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アラシヤマの無駄な抵抗
アオザワシンたろー




「やっと落ちついてきはったって、聞きましたえ?」
 報告書にざっと目を通すシンタローの、やや憔悴したような表情を窺がって、アラシヤマが切り出した。
 総帥室の机上には、端末機や書類以外に、布張りのケース入り上製本が一冊。
 それが最近のシンタローの頭痛の種なのだった。
「うるせぇよ。ったく、これもみんなあのあーぱー親父のせいだ」
 新生ガンマ団をゆるがす大事件の後、新総帥の人気は本人の予想に反し、うなぎ上りだった。
 種を蒔いた本人はこうなると予想していたと笑顔で答え、営業と称しサイン会へと繰り出している。
 その本とは、前総帥であるマジックが出版した半生記。
 父親の半生に息子が無関係であるはずがなく、そこには目を疑うような内容が赤裸々に語られていて、シンタローはすぐさま出版差しとめと禁書命令を出したのだが、その点はマジックの方が上手だった。
 マジックの狙い通り、相当数が世界に出回った。
 無論、そのうちの一冊はアラシヤマの蔵書である。
「でもこれで、団の財政は結構潤ったん、ちゃいますの?」
「んだとぉ?」
 シンタローの目が据わっている。
 そんな表情が凛々しいなんて口には出さず、アラシヤマは微笑んだ。
「マジックはんの手持ち部隊が価格操作をしてはって、正価販売は半数以下。団には印税なんて関係あらしませんし、純利益は相当なもんでっしゃろ」
 限りある財宝について、転売を重ねて値を吊り上げる。その程度のことを片手間にやってのける者がマジックの配下にはごろごろいるのだ。
 シンタローは息を呑むようにして、そしてぐったりと総皮張りの椅子に背を預けた。
「ったく…金の問題じゃねぇだろ?」
 ガンマ団の内情、ひいては一族の内情を暴露している本なのだ。
 シンタローが禁書指定したのは、内容ゆえである。
 現に発行当初から、地方支部には山のように盗聴機が仕掛けられ、末端団員は隠密取材合戦に翻弄された。シンタローにしても、初対面の国家元首に、幼い頃父親に働いた悪戯のことなどを話題にされたりした。真顔で相槌を打ちながら間にキンタローが入ってことなきをえたが、不快なことには違いない。
「せやけどシンタローはん。この内容やったら、金の問題でええんやないの」
「おま…人ごとだと思って」
 思わず身を乗り出すシンタローの、その拗ねたような言い分が可愛らし、なんて、やはり今度も口には出さず。
「人ごとどすさかいに、売れるんでっしゃろ」
 他人の不幸は密の味。
 世界の名だたるテロリストがこぞって欲しがるガンマ団総帥交代劇の真相。その裏の真実。
 一族以外でそれを知っているのは極わずかなメンバーだけだ。
 幸い、アラシヤマはその数少ないメンバーに入っていて、そのことがシンタローに壁を取り払わせている。
 遥か南国で見たものが蜃気楼ではなかったと、教えてくれる数少ない人物の一人。
 アラシヤマは総帥机に手を伸ばし、箱から本を取り出した。
 見返しには著者直筆のサインと、シンタローへの愛のメッセージが書き連ねてある。
 その台詞を口にする姿も容易に想像できるし、メッセージを見られて何の抵抗もないシンタローにも諦めに似た嫉妬にかられる。
 結局のところ、この親子には血の絆など関係が無いのだ。
 アラシヤマはそれ以上見返しを見ないようにして、頁をめくった。
 英語版でもそうだったが、この日本語版でもまるで創作のように世界の歴史が語られる。機知に富んだ文章は、こちらでも損なわれてはいなかった。
「わても清刷りで一度読まさして貰てましたけど、さすがはマジックはん、ようでけてはるわ。シンタローはん、これきちんと読まはったんどすか?」
 シンタローの目尻がみるみる上がる。
「清刷だと !? ちょっと待て。俺が見たのが刷りだしなのに、何でお前のほうが早いんだよ」
