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今夜は独りでいられる自信がない
あなたと私をつなぐ絆の
脆さばかりが心に沁みる



RHAPSODY IN BLUE



月の光が窓から射しこんで、眠っているあの人の顔を照らしている。
さっきまで快楽に霞んでいた瞳も閉じられて、小さな子供みたいに寝息を立てている。
心を切り裂かれそうな愛しさと哀しさに指を伸ばした。
つい半刻前には吐息混じりに俺の名を呼んでいた唇が、かすかに開く。

「―――・・・・」

溜息のように零れ落ちた名前に、心が凍りついた。

(最初から知ってたんだ)
震える指先で形のいい唇をなぞる。
楽しく過ごしている時にも、不意に一瞬遠い目をすることがあるこの人の心に誰が棲んでいるのか、そんなのとっくに分かっていたことじゃないか。
分かっていて好きになった。
何もかも承知でこの人を抱いた。
(応えてくれるその腕が同情でも欲情でもいいと)

なのに涙が止まらないのは何故なんだろう。

絶対に迷惑はかけないから、一度でも情けをかけてもらえたら。
恋愛じゃなくて構わないんだ。
相手をしてくれるだけでよかった。
そしたら俺はその思い出だけで生きていける、そう信じてた。

(だけど人間の欲にはきりがないから)
一度だけでもと思いつめた挙句に想いを遂げれば今度は気持ちが欲しくなる。
譫言のように俺の名を呼ぶこの人の全てが欲しくなる。
過去にも未来にも嫉妬して、でもそれを知られたくなくて一人であがいてる。


俺に向かって話してるのにふと押し黙る。
まるで魂が何処かへ行ってしまってるようなその表情が不安で不安で、何度抱きしめただろう。
(あんたの心に俺の場所はあるんだろうか)
ひきずるのは未練だと分かっていても、この人を自分のものにしておきたかった。

強く抱けば抱くほど捕らえどころのない瞳が哀しい。
二人の繋がりを信じさせて。
涙の理由は訊かないで、今夜はずっと側にいて。


唇から顎へ、そして喉へと指を滑らせる。
長い黒髪を払いのけた時、愛おしそうに俺の髪に触れた人の手の感触を思い出した。
―――綺麗な、髪だな。
夢見るような口調で言われたときは嬉しくて仕方がなかった。
たとえあなたが誰かと重ねて見ているのだとしても構わない。
金色の髪と青い瞳を持って生まれたことを感謝した。

(要らないなんて言わないで)
今更他の誰にも、あげられないから。


月光が揺れる。
無防備にさらけ出された白い喉に手をかけた俺の心を見透かすように冷たく嘲笑う。
(このまま二人で逝けたらいいのに)
元の世界で待つあの男には渡さない。
わずかに力をこめた瞬間、漆黒の瞳がふうっと開いた。

「ど、した・・・?」
夢うつつで呼ばれた声に、はっと俺は手を離した。
「あ・・? 何で泣いてんだ、おまえ・・・」
舌足らずに尋ねて伸ばした手をしっかり握りしめる。
「何でもないっすよ。―――」

好きですと囁けばにこりと笑って俺も好き、と答えてくれる。
きっとそれは嘘ではないんだろうけど。

「んっ・・あ、あ・・」
感じやすい身体が再び快楽を求めて漂い出す。
追い上げながら月を見上げる俺の下で乱れてゆく。
「は・・あ―――・・!」


だけどやっぱりあなたを愛してるから、零れる涙は自分でも止められない。
だからもっと俺を感じて。
声が嗄れるまで俺の名を呼んで。
(・・ったく、どこまで自惚れてんだっての)


それでも夢を見たいと願った、あの日の俺を責めないで。


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