忍者ブログ
* admin *
[39]  [40]  [41]  [42]  [43]  [44]  [45]  [46]  [47
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

cx
「終わった終わった」
 今日も一日働いて、ようやく帰宅となったシンタローは、リビングルームに入るとバサッ、と重苦しいジャケットを脱ぎ捨てた。上手く、ソファーの背もたれにかかったそれにはもう視線をそらし、ポケットからがさこごとタバコを引っ張り出すと、反射的に開いていた口に放り込み咥え、火をつけた。

 ポッ。

 灯る明かりと同時に、深呼吸するように、それを吸い込む。
 煙が喉から肺へと行き渡り、一回転したぐらいで、再び吐き出した。
 紫煙がゆるゆると天へ上る。ぼぉと緩んだ表情でそれを見つめ、テーブルの上に置かれてあった灰皿を片手に、リビングの床に行儀悪くべたりと座り込んだ。
 ソファーはもちろんあるのだが、すでに先客が床の方に座っていたので、そちらにする。
 その行動に、すでにいた先客はちらりとこちらに視線を走らせた。
 けれど、何も言わない。
 手には、厚い書類の束があって、視線はすぐそちらに戻っていた。
(仕事か?)
 自分の分の仕事は、全て片付けてきた。
 今日は、相手は、研究室の方へ顔を出していたから、たぶん手にしているそれも、それ関係のものだろう。
(俺には、家にまで仕事を持ち帰るなって怒るくせに、自分はいいわけね)
 もちろんそれは自分の身体を気遣っての言葉だと知っているけれど、こちらだって相手を心配するのだということは分かっているのだろうか。
 先客に視線を向けたシンタローは、そんなことを思いつつ、子供のように少し拗ねたような顔をして、彼の後ろを陣取った。
 文句はいいたいが、とりあえずそのまま、ゆっくりとその背を相手の方へと傾けた。
「疲れたぁ~」
 間の抜けた声を出し、相手の背中に乗りかかる。
 自分の体は決して軽いものではない。
 けれど、相手は、しっかりとその重みを受け止めてくれた。
 分かっているから、安心して預けられる。
「お疲れ様」
 そうして返してくれた律儀な返事に、口に咥えていたタバコをはずし、ニヤリと笑みを浮かべる。
「ああ、そっちもお疲れ」
 言葉を投げかけ、シンタローは、タバコを灰皿の上でもみ消した。
 それを察したように、相手の背中がこちらの背中を押して、その反動とともに、こちらを振り返った。
 シンタローも同じタイミングで振り返る。
 不思議なことに、そう言うところは互いに決してはずさない。
 互いに好きな道を歩いているのに、それでもタイミングよく交差し、その点で丁度出会う―――そんな感じで。
 視線がひたりと合わされた。

「お帰り」
「ただいま」

 当然のようにいつもの挨拶を互いに告げて。
 当然のように顔を寄せ合って。
 当然のように唇に触れ。
 当然のようにキスを交わした。






 ―――――けど、キスするタイミングがいつも同じだというのも考えものか?