 シンタローの手に初めて渡ったのは完成見本だったというのだ。大量印刷に取りかかる前に小部数を製本してみる、書店に並べても遜色ない状態のもの。
 アラシヤマが見たのは印刷前の版の状態だから、時差があるというわけだ。
「あんさん、忙しい言わはってそれどころじゃおまへんでしたんやないか」
「そういう問題じゃねぇ!じゃ、じゃあオメェ、親父がンな本出すこと知ってやがったな!」
「そらまぁ、清刷段階で見してもろたし」
「なんで止めねぇんだよ!」
 机に両手を突いて立ちあがり、今にも噛みつきそうな勢いに、アラシヤマはシナをつくって体を震わせた。
「いややわぁやつあたり。あんさんが知ってはるかどうかなんて、どないしてわてがわかりますのん」
 言われてみればそのとおりだが、シンタローは釈然としない。
「おかげでこっちは、クソ元首どもにニヤニヤされて気味悪ぃぜ」
「ああ、あんさんのちみっこ時代の章を読まはったんどすな」
 他愛もない悪戯をいくつか列挙されてるのだが、当の本人の感じる羞恥は相当なのだろう。
「せやけど、どれもみんな害のない話ばかりどす。利用できそうな内容はこれっぽっちもありまへんどしたし」
 だから、とアラシヤマは言う。
 だから、この程度の内容ならば、金の問題と言ってしまって構わないではないか、と。
「俺が恥ずかしいんだよ!」
「誰でもやりそうな悪戯やおへんの。読者はそんなとこ見てへんわ」
 もともとシンタローを知っている者ならいざ知らず、マジックファンがその息子の人となりに関心を払うとも思えない。
「そ…そうか?」
「そうどす。キンタローが自慢気に話してるの聞こえましたわ。からかわれたシンタローはん、余裕の笑みで元首どもを躱しはったって。助け船、いらんかったって」
 そうかな?そうかも?とシンタローが頭の中で苦い思い出を反芻している。
 そんな無防備な姿で考えを巡らされて、アラシヤマとしては抱きつきたい衝動を押さえるのに大忙しだ。
 そして、惚れた弱みやわ、と付け加えた。
「この本には、あんさんのためにならんこと、何一つ書かれてまへんし」
 確かにひと騒動起こしたけれど、結果として、マジック政権は穏便にシンタローへ受け継がれたこと、マジックがいつでも復帰できる余力を残していることを世界へ知らしめた。新生ガンマ団にとって、旧制こそが強力な後ろ盾だと宣言してあるのだ。
 一族の秘密が隠れ蓑の強大なラブレター、とまではさすがに教える気にはなれないが。
 だから代わりに、嫌味をひとつ。
「そやなぁ、恥ずかし思うなら、『シンちゃん』呼ばれて返事するのやめはったらどうどす」
 言ってみて、存外その案が気にいった。
「…なんだって?」
 シンタローが眉を潜め、再び椅子に座りなおした。
 アラシヤマは本をケースに戻し、表面の著者名を指差しながら重ねた。
「ええ年して、父親にちゃん付けで呼ばれて平気な顔してはることの方がよっぽど恥ずかしいわ。やめたらどうどす」
 息子を模したぬいぐるみを携える父親が、己の方針を変えるとは思えず。だが肝心の息子が返事をしなくなったというのは、大きな抵抗になる。二人を仲たがいさせるには我ながらせこい作戦だとは思うものの、名案という気もした。
 そのくらい、シンタローにだってできるはず。
 だが当のシンタローは、胡乱気な目を向けるばかりだ。
 そして、アラシヤマにとって衝撃的なひとことを返すのだ。
「なんで…ちゃん付けだと恥ずかしいんだよ?」
 常識とか、成人男性としてのプライドとか、そういうものをシンタローに期待していたアラシヤマは、あらためてマジックルールとの溝を思い知った。
「親が子供をちゃん付けするのは普通だろ?いくつになっても子供は子…おいアラシヤマ、どうした、真っ青だぞ。うわ!いきなり倒れるな!そういやお前、作戦帰りじゃねぇか。ティラ、担架もって来い !! 」
 だくだくと流れる涙の意味を、シンタローが正確に理解できたかどうか。疲弊したのは体ではないのだ………。



