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カップを持ち、コーヒーを口へと運ぶ。その仕草がとても板についている。
トンっとカップをテーブルに置き傍らに置いてあった新聞に手をのばす。
「あのなぁ、キンタロー。」
ダイニングに行くと既にキンタローは身支度を終え、食卓についていた。
シンタローが少し怒ったような声をあげる。母親が子供を叱る様な口調だ。
「なんだ?」
部屋の入り口に立っているシンタローにくりっと目を向ける。
とても端正な顔立ち。表情が薄い分近寄りがたさを醸し出している。
が、またその何も感じさせない雰囲気がまるで無邪気な子供の様でもある。
素直にシンタローの言葉を待つ。
「コーヒー以外にもなんか摂れ。胃に悪い。それに朝食うのは基本だ!」
一日の始まりに、動力源を摂らずにどうするんだ、と。
「ああ。ついな。」
キンタローは悪びれずにシレっと応じる。
「いや、どうもな。朝は食事を摂る気になれん。」
「いいの!食べる気無くても食べる!今から直ぐに何か作るから。そのまま新聞でも読んで待ってろ。」
そういい残すと、そのままキンタローに背を向け台所に向かおうとする。
「しかし・・・」
とキンタローのつぶやく声が耳に届く。
そのまま視線だけキンタローに向ける。
「何?それとも俺の作ったものなんか食えないってか?」
キラっとシンタローの目が輝く。
「そんなことはない。お前の作る食事はとてもおいしい。」
キンタローはシンタローに嘘がつけるほど器用ではない。
思っていたことを素直に口に出す。
それに実際シンタローが作るものに不味いものなどなかった。
彼は家庭で食べるようなものなら何でも作れる。
「なら、食え!」
ああ、でもと呟く。食材の買い置きがもう無かったかもしれない。
「コーヒーとは合うモン作れないかも。ごめんな。」
キンタローが僅かに眉をひそめる。
「シンタロー。」
ちょいちょいっと手招く。
「ん?なんだ?」
「いいから。」
「なんだよ。」
キンタローは自分では動こうとしないので、仕方無しにシンタローがキンタローの所へと行く。
目の前に立つ。キンタローも何故か椅子から立ち上がる。
二人の体格はほぼ同じだ。当然といえば当然なのかもしれない。
キンタローが少し、踵を上げる。そのまま顔を近づけると唇を額へと当てた。
直ぐに離れ、シンタローの目を見て言う。
「ありがとう。」
「な、なにすんだよ!いきなり!」
顔が僅かに赤くなっている。
「日ごろの感謝を伝えただけだが?」

天然ジゴロは手に負えない。




以前勢いのままに押し付けたもの。
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→キンシンお題11「ひとこと」の続きかもしれない。



