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 ☆ハロウィンSS☆



 「あのさぁ、シンちゃん」
 「それ以上言うな!」
 何か物言いたげに自分を見上げたグンマに向かって、シンタローは眉間に皺を寄せ、不機嫌な様子でそう言い捨てた。
 「だって、さっきからあの角っこのところで、ずーっと、シンちゃんのこと待ってるみたいだし…」
 「いいから、無視」
 「おーい!アラシヤマくーん!」
 「しろ」
 シンタローが言葉を言い終わらないうちに、グンマがそう叫んで手を大きく振ると、
 「ばばばば、バレてしもうては、そらもう仕方おまへんわなぁ…」
 廊下の曲がり角から、少し体をくねらせながら、嬉しそうにアラシヤマが二人の前に姿を現した。
 「おい、グンマっ!」
 「えーっ?だってシンちゃんも気づいてたんでしょ?だったら無視するのはよくないじゃない☆じゃあ、僕はもう行くからvまた後でね、シンちゃんv」
 グンマはバイバイ、と2人に手を振ると、上機嫌で去って行った。
 「あのー、シンタローはん」
 「ぁあ゛?」
 シンタローが睨みつけると、アラシヤマは嬉しそうな顔になったが、
 「なんといいますか、その眼魔砲の構えはやめてくれまへん?わて、あんさんと話がしとうてずっと待っていたんどすが」
 すぐに表情を改め、真剣な声でそう言った。
 渋々、と言った様子でシンタローは手の中の光球を消し、
 「何だよ?聞きたかねーけど、またロクでもねー話か?そんで、何オマエ、その格好?」
 アラシヤマを上から下まで見たところ、彼は死神のような黒い長マントを羽織っており、小脇に目鼻がくりぬかれたカボチャを抱えていた。
 「ジャック・オ・ランタンどすえ。ところで、シンタローはん。わて、ついにハロウィンをマスターしたんどす…!つまり、南瓜提灯を持って、罪人供養の秋祭りでっしゃろ!!」
 いかにも自信ありげな様子のアラシヤマを眺めつつ、シンタローは何事か考えていたが、
 「―――アラシヤマ、お前、よくぞハロウィンを極めたナ!つーことで、今から即、托鉢に行って来い!」
 と笑顔で言った。
 「し、シンタローはんッツ!わての努力を分かってくれはったんどすナ…!!わて、ぎょうさん菓子をもろうてきますさかい、後から一緒に食べまひょvvv」
 「はーい、はいはい。どうでもいいから、とっとと行けヨ?」
 「や、約束どすえ…!」
 アラシヤマが頬を染めて何度も自分の方を振り返るのを無視して、シンタローは歩き出した。