終。
       




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  アラシン、になったでしょうか…。私の書くアラシンはベースにパパシンがあります。でもってアラシ、パパには負けてます。でも一生懸命スキを突こうと鋭意努力中~。



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 特戦部隊が、ガンマ団に立ち寄りしばらく逗留していた時のことである。マーカーが廊下を歩いていると、向こうからシンタローが歩いてきた。彼は、マーカーを見ると驚いたように目を丸くした。 マーカーが軽く目礼をし、そのまま通り過ぎようとすると、不意に、 「ちょっと待て」 と、呼び止められた。マーカーが足を止め、振り返ると、 「アンタ、もう昼飯食ったか?もしよかったら何か作るから食ってかねェか?」 と言われ、それはマーカーの予想の範疇外のことであったので、一瞬、彼はなんと答えていいものやら分からなかった。 マーカーの返事が無かったので、シンタローは慌てた様に、 「別に、無理にとは言わねェし。今のは忘れてくれ」 と言った。 マーカーは、 「ちょっと驚いただけです。・・・よろしいのですか?それでは、お相伴に預かりますよ」 と答えた。 シンタローに部屋に通され、「手伝わなくていい」と言われたので、マーカーは食卓に付き待っていた。しばらくすると、シンタローはお盆を手に持ち戻ってきた。 シンタローは料理を並べると、マーカーの向かいに座った。料理は、チャーハンと、中華風スープ、サラダ、そして何故か“肉ジャガ”であった。 マーカーが、料理を食べていると、視線を感じたのでシンタローの方を見ると、シンタローはこちらをじっと見ていた。 「何ですか?」 不審に思ったマーカーがそう訊くと、シンタローは、 「あっ、悪ィ。ちょっと、聞きてーんだけど。その肉ジャガ、どうだ?」 マーカーはどう答えるべきかと思ったが、正直に思ったままを言うことにした。 「―――はっきり言わせていただきますと、不味いです。他の料理は美味しいと思いますが」 そう言われてもシンタローは特に気を悪くした様子も無く、 「アンタ、味オンチじゃねーんだな。そうなると、やっぱりアイツ、元々味覚がおかしーのかな?」 と、呟き、何やら考え込んでいた。 「“アイツ”とは、アラシヤマのことですか?」 マーカーがそう聞くと、シンタローはギョッとしたように、 「えっ!?何で分かんだヨ!!」 と言い、しまったという表情をした。その様子が子どもっぽく可愛かったので、マーカーは少々からかいたくなり、 「痴話喧嘩は、犬も喰わないと言いますが?」 と言うと、シンタローは、ムッとしたように、マーカーを睨みつけ、 「痴話喧嘩って何だよッツ!?んなこと、ぜってー有り得ねェし!」 そう言った。 「あの馬鹿弟子は、一応、美味い不味いは分かるみたいですよ?」 「なら、何で、昨日不味い飯を食わせたのに、美味いって言って食べるんだ?別に気を使われても全然嬉しかねーのに」 シンタローはどうやら不貞腐れた様子である。マーカーは溜息を吐き、 「・・・こんなことを言うのは本来私の主義に反しますが。やっぱり、貴方が好きだからじゃないでしょうか」 シンタローは眉間に皺を寄せ、しばらく考えた末、 「―――アンタって、嫌な奴だな」 と言った。 「よく言われますよ」 マーカーが片頬を上げて笑うと、シンタローは言葉に詰まった。 「・・・ったく。ヤツが『お師匠はんは、“飛行機と机以外に食べられないものは無い”って言ってましたえ~』って言ってたから、アンタがどんな味オンチかと思ったのに」 「私は美食家ではありませんが、味オンチでもありませんよ?“飛行機と机以外~”は、中国の格言です」 マーカーは、 「ご馳走様でした」と言って立ち上がると、 「あの馬鹿弟子は趣味の悪い味オンチですが、唯一、貴方を選んだところだけは趣味が良いと誉めてやってもいいと思います。あと、“肉ジャガ”以外は、本当に美味しかったですよ」 「それでは」と言うとマーカーは一礼をし、部屋から出て行った。 シンタローは、苦虫を噛み潰したような顔をし、 「なんつーか、やっぱし師弟だナ」 と言った。