ガンマ団本部の各施設をざっと見て回った。
実際に見た方が良いと思ったからだ。
それが一段落つき、俺の部屋で休憩しながら今後の事に付いて話し合う。
まだコイツには何をしたいか、という事を見つけてもらうつもりだった。
「父さんは偉大な研究者だったと高松が言っていた」
向って座っている相手はこちらに来てからはよくスーツを着ている。
ひょっとしたらグンマの影響なのかもしれない。
特戦部隊の隊服では近寄りがたい雰囲気を醸し出していたが、この格好はそれが和らいでいる。
長かった髪も何故かバッサリ切った。外見はそこら辺にいそうな堅気の人間にしか見えない。
「そうらしいな」
そう相槌を打つ。
高松は頭のネジを二、三本道端に落としてきたようなヤツだか、ウデと頭脳には問題は無い。
ガンマ団の顧問医師兼科学者だけあって能力面だけを見ればとても秀でている。
その高松が、『偉大だった』と言うのだ。
俺も会った事はないがその言葉に嘘はないのだろう。
「ただおまえの後を付いてあるくのも能がない。まずは俺も父さんがどんなことをやっていたのか。
 それを高松の元で学んでみたい。」
「遣りたい事をするといい。その為の環境は俺が必ず用意しよう。
施設を見ていて他にも興味を持った事があれば教えてくれ。
お前が自由に見学出来るように手配しておく。勿論俺も時間が許す限り行動を共にする」
お前が嫌じゃなかったらな、と一言付け加える。
俺に出来る事といったらコレくらいしかない。
それにコイツを一人で野放しにするのは不安だ。頭は良いがどこかずれているのだ。
やはり従兄弟なのか、グンマとよく似ている。
まぁコイツの場合は仕方が無い事といえば仕方が無いのだが。
だからできる限り、コイツがこちらの生活に馴染むまでは共に居ようと心に決めていた。
グンマに頼んでもいいのだが、よほどの事が無い限りは任せたくはない。
天然に任せたらきっとろくでもない事になるのが目に見える。
「宜しく頼む」
律儀に礼を言う。
「他にも何か俺に出来る事はあるか?」
「ふん。親切だな?」
「まぁ、そらな……。一応従兄弟ってことになるしな」
「そうか」
そういうと視線を下に暫く考え込む。そしてふっと顔をあげた。
「……お前が欲しい」
「はぁ?」
何を言っているんだ、コイツは。
そう言えば島にいるとき俺の命が、と言っていた。きっとそれの事だろう。
「ああ、そういうことか。悪りぃけどよ。俺、お前に命くれてやる気はないんだわ。
 俺はあの島に行って、俺の道を見つけた。これは譲る事は出来ない」
「いや、そうではない」
軽く頭を振って否定する。
そうじゃない?
ふっとパプワ島から離れる時の出来事が頭をよぎる。せっかく脳の奥底に忘れ去っていたのに。
物凄く嫌な予感がする。聞いてはならない、と。こういう嫌な予感ほどよく当たるのだ。
「皆まで言うな」
言葉を発する前にさえぎる。
「何故だ?」
「いや、その、何となく……」
「何故だ?」
繰り返してなどいらないのに、もう一度繰り返す。
そう言えばそうだった。コイツは自分が納得するまで引き下がらない大人気ない所がある。
それは研究者には向いている素質の一つなのかもしれない。
じーっとこちらを見つめる。俺がちゃんと言うまでは引き下がらないぞ、とその目が語っていた。
「キンタロー」
仕方無しに、言い聞かせるように名前を呼ぶ。
そういうとコイツはニヤっと笑った。
笑った方が凶悪に見えるのは何故だろうか?
「やっと俺の名を言ったな」
「え?」
「何だ、無意識だったのか?お前はあの島を離れてから一度も俺の名を呼んだことが無い」
「…そうだったか?」
「ああ」
事も無く頷く。
ひょっとしたら俺が名を呼ばない事を気にしていたのだろうか?
特に意図していたわけではないが、やはりコイツへの俺の引け目がそうさせていたのかもしれない。
俺はコイツの全てを奪った事になるのだから。
「なぁ……お前はその名前で満足なのか?」
「初めて俺を気にかけてくれた奴が付けた名だしな。不満が全く無いわけではないが、概ね満足している」
「そうか」
「先ほどの続きだが。手の空いた時は手合わせを頼む」
「手合わせ?」
「ああ。いつまでもお前に勝てないのは面白くない」
「いいぜ。そんなことならお安い御用だ」
俺にとっても丁度いい。同じくらいの力の持ち主がいないのだ。
マジックは当てにならない。ハーレムはすぐフラフラと思うままに行動し、めったに本部には帰ってこない。
グンマはそういうことには向いていない。そうすると残りはキンタローしかいない。
体を動かさないと鈍ってしまう。力がモノ言う世界だからあるに越した事は無い。
しかしコイツも意地が悪い。そういう意味なら最初からそういえば言いのだ。
いくら名前を呼ばせたかったと言えど、冗談が過ぎる。
只でさえ一族にはヘンな奴が多いのだ。まともそうに見えるコイツまでヘンなのに毒されたら先が思いやられる。
「それと。最初に言ったのは名前を呼ばせる為に言った冗談じゃないぞ。考えておいてくれ」
コイツはこともなげにさらっと言う。そして俺に視線を投げる。
目は口ほどにモノを言う。
それをまさに体現していた。
そうか。毒されたんじゃなくてこいつも元からヘンだったのか。
さて。どうかわそうか。
難題が目の前に転がっていた。

