あの人の
何処がいいかと尋ねられ
何処が悪いと問い返す
YOU’RE MY SUNSHINE
「―――しかし、少々意外だった」
補佐官を務める従兄弟の言葉に、シンタローがくすぐったそうに笑う。
「そうか?」
「理解に苦しんだ、という方が正確かな」
「どういう意味だそりゃ」
「だってそうだろう」
シンタローにグラスを渡し、キンタローはその正面に腰を下ろした。
「何で、コージなんだ?」
「―――僕ちょっと吃驚しちゃった」
「何でじゃ?」
紅茶を飲まないコージにグンマが宇治の緑茶を手渡す。
「おっ、茶柱が立っとるぞ」
「良かったね。だけどさ、コージ」
「うん?」
「何で、シンちゃんなの?」
シンタローが伊達衆の武者のコージとつき合い始めた時、従兄弟であるキンタローとグンマは心の底から仰天した。
何しろシンタローは全団員の尊敬と憧れを一身に受けているカリスマ総帥であり、彼のためなら命も要らないと決めているのは何も親馬鹿な前総帥だけでは無かったからだ。
シンタローが選んだ相手に不足があるというわけではない。
伊達衆最年長のコージは、どんな時にもゆったりと落ち着いていて、時にはキンタローにさえささやかな劣等感を抱かせるほどの包容力を持った男だった。
―――シンタローがいいならそれでいい。
キンタローもグンマもそう思っている。
だが、青の一族の血をひく二人にとっては、掌中の珠を奪われたような気になったのも事実で。
何故と訊かれ、唇に指を当てて考えこむシンタローを複雑な思いで凝視める。
見慣れた癖が、わけもなく眩しかった。
(俺では駄目だったのだろうか)
その肩には重すぎる荷を背負い、全ての過去を受け入れて歩き出し始めた彼の、自分は支えにはなれなかったのだろうか。
何故と訊かれ、緑茶に視線を落とすコージを複雑な思いで凝視める。
男らしいけれどどこか優しい頬の輪郭が、ちょっとだけ憎らしかった。
(僕やキンちゃんじゃ駄目なのかな)
決して泣き言や愚痴を言わず、どんな重圧も笑ってはね返してしまうシンタローの、自分は心の奥まで理解する事が出来なかったんだろうか。
「理由なんぞ、考えたことはないのぉ」
コージの声は普段と変わらない。
「わしはただ、あいつから眼を離せんかった。ずっと側で見ていたかった」
「・・・」
「じゃけえ本気で口説きたい、そう思うた」
「初めてあいつに―――キスされた時」
シンタローがふいと眼を逸らす。
「どうしてだか分かんねェけど、嫌じゃなかったんだよ」
「・・・」
「本気で口説いていいかってそう言われて・・不覚にも頷いちまった」
「あいつの側に居ると、何だか暖かい気持ちになるんだ」
「―――そうか」
「建物の影から急に日向に出ると、身体中がほっとして力が抜けるだろ、そんな感じなんだ」
「シンタローを見ちょると、元気になれるんじゃ」
「―――ふうん」
「雲が切れて急にお日さんが見えると、思わず手を伸ばしとうなるじゃろ、そげな感じじゃの」
キンタローはグラスの中の酒に見入るシンタローを暫く眺めていた。
(こんなシンタローは初めて見る)
それは物思うような、それでいて深く満ち足りたような柔和な眼差しだった。
シンタローはきっと幸せなのだろうとキンタローは思う。
「・・・安らぎ、か」
コージの羽根の下でなら、シンタローはひっそりと安らかに眠ることが出来る。
愛情が深すぎる自分達にはないもの。
そして、自分達では永遠にシンタローに与えることは出来ないもの。
「コージはおまえの、太陽なんだな。―――」
グンマは微かな笑みを浮かべて窓の外を見ているコージを暫く眺めていた。
(コージがシンちゃんを変えたんだ)
それは何も要求しない、全てを包み込むような優しい眼差しだった。
きっとシンタローのことを考えているのだろうとグンマは思う。
「・・・労り、か」
コージは何も欲しがらない。ただ、水が流れるようにシンタローを愛しているだけ。
シンタローが必要とする唯一のもの。
そして、きっとこの男にとっても。
「シンちゃんはコージの、お日様なんだね。―――」
シンタローの瞳が初めてキンタローに向けられる。
「・・・たぶん、そうかも」
コージが初めて白い歯を見せる。
「・・・そうじゃな、きっと」
それならとても敵わない、そう思った。
けれど口惜しくはない。
もう憎らしいとも思わない。
ひとつの銀河系にはひとつの太陽しか要らないのだ。
(お互いがお互いにとってたったひとつの)
どんなに寒く冷たい空の下でも、希望の光もない冬の最中でも。
いつも頭上に輝く太陽さえ見つけられれば、真っ直ぐに生きていけると思った。
(迷わずにどこまでも)
走り続けることが出来る。
あなたさえいれば、きっと。
何処がいいかと尋ねられ
何処が悪いと問い返す