+

 「総帥、そろそろご休息なされてはいかがですか?」
 書類をシンタローに手渡したティラミスは、時計に目をやった。
 「ん?そうだナ、そんじゃ、ちょっと休憩させてもらうわ」
 仕事の手を止めたシンタローが大きくひとつのびをすると、
 「コーヒーをお持ちします」
 すかさずティラミスがそういって背を向けたが、
 「あ、自分で缶コーヒーを買って飲んでくるからいい!」
 シンタローは急いで立ち上がった。
 振り向いたティラミスは、苦笑しながら、
 「わかりました」
 と答えた。


 まだ午後だというのに休憩室にはめずらしくひと気がなかった。
 (なんか、あいつらにまでちょっと子ども扱いされてる気がすんだよナ…)
 少しむくれながらシンタローは自動販売機のボタンを押し、取り出し口に手をやると、後ろのほうで
 「あっ、せっかくのシャッターチャンスやのに、フラッシュがッツ…!」
 という声がした。
 シンタローが振り向くと、仕切りの上に置かれた観葉植物が少し揺れていた。
 目をすがめ、一瞬の動作で取り出したナイフを投げつけると、向こう側でドサリ、と何か重いものが倒れる音がした。
 (眼魔砲を撃つまでもねーよなぁ)
 シンタローは確認する気にもなれず、そのまま休憩室を後にすると、
 「うわっ、何だこの血だまり!?」
 「おい、絶対関わり合いにならないほうがいいって!だってこの人って…」
 「そうだな。やっぱり見なかったことにして戻ろう」
 「…あんたはんらなぁ、今なんて言わはりました?怪我人を介抱するとかいう親切心はこれっぽっちもないんどすかッ?」
 「うぎゃーッツ!起き上がったー!!」
 と騒ぐ声がかすかに聞こえた。


 (ったく、落ち着いてコーヒーも飲めやしねぇ)
 階段に腰を下ろし、フタをあけた缶をあおると口中に渋みが広がった。
 (そういやアイツ、いつ遠征から帰ってきやがったんだ?)
 しばらく顔を見ていなかった男の顔を脳裏に思い浮かべた瞬間、渋みが苦味へと変わったような気がした。
 何やら視線を感じたので入り口へと目をやると、たった今思い浮かべていた人物と目があったのでシンタローは一瞬息をのんだ。
 「あああああのっ、ただいまどすえvシンタローはん」
 「―――なんだテメェ、生きてやがったのか」
 「ひどうおます~、『おかえりアラシヤマ。よく帰ってきたナ!さみしかったゼ俺の心友v』とか、言ってくれはりませんのー!?」
 「本気で死ぬか?オマエ…」
 「いやあの、さっき出血多量状態どしたし、ナイフも眼魔砲もちょっと今は堪忍しておくれやす…」
 「ッたく」
 シンタローが掌の中の光球を消すと、アラシヤマは嬉しげに階段を上がってきた。
 そして、シンタローの隣に腰を下ろした。
 「ひさしぶりに本物のシンタローはんどす~vvv」
 どうやら笑顔のつもりらしい表情を浮かべ、アラシヤマはしばらく黙って座っていたが、
 「き、緊張しすぎて何を話したらええのかわからへん…」
 と、情けなさそうにいった。
 シンタローも自分から何か話し出すというわけでもなかったので、並んだまま、ただ時間だけが過ぎた。
 「あの!今回任務の際ジャングルを通過したんどすが」
 突然のアラシヤマの声に少し驚いたシンタローが彼の方を見ると、
 「その時えらい大きい樹がありまして、シンタローはんみたいやなぁって思いました」
 気がつかなかったものか、そのままアラシヤマは前を向いたままであった。
 「根がしっかりとしていて天まで届くような背の高い大きい樹で、小動物やら小鳥やら小さい花やらがそこで暮らしてはるんや。いろんな小さい命を守って凛と立っていはる姿が、あんさんに似てる、と思うたんどす」
 アラシヤマは愛しそうに目を細めた。
 シンタローはアラシヤマから目線をそらし、下唇を噛んだ。
 「―――てめぇ、もっとマシな話をしやがれ。たまには、ウィットに富んだジョークとか言えヨ?」
 「ええっ?ウィットに富んだジョーク、どすかぁ!?」
 アラシヤマは悩みながらしばらく何事か考えていたが、
 「あの…」
 と口を開いた。
 「何だヨ?」
 「今あんさんが飲んでるコーヒーの缶、飲み終わったらわてにくれまへん?わ、わてのシンタローはんベストコレクションに加えようかと…」
 「―――それのどこがジョークだ?笑いどころが全くわかんねぇゾ…」
 「あっ、すみまへん間違えました!これって思わず本音どしたえー!わてって、超ウッカリ屋さんv」
 小首をかしげ、本人は可愛らしくごまかしたつもりらしかったが、シンタローはアラシヤマを見もせずに、
 「眼魔砲」
 至近距離から眼魔砲を撃った。壁に大穴を開け、アラシヤマの姿はシンタローの視界から消えた。
 「休憩終わり、と」
 シンタローは何事もなかったかのように立ち上がった。
 ふと、手に持った缶を見て眉をしかめ、
 「とんでもねぇバカだな、アイツ」
 と呟いた。









