すべてをあなたに捧げよう
ただこれからも私を愛してくれるならば
彼 岸
シンタローさんと初めて寝た。元の世界に恋人が待っているのを承知で奪った。
次の日、シンタローさんが余りにもいつも通りに振る舞うのが心細くて、食糧調達に出た森の中で押し倒した。
「――良くなかったっすか」
「あん?」
「あの人と較べて、全然駄目だったっすか」
「はあ? 何だいきなり」
「そうじゃないんだったら・・・」
落ち着き払って俺を見上げてる黒い瞳が残り少ない俺の勇気をかきたてる。
「俺ともまた、して下さい」
「おい、ヤンキー」
「約束なんか要らないから」
「ちょ、話聞けって」
「俺に飽きたら棄てていいっす! 遊んでくれるだけでいいから・・愛情なんて要らないから」
―――愛してくれなんてとても、俺には言えないから。
唇を噛みしめて震えている俺の手に、シンタローさんの指が触れた。
「おまえのこと、遊びになんか出来ない」
「・・・・」
「ちゃんと愛しいと思ってる。だけどあいつを忘れることは出来ない」
「シンタローさん―――」
俺はおまえのこともあいつのことも同じように愛してる。
それを是とするか非とするかはおまえの自由だ。
けど受け入れられねェならもう、俺には近づくな。
「無理ですよ―――もう戻れない」
眼を伏せた俺の顔をシンタローさんの手が引き寄せる。
「俺のこと、軽蔑してもいいぜ。―――」
リキッド、とねだられて吸った唇は酷く甘い罪の味がした。
ヤンキーと初めて寝た。
元の世界で待っているあいつのことを思いながら抱かれた。
だけど達した瞬間脳裏を過ぎったのがどっちの顔なのか、俺にも分からなかった。
俺を押し倒したリキッドの手が震えている。
噛みしめすぎた唇には血が滲んで、まともに俺を見ていない。
あの人とかけもちでもいいからと泣きそうな顔で言ったあいつを、心から愛しいと思った。
「おまえのこと、遊びになんか出来ない」
「・・・・」
「ちゃんと愛しいと思ってる。だけどあいつを忘れることは出来ない」
「シンタローさん―――」
俺を見下ろす青い瞳に哀しげな色が過ぎる。
「じゃあはねつけてくれればよかったんすよ」
「俺が拒絶したら諦めたか?」
「・・・いえ」
「だろ。それに何で拒まなきゃならねえの?」
「シンタローさ――」
「俺、おまえのこと愛してるのに」
(俺はこういう人間だから)
これまでも何度揉めたか分からない。
俺のことを愛してくれる人を全部受け入れたくて、結局その人達を傷つけて泣かせた。
それでも気持ちは真実だった。
おまえが俺を愛さなければよかったのにと心から思う。
かつてキンタローをそうしてしまったように、俺はきっとおまえを駄目にする。
無理ですよ―――もう戻れない。
そう言って眼を伏せたおまえの目尻から一粒の涙が零れたのを、俺は見て見ぬ振りをした。
(おまえが壊れていく様なんか俺ァ、見たかねえんだよ)
「俺のこと、軽蔑してもいいぜ。―――」
唇を重ねて眼を閉じる。
キスして、抱いて、何もかもを忘れさせてくれ。
そして連れて行って欲しい。
綺麗な想いだけを抱いて生きていけると信じていたあの頃の俺がいる、善悪の彼岸まで。
ただこれからも私を愛してくれるならば
彼 岸
シンタローさんと初めて寝た。元の世界に恋人が待っているのを承知で奪った。
次の日、シンタローさんが余りにもいつも通りに振る舞うのが心細くて、食糧調達に出た森の中で押し倒した。
「――良くなかったっすか」
「あん?」
「あの人と較べて、全然駄目だったっすか」
「はあ? 何だいきなり」
「そうじゃないんだったら・・・」
落ち着き払って俺を見上げてる黒い瞳が残り少ない俺の勇気をかきたてる。
「俺ともまた、して下さい」
「おい、ヤンキー」
「約束なんか要らないから」
「ちょ、話聞けって」
「俺に飽きたら棄てていいっす! 遊んでくれるだけでいいから・・愛情なんて要らないから」
―――愛してくれなんてとても、俺には言えないから。
唇を噛みしめて震えている俺の手に、シンタローさんの指が触れた。
「おまえのこと、遊びになんか出来ない」
「・・・・」
「ちゃんと愛しいと思ってる。だけどあいつを忘れることは出来ない」
「シンタローさん―――」
俺はおまえのこともあいつのことも同じように愛してる。
それを是とするか非とするかはおまえの自由だ。
けど受け入れられねェならもう、俺には近づくな。
「無理ですよ―――もう戻れない」
眼を伏せた俺の顔をシンタローさんの手が引き寄せる。
「俺のこと、軽蔑してもいいぜ。―――」
リキッド、とねだられて吸った唇は酷く甘い罪の味がした。
ヤンキーと初めて寝た。
元の世界で待っているあいつのことを思いながら抱かれた。
だけど達した瞬間脳裏を過ぎったのがどっちの顔なのか、俺にも分からなかった。
俺を押し倒したリキッドの手が震えている。
噛みしめすぎた唇には血が滲んで、まともに俺を見ていない。
あの人とかけもちでもいいからと泣きそうな顔で言ったあいつを、心から愛しいと思った。
「おまえのこと、遊びになんか出来ない」
「・・・・」
「ちゃんと愛しいと思ってる。だけどあいつを忘れることは出来ない」
「シンタローさん―――」
俺を見下ろす青い瞳に哀しげな色が過ぎる。
「じゃあはねつけてくれればよかったんすよ」
「俺が拒絶したら諦めたか?」
「・・・いえ」
「だろ。それに何で拒まなきゃならねえの?」
「シンタローさ――」
「俺、おまえのこと愛してるのに」
(俺はこういう人間だから)
これまでも何度揉めたか分からない。
俺のことを愛してくれる人を全部受け入れたくて、結局その人達を傷つけて泣かせた。
それでも気持ちは真実だった。
おまえが俺を愛さなければよかったのにと心から思う。
かつてキンタローをそうしてしまったように、俺はきっとおまえを駄目にする。
無理ですよ―――もう戻れない。
そう言って眼を伏せたおまえの目尻から一粒の涙が零れたのを、俺は見て見ぬ振りをした。
(おまえが壊れていく様なんか俺ァ、見たかねえんだよ)
「俺のこと、軽蔑してもいいぜ。―――」
唇を重ねて眼を閉じる。
キスして、抱いて、何もかもを忘れさせてくれ。
そして連れて行って欲しい。
綺麗な想いだけを抱いて生きていけると信じていたあの頃の俺がいる、善悪の彼岸まで。
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