 研究室のドアを開けると、そこには彼の従兄弟達が何やら分厚い紙束を見ながら議論していた。
 「あれ?シンちゃん、早かったねv」
 「待っていたぞ、シンタロー」
 シンタローが部屋に入ると、グンマとキンタローは、顔をあげた。
 「ねぇねぇ、アラシヤマくんはどうしたの?」
 「さァ?知らねーケド」
 「今までアラシヤマと一緒だったのか…」
 「もォー、そんなことぐらいで簡単に落ち込まないでよォ~!キンちゃんッツ!!」
 グンマがグイグイとキンタローの服の袖を引っ張ると、
 「別に、落ち込んでなどいない」
 彼はますます浮かない顔つきになった。
 「ねぇねぇ、シンちゃんも来たことだし!休憩にしない??僕、お茶を入れてくるから待っててネv」
 そう言って、鼻歌を歌いながら、グンマは流しの方に消えた。
 「珍しくお前とグンマが共同研究だなんて、どうしたんだ?」
 「高松の昔の生物化学研究の一部をロボット工学に応用して、新システムを構築しようという試みなのだが、理論上では可能でも、なかなかうまくいかない」
 「へぇー、大変だナ」
 「いや、これはすぐに役立つというものではなく、半ば遊びだが…。シンタロー、」
 キンタローは、シンタローを見ると、何か決意したような顔つきになり、口を開こうとしたが、
 「おっ待たせーv」
 という明るい声に出鼻を挫かれたようであった。
 「キンちゃんとシンちゃんはコーヒーでよかったよネ?このパンプキンプリン、高松が今朝持ってきてくれたんだヨv」
 なんだかガックリしているキンタローと、その隣に座って嬉しそうにプリンを食べているグンマの姿を胡散臭げに見ながら、シンタローはコーヒーに手を伸ばした。
 一口飲むと、彼は顔をしかめた。
 「…グンマっ!てめぇ勝手に俺の分に砂糖入れんなヨ!?」
  怒鳴られたにも関わらず、グンマは上の空で、向かいに座っているシンタローの顔の上方を見ていた。
 シンタローは、何だか頭が2箇所むずがゆい気がしたのでおそるおそる手をやってみると、毛の生えた三角形の突起状のものが手に触れた。引っ張ると、痛い。
 「わーいv実験大成功ッ☆シンちゃん可愛いー!!」
 「………」
 パチパチパチ、とグンマが手を叩いている。
 「はい、鏡v」
 シンタローは現実を認識したくなかったが、渡された手鏡を見ると、頭上には黒い猫耳がしっかりと生えていた。
 「グンマてめぇッツ!!」
 立ち上がりざま、問答無用でグンマの胸倉を掴んで2・3発殴ると、
 「うわーん!シンちゃんのバカー!ケチンボっ!!今日はハロウィンだし、どーっしても、猫シンちゃんが見たいっておとーさまが言ってたから、仮装のお手伝いをしてあげようと思っただけなのにッ!!殴ること、ないじゃないかッツ!?」
 現状に加え、バカだのケチだの言われて怒り心頭状態のシンタローはグンマを突き放し、
 「おい!キンタロー!!お前、この大馬鹿に何とか言えよ!!それと早く解毒薬を作ってくれ!!」
 キンタローの傍に行くと、立ち上がったキンタローに、
 「シンタロー、可愛い…!!」
 抱きすくめられた。逃れようと思っても、全く身動きがとれない。
 「オイ、グンマっ!!何とかしろッツ!!」
 キンタローを殴るのも気がひけたので、グンマに助けを求めると、
 「えーっ、さっきシンちゃん、僕を殴ったし、大馬鹿って言ったからヤダ!それに、その耳、明日の朝になったら自然に消えるよ?」
 と言いながら、プリンを食べていた。
 「ねぇねぇ、このプリンおいしいから、シンちゃんの分ももらっていい?」
 抱き上げられ、ソファの上でキンタローに抱えられているシンタローが、
 「ざけんな、コラ!?」
 と様にならない格好で睨むと、グンマは、
 「シンちゃんのケチー!じゃあ、今から高松のところにもらいにいこーっと!キンちゃんは…、それどころじゃないみたいだよネ?」
 数秒考え、
 「じゃあ、行ってきまーすvキンちゃんもシンちゃんも後からおいでよv」
 と言って研究室から出て行った。


 「俺は、猫シンタローもすごくかわいいと思うぞ」
 「―――あのよぉ、キンタロー。いくらなんでも、そろそろ離してくんねぇか…?」
 小一時間、シンタローは抱えられたまま、幸せそうなキンタローに頭を撫でられていたが、そう言うと、
 「わかった」
 キンタローは悲しそうな顔をして、体を離した。
 「ったく、馬鹿グンマのせいで、とんだ災難だぜ」
 立ち上がったシンタローは伸びをして、ため息を吐いた。
 「シンタロー、今から高松のところに一緒にいかないか?あそこなら解毒薬の材料がそろっている」
 「うーん…」
 シンタローは考えていたが、その時、インターホンが鳴った。
 「はい」
 「あっ、キンちゃん?ねぇねぇ、シンちゃんそこにいる?さっきグンちゃんから、シンちゃんがかわいいニャンコになったって聞いたんだ☆もう、首輪も鈴も猫じゃらしもパパ準備万端だよシンちゃんvということで、早く開けてヨvvv」
 「伯父貴・・・」
 どうする?、と確認するようにシンタローを振り返ると、シンタローは引きつった顔で、
 「悪ィ、キンタロー。俺は逃げる!」
 と小声で、言った。
 「眼魔砲で片付けるなら手伝うが?」
 「いや、面倒くせーからいい。そんじゃ、すまんが後は頼むゾ」
 シンタローは脱兎のごとく駆け出した。