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 「今回、室内の制圧には6秒かかってます。お手元の資料にありますように、これは団員Cの状況把握が遅れたからどす。以上述べてきた結果から、次回の作戦では配置の再考が求められるのではないかと・・・」
 シンタローは黙ってアラシヤマの説明を聞いていたが、資料から顔を上げ、時計の方を一瞬見ると、非常に不機嫌そうな表情となった。
 (どないしはったんや?もしかして、わての説明が冗長やったんやろか?いや、でもそんなはずおまへん!簡潔に要領よく話したつもりどす)
 アラシヤマは、自分の説明能力不足のせいではないと判断し、すぐにもうひとつの可能性を思いついた。
 「シンタローはん、これはそんなに急ぐものでもおまへんし、今日はこの辺で終わりにして、残りは明日にしてもよろしおますか?」
 そう言うと、シンタローの不機嫌さの度合いが先程よりも薄れた気がしたので、アラシヤマは自分の考えが正しかったことを確信した。
 「お疲れのところ、気ぃつかんでえろうすみまへん。わてはもう帰りますさかい、よろしゅう休んでおくれやす」
 「ああ」
 と、返事はあったものの、心なしかシンタローの顔が曇ったように彼は感じた。
 (あれ?何でそないに喜びはらへんのやろか??まぁ、わての気のせいでっしゃろ)
 「ほな、失礼します。シンタローはん、おやすみなさい」
 一礼し、部屋を退室しようとすると、ドアの前に立った所で
 「アラシヤマ」
 呼び止められた。
 「な、何かご用どすか?シンタローはんっvvv」
 アラシヤマは振り向いたが、それっきりシンタローは何も言わない。アラシヤマが近づいていくと、いつもなら、即、眼魔砲のはずではあるが、何事もおこらなかった。
 椅子の傍にアラシヤマが立つと、シンタローはアラシヤマの顔を真意を探るように睨みつけ、
 「―――やっぱ、いい」
 と、珍しく目を伏せた。
 (なっ、なんか、いつもの俺様シンタローはんらしゅうおまへんが、これはこれでめちゃくちゃおぼこすぎどすッツ!もももももしかしてっ、コレって、シンタローはんからの初めての夜のお誘いー!?!?)
 アラシヤマは思わず出そうになる鼻血をこらえ、
 「シンタローはん・・・」
 意を決してキスをすると、拒まれなかったので、夢中でシンタローの頭を引き寄せ、薄く開いた唇を割って舌を絡めた。
 少し、シンタローが身じろぎしたが、抵抗といったほどのものではなく、アラシヤマもシンタローを逃がすつもりはまったくといっていいほどなかった。
 (わて、幸せどす・・・)
 アラシヤマは、少しクッタリと自分にもたれかかってきたシンタローからいったん身を離し、
 「あの、わての部屋に行きまへん?」
 と上擦ったような声で言った。
 その時、時計の時報が12回鳴った。
 「―――眼魔砲ッツ!!」
 ドウッツ、と、辺りに爆音が響いた。