PR
sdf

「空っぽなんだろうか…」
 そう呟く視線の先には、自分の従兄弟がいた。
 彼を従兄弟と称することに慣れたのはつい最近のことだけれど、そのポジションを得た男が、それに気付いたのか、落としていた青の瞳をこちらに向けた。
「何がだ?」
 自分の質問の意味が理解できないという表情を素直に顔に出している従兄弟を、じっくりと観察するように眺め、シンタローは唇の端を舐めた。
(空っぽだったらおかしいよなあ)
 さっきまで相手のど真ん中に向けていた視線を空中にほうり投げて、くるりと一回転させる。
 ついでに首もくいっと曲げて、
「もう詰まってるんだろうな」
 そう結論つけてみる。
(ふむ。それが当たり前だろう)
 空っぽのはずがない。
 それならば、相手が黙っているはずがないのだ。 
「……一体何の話だ?」
 その相手は、先ほどから不可思議な言葉をぽんぽんと飛び出させる黒髪の従兄弟に、眉間に皺を寄せ、唇を曲げていた。
 相手の考えが分からないことに苛立っているのだ。
 当然のことだけれど、自分もそうだが、相手もこちらの考えをある程度読み取ることができる。
 同じような物の考えをしているせいだけれど、だからこそ、こういう意思の疎通が出来てないと、金髪の従兄弟殿は、特に不機嫌そうな面になる。
 こちらの考えてることなどわかって当然だという自信をもっているのだから、仕方ない。
 その自信の持ち方に、少しばかり呆れも入ってしまうのだけれど、実際、相手はこちらの考えなどお見通しで、先回りもできる頭脳をもっているおかげで、相手の度肝を抜くなどということは、めったにできないのだけれど、どうやら、今の時点では、それに近いものが出来ているのだろう。
 自然と生まれた笑みは、ニヤリと音立てそうなほど意地の悪いもので、その笑みに、さらに相手が、むっとしたのは放っておいて、
「だから、その中にあった空間は、もう空っぽじゃないだろな、ってことを言ってたんだよ」
 相手の胸の辺りを指差して、肩をすくめて見せた。
「はあ? ――――悪い、シンタロー。俺には、何がなんだか理解できないのだが」
「そうか?」
(頭がいいくせに、想像力が足りん奴だな)
 空っぽは、空っぽだ。
 キンタローの中にある空っぽかもしれない部分といえば、あそこだろう。
「いや、その体って前に俺が使っていたじゃねぇか」
「ああ」
「んでもって、お前は、その中にいただろ?」
「ああ」
「で、俺の代わりにお前がその体を使い始めたんだよな」
「ああ。……シンタロー何がいいたいんだ?」
 まだ、分からないのだろうか。
 困惑気味な表情となってしまった従兄弟に、軽く唇をとがらせる。
「だからさ。元々お前がいた場所っていうのは、空っぽのまま放置されているのかな、って思ったんだよ」
 今のキンタローの身体に自分がいた時は、は気づかなかったが、中にはキンタローという存在がちゃんといて、身体の中の幾分かを占めていたのだ。
 けれど、自分はそこから追い出され、キンタローは、元々自分がいた場所へと出てきてしまった。
 だが、それならば、元いた場所はどうなっているのだろう。
 そんなことをついさっき思いついてしまったのだ。
「――――そう言うことか」
 ようやく納得したと頷いてくれる相手に、こちらは身を乗り出す勢いで、すかさず尋ねた。
「そう言うこと。で、どうなんだ?」
「どう、とは?」
「空っぽか?」
 興味深々という眼差しで、相手を見つめていたのに、出てきた答えは、あまりにもつまらないものだった。
 淡々とした声音で、相手は告げる。
「いや、消えてる」
「消えてる?」
「ないぞ、もう。そんな空間は」
「少しも?」
「少しも」
「ちっとも?」
「ちっとも」
「まったく?」
「まったくだ」
「あっ、そう」
「そう」
「ふ~ん」
(そういうもんなんだ)
 疑問が解決したら、とたんにくだらないものに時間を費やしてしまったと思えてくる。 
 別にたいして悩んでいたわけでもないし、聞きたかったことでもない。ただ、思いついたことだから、答えが得られたとたん、一抹の寂寥感を感じてしまう。
 あっさりと消えてしまった疑問に、心の中にぽっかりと生まれた空間。
「今度は、俺の中に空っぽが生まれたじゃねぇかよ」
 溜息まじりでそうぼやけば、呆れた顔をしたキンタローが、こちらを睨む。
「馬鹿なことを言ってないで、仕事をしろ。いいか、くだらない質問をせずに、真面目に仕事に専念してくれ」
「二度言うなっ! わーってるから」
 まったくつまらないことに時間を費やしてしまった。
 ガリガリと頭を掻いて、仕事へと眼を向ける。
 現実は、目の前に埋まっている。

 空っぽ。
 空っぽ。

 この机の上に盛り上がった書類が全部空っぽだったら、どれだけ楽か。



 ――――――現実はそんなに甘くはありませんってか?

fsf
15.偶然






最近全然会っていない。
誰にかと言うとキンタローにだ。

俺の遠征には大抵くっついてくるキンタローだが、今回は研究会と重なってしまい其方の方へ行ってしまった。
キンタローは俺の補佐を勤めてるとはいえ、一人の研究員だ。
どちらかと言えば補佐の方が副業なわけだから、そっちを優先したところで俺はとやかく言うつもりはない。
別にガキじゃねーんだし、数日会えないくらいで『寂しい』と思うつもりもなかった。


しかしだ。
会えない日が、二週間ともなると話が変わってくる。


当初研究会が終われば、俺の後を追うと言っていたキンタローだが、突然それが出来なくなった。
プログラムにバグが出たとか言って、結局キンタローは本部に留まることになってしまったのだ。

仕方のないことだから別にいいかと、俺だって最初は思っていた。
どうせもう少しで自分も本部に戻るのだ。
帰ったらきっと疲れているであろうキンタローの為に、美味い食事でも作ってやるかと意気込んでもいたんだ。

だが――。

帰ろうとした矢先に、取引先の相手に引き止められる事になってしまった。
理由は『五日後にある祭りを是非見て行って欲しい』というものだった。
勿論俺は角が立たないようにやんわりと断りを入れてみた。
しかし相手側は、世話になった礼にどうしてもその祭りを楽しんで貰いたいのだと言って聞かなかった。
どうやらその祭りは五年に一度しかない祭りらしく、『是非』と懇願されて――俺は折れてしまった。

