオッサン」
「だーから謝ってるだろ。・・・触んのも我慢してるしよ」
「俺は待ってたんだぞ」
「分かったって」
「おまえの帰りを、ずっと待ってた」
シンタローの指がハーレムの髪を弄んでいる。
そういえば小さい頃からこの長い金髪を触るのが好きだった、とハーレムは思い出した。
今でもハーレムの髪を指に巻きつけて眠りに就くのがシンタローの癖だ。
(きっと自分じゃ知らないんだろうけどな)
小さな子供みたいにハーレムにしがみついて眠ることも。
そのせいでいつもハーレムが翌朝は筋肉痛になっていることも。
―――そして、自分が今どんなに淫らな顔をしているかということも。
「浮気されたくなかったらさ」
その首筋に触りたい。
抱きしめてキスをして、切ない声をあげさせたい。
「もっとちゃんと俺にかまえよ、ハーレム。―――」
その瞬間、ハーレムの中の何かが音を立ててブチ切れた。
がばっと跳ね起きたハーレムに一瞬シンタローがきょとんとする。
その隙を衝いてハーレムは一気にシンタローを押し倒していた。
「あっオイ何すんだてめェ!」
「うるせェ、坊主」
ハーレムがニヤリと笑い、シンタローは大きく目を見開いた。
「大人をナメんなよコラ」
「なっ・・・」
「人のこと散々挑発しといて今更だっつの」
「触らねェって約束したろーが!」
「約束?・・・あー、したかもなァ」
呼吸すら奪うような荒々しいキスが、抵抗をあっさり封じ込める。
「けどよ、シンタロー」
感じるところを知り尽くした舌に蹂躙され、唇を離したときには漆黒の瞳は涙に洗われたようにしっとりと潤んでいた。
「―――約束なんてのは、破るためにするもんだろ?」
(・・・勝手なこと言うなアアァ!!)
シンタローの心の叫びは、不敵な笑いの前に儚く玉砕したのだった。
翌朝ハーレムを待ち受けていたもの。
それはいつもの筋肉痛と、三人の部下から無情にも突っ返されてきた勘定書の束、そして怒りの大魔神と化した可愛い甥っ子からの眼魔砲だった。
今回のハーレムの教訓。
―――約束は厳守するべし。特に、俺様な恋人が身近にいる場合には。
PR