 「・・・・・・シンタローはん。いきなり非道うおます~・・・」
 総帥室の片隅、油断しきっていたところに眼魔砲を至近距離でくらったおかげで、いつも以上にぼろぼろになったアラシヤマが、先ほどから体育座りをしつつ涙を流していた。
 「―――さっきから超うざってぇ。さっさと自分の部屋に帰れヨ」
 「あ、あんさんは!?もちろん、一緒に来てくれはりますやろッツ??」
 「何言ってんの、オマエ?行くワケねーダロ!!」
 「じ、じゃあっ、さっきのアレは一体何どしたのんッツ!?わて、初めてあんさんから誘うてくれはってえらい嬉しゅうおましたのに・・・!!」
 「誘ってねーし!!大体、もう誕生日は終わっ」
 シンタローは、しまった、といった表情になり言葉を打ち切った。
 「はぁ、誕生日。って、誰のどすか??」
 アラシヤマは間抜けな顔で、そう問い返した。そして数秒程考え、
 「―――ええっ?昨日って、わての誕生日どしたっけ??」
 驚いたように叫んだ。
 「・・・忘れるか?フツー」
 「いや、分析作業が忙しゅうおましたし、誰も何も言わへんかったんで・・・」
 そう言うと、アラシヤマは黙り込んでしまった。
 「―――どーでもいいけど、とっとと帰れヨ!!俺はもう帰るゾ」
 パチリ、とシンタローの指が電気を消すと、部屋は暗くなった。
 スイッチから手を離そうとしたシンタローの手の上に、後ろから手が重ねられた。
 「あんさんが覚えてくれてはって嬉しおす。それにプレゼントに“シンタローはん”を頂きましたし、わてにとっては最高の誕生日どしたえvvv」
 そう言うと、アラシヤマはシンタローを抱きしめた。
 「・・・・・・マァ一応、誕生日おめでとう、アラシヤマ」
 「・・・ありがとうございます。シンタローはん」





 「何だヨ?この手は??」
 「いや、その、あのー、一寸お願いがあるんどすが・・・。今から“さっきの続き”をわての部屋で」
 「死ね」







どうしたことか、当サイトでアラシヤマの誕生日を祝うのが3回目となりました・・・。
大人の男な誕生日(って何なのか分かりませんが)を一応めざしてはみたのですが、
色んな意味で玉砕です・・・。ちょっとだけ、『シンデレラアラシヤマ』でしょうか?(違)