取引先の頭領とも言える男には小さな子供がいて、何故かその子供に気に入られてしまった俺は、その子供からも『一緒にお祭りを見ようよぅ』と言われて、断る事が出来なくなってしまった。
何故ならその子供は、未だ眠り続ける大切な弟と同じくらいの年齢で――俺はどうしてもその子供の望みを叶えてやりたいと思ってしまったのだ。



まぁ、そんなわけで――…。
一週間だった滞在が、それに五日増え、それプラス本部までの往復日数を足すと丁度二週間になってしまった。

南国のあの島から戻ってきて、これだけの間キンタローと離れていたことは初めてだった。
まだ打ち解けていない時ですら、気付けば視界に入ってきていたキンタローに二週間も会っていない。
そのせいもあり、俺は滞在している間にしょっちゅうキンタローの事を思い出していた。

是非にと言われて見た祭りは、言われるだけあって素晴らしい物だった。
温かな子供の手を引いて、色々な所を歩き回るのは楽しかった。
でもそんな中でも思うのはキンタローのことばかりで――。

キンタローと見て廻りたかった。
キンタローにも見せたかった。

そんな思いばかりが胸の中にモヤを作っていた。
とにかく俺は自分でもよくわからないが、キンタローがいないと何かが足りない気がして落ち着かないのだ。
当たり前のように傍にいたヤツがいないのはすっきりしない。

――俺ってこんなヤツだったか?

そう思ってもおかしくないくらい、キンタローのことばかり考えていた。
だから帰りの艦の中でも、『もっとスピード出せ』などと無茶な事を言ってどん太を困らせてしまった。



「シンタロー総帥に敬礼」

本部到着後。
いつも通り大袈裟な人数での出迎えに、内心呆れながらも隊員達に目を走らせて見るが、案の定その中にキンタローの姿はなかった。
『お疲れ様です』と出迎えたティラミスにそれとなく聞いてみると、どうやら研究室にほぼ缶詰状態でいるらしいことがわかった。

一目でも見れば多分すっきりするだろうから、すぐにでも研究室の方へ足を向けたかったが、自分は総帥である以上帰ってくるなり好き勝手な行動を取るわけにはいかない。
とりあえず片付けるものを片付けてしまわないと、自由になれない。
ならばさっさと片付けるまでだと、俺はひっそりと溜息を付いて総帥室へと向かった――。



+++



「シンタロー様、本日はお疲れでしょうからもうお休みになられては?」

チョコレートロマンスに声をかけられて、時計を見ると時刻は既に二十時を回っていた。
帰ってきたのが夕方だったから、五時間近く書類に集中していたらしい。
ちょっとのつもりだったのにとんだ誤算だ。

「…そうだな、今日は止めにすっか」

ん、と背伸びをして席を立つ。
途中でコーヒーを何度か飲んだが、流石にそれだけで腹が膨らむ筈もなく、俺の腹は空腹を訴えていた。
…今から作るか?
そう思って、それも面倒だなと思い直す。
一人で作って食っても美味くないことはよくわかっている。

「そーいやキンタローはメシ食ったのか?」
ふと思う。
缶詰状態だと聞いたから、きっとグンマや他の研究員達が差し入れの一つや二つしているだろうが、キンタローは熱中すると周りが見えなくなり、食事をしないことがざらにある。
いつもであれば、それに気付いた自分が何か作って持って行き、無理矢理にでも口に入れるのだが、今回は離れていたのでそれが出来なかった。
「…ちゃんと生きてるだろーな」
急に不安になる。
「…様子、見てみるか…」
予定よりも大幅に会いに行く時間がずれてしまったが、顔を見るくらいならば邪魔にならないだろう。
そう思って俺は一族の住居地区とは逆の方向に向かって歩き出した。


キンタローに会ったらとりあえず『ただいま』を言おう。
アイツはそういう挨拶をやけに気にするから。
そうすれば絶対に『おかえり』と返してくれる。

自分の『ただいま』を言う相手がキンタローであることが嬉しい。
早く『おかえり』と言って欲しい。
そうすれば会えなかった二週間の隙間があっという間に埋まるだろうから。

(――なんか俺、恥ずかしくねェ?)

