奇跡なんか起こらない
この手は届かない
一歩踏み出す勇気がなければ
出口なんて見えない
LABYRINTH
愛したい想いを抑えるために自分の心に加える強制はときに、愛するひとのつれなさよりもつらく苦しい。
シンタローさんは時々、遠い目をして青い空を見上げていることがある。
自分を迎えに来る筈のあの人を、ずっと待ち続けているんだ。
一度は敵となり、死力を尽くして戦った相手。
クレイジーでキレた男だったあの人はスーツの似合うお気遣いの紳士になり、そして半身だったシンタローさんの愛を手に入れた。
俺の入る隙なんか何処にもない。
最初から、ちゃんと分かってるつもりだった。
「うちの幹部連中は何してやがんだ!」
「大丈夫ですよ、そのうち迎えが来ますって」
「遅ェんだよ、心戦組は飛空鑑で乗り込んできたってのに」
「よっぽど帰りたいんですね、シンタローさん」
当たり前だろとシンタローさんは言う。
俺はガンマ団の総帥なんだぜ、コタローのことだって気に掛かるし。
あの人のことなんか一言だって言わないけれど、その黒い瞳が物語ってる。
シンタローさんが、どれだけあの人を恋しく思っているのかということを。
好きになってはいけない。
幸せな未来なんか俺たちには無い。
シンタローさんはいつかこの島を出る人で、俺は赤の番人なんだから。
なのに時々、罪深いこの人は俺を迷わせる。
「おいヤンキー」
「はい?」
「オメーでも、俺が居なくなったらちょっとくれェは寂しいか?」
ああ・・・アンタは知らないんだ。
その言葉が、その眼差しが、どれだけ俺の心を切り裂いているか。
(何でそんな眼で、そんなに真剣に俺を見るんですか)
「や、てゆーか・・・まあぶっちゃけ早いとこ平和で安らかな生活を取り戻したいとは思いま」
「眼魔砲」
「ぐはああっっ!」
「今すぐ永久に安らかな眠りに就かせてやろうか、あーん?」
「いやああDV鬼姑が超笑顔で何か言ってる―――ッ!!」
―――嘘ついてごめんなさい。
でも嘘つかないと困ったでしょ?
この人の笑顔だけを胸に刻んで手を振ることが出来たら、きっと思い出に変えられる。
分かってても愛しさの鼓動は、自分にも止められない。
「ねえ、シンタローさん」
「あん?」
「あっちの世界で誰か、―――待ってる人って・・います?」
聞こえない振りをしたあんたの指を、血が滲むほど強く噛んだ。
殴り飛ばしてくれればいいと思った。
何すんだバカと蹴りを入れて、容赦ない眼魔砲でこの想いまでぶっ飛ばしてくれればいいと。
なのに、いつまで経っても鉄拳は飛んでこなかった。
「シンタローさん・・・?」
うつむいたまま、唇を噛みしめて痛みに耐えているシンタローさんの顔を見てると、涙がぽたぽた落ちて困った。
「バカだな、オメーはよう」
―――せっかく俺が気づかない振りをしててやったのに。
その言葉と一緒にくれたキスは、苦くて切ない罪の味がした。
(曇り硝子が幾重にも重なる迷宮の向こうで)
一体俺たちは何を失い、何を得るのだろう。
狂乱の恋嵐が、もうそこまで来ていた。
この手は届かない
一歩踏み出す勇気がなければ
出口なんて見えない
LABYRINTH
愛したい想いを抑えるために自分の心に加える強制はときに、愛するひとのつれなさよりもつらく苦しい。
シンタローさんは時々、遠い目をして青い空を見上げていることがある。
自分を迎えに来る筈のあの人を、ずっと待ち続けているんだ。
一度は敵となり、死力を尽くして戦った相手。
クレイジーでキレた男だったあの人はスーツの似合うお気遣いの紳士になり、そして半身だったシンタローさんの愛を手に入れた。
俺の入る隙なんか何処にもない。
最初から、ちゃんと分かってるつもりだった。
「うちの幹部連中は何してやがんだ!」
「大丈夫ですよ、そのうち迎えが来ますって」
「遅ェんだよ、心戦組は飛空鑑で乗り込んできたってのに」
「よっぽど帰りたいんですね、シンタローさん」
当たり前だろとシンタローさんは言う。
俺はガンマ団の総帥なんだぜ、コタローのことだって気に掛かるし。
あの人のことなんか一言だって言わないけれど、その黒い瞳が物語ってる。
シンタローさんが、どれだけあの人を恋しく思っているのかということを。
好きになってはいけない。
幸せな未来なんか俺たちには無い。
シンタローさんはいつかこの島を出る人で、俺は赤の番人なんだから。
なのに時々、罪深いこの人は俺を迷わせる。
「おいヤンキー」
「はい?」
「オメーでも、俺が居なくなったらちょっとくれェは寂しいか?」
ああ・・・アンタは知らないんだ。
その言葉が、その眼差しが、どれだけ俺の心を切り裂いているか。
(何でそんな眼で、そんなに真剣に俺を見るんですか)
「や、てゆーか・・・まあぶっちゃけ早いとこ平和で安らかな生活を取り戻したいとは思いま」
「眼魔砲」
「ぐはああっっ!」
「今すぐ永久に安らかな眠りに就かせてやろうか、あーん?」
「いやああDV鬼姑が超笑顔で何か言ってる―――ッ!!」
―――嘘ついてごめんなさい。
でも嘘つかないと困ったでしょ?
この人の笑顔だけを胸に刻んで手を振ることが出来たら、きっと思い出に変えられる。
分かってても愛しさの鼓動は、自分にも止められない。
「ねえ、シンタローさん」
「あん?」
「あっちの世界で誰か、―――待ってる人って・・います?」
聞こえない振りをしたあんたの指を、血が滲むほど強く噛んだ。
殴り飛ばしてくれればいいと思った。
何すんだバカと蹴りを入れて、容赦ない眼魔砲でこの想いまでぶっ飛ばしてくれればいいと。
なのに、いつまで経っても鉄拳は飛んでこなかった。
「シンタローさん・・・?」
うつむいたまま、唇を噛みしめて痛みに耐えているシンタローさんの顔を見てると、涙がぽたぽた落ちて困った。
「バカだな、オメーはよう」
―――せっかく俺が気づかない振りをしててやったのに。
その言葉と一緒にくれたキスは、苦くて切ない罪の味がした。
(曇り硝子が幾重にも重なる迷宮の向こうで)
一体俺たちは何を失い、何を得るのだろう。
狂乱の恋嵐が、もうそこまで来ていた。
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