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ks

キンシン祭り!!  
KILL LOVE 記念SS    *10月11日にworks部屋に移動しました。



ここにいて




ふと本から目線を上げると、珍しくソファでうとうとしている金髪の従兄弟が目に入った。
時計を見ると、夜の12時を回っている。
いつの間にか話の展開に夢中になってしまったらしい。
最近小説など読む時間もめっきり減ってしまっていたが、この間偶然本屋で手に取った短編集がおもしろかったので、同じ作家の長編を買い部屋に帰ってくると早速読んでいたのだった。
3分の1くらい読んだところで、キンタローがやってきた。
今日は研究会に行って遅くなるはずだったが、どうやら会の後にいつも開かれている飲み会は辞退して帰ってきたらしかった。
シンタローは彼が帰って来たのなら続きは後にしようと思って栞を挟んだが、キンタローは自分も読まなくてはいけない本があるから、と言ってそれを制した。
どうやら研究会で次回使う論文を読まなくてはならないらしく、それならと2人で読書の時間となったのだったが。


疲れてしまったのだろう。
手からたくさん付箋がついた論文集が滑り落ちてしまいそうになっている。
そっとその手から論文集を取ると、今まで開いていたところにペンを挟んでテーブルの上に置いてやった。
しかし、ソファに座ったまま寝ていると疲れがとれない。
明日も仕事があるし、ベッドに連れて行った方がいいだろうと思ったが、同じ背格好の大の男を起こさないように抱え上げるのは至難の業だった。
仕方なく起こそうとして覗き込むが、その安らかで端正な寝顔にしばらく見入ってしまった。


始めて会った時は長かった金色の髪は耳の下の辺りまで切ってしまったが、俯いていたたため長く残された前髪が顔の上半分を覆ってしまっていた。
そっと髪をかき上げると、父親のルーザー似というよりは伯父のマジック似の凛々しい、形のいい眉毛が現れる。
いつもは気難しそうに寄せられているそれも、今は穏やかだった。
閉じられたまぶたを飾る睫は金色で、自分のものよりもかなり長い。
唇は自分のと似ている、とシンタローは思った。
あまり間近でじっくりと顔を眺める機会などなかったな、と思いつつ、ふと、自分にはやっぱり似ていないな、と思う。
時折、息があまりにも合うためか、考え方が似ている部分があるのか、雰囲気なのかわからないが、双子のようだと称されることがある。
確かに、24年間も一緒の体に入っていたんだからそういうこともあるかもしれない。
でも、姿形はやっぱりグンマやマジックの方がよっぽど似ている。


(オレが本当に一族の人間だったら、こんな顔だったんだろうか)


不意に、普段極力考えないようにしている暗い思いに囚われそうになり、大きく頭を振った。
今更考えても仕方の無いことを、時々考えそうになる。
その度に自己嫌悪に陥り、闇色をした何かに押し潰されるような、誰にも言えない不安と恐怖に苛まれる。
幼い頃から、父親や一族の人間とは明らかに違う髪の色、瞳、顔立ちに劣等感を持っていた。
本当はマジックの血を引いていないのではないかとか、引いているとしても一族の人間として出来損ないだ、と皆が言っているような気がして。
周囲の視線が痛くて。
マジックは黒髪も黒い瞳も、この肌の色もこの顔も好きだ、母親譲りだ、と言い続けてくれたけど、実はその全てが、自分のものではなかった。
母親も何も関係がない、赤の番人ジャンそっくりに作られたのだという、残酷な事実。
そして、青の番人の「影」という、無慈悲な創造主の思惑から作り出された目くらまし。
人はオンリーワンだから大切なのだという言葉がある。
でも、自分にとっては全く慰めにも何にもならない言葉だった。


