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 散歩から帰ってきたパプワとチャッピーがパプワハウスに戻ると、
 「ちょっと、ほんのちょっとだけッツ!言葉をいいまちがえただけどすのに……」
 しっかりと閉ざされた入り口の傍で体育座りをしてぶつぶつ独り言を呟いている男がいた。
 アラシヤマであったが、パプワとチャッピーが戸口に近づくと1人と1匹に気づいた様子でようやく目を上げ、
 「ああ、パプワはん、チャッピーはん、おかえりやす~…」
 と、陰気な調子でぼそぼそとあいさつした。
 「ただいま」
 「わう!」
 家の中に入るとシンタローが洗い物をしていた。
 「ただいま、シンタロー。客だぞ!」
 「――客って、外にいる根暗のことか?あんなの客なんかじゃねぇ。放っておきなさい!」
 振り向きもせず、シンタローは皿を洗う手を止めない。
 いつのまにやら、窓口からそっと中の様子をうかがっていたアラシヤマは、みるからに肩を落としたようである。
 パプワはとことこ、と入り口に戻り、ほどなくして冷や汗をたくさん流している男を連れてきた。
 「パプワ、何でそんな変態野郎を家に入れんだヨ?」
 「客だからだ」
 じろり、とシンタローがパプワとアラシヤマをにらむと、アラシヤマはあわてて逃げようとしたが子どもがズボンの布地をつかんだので立ち止まった。
 「あのー、パプワはん。離しておくれやす。わて、やっぱり今日は帰りますさかい」
 相手はスーパーちみっこではあるものの、子どもの手を邪険に振り払うことにためらいがあるらしく、アラシヤマは困ったようにそう言った。
 「そういや、何しにきたんだアラシヤマ?」
 子どもが手を離し、男を見上げると、
 「ああああのっ、わてはっ、海へ行きまへんかってシンタローはんを誘いにきたんどす!さっきのは、バカンスの間違いどすえー!」
 アラシヤマは恥ずかしげにチラチラとシンタローの方を何度も見ながら、照れた様子である。シンタローはそんな男の様子にさらに苛立ったようであり、片掌にエネルギーをあつめ、光球を形成しはじめた。
 「眼魔…」
 「じゃあ、そのバカンスとやらに行ってこい」
 「「えっ?」」
 驚いた2対の視線が子どもに集まった。
 「つまり、シンタローとアラシヤマが一緒に遊びに行くということだろう?ぼくはかまわんゾ」
 「ほんまどすか~!?」
 「何でだヨ!?さっきからお前ら、なんであの野郎の肩を持つんだ?」
 大喜びしているアラシヤマとは対照的に、シンタローの表情は苦りきったままである。
 パプワとチャッピーは顔を見合わせ、
 「アラシヤマはお帰りってぼくらにいったけど、シンタローはいわなかったからナ」
 「わう!わうっ!」
 そう言った。シンタローは一瞬言葉につまったが、
 「そんなこと、……でもねぇか?」
 と、肩を落としてため息をついた。
 「わぁーったよ、俺の負けだ。ったく、とんだ罰ゲームだぜ!」
 「ただし、皿を全部洗い終わってからだからナ!」
 「はーい、はいはい」
 「シ、シンタローはんッ!早う終わるように、わてにも手つだわせて」
 おたまが正確にとんできて、アラシヤマの額にヒットした。
 「うるせぇ。テメーは外に出てろ!!」
 額をさすりながらそれでも嬉しそうに外へと出て行くアラシヤマと、険しい表情で洗い物に戻るシンタローを見て、
 「大人同士の友達づきあいはいろいろめんどうだよナ、チャッピー」
 「バウッ!」
 不思議そうに呟いた子どもに同感するように、犬は大きくうなづいた。