 「よっこらせっと。結構、菓子が集まりましたナ…。シンタローはん、喜んでくれますやろか」
 アラシヤマは、大量に菓子の入った黒い袋を担ぎ、人気の無い暗いガンマ団内の公園をテクテクと歩いていた。
 (『燃やされるか、大人しく菓子を出すかどっちがええどすか?』って笑顔で聞いただけやのに、何でみなはん怖がったり迷惑そうな顔をしはったんやろ?西洋の祭りが理解できへんとは、とんだ田舎者で不粋な奴らどすなァ…)
 「あ、そうそう。提灯にも灯ぃ入れな、供養になりまへんナ」
 アラシヤマは南瓜の中のろうそくに火を灯した。
 彼の周りだけ、薄ボンヤリとした光に照らされている。
 しばらく行くと、闇の中に光る2つのものが突如現れ、少々驚いたアラシヤマは立ち止まった。
 (―――猫?にしては、地面からの位置が高すぎどす)
 

 (やっと撒けたか?このクソ忌々しい耳、切っちまうわけにもいかねーし)
 夕闇に紛れ、人気の無い所を移動していたシンタローであったが、暗くなると気温が下がり、肌寒くなってきた。
 (見世物にはなりたかねーし、どこに行っても迷惑がかかるよナ…。かといって、あのクソ親父に首輪とか無理矢理つけられんのは、ぜってー嫌だし)
 思わずため息を吐くと、頭上の猫耳も気持ちと連動しているのか力なく伏せられる。
 しばらく行くと、低い位置でフラフラと揺れる不安定な光が突如現れたので、シンタローは立ち止まった。
 気配を完全に消し、身動きせずにその場に佇んでいると、人魂のような光はザクザクと枯葉を踏む音と一緒に近づいてきた。


 「あれ?シンタローはんやおまへんの。どないしはったんどすか?その目と猫耳」
 南瓜提灯を掲げ、シンタローの顔を確認すると、アラシヤマは驚いたようであった。
 「あっ、わかりました!あんさん、仮装してわてを探しにきてくれはったんどすナ!うれしおす~vvvほな、今からわての部屋に行きまひょか!ぎょうさんお菓子ももろうてきましたえvvv」
 アラシヤマはどうやら嬉しさのあまり、シンタローの目が光っていたことについての疑問は脳内から消し飛んでしまったらしい。
 (アラシヤマの部屋か…。嫌だけど、誰も近寄んねぇから意外と盲点かもナ。それにもし親父に見つかってもコイツ、多少のことじゃくたばんねーし、いいか)
 「…絶っ対!人に見つかるようなヘマはすんなよ!?」
 「えっ?それって逢引ってことどすかっ??どうしまひょ、シンタローはん!わて、ドキドキしすぎて不整脈がッツ…!」
 「未来永劫逢引じゃねーから。さっさと歩けよオマエ」
 「もう、嬉しおますぅ~vvv」
 「超ウザイ」
 提灯を持って浮かれているアラシヤマに続いて歩きながら、シンタローは何の準備もなく野宿せずにすんだことに関してだけは、ほんの少し安堵していた。