H17.2.27
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人は誰しも二面性がある。心は自分でも思うようには制御できない。
だからだろうか、どうしても不安を覚える。
たとえ今では誰よりも近く隣に立っていようとも、だ。

「いいじゃないか、それで。」
「え?」
「人の心を読み取れる人間などいない。お前の中に居るうちは出たくてどうしようもなかったが、
 実際こうして確固たる自分として存在していると心が全て感じる事が出来たあの頃を懐かしく思う。」
不思議なものだなとキンタローはひとりごちる。
思わず眉を寄せ、呟く。
「懐かしく思う?」
キンタローが耳ざとく聞き止める。
「ああ、そうだが?」
ごく当たり前のようにサラリと答える。
「・・・いや、何だか安心したんだ。」
本当に何の他意も感じなかった。思わず安堵が漏れる。
24年間も意識がありながら誰にも気づかれない。行動もおこせない。
己でないものからしか、外からの情報を一方的に受ける。
しかもそれが自分を閉じ込めている張本人だ。
想像も出来ない苦しみだ。

「誰のせいでもない。親を選べないように、自分の力ではどうにも出来ない事がある。
 好きでマジックの息子になったわけではないだろう?」
あんな息子の顔を見るたびに抱きついてこようとする親に、と。
キンタローは微かに眉間に皺を寄せる。
ポンっと頭の中に、年がいも無く自分を模った人形に頬を摺り寄せているマジックが思い浮かぶ。
思わず苦笑してしまう。
「そうか・・・・」
ひょっとしてこの頼りになる片割れは励ましてくれようとしているのだろうか。
「何を考えているかは大体わかる。
 心配するな。例えお前が頼んでも、俺はお前から離れる気は毛頭ない。」
俺の目をひたっと見据え常と変らぬ口調で断言する。

「お前のそういう一面を見れるのが俺だけだと思うと嬉しい。」
「そういう一面?」
「ああ。普段は何事にも迷いが無いように見えて、時々弱気になる所だ。」
「別に弱気になんてなってねーよ。」
思わず否定してしまう。
「そうか?まあお前が言うならそういうことにするが。」
でも、と言葉を続ける。
「そういう表情は他のヤツの前ではするなよ。」
「は?」
キンタローが何を言っているか理解できない。
「だから、その妙に子供っぽい顔や無防備な顔だ。」
「・・・アホか。」
照れ隠しにそういうとあまり感情を表に出さないキンタローが微かに笑ったような気がした。