なんでたった一人の人間に会おうとしているだけで、こんなにわくわくしているのだろう?
この感覚は、昔遠征に行った父親が帰って来る時に感じていたものに似ている。
自分にとって大切な人に、久しぶりに会える喜び。
会う寸前まで胸が高鳴る楽しい時間。

(…ま、いっか)

会いたいのは本心だし。
会えなくて落ち着かなかったのも本心だし。
…本当は帰ってきて一番に会いたかったという想いも本心だ。

『ただいま』と言って『おかえり』と言ってもらって『いつも通り』に戻りたい。

「俺の帰る場所だからな!」
『うん』と、自分に納得させるようにして深く頷いた。
見慣れた通路を歩き、研究室に直行しているエレベータへと足を運ぶ。
この通路を左に曲がれば目的地だ。

と、そこへ――。

ピンポーン♪
エレベータの止まる音が聞こえた。
本部の堅苦しいイメージに不似合いなその音は、ヤメロと言ったのにグンマが無理矢理設定したものだ。

(研究員か?)

研究室から直行のエレベーターだから、おそらく研究員の誰かだろう。
ついでだ、そいつが降りたらそれに乗ってキンタローに会いに行こう。
そう思って誰かが降りてくるのを待つ。
と言っても、エレベーターを降りた瞬間に総帥が立っていれば、いくら団員とは言え一般の研究員には刺激が大きすぎるだろうから、その事を考慮して通路の端から俺はこっそり覗き見している。

――正直な話、ただ俺自身が疲れていて、誰かと話すのが億劫なだけだったりするが。

シュン――エレベーターの扉が開いた。
中から人影が現れる。

「――!!」

俺は思わず目を見開いた。
何故ならエレベーターから出て来た人物が、会いに来たその人であったからだ。

キンタロー、そう呼ぼうとして思い止まる。

久しぶりに見たキンタローは少しだけやつれているようだった。
やはり食事をきちんと取っていないのだろう。おそらく睡眠も。
俺が同じ事をしていると物凄く怒るのに、勝手なヤツだと思う。
だが、それよりも――。


(すげーな!マジで偶然ってあるもんだ!!)


まるで示し合わせたかのように、キンタローに会えた事が嬉しい。
一目見れただけで、心のモヤが一瞬にして晴れてしまった。
ずっと会いたかった自分の半身。

自分の事ながら現金だと思ってしまう。
それでも会えたことがやはり嬉しくて。



「キンタロー、偶然だなッ!今から戻んのか?だったら一緒に帰ろうゼ!!」



俺は自分でも驚く程に明るい声を出して、意気揚々とキンタローの元へと駆け寄った――。






END


2006.10.23

…むー…イマイチ消化不良…(苦笑)。
UPしようかどうか悩みましたが、最近更新出来ていないのでとりあえず…。
いつか修正したいなぁと思いつつ…。

fs
9.おそろい  ※『2.初めての』の後日談です。






――時々アイツが何を考えているのか、本当に分からなくなる時がある。



ピアス騒動から二週間程経ったある日のことだった。

ピアスの変わりだと渡された箱を、表面には出さずに内心喜びながら開けた。
紙の箱を開けると中からもう一つ箱が出てきた。
ビロード調の白い布が張り込んである上品な箱だ。
ピアスの時の箱とは違い、随分と重厚な感じになっているその箱を見て、ピアスよりも高いものを買ってきたんだと思った。

(別に安モンだっていーのに)

キンタローから貰えるものなら、自分は何でも喜んで受け取る自信があった。
自分の為にキンタローが用意したものなのだから、それがどんなものだって嬉しいのだ。

俺はどこかワクワクしながら箱に手を添えた。
ピアスの時でキンタローのセンスが良いことは分かったから、今度はどんなものなのだろうと期待もあったのかもしれない。


――ぱか。

良い音がして蓋が開く。



そして中に入っていた物を見て――俺は固まった。



入っていたのは、中にダイヤが埋め込まれている綺麗なプラチナリングだったのだ。



「良いデザインだろう。お前には絶対に似合う」

悪びれもなくキンタローが真顔でそう言ってくる。

「………」


そんなキンタローの意見には返事を返さずに、俺は黙り込んだ。
機嫌の良さそうな顔のキンタローとは逆に、俺の頭の上に暗雲が立ち込め始める。


確かにデザインは良い。
そして埋め込まれているダイヤが安物ではないことも分かる。


しかし――。
しかし、だ!!!
これはどう見ても――…。


その事実を受け止め難く、わなわなと肩が震える俺に気付きもしないで、キンタローはさらに衝撃的な事を告げてきた。


「どうやらこれはペアリングらしい。だから俺も同じものを持っている」


ゴ――ン。

決定打。


「……キンタロー……」
「何だ?」
「お前…コレ買う時何て言って買った…?」

思わず声が低くなってしまう。

「特に何も。ピアスと交換してくれとは言ったがな。――あぁ、丁度ピアスを買った次の日からフェアが始まっていたらしくて、コレが必要だったのなら先に聞いておけば良かったと言われた」
「…そのフェアのタイトルは?」


駄目だ――声が震える。
落ち着け…落ち着け俺ッ!!!