 「ようこそ!シンタローはんvvvどうぞゆっくりしていっておくんなはれ!お風呂にします?それとも、わ・て??もう、猫耳もよう似合うてて、ほんま可愛ゆうおますえー!!」
 アラシヤマが一歩シンタローに近づくと、ペタンと耳が伏せた。
 「え…、それってまさか、本物、なんどすかぁ!?カチューシャとかやなくて??そういや、さっき目が光ってたのも…」
 ものすごく不機嫌そうな顔つきのまま返事をしないシンタローを見て、
 「ということは、また、あんさん、従兄弟らに一服盛られはったんどすナ!?ほんまにもっと警戒してくれはらんと、心配どす…」
 なんとはなしに、力が抜けたようにアラシヤマは椅子に座り込んだ。
 「うるせぇ」
 シンタローも疲れたように、ドサリ、とソファに座った。


 「シンタローはん、お茶いれてきましたし、今から菓子を一緒に食べまへん?」
 アラシヤマはマグカップを乗せた盆を運んでテーブルの上に置いた。
 黒い袋を渡されたシンタローは、その中から飴を1つ取って包みをとり、口に放り込んだ。
 「そういや、シンタローはん。あんさんもわてに菓子をくれまへんか?」
 「あ、もってねーわ、俺。こんなにあるし、別にいんじゃねぇの?」
 「いや、ハロウィンの決まりどすし…。でも、シンタローはんを燃やすわけにもいきまへんしなぁ…」
 「燃やすって、何だよお前?」
 悩む様子のアラシヤマを不審気に見遣ったが、急にアラシヤマが
 「そうや!その手がありましたわ!!わてって天才どすーvvv」
 と大声で叫んだので、耳がピンと立ち、目が丸くなった。
 アラシヤマはチラッとシンタローを見て、
 「…あの、そのー、ホラ!シンタローはん、今丁度飴を舐めてますやん。そそそそそれを一寸わてに」
 「死ね」
 眼魔砲、ではなく、右ストレートであった。
 「すみまへん!ほんのちょっとしたハロウィン・ジョークなんどす~!!」
 土下座して平謝りに謝るアラシヤマに、
 「冗談で済んだら、警察、いらねぇよナ?」
 と冷たくシンタローが言うと、
 「せやかて、シンタローはん!『トリック・オア・トリート』って呪文、“あくどいやり方か、菓子か”どっちか選べってことやおまへんの??となると、シンタローはんに酷いことをしとうありまへんし、残るは菓子の方のみですやん…!!」
 泣きながら弁解するアラシヤマにシンタローは呆れた。
 「オマエなぁ、トリック・オア・トリートのトリックって普通“悪戯”って訳すんだけど?大体、ガキが言う台詞だゾ…」
 「ええっ!?犯罪者の台詞やおまへんのー!!」
 「犯罪者が菓子を要求するか?」
 「いや、そう言われると…」
 床に座ったまま何やら悩んでいる様子のアラシヤマを放って置いて、シンタローは、空になったマグカップを洗うために流しに立った。カップは2つだけだったので、すぐに洗い終わった。
 (アイツ、超今更だけど、どうしようもねぇナ…)
 非常に疲れた気分で部屋に戻ろうと振り返ると、すぐ背後にアラシヤマが居た。
 「うわっ!何、気配まで消してやがんだ、オマエ!?」
 「あの…、シンタローはん。あんさん、結局菓子をわてにくれまへんでしたから、トリックの方ということでよろしおますか?」
 おずおずとアラシヤマはシンタローの腰を引き寄せ、キスをした。
 が、キスを解いた瞬間、今度はボディブローを腹に叩き込まれ、尻餅をついた。
 「―――テメェ、まさかそれが悪戯のつもりか?どさくさに紛れてひとの尻を撫で回しやがって…」
 「ち、違うんどす!誤解どすえー!今回、あんさんの猫尻尾はどうなってはるんか、わて、えらい気になりまして…!」
 「なら、何でベルトまで外そうとしてたんだヨ?」
 「や、やっぱり、触っただけやのうて実際に見てみんと、ようわからんかなぁ?なんて…」
 「で、覚悟はできたか?」
 「あの、これだけは言わせておくれやす!わて、“チカン、あかん”推進派どすさかいー!!」
 「眼魔砲ッツ!!」
 黒焦げになって倒れているアラシヤマを蹴り飛ばし、シンタローは部屋を出た。
 廊下を歩いていると、
 「シンちゃーん!!どこ行ってたの??パパ、すっごく探したんだヨ!?あっ、黒猫耳すっごくかわいいネvもっとよくパパに見せ」
 「眼魔砲!」
 シンタローは、パンっと手をたたき、床に倒れているマジックを見て
 「ったく、最初っから、こーしとけばよかったゼ」
 と言って自室に戻った。