+

 ある日の穏やかな昼下がり、一見平和そうな家の中は、それほど平和というわけではなかった。
 「シンタロー、おやつ!」
 「わう!」
 台所に立って何やら作業をしている長身の男性に向かって、子どもと犬が何やら抗議していた。
 「お前ら、さっき十分おやつを食っただろ?それに今は夕飯前だから、ダーメ!」
 「育ちざかりの子どもにむかって何をいう?僕はおやつが食べたいゾ!!」
 「ダメなもんは、ダメ!!夕飯ができるまでもうちょっとだけかかるから、それまで外で遊んでこいよ?」
 「・・・シンタローはケチだナ!チャッピー」
 「わうっ!わうッ!!」
 不機嫌な様子の子どもと犬が、戸口に向かおうとすると、ドアが勝手に開いた。
 「ただいまっス。って、何?パプワ、チャッピー、お前ら出かけるとこだったの?」
 「何だ、リキッドか。僕らはシンタローが、おやつをくれないから家出だ」
 「わうッツ!!」
 「おいおい、物騒じゃねーな?シンタローさん、コイツらにおやつぐらいあげても・・・」
 その時、リキッドの顔から数センチぐらいの距離のドアに何かが鈍い音を立てて刺さった。よく見ると、包丁であった。
 「・・・テメェ、俺のやり方に何か文句でもあんのか?」
 そう言いながら包丁をドアから引き抜いたシンタローが、かなり怖かったのか、
 「いえ、めっそうもないっす!」
 油汗を流しながら、無理やり笑顔をつくろったリキッドであったが、話題を変えた方が得策だと思ったようである。背に負ったかごを下ろしながら、
 「あ、そうそう、さっき森でテヅカ君に会いましたけど、どうやら、アラシヤマがひどい風邪をひいたらしいですよ」
 「あっそう」
 リキッドを振り返りもせず、シンタローは野菜を刻んでいた。
 「あのー、ちょこっとでも心配じゃないんですか?」
 「何で?」
 と、シンタローは振り返らずにそう言った。
 (“何で?”かぁ・・・。普段あんなにお姑さんにつきまとってるのに、ちょっとだけ気の毒な気もするよなぁ・・・。でも、俺もウマ子が風邪ひいた(って状況ありえないけど)って聞いて、お見舞いに行くかというと悩むか。ま、俺には関係ないし!)
 「―――そんなに心配だったら、テメーが見舞いにでも何でも行けば?」
 すっかりそのことを頭から追いやって、採ってきた果物や野菜をより分けていたリキッドは、思いがけずシンタローから声をかけられて非常に驚いた。
 「ええッ?何でっすかぁ!?だって俺、全然関係ありませんし、アラシヤマの所に行くなんて嫌ですよ!長い付き合いのアンタが行きゃーいいんじゃないスか!?」
 「テメー、しばくぞ?ヤンキー・・・」
 (こっ、怖っ・・・!!)
 シンタローの様子にリキッドがすっかり固まっていると、リキッドの作業を手伝っていた子どもが、
 「シンタロー、夕飯を食べたら、アラシヤマを見舞いに行け」
 と言った。
 「何でだよ、パプワ?」
 ものすごく不本意そうにシンタローは顔をしかめたが、
 「死んでたら厄介だしナ。様子を見てこい」
 と、彼はあっさりと言った。
 「・・・オメーらは、一緒に行かねーのかよ?」
 「僕とチャッピーは、タンノ君やイトウ君と約束している。家政夫は、家の用事が山ほどある」
 「あの、おぼっちゃま・・・、ちょっとぐらいお手伝いしてくれないんですか??」
 「甘えたことをぬかすな。いいな、シンタロー?」
 「わう」
 じっと自分を見ている、どうあっても意思を曲げない様子の子どもに溜息をつき、
 「―――行きゃいいんダロ?」
 仏頂面で、シンタローはそう言った。
 