「ああそういえば見てなかったな。ただ――」
「『ただ』?」
「サイズを聞かれて、両方同じでいいと答えたら妙に変な顔をされた」
「―――――ッツ!!」


よく見ると、リングの内側には俺の名前が彫ってある。
そして見せなくてもいいのに、キンタローが自分の分だと言って見せてきたキンタローのリングには、勿論の事キンタローの名前が彫ってあった。



――はっはっは!

そりゃー、店員も妙な顔くらいするだろーナ!

同じサイズだと言われてどんなデカイ女だよ!?と思えば男の名前を言われてよ!


しかもコイツ、その店員にご丁寧に名刺を渡してきたらしい。
『ガンマ団』のネーム入りの名刺をな。


『キンタロー』も『シンタロー』もそうそうよくある名前じゃない。
しかも泣く子も黙ると言われているガンマ団の人間で、その名前と言えば当てはまるのは一人ずつしかいないことくらい、一般人でも分かるだろう。


こりゃー吃驚☆だ!!!

ガンマ団の総帥様ったら、男相手に凄いもの贈られちゃってるネ♪あっはっは!!




ブチン!!


――俺の中の何かがブチ切れた。




「こォの馬鹿キンタローーーッ!!!間違いなくエンゲージリングじゃねーかーーーーッ!!!」





団内に悲痛な叫びが響き渡る中、当のキンタローだけが「何だそれは?」という顔をしていて――。





酷く泣きたくなった俺を、その場に居たティラミスが温かい(哀れむとも言う)目で見ていた…。






END


2006.05.07
2006.08.21サイトUP

ds
6.ケンカ  ※『5.約束』の続きです。






お互いがお互いを気にしてるのに、どうしてそれを見せないのかな?

言葉にするとか、態度に表すとか――凄く簡単なことだと僕は思うんだけどな。



+++



「グンマー、仕方がねぇから差し入れに来てやったゾ」

シュン、と自動ドアが開いて、赤い総帥服を着た俺様なシンちゃんが現れた。
真っ白な箱を片手に、研究室内をキョロキョロと見渡してる。
「シンちゃんありがと~~vv」
箱の中身が間違いなくリクエストしたものだと確信している僕は、これでもかというくらいの笑顔でシンちゃんを出迎えた。
「何か相変わらずごちゃごちゃしてんなココ。ちゃんと掃除してんのかよ?」
色々な資料や機具が散乱しているのはいつものことで、シンちゃんは研究室に来るたびに必ず今の言葉を口にする。シンちゃんはもともと綺麗好きだし片付け魔だから、どうやらこの散らかりまくっている研究室の状態が気に入らないらしい。
「あはは~、してるヨ!その為にちゃんとお掃除用具買ったんだし」
本当はお掃除ロボットを開発したかったんだけど、皆で反対するもんだから作れなかったんだ。
「…それはあの片隅で埃を被っているもののことか?」
シンちゃんが部屋の隅っこを指差した。
「え~と、一ヶ月前くらいに…した、かな?」
「…その後はしてねぇのかよ!?」
――汚ねェ!!とシンちゃんはあからさまに嫌そうな顔をした。
「そ、それよりも!シンちゃんの差し入れ、早く食べたいなぁ~v」
これ以上突っ込まれないように話を誤魔化して手を差し出すと、シンちゃんは「ああ」と言って箱を手渡してくれた。
「わ~~いvプリンだ~~~ッvvvありがとうシンちゃん!大好きッvvv」
早速箱を開けて、中身がリクエスト通りな事を確認して喜んだ。
「もっと人数居んのかと思って多めに作ったんだけどな」
「うん、今日はね皆出払ってて少ないんだ~。いいよ、僕が全部食べるから」
「ばーか、太んぞ。二、三個にしとけ。後は持って帰ってコージ達にでもやるよ」
確か今日の夕方に戻ってくる筈…と、シンちゃんが言うのに対してすぐに反論した。
「えー、じゃあキンちゃんと半分こするから全部置いて行ってよ~」
「ばーか、お前しかいねーじゃん」
何処にキンタローが居んだよと、シンちゃんが僕を睨んだ。
「え?居るよキンちゃん。ホラ」
沢山の本の山に埋もれるようにして座っているキンちゃんに、シンちゃんは気付いていなかったようで。
僕が指差した方を見て、少し驚いていた。
「なんだ…居たのかよ」
ボソっと呟いたシンちゃんの声に、キンちゃんが反応した。
「俺は此処の研究員だ。居て何が悪い」
「別に悪いなんて――」
ジロリとシンちゃんを一睨みした後、すぐに本に視線を戻してしまったキンちゃんに、シンちゃんは困ったような顔をして、言おうとした言葉を飲み込んだ。
「キンちゃん、シンちゃんが差し入れ持ってきてくれたよ。一緒に食べようよ」
室内に気まずい空気が流れてしまい、僕はそれを何とかする為に殊更明るい声でキンちゃんを誘った。
でもキンちゃんからの答えはある程度予想できていたもので――。