 後日、シンタローの元にティラミスが、
 「苦情です」
 と言って山のように抗議書を持ってきた。
 一つ抜き出して読んでみると、
 『10月31日、某幹部に脅されて菓子をカツアゲされました。今後、このように迷惑なことが二度とおこりませんよう、総帥からきつく言っておいてください』
 と書いてあった。
 「あー、苦情をよこしたヤツラに適当に菓子を配っといて。代金は、全部アラシヤマの給料から引くように」
 「わかりました。他の書面もお読みになられますか?」
 「いや、いい」
 「それでは、失礼いたします」
 一礼後、ティラミスは部屋から出て行った。
 シンタローは、机の上に飾られていたパンプキンの置物を掴むと、ゴミ箱目がけて放り投げた。













沖の灯 / 勘菜

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++ New days ++



「は?」

間の抜けた声が知らずと口から漏れ出た。
何を言っているんだ、この人は。意味がわからない。
言葉をつむごうとしても唇だけがせわしなく動いて、そこからは音を上手く発することすらできなかった。
「就任式の時に正式に発表するつもりだ。」
そんな様子など見えていないかのように――視線は確かにこちらを向いていたが――彼は告げる。
「それはいいんですが、どげして僕らに先に告げんさるんですか?」
「わっかりきった事聞いてんでねーべ。つまりな、オラたつは特別って事だべ。な、シンタロー。」
黙れ、阿呆共。
「わしらに先頭切ってその方針を実践して団内に根付かせろっちゅー訳じゃな。」
やかましいわ。
「そーいう事だ。なんか質問はあるか?…ねェな。んじゃ下がっていいぜ。」
並んで立っていた同僚たちが一斉に敬礼をする。一瞬だけ遅れて慌てて指先を揃えて額に当てた。
頭の中がこんがらがっている。とりあえず帰ってトレーニングでもして気をまぎらわせよう。
軽い頭痛を覚えながら、同僚たちの後に続いて扉をくぐろうとする。
「アラシヤマ」
低い声が静かに呼び掛けてきた。
振り向くと彼は眉を寄せてつまらないものでも見るようにこちらを見ている。
「お前は残れ。」
威圧的な響きで絶対的な命令が下された。


