そんな風に呼ばないで
「やったーvv」
カラカラカラ・・・という軽い音と共に、絶対に語尾にハートマークがついてそうな、嬉々とした声が響く。
「く…ッ!」
対するは悔しそうな低い男の声。
手にした長方形の木製のブロックが、ふるふると震えている。
見事にちらばったブロックたちを見て、見物していた黒髪の従兄弟が、鼻白んだ。
「おいおいキンタロー!よりによっててめーと罰ゲームなんてゴメンだぜ!」
「もう、往生際悪いよ、お兄ちゃん」
そうつぶやく、晴れやかな笑顔の少年、コタロー。
兄を黙らせるには、有効すぎる笑顔だった。
「じゃあこれで、シンちゃんとキンちゃんがバツゲーム決定ね」
そう微笑むのは、年長組の唯一の勝者、グンマ。
木製のブロックを積み上げ、そこからブロックを1つづつ順番に抜いては上に積み重ね、バランスを崩したものが負けという、原始的なゲームをしていた青の一族若手組は、今勝敗が決したところだった。
負けたものが抜けていきつつ、先に負けたもの2人が何か罰ゲームをするというルールでやっていたのだが、最も早くブロックを崩したシンタローは2回戦をはらはらしながら見物していた。
2回戦は、キンタロー、グンマ、コタローの見事な集中力で1回戦より長く続いていたが、最近グンマとコタロー2人でこのゲームをよくやっていたらしく、経験者に利があったようだった。
初めてにしてはよくやったキンタローだったが、元来負けず嫌いの彼は、明らかに落胆していた。
「キンタローお兄ちゃんは初めてだったなんて、信じられないよ」
コタローが微笑むと、キンタローは我に返ったように、ぎこちない笑いを返した。
「じゃあ罰ゲームは、ボクとコタローちゃんが1つづつ出すということで」
綺麗にブロックを箱に収めたグンマは、コタローに微笑む。
青い目をわくわくと煌かせた少年は、得意げに胸を張った
「もちろん、今日1日はボクが女王様ね!お兄ちゃんたちは何でもボクの言うことを聞くこと~」
それじゃあ普段とたいして変わらないじゃないかとキンタローは思ったが、口には出さずにいた。
「ええもちろん、何でも言うことを聞かせていただきますです!」
シンタローは涎を垂らさんばかりの勢いで頷いた。
天下のガンマ団総帥・・・。
極度のブラコンであるという事実だけは、なんとしても隠しておきたかったな・・・。
グンマは微笑みながら、内心でため息をついた。
「グンマお兄ちゃんは?」
「じゃあ、キンちゃんとシンちゃんは女王様の下僕をしながら、お互いを『ちゃん』づけで呼び合ってくださーい」
「ええ!?」
さっきまで弟の可愛さに頬の緩みっぱなしだったシンタローが、青ざめて振り返った。
「そんな気色の悪いことができるか!!!」
今にも掴みかからんばかりの勢いのシンタロー。
よりによって、好敵手と認めている大の男を、『ちゃん』呼ばわりだとう!?
キ、キンタローちゃん??
想像して鳥肌がたったシンタローは、ぶるっと襲い掛かった悪寒に耐えた。
「そんなことでいいのか?」
対する相方は、意外そうな表情。
「そんなことでよかったら、ラッキーだったな、『シンタローちゃん』」
「やめろぉおおおおお!!」
罰ゲーム通り呼ばれて、シンタローは壁際まで後退した。
2人への罰ゲームの効果の違いを予想していなかったグンマは、これはこれでおもしろいと思い始める。
「ダメだダメッ!俺はこのゲーム降りる!」
身勝手に言い放って、シンタローは悪寒に体を震わせながら、本当に部屋を出て行こうとした。
「降りるも何も、もう勝敗は決まってるじゃなーい。罰ゲームは罰ゲームだよう。それともシンちゃん」
セリフの途中から、グンマのトーンが変わる。
「逃げるの?」
微笑みながら言うその声音は、挑発というには優しすぎたが、直情的なシンタローを立ち止まらせるには十分だった。
キッと振り返ったシンタローは、「あぁ!?」とグンマを睨む。
一瞬頭に血が上りかけたらしいが、弟の手前ということもあって、思い直したようだった。
「ま、まさかだろ!俺が今まで敵前逃亡したことがあったか、なあ、『キンタローちゃん』」
ハッハッハと、乾いた笑いを上げるシンタローに、グンマは「OK、その調子~」とはやし立てた。
「まあ、あの島のナマモノ以外では、敵前逃亡はなかったな」
と真面目に答えるキンタロー。
「さ、コタロー様v何でもお申し付けくださいませ。私めと『キンタローちゃん』と、何でもさせていただきます」
ええい、ままよ。
「なんだかお兄ちゃんたち気色悪いなあ」
シンタローの内心の悪寒を知ってか知らずか、コタローが呆れ顔でつぶやいた。
end
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従兄弟チャットで出たお題、「お互いを『ちゃん』づけで呼び合うシンタローとキンタロー」を書いてみました~。
わははは。
キモイね!
書いててとってもおもしろかったです!
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