 「ったく!クソいまいましいったらありゃしねぇッツ!!」
 「シンタローはーんっ!待っておくれやすぅ~vvv」
 白い砂と砂利が混じった道を大またに歩いていくシンタローの背を、アラシヤマは嬉しげに追いかけていた。
 (なんてったって、シンタローはんはわてのことが好きどすから!わてにはバッチリわかってます!お花占いは間違いおまへんえ~vvv)
 いきなり、シンタローは立ち止まり、
 「あのなぁッ!」
 と振り返り、アラシヤマを睨みつけた。
 「えっ、なんどすかぁvvv」
 「言っとくが、コレは罰ゲームなんだからナ!海へ着いたら俺はすぐに引き返すぞ!」
 「ええ~、わてはシンタローはんと一緒に波打ち際を走りながら水を掛け合って心友同士のコミュニケーションを深めたり、砂のお城をつくったりして色々遊ぼうかと思うてましたのに……」
 不満そうなアラシヤマの言葉を無視し、シンタローが道を曲がると、今までの草いきれに満ちた森の風景とは一転し、眼下にはクリーム色の砂浜と珊瑚礁の海が広がっていた。明るい碧やブルー、濃い群青など多様な色を映す海は、以前のパプワ島と全く変わらない様子であり、シンタローは思わず立ちすくんだが、
 「シンタローはん?」
 いつの間にやら傍まで来ていたアラシヤマが不審そうに問う声で、我に返った。
 「……やっぱ、気がかわった」
 じっと片目でシンタローを見つめるアラシヤマはほんの一瞬だけなんともいいようのない表情をした。しかし、すぐに彼なりの笑顔になり、
 「えっ、ほんまどすかぁ!?うれしおますー!ほなシンタローはん、砂のお城を作ったあとはお互い反対側からトンネルを掘っていって途中で“あっ、トンネル開通―!”って二人でやってみまへん??」
 「何言ってんのオマエ?俺はそこの木の陰で昼寝すっから、全部テメー1人でやれば?」
 「1人で、どすか……?無理どす」
 なんだか非常にガッカリした様子のアラシヤマを無視し、シンタローは砂の上に大きく影を落とす樹下にさっさと寝転んだ。木の生えている場所は傾斜がついているので、仰向けに寝転んでも海が見えた。
 先程、アラシヤマは
 「プランDに変更どすえー!」
 などと言ってシンタローの隣に寝転ぼうとしたが、眼魔砲で追い払うと落下した先でいじけて1人で砂の城を本当につくりはじめたので、そのまま放っておいた。いったんつくり始めると、アラシヤマは黙々と砂を形づくる作業に熱中している。
 (あいつ、暑くねーのかな?まぁ、変態だしナ!)
 そう結論付けると、シンタローはアラシヤマから視線を逸らした。
 かるく目を閉じるといろいろ気がかりなことばかり浮かんでしまう思考をストップするため、ふたたび目を開け、ただただ明るい海をながめていたがシンタローはいつのまにやら眠りに落ちた。
 
 
 どれだけ時間が経ったものか、小さく
 「シンタローはん」
 と遠慮がちに呼ぶ声がした。
 「あ、起きはった?ついに、できましたえー!見ておくんなはれッツ」
 シンタローはどうやら夢も見なかったらしい。うれしそうなアラシヤマの後をぼんやりとついていくと、2メートル四方の砂でできた建物のミニチュアがあった。器用にも、細部までよくできている。
 「……城にはみえねーけど」
 「さすがはシンタローはん!ええとこに気がつかはりましたわ…!」
 「つーか、これって家?」
 「そうなんどすッ!シンタローはんとわての、夢のスウィート・ホーム設計図どすえー!!」
 「えいっ!」
 グシャリ、とシンタローが足で砂製建物の一部を踏み潰すと、アラシヤマは固まっていた。
 「……シンタローはんとわてのっ、愛の巣がー!!」
 と、アラシヤマが叫んだので、
 「うるせえっ!」
 シンタローはアラシヤマを殴った。
 「んな気色の悪ぃもんつくんなッ!それにどーせ、潮が満ちてきたら崩れるもんダロ!?だったら今踏み潰そうがどーしよーが同じじゃねーか!?」
 「そういう問題やあらしまへんもんっ!」
 などと言って崩れた箇所をいじましく直そうとしているアラシヤマを置いてシンタローは帰ろうとしたが、ふと、少し離れた波うち際に描かれていた地図らしき絵に目を留めた。地図は、波にさらわれ四分の一ほどが消えかかっていた。
 「オマエ、これ…」
 「あっ、シンタローはんっ!そっちは見んといておくれやす!!」
 アラシヤマはシンタローの方へ駆け寄ると、すごい勢いで腕を引っ張った。少しよろけて驚いたように自分を見たシンタローの表情をみとめて、彼は自分のとった行動を後悔したような顔つきになった。
 「パプワ島、か?」
 と聞くと、アラシヤマはしばらく黙りこくっていたが、頷いた。
 「別に隠す必要はねーだろ?3次元で計測できねーらしーけど、よく書けていると思うぜ?」
 シンタローが不審げにそう訪ねると、アラシヤマは何か迷っているようであったが、口を開いた。
 「……これって、斥候を想定して描いたんどす」
 俯いて、顔をあげない。
 「今度、パプワ島の地図を描いて見せてやったら、パプワ達も喜ぶんじゃねーの?」
 「―――シンタローはんっ、でもわては!」
 何か言いたそうなアラシヤマを浜辺にのこし、シンタローは帰路についた。