++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

今、自分は彼の向かいのソファに座っている。
正直な話、彼が自分を誘ってくれるなどなかなかない機会だ。それが二人きりとなれば更にその割合は減る。
いつもの自分なら飛び上がって喜んだだろうが、今回ばかりは別だった。
「わてだけ呼び止めてなんの用事どすか?最近二人になる機会もあらしまへんかったさかい、わてやって嬉しおすけどぉ…一人だけ残すやなんて、ちぃと露骨どすえ。」
指で頬を掻きながら彼を見ると、彼は先ほどとは違い煙草をふかしながらゆったりとソファに寛いでいた。
「オメーだけだったんだよ。」
紫煙が顔に吹きかけられて目に染みた。
「納得いかねェって顔してやがった。」
非難をする暇も与えられず、また言葉が投げ掛けられる。
「…なんの事でっしゃろ?」
「トットリの奴も眉しかめてたけどな。まァアイツにはミヤギがいるからいいとして、問題は……お前。」
会話にならない。彼は自分の言葉など聞く気はないのだろう。
すらすらと告げながら、眼前に煙草の先端をつきつけてきた。
「言葉だけの忠誠ならいらねェ。」
彼の言葉が冷たく胸を浸食する。
新しいガンマ団の方針に反する奴はいらない。
文句があるようなら何処へなりとも消えろ。
言われていない筈の言葉が淡々と頭に響く。
「正直に言っていいぜ。お前は、この方針についてどう思ってる?」
視線に射抜かれる。
言える訳がないではないか。総帥命令に反する意見など。
「わ、わては…ええと思いますえ。時間はかかると思いますけど」
「嘘吐き」
間髪いれずに遮られる。
促すように向けられた視線は揺るがない。
言いたくないのに。貴方に背く言葉など。
「…………り、や。」
「あァ?」
「無理に決まっとりますやろ! 何が新しい方針やッ! ガンマ団が今までどれだけの時間をかけてここまでの規模になったと思うてはるのッ?! それを根本から否定する方針やなんて、まず団員がついてきまへんわ。阿呆ちゃいますのん?自惚れるんも大概にしなはれや!」
はっと口を押さえたが、もう遅い。
「あ……」
言ってしまった。彼の瞳がそれを聞いて細められる。
「…………ッ」
沈黙が痛い。彼の視線が痛い。
その空気が耐えがたく、絨毯がしかれた柔らかい床を蹴り扉へと走る。
声をかけることは叶わずに、せめてもと軽い会釈をして部屋を出た。
「………あ、あァ…」
言葉にならない声が口から漏れてその場に崩れ落ちる。涙が後から後から頬を伝っていく。
あんなことを言いたかったのではない。
確かに方針変えには反対だった。だけどその理由はあんなものじゃなくて―――
「今まで通りやったら、殺しやったら…誰より上手くやれたんや。あんさんの為に誰よりも優秀にこなせたんや。総帥にならはったあんさんに…わてが一番役に立てる筈やったんや……」
それ以外で貴方の役に立てる方法を自分は知らない。
「わては…あんさんの傍に……」
嗚咽ばかりがひたすらに漏れては消えた。


++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

貴方が言うと出来る気がしてしまう。
ついていきたくなってしまう。
本当は誰よりそれに貢献したかった。
「……せやけどな」
書き綴ったそれを封筒にいれる。表にはしっかりと『辞表届』と印刷されている。
「あんさんの邪魔にだけはなりとうないんどす…」
封をし、それをファイルにしまいこみ椅子から立ち上がる。
「堪忍な」


++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

「却下」
目の前でそれは封を切られることもなく、破り捨てられた。
「……つか、なんの冗談だよ。馬ッ鹿じゃねーの。」
冗談じゃないのはこっちだ。
なんのつもりか問いたいのはこっちだ。
「あんさんが…言うたんやないの。従えへんわてのことは必要ないて。わてが新しい方針に反対しとるさかい、せやったらいらんて。」
せめて、貴方が上に立つ前に去りたいのに。そうでなくては、きっと決意は揺らぐ。
「俺、んな事言ってねェよ。」
「言いましたやろ! ……わては新しい団の方針には向きませんさかいな。しょうがあらしまへんよな。」
彼の顔を見れない。声音から、辛うじて苛々してることはわかる。
「いい加減にしろよッツ!」
机を叩かれ、数枚の書類が足下に落ちた。
「お前は俺についてきたくないのかよ? それなら止めねェよ、勝手にしろ。だけどお前辞めたくねーんだろ? そんぐらい見りゃわかんだよ。」
「…や、辞めとうなくても『言葉だけの忠誠はいらない』て言われたら否定でけへんのやッ! せやから」
「今のお前は言葉だけじゃねェだろ。」
「はい?」
意味がわからずに反射的に顔を上げると視線がかち合った。
やはり、怒っている。
「お前にはお前の考えがあって、でも着いてくるんだろ?」
着いていきたいけど。
「俺はなぁ単にお前らの意志を確認したかったんだよ。お前らは部下になるけど、俺にとって…一番身近な仲間だ。だからちゃんと気持ちを聞いておきたかったんだ。」
「……仲間?」
「本音聞いた上で着いてきてくれる方がよっぽど信頼できる。…別にやめろ、なんざ言ってねェ。……やめんのかよ?」
確認するように視線を投げ掛けられた。
やはり貴方は意地悪だ。そんな事を言われたら自分の答えなんて決まっているではないか。
「わて…きっといっぱい失敗しますえ。」
「お前だけじゃねェよ。」
「一番の功績やって出せへんかも知れへん。」
「そこまで期待してねェ。」
「それやったら」
改めて姿勢を整え、ビシッと敬礼をして彼を見た。
「これからもよろしくお願いします、シンタロー総帥。」
ようやく浮かべられる笑みにじんわりと胸が侵される。温かな感情に目の奥が熱くなった。
「まだ総帥じゃねェよ、バーカ。」