急に動悸がすることに気づいて、シンタローは思わず胸を抑えた。
まずい。
冷や汗が出て、呼吸さえするのが苦しくなって、口を押さえてわめきちらしたいような気持ちを抑える。
キンタローの髪から手を外し、しゃがみこんだまま床に手をついた。
そうしないと、脚ががくがくと震えて尻餅をついてしまいそうだった。
やめろ。
キンタローが起きちまうだろ。
そしたらきっとキンタローのことだからどうした、って聞いて慰めようとしてくるだろ。
今は、だめだ。
それだけは。


目を思い切り瞑って、その発作のような動悸をやり過ごそうとする。
もし、とか考えるな。
もっと前向きに、これからのことを考えればいい。
もっと考えるべきことはたくさんある。
しかし、どくり、どくりと心臓は痛いほど跳ねて、まるで自分のものではないかのようだった。
ジャンの心臓が、抵抗してるのか?
オレが、青の番人の・・・影だから?
オレは、オレは、また、いつか、この体から出て行かなくてはいけないのか・・・?
そしてまた、別の体に宿って、他人の人生を奪うのか?
それならいっそ、シンタローという魂が消えてしまえば・・・、未来永劫、罪悪感に苦しまなくて済むのかもしれない・・・。


「・・・シンタロー・・・!!?」
切羽詰った声が、頭上から聞こえた。
顔を上げるのもつらくて、口を押さえたまま下を向いていると、キンタローが飛び起きて片膝をついて覗き込んだ。
「どうした!具合でも悪いのか!?」
心の底から心配そうにキンタローが震える肩を抱いた。
「立てるか?」
胸の痛みと息苦しさに全く返事が出来ないでいると、キンタローは「少し我慢してくれ」と言い、脇と膝裏に腕をいれシンタローの体を抱き上げた。
そのまま大股で寝室に運ぶと、ゆっくりとベッドに横たえた。
「医者を呼んでくるか?」
毛布をかけながら、キンタローが伺う。
シンタローは、ゆっくりと首を横に振った。
「―」
かすれて、よく声が出ない。
ちゃんと発声したつもりなのに、きちんと言葉になっていないようだった。
キンタローが長身を屈めて、口元に耳を寄せてくれた。
もう一度言うと、キンタローは「わかった」と安心させるように微笑んだ。
キンタローは自分のハンカチを取り出して、額や首の汗を拭いてくれた。
思わずその手をとって少し引き寄せると、わずかに頷いてシンタローの脇に添い寝してくれた。


子どもの頃はマジックが遠征に行って家にいなかったのが寂しくて、家にいるときはよく一緒に寝てくれとせがんでいた。
また怖い夢を見て一人で眠れないときは、マジックのベッドに行って一緒に寝てもらっていた。
その記憶がぼんやりとあるキンタローは、きっと従兄弟は眠るまで側にいて欲しいのだとすぐに察した。
キンタローはまるで親が子どもにするように、シンタローをそっと腕の中に包んだ。
そして背中をゆっくりとさすってくれた。
その温かさが心地よくて、暴れていた心臓は徐々に落ち着きを取り戻していく。
呼吸も落ち着き、青ざめていた頬にも血の気が戻るのが分かった。
「悪ィ・・・」
上目遣いに失態を詫びるが、その声は自分が思っていたより弱々しかった。
キンタローは心配そうに見つめたが、やがてシンタローの額に唇を落とした。
まるで彼の唇が触れた場所からシンタローを労わる気持ちが伝わってくるようだった。
「シンタロー・・・。愛している」
唇を離すと、まっすぐに目を見つめて言ったキンタローの言葉が、緩むのをこらえていた涙腺を溶かした。


ガキだな、オレは。
まるで、言って欲しかったみたいじゃねぇか。
自分の浅ましさにまた自己嫌悪に陥りそうになったが、溢れる涙を止めることはできなかった。
「愛してる」
表向きは科学者らしい合理的な性格をしているはずの彼が、愛という言葉を囁く時の、なんと情熱的なことか。
その熱さが、冷たい心の闇を溶かすかもしれない。
もう1人で、抱え込むな。
耳元で囁かれた言葉が胸に染みて、シンタローは子どものように声を上げて泣いた。


end

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