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as









 「シンちゃーんッツ!いったいどこへいっちゃったんだいっ!? パパのところへ戻っておいで~!!一緒にビデオの続きを観ようヨー!!」
 遠くの方でかすかに聞こえる声にしばらく耳を澄ませ、
 (やっと撒いたか…)
 声がだんだん遠ざかっていくことを確認し、廊下の壁に背をはりつけたままシンタローはひとまずほっと息をついた。


 朝の目覚めはシンタローからすれば、サイアク、であった。
 目が覚めると、何故か、隣にはマジックが添い寝をしている状況で、自分をみつめていた。
 「うーん、シンちゃんはいくつになっても可愛いねぇ」
 とマジックはにこにこと微笑んでいる。
 シンタローが状況を把握できないままぼんやりと彼を見上げ、視線が合うと、
 「ハッピーバースデー☆シンタローvvv」
 マジックは軽くキスをした。
 「何すんじゃぁあああ!このクソオヤジッ!!」
 起き上がりざま、思いっきり繰り出した右ストレートであったが、マジックはさすがといっていいものか吹き飛ばされたりはしなかった。ベッドから落ちそうにはなったがどうにかふみとどまり、シンタローの両肩をガシッと掴むと、
 「ええっ!?シンちゃん、予定ではここで『ありがとうvパパ大好きっvv』って思いっきり抱きついてくれるはずだったのにー!?なんでッツ」
 と叫んだ。シンタローは肩にくいこんだ指の強さと声の大きさに顔を顰めた。
 「うるせぇッツ!!脳ミソ沸いてやがんのかテメェ!?つーか、どっからどうやって入ってきやがった!?!?」
 「それはまぁ、ヒ・ミ・ツだヨ☆そうだねぇ、パパの愛のパワーとでも言っておこうかなvあれ、どうしたのシンちゃん?もしかして、うれしくて照れちゃったのかい??」
 俯いてしまったシンタローの顔をマジックが覗き込むと、その瞬間、
 「眼魔砲ッツ!!」
 青白い閃光が室内いっぱいに炸裂した。


 結局、すぐに眼魔砲のダメージから立ち直ったマジックと彼手作りの誕生日ケーキを食べた後、『シンちゃんv成長記録ビデオ(愛蔵版)』を観ながら過ごしていた。もちろん、自らすすんで観たいというわけではなかったが、
 「私はね、シンタロー、お前が私の家族になって本当に嬉しかったんだよ」
 真剣な声音のマジックに見つめられ、
 「だから、思い出のひとつひとつを残しておきたかったんだ。それを今から一緒に観ようよ」
 と言われると、思わずうなずいていた。
 「あっ、ここでシンちゃんが『パパーv』って走ってきて、転んじゃうんだよ!ひざ小僧をすりむいて泣きそうになるシンちゃんと『大丈夫かい?』と私が優しく声をかけたとたん思わず泣き出しちゃうシンちゃんがとーっても!可愛いからしっかりみててネv」
 「はーいはいはい。」
 (同じ場面を何度も巻き戻しすんなよ。さっきから全然進んでねぇじゃねーか…。美少年な俺様はともかく、親父の説明がいちいち超ウゼぇ…)
 最初は懐かしい思いで観ていたが、だんだんげんなりとしだしたシンタローは、マジックがビデオの続きをとりにいった隙をつき、
 (じょーだんじゃねぇ)
 逃げ出した。


