「リキッド君何笑ってるのー?」
「変なのー」
二匹に言われて初めて気付く、微笑ましい光景を前に、頬の筋肉が大分緩んでる。
だって仕方ないじゃんよ。大好きなもん前にすると。
「あいつはいつもああだからなー、気にしなくていいぞ、二人とも」
「「はーい。」」
別にいつもへらへらしてるわけじゃないんっスけど……。まあそんな扱いにも慣れてしまったわけで。
気持ちがそのまま顔に現れる。
可愛いって言うか、ほのぼのって言うか……?
とにかく眺めてるだけで幸せな気分。
この人、自分じゃぜってぇ気付いてないだろうけど、パプワとか、チャッピーとか、この二匹とか相手にしてるとき(たまに、悲しい事に極たまーに俺にも)すげぇ柔らかい表情すんの。
普段、眉間に皺ばっか寄せてるせいか、そういう顔されると本当ヤバイ。
知らず知らずに口元は緩むし、顔は赤くなるし。
ここは耐えるんだ俺っ!
つーか、いつも耐えてるけどね!
……うぅっ、報われたいよパパ、ママ……。
「お前さ、構って欲しいのか?」
「え……?」
かけられたのが、何だか優しげな声のような気がするのは、気のせいじゃないですよね?
やっと俺の想いが通じたんでしょうか神様!
「エグチ君、ナカムラ君、この可哀相なファンシーヤンキーと遊んでやってくれねぇか?」
「「うん。わかったー」」
……そっちっスか。
いや、嬉しいと言えば嬉しいんですけどー……。
何か違わない? ねぇ?
「リキッド君遊んであげるー」
「遊ぼー」
「……そーだな」
胸キュンアニマルにまで憐れまれてる俺って何。
本当に構って欲しい人は、とっとと家事に戻ってしまった。
寂しい……。
「どーしたのー?」
「したのー?」
「ん、ああ、何でもないよ」
そう言って撫でてやると、二匹はくすぐったそうに笑った。
ああ、くそぅ! 癒されるなぁっ……!
胸キュンだよオイ!
俺の数少ない至福の時間ー!
「……お前、ナマモノ相手に犯罪は起こすなよ……?」
しません。
いくらなんでも……!
そうか。そういう風に見られてるわけか。
だいたい、ナマモノ相手に犯罪に走るほど、癒しに飢えてないっつーか……!
「シンタローさん相手ならまだしもっ……!」
「…………」
……あれ……?
「…………」
「…………」
あ……いや、今のは……その……。
口に出すつもりはなく――――。
言葉のあや……?
い、いやぁー、日本語って難しーなぁー。
「本当、リキッド君ってば、シンタローさんのこと見てばっかりだよねー」
「見てばっかー」
「なっ!! ふ、二人とも何ヲ言ッテイルノカナー?」
み、見てるとこは見てるもんだなぁ……。
でもね、そういうことは、分かってても本人の前で口に出しちゃいけませんよ?
ていうか、この状況で言わないで!!
空気読んで!
それとも読んだ上でこの仕打ち?!
「すげぇ片言になっとるぞ、ヤンキー」
「うおあっ!? き、急に後ろに立たないで下さいよっ!!」
だ、だだだ、だからっ! 心臓に悪いんですってば! そういう行動は!
分かってくださいよ、寿命縮みますから……。
いや、もう特戦時代とかで、充分寿命は縮んでるかなー……。
あ。俺、年とらないんだっけ?
「なぁ」
関係ないことを考え始めた俺の脳に、シンタローさんの声が響いた。
話し掛けられる声と共に、肩に手を置かれて、身体が硬直する。
掌の重さとか、体温とか、妙に意識しちまうし。
う、うわ、うわぁ、逃げたいっ! じゃないと理性が持たない!
「リキッド」
どうしてこういう時だけ、名前で呼ぶんっすかー! ひ、卑怯だっ……!
おどおどしつつ、首だけで振り返る。
……あれ?
その爽やかな笑顔は……。
どっかでみたような……?
「とりあえず、身の危険を感じるから、水でも浴びて頭冷やして来い、この馬鹿ヤンキー」
「……え?」
背中に強い衝撃を感じたと思ったら、次の瞬間には家の外に蹴り出されていた。
ついでと言わんばかりに、頭上にタライと大量の洗濯物が舞う。
洗って来い、ってことね……。
慣れてしまったそんな扱い。
「それにしても……」
直前のすごく爽やかな笑顔が頭から離れません。
ああ。そういえば、人を利用する時とか、相手に欠片の同情すら抱いてない時とか、ああゆう顔するよね。あの人。
それでも、その顔にすら赤くなる俺も俺。
……うん。頑張ろう。
とりあえず、頭冷やして洗濯っすか。
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