「後でいい」

此方の方を見向きもしないでそう言ったっきり、邪魔するなと言わんばかりの顔をして本に意識を戻してしまった。
「あ――…グンマ」
「…なに?」
シンちゃんはそんなキンちゃんに怒るわけでもなく、ポリポリと頭を掻いて溜息を一つ零して――。
「俺、戻るわ。…邪魔して悪かったナ」
何処か寂しそうな目を見せながら苦笑いした。
「シンちゃん…」
一緒に食べていかないの?とは聞けなかった。
シンちゃんが傷付いているのが分かったから。
本当は差し入れは口実で、キンちゃんと少しでも喋れたらと思って来たに違いないシンちゃんに、キンちゃんのとった態度はあまりにも冷たくて――歩み寄る隙すらもないと諦めてしまっている。
「じゃ、な」
「あ…」
何か言葉をかけなくちゃと、思案していた僕を置いてシンちゃんはあっさりと部屋を出て行った。
持って帰ると言っていたプリンは全て置いたまま――。
「シンちゃん…」
僕は溜息を付いた。
折角お喋りする機会を作れたと思っていたのに、それが失敗に終わってしまった。
それどころかシンちゃんに哀しい顔をさせてしまった。
喧嘩どころか会話の余地すらない――これは全く持って不本意な事だ。

(どうしたら二人とも仲良くしてくれるかなー…って言うか、キンちゃんが見るからにシンちゃんを警戒してるんだよね。…ほんとはすっごく気にしてるくせに…)

――本当にどうしよう?
そう思っていた時だった。

「グンマ」
「ほぇッ!?」

不意に声をかけられて驚いて顔を上げれば、先ほどシンちゃんを睨んだ時以上の不機嫌さを面に出しているキンちゃんが、いつの間にか目の前に立っていた。
「キ、キンちゃんいつの間に…」
気配を待ったく感じていなかったせいか、心臓がバクバク言っている。
対するキンちゃんはとても真面目な深刻そうな顔で、言い難そうに一言呟いた。

「お前に聞きたいことがある」と。

「…聞きたいこと?」
いきなりどうしたの?と此方から聞くよりも先に、キンちゃんは答えた。


「お前はどうして簡単に『好き』と口に出せるんだ?」

「――へ?」


キンちゃんの思わぬ言葉に、僕は固まってしまった。
「…キンちゃん?」
ゆっくりと顔を上げてまじまじとキンちゃんの顔色を伺うと、質問をしたキンちゃんの瞳はどこか苦しげで、僕に縋っているようにも見えた。
あまりにもらしくないキンちゃんのその瞳に、先ほどシンちゃんの寂しそうな顔が浮かんできて――慌てて首を振った。
なんとか安心さえてあげたくて、僕は「あのね」と言ってニコリと微笑んだ。

「『好き』って言って貰えるとキンちゃんは嬉しくない?」
「…それは…」
僕の問いかけにキンちゃんは眉を寄せながらも、戸惑った様子で頷いた。
「シンちゃんに『大好き』って言っても、シンちゃんは僕にスキってって言ってくれないよ。でも、シンちゃんが僕の事を好きでいてくれてるのは分かってるんだ…シンちゃん照れ屋さんだから」
「…!」
あえてシンちゃんの名前を出すと、キンちゃんの目付きが変わった。
ポーカーフェイスをしているつもりなんだろうけど、シンちゃんが関わるとキンちゃんのそれは見事に崩れてしまう。

「確かに何も言わなくても伝わることもあるよね。そういう言葉が苦手な人だっているし。でも僕は口にするのが好きだから。――だから好きな人には好きって言うようにしてるだけだよ」
そう言って笑顔をキンちゃんに向けると、キンちゃんの顔が困惑していた。
何かを考えているように難しい顔をするキンちゃんに苦笑する。
「ねぇキンちゃん、言葉は別に惜しむ必要なんてないって思わない?」

確かにそれが苦手な人はいるけれど。
確かにそれを聞かなくても分かってくれる人はいるけれど。
中にはそうじゃない人もいるから。
言わないままで誤解されるより、言って気持ちを分かって貰えるほうがいいでしょ?

