--------------------------------------------------------------------------------
一方通行
--------------------------------------------------------------------------------
「んっ……」
声や仕草を見ているだけで、心不全にでもなったのかと思うくらい、デタラメに動く心臓。
収まってくれる気配なんてなくて、それどころか一層速くなるのを感じた。
爪跡つけちまったかもしれないほど、強くその肩を掴んでいた手を離す。
ああ、くそっ、震え止まんねぇ。
「…………んだよ」
手の甲で口を拭いながら、少し熱を持った目で、射るような目線が向けられる。
普段なら反射的に距離をとって、スンマセンとか言うんだけど。
「…………」
言葉なんて出てこない、俺はただ、口を覆って俯いた。
感触が甦ってくるようで、顔どころか体が熱くなる。
「…………」
目の前の人は無言でもう一度口を拭って、少しだけ残った唾液が手を汚した。
熱が冷めない。
交わしたとは言いがたい、一方的な口付け。
受け入れることも、拒絶も……何もなかったのが、余計に不安で、その手を掴む。
「…………」
何で……。
「……好きです」
もう何回そう言ったのか。
なのに、いつだってちゃんとした答えはなくて。
「シンタローさん……」
きっと、これからも答えてくれはしない。
「俺は、あなたが……」
言い聞かせるように言って、手を掴んだままその肩口に顔を埋めた。
少し速めの心音と、温かな体温を感じる。
「…………」
それでも無言で……。
喉の奥に何かが詰まった様な感じがして、泣きそうになる。
困らせるだけだとわかっていても。
「……リキッド」
随分時間を置いて、ようやく、名前が呼ばれた。
「その内に、帰るときがくるんだ。俺は」
そんなこと、知ってる。
いつか、ここからいなくなるのだと。
選んだ場所はここじゃないのだから。
あなたは帰ってしまう。
「それでも……」
それでも、想うくらいはいいでしょう?
伝えることを、許して欲しい。
今だけなんだ。言えるのは。
「好きなんですっ……」
END
--------------------------------------------------------------------------------
後書き
お題その六。
きっと、今だけだからということで。
最近リキシン書いてるなぁ……リキ→シンでなく。
(お題は一方通行なんだからリキ→シンのほうがいいのでは…)
2004(June)
--------------------------------------------------------------------------------
Back
Powered by FC2.com
PR