団旗が肌寒い風に揺らめきながらも、そのマークをしっかりと主張してるのが窓から見える。
今日は彼の就任式だ。加えてあの方針も発表される日でもある。
どれ位のざわめきが起こるだろう。
彼はどんな顔でそれを聞くだろう。
考えるだけで胸が踊った。
戸惑いは未だ消えないし、自信だってない。
だけど彼なら、彼と自分たちがいればきっと大丈夫だと今は感じる。
最後の鋏をいれると視界がざあっと広がった。
「あんさんのお側で…見届けさせてもらいますな。」
遮るもののない両の瞳が、雄雄しく掲げられた真っ赤な団旗を映した。


end

ガンマ団には曜日の概念など無くて、休みの入った日が日曜日で、仕事の入った日が平日、という、一般の会社じゃ考えられないシステムだった。
総帥室も仕事が少しで終わった日が珍しく日曜日と重なり、ティラミスなんかは久しぶりに訪れた休日にどこか落ち着かない感じで居た。
「暇だな」といえば「暇だな」と返ってくる。それほどに、暇だった。

シンタローはひとつ、大きな欠伸をした。が、すぐに「総帥」の顔つきに戻る。その様子を見てキンタローがくすくすと笑う。
「・・・なんだよ、キンタロー」
照れて大げさに睨みつけるが、キンタローは痛くも痒くもないようだった。
「いや、何でも無い」
笑い声を押し込めるように、キンタローはカップからコーヒーを一口、胃に流し込んだ。時間も経ちもうぬるくなったはずのそれを、キンタローは美味そうに飲む。
「日曜日だぞ」
はぁ、とコーヒーの香りがする息を吐きながら、キンタローは言う。
「・・・・・・分かってる」
日曜日でも「総帥」の名札を脱がないシンタローに、キンタローは問いかけるように言うものの、シンタローは流すだけ。
全く、不器用な男だった。
「明日は日曜日じゃないからな」
そう呟き、シンタローは最後のコーヒーを呑み干した。
kea
名を呼ばれ振り返ると、そこには総帥姿のシンタローが居た。
キンタロー、と笑顔を浮かべるシンタローの手には、酒のボトル。
くす、と笑うキンタローにシンタローは怪訝な表情になる。
「どうしたよ、キンタロー」
「いや・・・ハーレム叔父貴に似ていたので、ついな」
どうやらキンタローの中の『ハーレム』はそういうイメージらしかった。
嫌悪している存在に似ていると言われたのが癪なのか、シンタローは一転不機嫌な顔になる。
「嫌なこと思い出させるなよ」
どうやら、”何か”あったらしいが、そこまでキンタローの興味はそそられなかったようで、視線はシンタローの手のボトルに注がれていた。それは何だと目線で問えば、渋々と言った感じで答えが返ってくる。
「良い酒が手に入ったから、お前の部屋で飲もうと思ってな」
そんなところまでそっくりだ、と言えば今度こそ諦めたのか、返って来たのはため息だけだった。
「ならばグンマも誘おう。それに、高松も」
「あー、無理無理。あいつ下戸だから。高松は・・・」
つぐまれる口。正直苦手だ、とその顔が言っていた。
「そうか。ならば二人で飲もう」
頭の回転が速いキンタローは切り替えも早いようで、シンタローの手からボトルを受け取ると、自分の部屋へと行ってしまった。

