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 この状況は、何と形容すればいいのか……。
 一人は、いつものごとくナマモノニ匹から逃げてきた侍。
 一人は、洗濯物を干し終わって、帰ってきた元特戦部隊、現番人。
 一人は、掃除も終盤に差し掛かり、後一息というところを、その二人に邪魔されて機嫌の悪い新総帥。
 それぞれが一ヶ所に集まると、なんと居心地の悪い空間なのか。
 先程から沈黙は破られない。
 音があるとすれば、シンタローが台所を磨く音くらいだろう。
 (な、何だ? この空気の重さは……。あ、でも二人は一応、敵対組織の幹部とトップだもんな……ってダメじゃん! 一触即発?!)
 (こんなとこにいる気はねぇが……、今出て行ったら、あのクソナマモノ共に見つかるのがオチだからな……、タバコでも……くそっ、火ィ忘れちまった)
 (そーいや、コタローがこいつら無二の親友とか言ってたな……。ったく、心戦組と義兄弟たぁ、いい度胸してんな。ヤンキーが)
 沈黙をものともしない人間が一名。
 さすが俺様。我が道を行っている。
 だが、このまま奇妙な三すくみ(と称していいのだろうか)に黙っているはずがない。
 (俺を罵倒するか、トシさんにケンカ売るか、どっちが早いかなー)
 段々と分かってきた彼の俺様行動を、リキッドは頭の中でシュミレートしてみる。
 1.自分を罵倒。トシゾーが色々つっかかっていって戦闘開始。
 2.トシゾーにケンカ売る。結局早々と刀が抜かれ戦闘開始。
 (……戦闘は避けられんのかい!)
 自分の出した結果にツッコミを入れ、シンタローのほうを見る。
 どうやら掃除は終わったらしい。
 二人のいるちゃぶ台まで歩いて……。
 (あー、来る……かな)
 罵倒くらいですめばいいほうだと思いながら、気持ちを構える。
 俺様vs鬼の副長。
 元特戦部隊な家政夫に止めきれる自信は……ない。
「おい、リキッド」
 しかし、彼から発せられたのは意外な言葉だった。
「俺、外出るわ」
「……え?」
「ちゃんと昼飯支度しとけよ」と付け足しつつ、ドアまで歩き出そうとするシンタローの服の裾を、リキッドは無意識上に掴んだ。
「っ!! っ危ねぇだろーが!」
「何でっスか?!」
 よろけて転びそうになったシンタローのセリフを無視し、彼を見上げる。
 折角の彼と共にいられる時間が、減ってしまう、と。
 何だってそう乙女な考え方なのか。
「何でって……」
 それを聞かれるとは思っていなかったのだろう。
 ここでシンタローも、面倒だからだ、と言ってしまえばいいのだが、逃げているようで格好が悪いと思ったのか、トシゾーを一瞥し、またリキッドに視線を戻す。
 必死に目で訴えるその姿に、見なきゃ良かったと後悔することになったのだが……。
「……散歩だ散歩」
 いかにも「今考えました」と言うような答え。
 そんなものでリキッドが納得出来るはずもなく、それならばと言い返してくる。
「じゃあ……俺も行きます!」
「ああ? 何でてめぇがついてくんだよ。客の相手でもしてろ。そこの侍!」
「あ?」
 傍観していた身に、いきなり話題を振られて、トシゾーはとっさに反応できず、ただ聞き返す。
「てめぇの『親友』だろ。これは」
 ……彼の後ろで『これ』扱いに涙を流す家政夫一名。
「何とかしろ」
「命令調かよ、おめぇ……」
 青の一族の俺様気質に免疫のない人間としては、呆れるほどのセリフだ。
「だって、行きたいんですっ」
「てめぇなぁ……」
 文句を言いかけて、シンタローは言葉をため息に変えた。
 このまま続けても、どうせ平行線で意味がない。
 意外と頑固なのだ、このヤンキーは。
 そこまで強く断る理由も見当たらなかった。
「……勝手にしろ」
「……はいっ!」
 投げられた言葉を了承と受け取って、嬉しそうに返事をする様は、すっかり懐いた犬のようで、思わずシンタローの口元に笑みがこぼれそうになる。
 ……もちろん、リキッドにもトシゾーにも見えないように、だが。
「あの、トシさん」
「ああ。俺もナマモノの気配が消えたら出てく」
 リキッドの言葉を見越し、先に答えて、行って来いとばかりに右手を上げた。
 存在を忘れられていたかのような扱いだったが、そんな懐き振りを見せられて、一体他にどうしろというのだ。
「それじゃあ、行ってきます」
「おう」
 扉が閉じたのを見送って、トシゾーは重い空気に張りつめていた首をならす。
「結局、邪魔者は俺だった……ってことか?」
 誰もいない室内で、火のついていないタバコをくわえながら、彼は小さく呟いた。






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