YOU’RE MY SUNSHINE
「―――しかし、少々意外だった」
補佐官を務める従兄弟の言葉に、シンタローがくすぐったそうに笑う。
「そうか?」
「理解に苦しんだ、という方が正確かな」
「どういう意味だそりゃ」
「だってそうだろう」
シンタローにグラスを渡し、キンタローはその正面に腰を下ろした。
「何で、コージなんだ?」
「―――僕ちょっと吃驚しちゃった」
「何でじゃ?」
紅茶を飲まないコージにグンマが宇治の緑茶を手渡す。
「おっ、茶柱が立っとるぞ」
「良かったね。だけどさ、コージ」
「うん?」
「何で、シンちゃんなの?」
シンタローが伊達衆の武者のコージとつき合い始めた時、従兄弟であるキンタローとグンマは心の底から仰天した。
何しろシンタローは全団員の尊敬と憧れを一身に受けているカリスマ総帥であり、彼のためなら命も要らないと決めているのは何も親馬鹿な前総帥だけでは無かったからだ。
シンタローが選んだ相手に不足があるというわけではない。
伊達衆最年長のコージは、どんな時にもゆったりと落ち着いていて、時にはキンタローにさえささやかな劣等感を抱かせるほどの包容力を持った男だった。
―――シンタローがいいならそれでいい。
キンタローもグンマもそう思っている。
だが、青の一族の血をひく二人にとっては、掌中の珠を奪われたような気になったのも事実で。
何故と訊かれ、唇に指を当てて考えこむシンタローを複雑な思いで凝視める。
見慣れた癖が、わけもなく眩しかった。
(俺では駄目だったのだろうか)
その肩には重すぎる荷を背負い、全ての過去を受け入れて歩き出し始めた彼の、自分は支えにはなれなかったのだろうか。
何故と訊かれ、緑茶に視線を落とすコージを複雑な思いで凝視める。
男らしいけれどどこか優しい頬の輪郭が、ちょっとだけ憎らしかった。
(僕やキンちゃんじゃ駄目なのかな)
決して泣き言や愚痴を言わず、どんな重圧も笑ってはね返してしまうシンタローの、自分は心の奥まで理解する事が出来なかったんだろうか。
「理由なんぞ、考えたことはないのぉ」
コージの声は普段と変わらない。
「わしはただ、あいつから眼を離せんかった。ずっと側で見ていたかった」
「・・・」
「じゃけえ本気で口説きたい、そう思うた」
「初めてあいつに―――キスされた時」
シンタローがふいと眼を逸らす。
「どうしてだか分かんねェけど、嫌じゃなかったんだよ」
「・・・」
「本気で口説いていいかってそう言われて・・不覚にも頷いちまった」
「あいつの側に居ると、何だか暖かい気持ちになるんだ」
「―――そうか」
「建物の影から急に日向に出ると、身体中がほっとして力が抜けるだろ、そんな感じなんだ」
「シンタローを見ちょると、元気になれるんじゃ」
「―――ふうん」
「雲が切れて急にお日さんが見えると、思わず手を伸ばしとうなるじゃろ、そげな感じじゃの」
キンタローはグラスの中の酒に見入るシンタローを暫く眺めていた。
(こんなシンタローは初めて見る)
それは物思うような、それでいて深く満ち足りたような柔和な眼差しだった。
シンタローはきっと幸せなのだろうとキンタローは思う。
「・・・安らぎ、か」
コージの羽根の下でなら、シンタローはひっそりと安らかに眠ることが出来る。
愛情が深すぎる自分達にはないもの。
そして、自分達では永遠にシンタローに与えることは出来ないもの。
「コージはおまえの、太陽なんだな。―――」
グンマは微かな笑みを浮かべて窓の外を見ているコージを暫く眺めていた。
(コージがシンちゃんを変えたんだ)
それは何も要求しない、全てを包み込むような優しい眼差しだった。
きっとシンタローのことを考えているのだろうとグンマは思う。
「・・・労り、か」
コージは何も欲しがらない。ただ、水が流れるようにシンタローを愛しているだけ。
シンタローが必要とする唯一のもの。
そして、きっとこの男にとっても。
「シンちゃんはコージの、お日様なんだね。―――」
シンタローの瞳が初めてキンタローに向けられる。
「・・・たぶん、そうかも」
コージが初めて白い歯を見せる。
「・・・そうじゃな、きっと」
それならとても敵わない、そう思った。
けれど口惜しくはない。
もう憎らしいとも思わない。
ひとつの銀河系にはひとつの太陽しか要らないのだ。
(お互いがお互いにとってたったひとつの)
どんなに寒く冷たい空の下でも、希望の光もない冬の最中でも。
いつも頭上に輝く太陽さえ見つけられれば、真っ直ぐに生きていけると思った。
(迷わずにどこまでも)
走り続けることが出来る。
あなたさえいれば、きっと。
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