「―――…」
僕の言葉にキンちゃんは何かを感じたらしい。
すっかりと押し黙ってしまった。

多分――いや、おそらく絶対、今キンちゃんの頭の中はシンちゃんのことでいっぱいなんだろう。
先程の冷たい態度も、きっとどうしたらいいのかわからなかっただけなのだ。
それを証拠に、シンちゃんの名前に反応を示し――僕が『大好き』と言った事をとても気にしている。
誰よりも気にしている存在なのに、お互いがお互いをどう扱ったらいいのか分からずに、ひどく回りくどい事ばかりしている。

キンちゃんとシンちゃんは本当に似たもの同士で、それが少し羨ましい。
でも、そんなキンちゃんはシンちゃんに素直に好きと言える僕が羨ましいんだろうね。
シンちゃんは敵意はすぐに察してくれるけど、遠回りな好意には疎いから。
それはシンちゃんに好意を示している人間の殆どが、激しい意思表示をしているから。
だからシンちゃんは奥ゆかしいと言える好意には慣れてなくて、極端にそれに気付かない。

ねぇキンちゃん、僕はやっぱり二人に仲良くして欲しいよ。
二人がお互いに気にし合ってるならなおのこと。


「キンちゃんはシンちゃんのこと、どう思ってるの?」
「………アイツは…俺の獲物だ」

僕の問いかけにキンちゃんは暫く考え込んだ後、ボソリとそう呟いた。

――違うでしょ、キンちゃん。

不器用なんだなぁと思う。
僕は仕方がないと苦笑して、シンちゃんの持ってきた差し入れの一つを取り出した。
「じゃあキンちゃんはシンちゃんが作ってくれたお菓子、要らないね?」
全部僕のー♪と笑うと、キンちゃんがハッとなって「駄目だ」と言う。
「駄目?どうして?キンちゃん、シンちゃんのこと殺したいくらいにキライなんデショ?」
前に『殺す』って言ってたじゃない――だったらキライなシンちゃんが作ったお菓子なんて食べたくないでしょう?
そう言ったら、キンちゃんの顔が泣きそうに歪んでしまった。

意地悪しすぎたかなと思ったけど、キンちゃん自身が自覚してくれないと、いつまでたってもシンちゃんとキンちゃんは仲良しにならないし。

「別に…嫌いなわけじゃ…」
キンちゃんが顔を歪ませたまま、シンちゃんの作ったお菓子を見つめている。
「だって『獲物』だって言ってるじゃない」
「それは…ッ」
必死な様子で何かを言おうとしているキンちゃんは、続く言葉が出て来ずにもどかしそうに唇を噛んだ。
これが限界かな?そう判断して、僕は立ち上がって腕を伸ばし、キンちゃんの頭をヨシヨシと撫でた。
「…グンマ?」
「キンちゃん、シンちゃんは『モノ』じゃないよ?キンちゃんの言う『獲物』って、キンちゃんがシンちゃんを独り占めしたいってことじゃないの?」
訝しげな顔をしたキンちゃんに、優しく伝える。
「ねぇキンちゃん、キンちゃんはシンちゃんのこと嫌いじゃないなら、どう思ってるの?」
「それは…ッ」
「どうして僕に『好き』って言う言葉を簡単に口に出すんだ?って聞いたの?」
「グンマ…」
「キンちゃんが簡単に言えないことを僕が言って、それが羨ましかったからじゃないの?」
僕はキンちゃんの頭を引き寄せて、そっと抱き締めた。
キンちゃんは僕よりも大きいから、ちょっと背伸びをしなくちゃいけなくて大変だったけど、大人しくされるがままにしててくれたから、ちゃんと抱き締めてあげれた。
抱き締めているとキンちゃんの戸惑いが伝わってくる。

本当は簡単なのにね。
今のこの姿を、僕じゃなくてシンちゃんに見せればいいだけなのに。

でも多分、これが最後だと思うから。
キンちゃんが僕に弱みを見せるのは。
これからはきっと―――。

僕は抱き締める手に少しだけ力を入れて、優しくキンちゃんに囁いた。


キンちゃんがシンちゃんに本当に伝えたい言葉は何?

『獲物』や『殺す』――そんな言葉じゃないはずでしょう?

冷たい態度をとることでもないでしょう?

キンちゃんはシンちゃんにどうして欲しい?