 (どーすっかな…)
 先ほどの騒動を思い起こしながら、もう一度深く息を吐くと、今度は
 「シンタローは~ん!どこにいはりますの~?」
 とそれほど遠くないところから足音と聞きなれた声が聞こえた。それにともない、陰気な気配もだんだんと近づいてくる。
 (そういや、あの根暗もいたんだったナ…。やべぇ、この先行き止まりか?)
 どうするか、と逃げ道を探して辺りを見回したところ、ドアから金色の頭がヒョッコリのぞき、
 「あっ、やっぱりシンちゃんだー!お誕生日おめでとうッツvvvよかったら、僕達がかくまってあげるヨ?」
 と言った。
 グンマの後につづき今は使われていない研究室に入ると、中ではキンタローがソファに座っていた。キンタローは相変わらず真面目な表情を崩さなかったが、シンタローを見ると開口一番に
 「シンタロー、今日はお前の誕生日だな。おめでとう」
 と言った。
 「サンキュ。お前も誕生日おめでとな、キンタロー」
 そういうと、シンタローはドサリとキンタローの向かいに腰を下ろした。
 「シンちゃーん!この部屋、小型磁場装置でシールドを張ったからしばらく大丈夫だヨv」
 「まさか、お前が作ったもんじゃねーだろーナ?」
 少々疑わしげにシンタローがグンマを見上げると、
 「えーっ、ひっどーい!シンちゃん!まぁ、キンちゃんが作ったんだけどさ」
 グンマは頬をふくらまし部屋の奥へといったん姿を消したが、後ろ手に何かを隠しながらすぐに戻ってきた。そして顔を輝かせ、
 「二人とも、お誕生日おめでとうッツ!!」
 といった。
 グンマがテーブルの上に置いたものをみて、シンタローとキンタローは顔を見合わせた。
 「ケーキ、か?」
 「ケーキ、だろう。まず、土台のスポンジは水色に着色されたバタークリームでコーティングされている。そしてその上にはマジパンでつくられたと思しき緑色の水草と黄色いアヒルが3羽、そしてピンクのチョコレートペンシルで『シンちゃん&キンちゃんHAPPY☆BIRTHDAYv』と書いてあるが…」
 (いや、そういう問題じゃねーダロ?食えんのかコレ?お前は平気なのかよ…)
 あまりにもカラフルな色彩にあふれたケーキをもう一度見て、シンタローはキンタローの方を見た。しかし、キンタローはいつもどおりの平静な表情のままであった。
 「ケーキだよぉ~!!僕の誕生日はシンちゃんとキンちゃんが美味しいケーキをつくってくれたから、今度は僕が作ったんだ!上手に出来たでしょvvv」
 グンマはニコニコと笑顔で、ケーキを切り分けた。
 「はいv喧嘩にならないように、ちゃんとアヒルさんたちも1人一匹ずついるからネv」
 無言でシンタローは差し出された小皿を受け取り、「いただきます」と一口ほおばると、何故かバタークリームが塩味、そしてスポンジは固くてかなり甘かった。
 「このケーキ、おいしくないヨー!」
 グンマが泣きそうに顔をしかめた。
 「お前、ちゃんと分量を計ったのか?それにクリームは砂糖と塩を間違ってんぞ?…まぁ、食えねーことはねぇけどナ」
 「俺は甘すぎるよりもまだこっちの方がいい」
 とシンタローとキンタローがそれぞれいうと、
 「キンちゃんもシンちゃんもありがとうッ!ねぇねぇ、せっかく3人いるんだし、後でトランプをしようよっvvv」
 グンマの表情が明るくなった。