たとえ心の中に俺には見せられない表情を持っていたとしても、キンタローのこの言葉と顔は本物だ。

5.29
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マジックは日本好きだ。それはガンマ団を見ても分かるだろう。
支部の一つでしかなかった日本がいつのまにか本部になってしまっている。
日本にあるのだから建物は日本仕様になっている部分が多い。和室の応接間もあるのだ。
ガンマ団員でもごく一部、つまり青の一族しか出入りできない事実上住宅の一部と化しているフロアがある。
勿論このフロアも日本風が多い。その最たるものは風呂ではないだろうか。
マジックの跡を継ぎ、最近はようやく余裕が出てきて湯船につかりながらのんびりとするのがシンタローの
リラックスするする方法の一つとなっている。だが、その安らぎの時をぶちやぶる例のアレが湧いて出る。
一つの気配が近づいてくる。はぁーと深いため息を一つ付くとざっと湯をならし立ち上がり湯船をひょいと跨ぐと
風呂と脱衣所とを仕切る扉を勢いよく開けた。
「毎日毎日、こぉんの馬鹿がっ!」
シンタローが馬鹿呼ばわりした相手は、真顔でシャンプーハットをつけていた。
大の男、しかも端正な顔の持ち主が腰にタオルを巻き真顔でシャンプーハットを装着し
右手に幼児がよくプールやお風呂で浮かべている黄色いアヒルの玩具を持っている姿はなんとも言いがたい。
「……キンタロー、お前、何してるんだ?」
マジックだと思い込んでいたシンタローは拍子抜けしたのかそれともそのキンタローの姿に毒気が抜かれたのか
それとも脱力したのか、たぶん全部であろうが、妙に力の無い声で問いかける。
「おまえと一緒に風呂に入ろうと思ってきたんだ」
「それはいいけどよ。それは?」
それ、とシャンプーハットには取り敢えず眼を瞑り、この場には明らかにおかしい黄色いアヒルにひょいっと指を向ける。
「アヒルだ」
とても簡潔に誰が見ても分かる事を答えた。
キンタローは自分のポーカーフェイスに誰ともなしに心から感謝した。
聞かれたことをそのまま答えただけで嘘は全くついていない。
この時、シンタローの目をまっすぐ見つめて言うのが特に効果的ということまで既に把握していた。
「いや、そうじゃなくってよ」
キンタローの考えなど全く読めないシンタローはどうも調子が狂う、と濡れた頭をガシガシと掻く。
キンタローと過ごすようになりまだ日が浅い。
ずっと自分の精神内に閉じ込められていた為、キンタローは日常のコミュニケーションが取りづらい。
閉じ込められていた中から見ていたから基本的なことは全て理解してはいるようだ。
だた、どうも会話がし辛い。言葉の意味そのままを捉え返してくる。
会話から容易に憶測できる、尋ねた側が省略した言葉が解らない。
ただとても優秀だったといわれているルーザーの才を引き継いだのか飲み込みはとても早い。
最近はグンマの補佐などしつつガンマ団内で過ごしているのだが、グンマ曰く、『キンちゃんは凄い』そうだ。
グンマが言うのだからまぁ『凄い』のだろう。
俺の周りの頭の良いヤツってのはみんな変だ、高松・グンマの顔を思い浮かべ、そして目の前のキンタローを見ながらそう思う。
「その、どうしてアヒルを持ってきたんだ?そもそもどこにあったんだそんなの」
「風呂に入る時、これは必ず携帯するものだとグンマが言っていた。グンマがくれたのだ」
正確に言えば、対シンタロー仕様の為にグンマが特別にあつらえた物だがそんな事はキンタローは黙っている。
「そうか」
シンタローはまたグンマか、とため息をつく。
きっとシンタローはグンマに何か文句を言いに行くだろう。
許せグンマ、と心の中で謝る。その代わり、必ず戦果はあげるぞ、とも。
「いいか?普通それは風呂に入れない。幼児なら風呂場やプールで遊ぶかもしれないけどな。
 いい加減グンマの言う事鵜呑みにするのは止めてくれ」
まるで保父さんになったかのようにゆっくりと説明をする。
肩をおとしすまなかったとキンタローは殊勝に謝る。
「あ、いやお前が謝る必要なんてないんだよ。俺の責任でもあるし」
唯我独尊を地でいくシンタローだが『キンタローには優しい』というのがシンタローの周辺の人々の談である。
引け目が無意識のうちにそうさせているのだろう。
キンタロー自身は既にシンタローに対するそういう思いは無い。
シンタローが自分にだけ見せるどことなく弱気な態度を見せた時に何度かそう言ったのだが効果は無いようだ。
だか、今はそれをありがたく思う。シンタローは自分に対しては警戒しない。
いつものように微妙な沈黙がおちてしまったので、取り敢えずキンタローはくしゃみをした。
これで中に入れるだろう。
「すまん、すっかり体が冷えちまったな。取り敢えず来い」

大の男二人が入ってもなお余裕のある湯船の中で喧騒が始まる。
喧騒といってもシンタロー一人が騒いでいる。
「おまえとは風呂に入らん!」
横に並んでいたキンタローから距離をとり、湯船の端まで身を寄せる。
「なぜだ?」
ぱちっと瞬き一つ。後は常と同じように無表情の様に見えた。が。
一瞬ごく僅かに口の端が持ち上がった。
「言わなくてもわかるだろうが!」
コイツ、ワザとなのか?シンタローはそんな疑念が湧く。
「何か問題があったか?風呂は男のコミュニケーションでは重要だと言っていた。俺はそれを試みただけだ」
シンタローの目にはキンタローはあくまでも大真面目、のように映った。
「はんっ、誰だよそんな事言ったのは!」
だいたいあんなのがコミュニケーションになるかよとぶちぶちと悪態をつく。
機嫌が奈落の底まで落ちたシンタローに対し、底なしに変わるような人物の名を出した。
「マジックだ」
「……おまえさ、ひょっとしてマジックとも入ったのか?」
「ああ」
「同じ事した、いや、されたのか?」
もしそうならあの馬鹿親父殺してやる、そうシンタローの目に書いてあった。
それが読めたわけではないがキンタローは首を横に振って否定した。
「…………誰かに……教わったのか……?」
まさに恐る恐ると言った様子でキンタローに再度問う。
「いいや」
「……………………。」
シンタローはキンタローからそっと目を逸らし、手で湯を掬い顔を洗った。
そして何事も無かったかのように無言で湯船に浸かり続けた。

