そういえば以前に、電磁波が収まらなかったことがあった。(お題7参照)
わかったのは、自分は結構危ない人間だということと、それでもこれがないと結構不安になるもんだなってことくらい。
けど、それはそれで収まったし、(原因は不明のままだったが)以来変わったことはない。
……そう俺には。
いつものように無意識に、(言わないでいるが、構って欲しくてわざとの時もあるけど、今回は本当に無意識に)お姑様の気に障ることをしてしまったのだろう俺に、シンタローさんの右手が上がった。
「飛んで来いっ、このボケヤンキー!」
ああ、眼魔砲がくる。
呟かれたと同時、これから来るであろう衝撃と、痛みを思って強く目を瞑った。
今日はまだ家事も残ってるし、早めに帰って来たいとか、着地はなるべく衝撃の少ないところがいいとか、やけに冷静に思ってる自分って……どうなんだろ。
……けれど、何秒経ってもそれは訪れなくて。
「……何?」
不審そうな声が聞こえる。それは俺が聞きたいです。
ともかく何も起こりそうもなくて、ゆっくり目を開けた。
「シンタローさん……?」
自分の右手を見つめたまま、動かないその人に、呼びかける。
……と。
「動くなっ」
再び右手を俺に向けて構えた。
その、顔面に向けるのは勘弁してください。
「……何、だ……?」
何も起きる気配がない。
念のため、というように、左手でも同じことを繰り返して……、やっぱり反応はない。
自身の手のひらをまじまじを見つめて、閉じたり開いたりを繰り返す。
子供の遊び歌みたいな感じ……うん、可愛い。
いやいや、そんな場合じゃなくて。
「……出ねぇ」
しばらくそうしていたかと思ったら、ポツリと一言呟いた。
「え……眼魔砲、が……っすか?」
何度掌を構えても、青白い光は生まれない。
ぐっと拳を握りこんで、バツが悪そうに顔を逸らした。
「どうして……」
未だ状況をよく飲み込めない俺の言葉に、シンタローさんは握った拳で答えた。
あ、危ね……! 舌噛むとこだった……!
「何で殴るんっすかー!」
「うるさい。とりあえずそれで勘弁してやる」
そういえば眼魔砲くらうところだったんだっけ?
いきなりは止めてくださいよ。
「それにしたって何で……」
「俺が知るかっ!」
知るかって……自分のことじゃないですか。
(別に眼魔砲くらいたいとか、そういうんじゃない)
一体何が原因で……。
俺なんかしたっけ……? いや、心当たりないしな。
それとも不埒な輩がシンタローさんに何かしたんじゃ……!
そう思ったらもう不安ばかりが上りつめる。
だって、シンタローさん結構抜けてるとこがあったりして心配じゃないか。
(たぶん言ったら怒るけど)
「そのっ、体に不調とかありません? 変なもの口にしたとか、変な奴になんかされたとか!」
すんませんっ! 俺が目を離したばっかりに……!
「……ねぇよ。変な奴なら今目の前にいるが?」
神様、愛が痛いです……。
「どうせ寝て起きたら戻るようなもんだろ」
お前の時みたいに、と付け足される。
そりゃ、この島に来てから多少のことじゃ驚かなくなったし、数々の不思議現象にも随分慣れてしまった。
「今度は俺の番か……」
もういい加減、振り回されるのにも疲れたと言わんばかりに、息をつき、瞼を閉じる。
寝て起きたらって……もう寝るんっすか。
まあ別に害があるわけでも……。
「「聞いちゃったわよ~」」
いや、あったよ。
しかもかなりの害。(って言ったら悪いけど、やっぱ害)
「眼魔砲が使えない今がチャンスよ! タンノちゃん!」
「もちろんよイトウちゃん! 今こそシンタローさんを私たちのものに……!」
厄介な二匹に聞かれてしまった。
まずいっ、眼魔砲が使えないシンタローさんじゃ……!
「「シンタローさぁん!!」」
「去れナマモノ共」
台詞と同時に、ベトコン仕込みのスパイクボールが二匹に炸裂する。
……眼魔砲が使えなくても何の心配もありませんでした。
家の床になんてもん仕込んでんだあんた。
俺か? まさか俺用なのか?!
「眼魔砲が使えねぇくらいで、俺に勝てると思ってんじゃねぇぞ?」
仰るとおりです。
俺も少しだけ、ほんの少しだけ色々考えましたけど……。
見本をありがとうナマモノ。実行に移さなくて大正解だ。
「おいヤンキー」
「へ……あっ、はい?!」
考えていたことが考えていたことだけに、呼びかけられて慌てる。
ば、ばれてない……よな?
「お前、今日一日俺の側にいろ」
…………は?
「えぇええっ?!!」
な、あ、なな何っ、今っ、この人……?!
う、うわぁ、絶対今顔赤い俺。
何ですかこの嬉しい不意打ち。
「喚くなアホ」
また殴るし……。
でもそのくらいのことで、さっきの一言が忘れられるはずもなく。
「えっ、あ、そのっ、さ、さっきのは……!」
あまりの出来事に、呂律さえも上手く回ってくれない。
しっかりしろ俺!
「ああいうのが来ると面倒だ」
言いながらドクドクと体液を流しながら横たわる二匹を指した。
未だか細い声でシンタローさんの名前を呟いている辺り、長年のしぶとさを感じる。
そういうことですか……。
いや、それでもいいです! 満足です!
言葉が何度も自分の中で反芻される。
どこまでも俺様だなとか、それでもかなり素直に言った方かとか、そんなことばかり考えてしまって。
いいように使われてるなとは、分かってるんだけど。
はい、幸せです。それはもうかなり。
「その内厄介なのも嗅ぎつけてきそうだしな」
……多分、というか……絶対あの祇園仮面のことだ。
確かにアイツは多少面倒かもしれないけど。
「あ、あのっ、俺、いても良いんですよね……?」
アナタの隣に。
「おう、いちいち邪魔されんのもうざってぇからよ」
邪魔って……。
何の?
「じゃ、俺は寝る」
昼寝の……?
そりゃさっき寝て起きたらとは言ってましたけど。
やっぱり寝るんですか。
……ずるい。
だいたいシンタローさんはいつも……。
「頼んだぜ?」
……ッ卑怯だ。
そんな上目遣いに見られて頼んだりとか、断れないじゃないですか。
ああ、もう。
それだけで、俺には充分な必殺技なんですよ。
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