 「なんで俺が大貧民なんだヨ?馬鹿グンマに負けるなんて、ったく信じらんねぇ」
 グンマは先ほど「今日は僕がお昼ご飯を買ってきてあげるね~♪」といって部屋から出て行った。シンタローは手に持ったカードをテーブルの上に投げ出した。
 「お前、ホント器用だナ」
 シンタローはソファに寝転び、キンタローがトランプを繰る様子を眺めていた。
 「よくわからないが、そうなのか?」
 キンタローの手の内で下から上へと移動するカードの流れをなんとはなしに見ていると、 
 「獲物を狙う猫に似ているな」
 シンタローを見てキンタローは少し笑ったようであった。
 「なんだソレ。それにしても、アヒルだか何だかグンマのセンスは相変わらずよくわかんねーナ」
 「そういうな。俺は嬉しかったぞ」
 そういってキンタローは箱にカードを収めた。
 「…何かお前本気で欲しいもんとかあるか?」
 シンタローが声をかけると彼は何やら考え込んでしまった。
 「……本気で欲しいもの。あるにはあるが、俺が自分で手に入れないと意味がない、と思う」
 (コイツの欲しいものって、一体何なんだ?)
 ソファの上であれこれ考えてみたが、らちがあかない。じっと見られている気がしたので居心地が悪くなり、起き上がった。
 「他には、何かねーの?」
 と聞いた。
 「そうだな」
 キンタローは目をしばたたかせた。
 「料理をつくってくれ」
 「おう、いいゼ。何が食いてーんだ?」
 「お前が作ってくれるものなら、何でもいい」
 「あれが好きとかこれが嫌いとかねーのかよ?」
 「好き…。好きという感情は難しい。だが、お前の作る料理はみんな好きだ」
 シンタローは率直な言葉に目を丸くしたが、ニカッと笑い、
 「期待してろヨ」
 といった。
 

 「ただいま~vサンドイッチ買ってきたよv夕方からパーティーだし軽めにしておいたほうがいいと思って」
 グンマはパンや菓子などが入った大袋をテーブルに置き、ガサガサと中身を取り出しながら、
 「あ、そうそう、シンちゃん。アラシヤマ君が探してたヨ~」
 とシンタローにいった。
 「ああ゛?アラシヤマだぁ?」
 「うん。なんかね、必死みたいだったから、ここにいるって言っちゃったv」
 「てめー、余計なこと言うなヨ!」
 思いっきり顔を顰めたシンタローをしばらくながめ、グンマはひとこと、
 「シンちゃん、大人げないヨ?」
 と言った。
 「あんだと?ケンカ売ってやがんのか、テメェ!?殴るぞ!」
 「落ち着け、シンタロー!」
 「いいよ、キンちゃん。あのね、アラシヤマ君もシンちゃんの誕生日をお祝いしたいんだと僕は思うよ?」
 「―――別に、俺はあんなヤツなんてどーだっていいし」
 「今日はシンちゃんを大好きな人たちにとっては特別な日なんだ。絶対会わないつもりだったら仕方ないけど、意地をはってもしょうがないじゃない」
 グンマはシンタローから目をそらさなかった。とうとう、シンタローの方が目をそらした。
 「グンマ、シンタローを追い詰めるな。シンタローはアラシヤマが嫌いなんだろう?それなら俺は会わなくてもいいと思う」
 「キンちゃん、そういうことじゃないんだ」
 「だがな」
 グンマはかぶりを振った。黙って二人の会話をきいていたシンタローが
 「帰るわ」
 そういって立ち上がった。キンタローは心配そうにシンタローを見たが、グンマは笑顔で
 「じゃあまた夕方会おうね、シンちゃん」
 バイバイ、と手を振った。
 