キンタローはシンタローに気づかれない様にひっそりと笑った。
満足そうにつぶらな瞳のアヒルを撫でた。

H17.8.14
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「 『楽園』 というのはここの事をいうのだろうな。」
砂浜を歩きながら隣を歩くキンタローが呟く。
まるで人工砂のように綺麗だ。砂を踏む感触が心地よく体に伝わる。
視線を上げれば視界は見事なまでの紺青に塗りつぶされる。船など一切見えない。
人の手によって作り出されたものは拒絶される。
パプワ以外の人間は意図的に排除されているといっても過言ではない。
先の過ちの所為で尚更そうなったのかもしれない。
人がいなければ無意味な争いは生まれない。人のみが同じ過ちを何度でも繰り返す。
「そーだな。」
シンタローは相槌を打つ。
キンタローはシンタローの余計な力が抜けた、その様子に不安になる。
この島に来ると決まった時から懸念していた事だ。
万が一この島に捕らわれたまま戻ってこなかったら、と。
シンタローは時々仕事の合間、僅かな時間だがふっと姿を消す事がある。
探しに行くのはたいがい、屋上。シンタローはただ、何をするのでもなく、空を眺めている。
その空漠たる姿をみていると無理矢理にでもこちら側の世界に繋ぎ留めておきたくなる。
「俺はお前にとって、あちらの世界でのこの島になれるか?」
「・・・恥ずかしい事を真顔で言うな。」
この楽園を彩る海と同じ色の瞳が謹厳な色を帯びる。
シンタローは茶化して終わりにしようとしたが、どうにもそういうわけにはいかないようだ。
ふいっと顔を背けて小声で言う。
「俺が前だけを向いていられるのは、後ろを確認しなくてもいいからだ。
 どんなに俺が無茶をしても必ず付いて来てくる。休みたくなった時は隣にいる。」
突然シンタローは、大声を張り上げる。
「こんなこっ恥ずかしい事言わすなっ!」
キンタロー以上に恥ずかしい事を言っていると気づいたのだろう。
その声に驚くでもなく、キンタローは満足そうに一人頷いている。
「やはりこの島はいいな。」
足を止め海を眺める。
「うん?」
つられてシンタローも歩みを止める。キンタローの意図が掴めなく聞き返す。
「まさかこんなに容易く本音が聞けるとは思わなかった。」
この島のお陰だ、と。
「なっ」
嵌めたのか、とシンタローが憤る。
「俺は別に嵌めたつもりなど無い。シンタローの本音が聞きたかっただけだ。
 それに俺はいつでもシンタロー相手には正直なのに、不公平じゃないか。」
キンタローは妙に胸を張って、子供の様なことを言う。
「ああ、そうかよ。」
そりゃよかった、と投げやりに答える。
キンタローはもうこんな機会は無いと思ったのだろうか、また訊ねる。
この島にいる間なら、本音をききだせるはずだ。
元々が相手の中にいるという異常な状態だったが、いざその状態から開放されると
シンタローの声が全く聞えない。もう数年経過するが、不安なのだろう。
「今はお前が考えている事がはっきりとはわからない。言ってくれなければ通じない事もある。」
「・・・側にいてくれるだけで十分だ。」
「そうか。」
「ああ。」
暫くは無言で海を眺めていたが、またどちらともなく歩み始める。
砂浜には二人の足跡が転々と続いた。


7.29
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