 (・・・?どれほど眠ってたんやろか)
 アラシヤマがぼんやりと目を開けると、それに伴って徐々に他の知覚も戻ってきたように感じたが、どうも完全な状態ではないようであった。
 なんとはなしに熱に浮かされたような心もとない感覚がしたが、遠ざかりつつあるひとつの気配だけは、はっきりと感じ取ることができた。
 「シンタローはんッツ!」
 アラシヤマが布団の上に体を起こして叫ぶと、人影は一瞬立ち止まり、戻ってきた。
 「・・・オマエ、寝てたんじゃねーのかヨ?」
 「いや、もう目が覚めましたわ。あんさんが来てくれてはるのに、おちおち寝てられまへん!何のおかまいもできまへんが、ゆ、ゆっくり・・・」
 何事か言いかけたまま、アラシヤマがバタリ、と布団に倒れてしまったので、シンタローは目を丸くした。
 「アラシヤマ?」
 と覗き込むと、
 「あ、シンタローはんが2人いはる・・・。盆と正月がいっぺんにきたみたいで、嬉しおすぅ~vvv」
 シンタローを見上げて、嬉しそうにへらへらと笑ったので、思わずシンタローはアラシヤマを殴った。
 「風邪ひきの病人に対してひどいんちゃいます・・・」
 「―――オマエ、それ本当に風邪か?」
 「心配してくれはりますの?そうどすな、いや、もともとたいしたことはなかったんやけど、テヅカ君が心配してくれまして、“すごく早く治る薬”をくれはったんどすv」
 「へー・・・」
 「で、飲んでみたんどすけど、やっぱり急によくなるもんでもおまへんし、風邪は油断できまへんナ!あんさんも気をつけておくんなはれ・・・」
 どう見ても具合の悪そうなアラシヤマを見て、
 (もしかして、タケウチ君が薬を調合したのか?コイツでこのぐらいだったら、普通の人間はきっと死んでるよナ・・・。気をつけよう)
 そう結論づけたシンタローが、立ち上がろうとすると、伸びてきた手に手首をつかまれた。
 (熱ッ!)
 バランスを崩し、ひざをつくと、
 「す、すみまへんッツ!つい・・・」
 アラシヤマは焦った様子であったが、手は離さなかった。
 「わて、今これ以上ないくらい幸せな状況やいう気がするんどすが・・・」
 「馬鹿か?オマエ」
 手首をつかまれたまま、呆れたようにシンタローがそう言うと、アラシヤマはシンタローの手を引き寄せて頬に当てた。
 「普段、あんさんの方がぬくいのに、今日はひやこうて気持ちようおます~」
 しばらく、シンタローはアラシヤマの望むままにさせておいたが、不意に、
 「帰る」
 と言って手を振り解いた。
 しかし、腕を強く引かれ、アラシヤマの上に倒れこむ形となった。
 「おまっ」
 「帰らんといて」
 シンタローを抱え込むと、アラシヤマは彼の束ねられた髪をほどき、大切そうに撫でた。


 (―――何か、重うおますけど。何でどっしゃろ?確か、テヅカ君にもらった薬を飲んで寝てたはずどすが。どうやら風邪の方は全快したみたいやナ・・・)
 特に心当たりが無かったアラシヤマが身を起こすと、
 「しししし、シンタローはんがッツ!!何でここにー!?これってわての夢!?!?」
 彼の傍らに、想い人が丸くなって眠っていた。
 「うるせぇ」
 そう不機嫌に言うと、シンタローは起き上がった。
 「わっ、わて、何もしてへんはずどす!だって、あんさん服きてはりますし、何より、わて全然覚えてまへんもん!!だからっ、わては多分無罪どすえー!!」
 と、冷や汗を背中に伝わせながら必死で弁解するアラシヤマをシンタローはジロリと見ながら、
 「へェー・・・。昨日のことは全く覚えてない、と」
 髪をまとめ、紐で結わえた。
 「すみまへんッツ!わて、そんなにええ思いをしたんどすか!?じゃあ、今から続きをッツ・・・!!」
 「死ね。眼魔砲ッツ!!」
 ドウッ、と爆音が響き、アラシヤマは吹き飛ばされた。


 PAPUWAハウスに戻ったシンタローであったが、子どもと犬は何処かに遊びに行ったのか不在であり、家政夫が1人、家の中に居た。
 「シンタローさん、お帰りなさい」
 「ああ、ただいま。って、オマエ洗濯は?」
 「あ、ハイ、これからすぐにやります」
 リキッドは洗濯をしながら、洗濯物を干しているシンタローの後姿を目で追っていたが、
 (やっぱり、教えてあげた方がいいのか?もし知ってたとしたらわざわざ他人に指摘されたくはねーよな・・・。でも、パプワ達に気づかれたらどーすんだろ?この人、そういう説明は不器用そうだし・・・)
 シンタローのうなじに付いている薄赤い痕を見て、リキッドはそっと溜め息をついた。
 「悪い虫、か、馬の蹴り、か、どっちかなぁ・・・。ま、俺には関係ねーけど」
 思わず手を止め、空を見上げると、
 「干し終わったゾ!早く次のを寄越せ!!」
 という言葉とセットで、空のたらいが飛んできた。









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