グラスを持って後から来る、と言ったシンタローのために酒の準備をすることにした。酒の飲み方も酔い方も、教えてくれたのはシンタローだった。

部屋に斜めに差し込む白い光が、月が出ているのだと気づかせる。
ボトルをいったんテーブルに置き、窓辺に立つ。
満月ではなかったが、綺麗だと思った。少しだけ欠けた月は、未完成だからこそ美しいと、キンタローは思う。
不意に部屋のドアが開く。
「・・・なにやってんだ、電気も付けずに」
入って来たシンタローは鼻で笑い、手探りで部屋の照明のスイッチを入れる。
「シンタロー」
言って、キンタローは窓の外を指差す。浮かぶ月に、シンタローは気づかされる。
「なるほど。それもいいな」
シンタローがスイッチを切ると、部屋はもう一度暗闇に包まれる。その中で変わらず、月光が部屋に差し込んでいる。グラスをテーブルに置いたシンタローは、キンタローに倣って月を見上げる。
「月見酒か。久しぶりだな」
眩しくはないはずなのにシンタローは、まるで太陽を見るみたいに目を細めた。
身体半分だけの月は煌煌と照り、二人を光で濡らす。

「・・・で、いつまでこうしてるんだ?」
ぼそり、シンタローが呟くと、二人は互いを見合い笑う。酒が温くなるぞ。

透明な液体がグラスに注がれる。上から覗き込んでやれば、水面には窓の外にあるはずの月が写り込んでいた。グラスを持ち上げ、一言。
「乾杯」
言ってキンタローは、グラスに沈んだ月を呑み干した。
ke
「シンタロー」
呼ばれた名前に顔を上げると、キンタローがまっすぐにこちらを見ていた。自分には無い青い目は、吸い込まれそうなほどだった。はっと我に帰り、なんだ、と問い返せば、キンタローは何が言いたげにこちらを見直すばかり。
「どうしたよ、キンタロー」
コーヒーを飲み、いったん空気を変える。それでキンタローが話し始めるかと思ったが、そう簡単にも行かなかった。目をしばたたかせて、キンタローは変わらずシンタローを見ている。二人の沈黙の間を、雨の音が通って行く。
「・・・?」
そこでふと、シンタローは気づく。キンタローの目線はシンタローではなく、正確にはシンタローの唇に注がれていることに。食べていたクッキーのかけらでもついているのかと思い拭うがそうではないらしい。意図の汲めない行動は、キンタローらしくない。
「シンタロー」
今度ははっきりと、名前を呼ばれる。
「キスがしてみたい」
続けて言われた言葉に、シンタローの思考は一旦停止する。キス、だって?
「キスがしてみたい、?」
オウムみたいに言葉を繰り返し、シンタローは口の中で言葉を反芻する。
キス、とは、キスのことだろうか?
「どこで知ったよ、そんなこと」
ようやく動き始めたシンタローの思考は、問題解決の糸口を求めていた。
キンタローのことだからきっと、本かなんかで手に入れた知識なんだろうが、あまりに極端だ。「口と口を合わせる行為」とかなんとか書いてあったんだろうな。
そんな簡単な行為を人は愛情表現に使っているのか!
キンタローの反応が目に浮かぶようだが、実際はそんな簡単なもんじゃないってことを教えなきゃ行けないのか誰かが。
「俺が!?」
がたん、と椅子から飛ぶように立ち上がり、シンタローはキンタローを見下ろす。
驚くキンタローの目には、それ以上に驚くシンタローの姿が映っていた。
「キンタロー、落ち着け」
落ち着くのは自分だろうがと言い聞かせながらシンタローは、もう一度椅子に座り直す。
「難しくはないんだろう?」
その、キスというものは。そうキンタローは言う。
「いや、難しいとかそう言う問題じゃなくてな・・・」
いつの間にかコーヒーをこぼしていたが、シンタローもキンタローも気づく気配がない。それほど集中する問題、だったようだ。
「キスがしてみたい」



純朴さは時に、罪だ。




キンタロー生まれて半年くらい

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