「…グンマ…」
「ね、キンちゃん…それが答えだよ」
キンちゃんの声がなんだか泣きそうに聞こえた。
「一回でいいからシンちゃんに『殺す』じゃなくて『好き』って言ってみてよ。そうしたら全部がいい方に向くよ」
「…シンタローは…俺の話を聞いてくれるだろうか?」
不安そうな声。
「大丈夫でしょ。ホラ見て」
シンちゃんの持ってきたプリンの箱を指差した。
本当は今日だってシンちゃんはキンちゃんの様子を見に来たようなものだし――口にするのはちょっと悔しかったのでそれは言わないでおく。
「プリンがどうか――…一つだけ違うものが入ってるな」
キンちゃんの言うとおり、箱の中には沢山のプリンの中に一つだけ違うものが入っていた。
「コーヒーゼリーみたいだね。キンちゃん用でしょ」
「…何故?」
それが俺のだと言い切るんだと、キンちゃんが不思議そうな顔をする。
「シンちゃん、キンちゃんが甘いもの好きじゃないって知ってたよ。僕がプリンおねだりした時に言ってたもん」
「それがどうしたというんだ?」
首を捻るキンちゃんに『わからないの?』と少し呆れてしまった。
「甘いものが苦手なキンちゃんのためだけに、シンちゃんがわざわざ一つだけコーヒーゼリーを作ってくれたんだよ?」
「――!」
僕の言葉にキンちゃんが目を見開いた。
「シンちゃんがキンちゃんのこと嫌いだったらそんなこと絶対にしないでしょ?」
もう!言われなくても分かってよと、キンちゃんを睨むと、驚いた事にキンちゃんの頬が少しだけ赤くなっていた。
「……キンちゃん、もしかして嬉しいの?」
じっと顔を見つめると、キンちゃんは同じように僕をじっと見た後に、面白いくらいに素直に頷いた。
「そうらしい…」
ボソッと呟いて徐にコーヒーゼリーを手に取って、それを見つめるキンちゃんの姿は何処か異様だ。

「…そのコーヒーゼリーをきっかけに、シンちゃんに話しかけてみたら?」
大事そうにコーヒーゼリーを手に持つ、今のキンちゃんならきっとシンちゃんと話が出来るだろう。
「そう、だな」
何かを決意したように、キンちゃんが力強く頷いた。
「膳は急げダヨ!頑張って。――出来ればケンカしないようにね?」
僕は促すようにバンっとキンちゃんの背中を叩いた。
「ああ…」
今までに見たことのないような清々しい笑顔を浮かべて、キンちゃんはコーヒーゼリーを机の上に置いた。
「いいな、これは俺のだ。シンタローが俺の為に作った、俺のためのものだ。何があっても食うなよ?」
「あはは~、二度言わなくても食べないよ。それにそのコーヒーゼリー甘くないんでしょ?」
僕にはあま~いプリンがたっくさんあるから大丈夫だよと、笑うとキンちゃんは安心したようにコクンと頷いて部屋を出て行った――そう、出て行く間際に「ありがとうグンマ」と一言残して。


「ほんとに世話のやける弟達なんだから~」

僕はクスクスと笑って、キンちゃんが置いて行ったコーヒーゼリーを見た。

「次に三人揃う時は、仲良くお話出来るかな?」

キンちゃんから歩み寄ってくれれば、絶対にシンちゃんはそれを拒否しないから。

「さてと、僕は一人でさみし~くシンちゃんの作ったプリンでも食~べよっと♪」

言った内容とは裏腹に、僕の心は温かかった。

思いも口に出来ないまま、喧嘩にもならない関係なんて悲しいと思う。
少しずつでもいい――二人が本当に仲良くなって、僕達が誰にも負けないくらいの仲良し家族になれれば、それでもう何も怖い事はない。


その日が一分でも早く来る事を願って、僕は白い生クリームにスプーンを入れた。






――余談だけど、この時は本当にただ仲良しになればそれで良いって思ってたんだよ?


まさか、ねぇ?
キンちゃんの言う『好き』が、僕の言う『好き』と違った意味を持ってるなんて誰が思うのさ。

あー…でも僕達の一族ならそれも有かぁ。
そんな風に妙に納得しちゃう自分がちょっと悲しかったりした。
ま、お互いが幸せならそれでいいんだけどね!


今度から僕は痴話喧嘩に巻き込まれるのかな?





…そう思ったら少しだけ、げんなりした。






END


2006.05.12
2007.08.サイトUP
…書いた日の日付見て吃驚です(笑)。
お題5の続きになるようにちょびっとだけ修正入れた記憶はあったのですが…。
何気にサイト内の確認をしていて、「あれ…?お題⑤の続き、書いてなかったっけ??」とファイルを探したら出てきました。
何でかは覚えてませんがUPするのを綺麗さっぱりと忘れていたようです…。

BACK HOME NEXT
カレンダー
04 2025/05 06
S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
最新記事
as
(06/27)
p
(02/26)
pp
(02/26)
mm
(02/26)
s2
(02/26)
ブログ内検索
忍者ブログ // [PR]

template ゆきぱんだ  //  Copyright: ふらいんぐ All Rights Reserved