 シンタローが廊下に出ると、曲がり角からおずおずとアラシヤマが姿をあらわした。
 「シンタローはーん!やっと、見つけましたえ~」
 嬉しそうに駆け寄るアラシヤマにシンタローがそっぽを向くと、アラシヤマは
 「お、怒ってはりますの?」
 と言って数メートル手前で立ち止まった。
 「ああああのっ、これだけは、今日あんさんに伝えたかったんどす。お、お誕生日、おめでとうございますっ、シンタローはん!」
 いつも図々しい根暗男が、緊張しているのかうつむきかげんで途切れ途切れにいう言葉を、シンタローは黙って聞いていた。
 「―――ああ」
 「あ、あの、眼魔砲は…?」
 「別に。今はそんな気分じゃねーし」
 廊下の真ん中に立っているアラシヤマの横をシンタローはすり抜けようとしたが、腕を掴まれた。
 自然、シンタローはアラシヤマを振り返って睨みつけたが、覚悟を決めたのかアラシヤマは、
 「ちゃんと、あんさんの顔を見ていうてもよろしおますか?わては、シンタローはんが今ここにいることに感謝どす」
 そういうと、シンタローの躯を抱きよせた。
 「やっぱり、言葉だけやと伝えきれまへん」
 抵抗は、なかった。


 「えーっと、お取り込み中のところ悪いんだけど」
 音もなく開いた扉から、グンマがひょっこり顔を出した瞬間、ガツッと何かを思いっきり殴ったような鈍い音がし、ついで
 「眼魔砲ッ!」
 辺りに爆音が響いた。
 「あれ、シンちゃん?さっきまで、アラシヤマ君がいなかった?」
 「さあ?そんなのぜんっぜん!しんねーケド?」
 行き止まりになっている壁の方から、ボロボロの人影が起き上がり、
 「し、シンタローはん。あんさんシャイどすなぁ…。べつに恥ずかしがることあらしま」
 いい終わらないうちに、バタリと倒れた。グンマはアラシヤマの様子をとくに気にするでもなく、
 「アラシヤマ君、さっきはお菓子をたくさんありがとー!」
 と笑顔でいった。
 「菓子って何のことだ?」
 「え?あのね、シンちゃんの居場所を教えたらお菓子をくれるってアラシヤマ君がいったからv」
 「ぐ、グンマはんッ。それって別に、今言わんでもええこととちゃいます…?あんたはん、超タイミングが悪うおますえ~!? 」
 「テメェは黙ってろ。で、菓子をもらったから、お前はコイツに教えた、と?」
 「んーと、ちょっと違うけど?ま、いいや☆じゃあ、おじゃましましたvごゆっくりどうぞ」
 そういうと、グンマは扉を閉めた。
 「―――せっかくええ雰囲気やったのにぶち壊しどす。さすが馬鹿息子やわ…」
 シンタローはつかつかと歩み寄り、床に座ってぶつぶつひとりごちているアラシヤマの胸倉をつかみあげた。
 「―――どうもグンマがやけにテメェの肩をもつと思ったら、菓子で買収してやがったのか…」
 「えっ!?あの、シンタローはん?何のことどすか??まったくの誤解どすえ~!!」
 「問答無用。眼魔砲ッツ!!」
 アラシヤマを置き去りにし、シンタローは角を曲がった。
 (―――ったく、どいつもこいつも。まぁ、気分転換にコタローの顔でも見に行くとすっか!)
 歩きながら、腕をあげて思いっきりのびをすると、なんとなく心も軽くなったような気がした。


as
あんさんのこと、ほんまに好きなんや。
それが「友情」やなくて「恋情」であるってことが、あんさんにとってはえろう重大問題みたいどすなぁ…。
せやけど一般常識に囚われるなんて、シンタローはんらしくないと思いまへんか?
あぁそない困った顔せんといて。
かいらしい顔が歪むんは、見とぉないんどす。
それに…あんさんにそない顔させとんのが、わてや思うと切ないんどす。
あんさんが良く言うような男同士とか、上司や部下だとか?
そないな些細なこと、わてにはなんの障害にもなりまへんのや。
大昔の聖書にあるやろ?
「女を愛すように男を愛すな」と。
あれって、逆ですわ。
そない大昔の神さんの時代にかて、同性を愛する輩がおったってことでっしゃろ?
禁止せなあかん位に。
ちゅーことは、同性同士の恋愛かて人間の遺伝子に書き込まれているってことになりまへんか?
ならわてらにはなんの障害もありませんわ。
遺伝子に刻まれた「あんさんを愛する」という指令に素直に従えばいいだけどすから。
そろそろ…顔、あげてくれまへんか?
わろて欲しいんどす。
いつもの太陽みたいに。
怒ってくれてもええどす。
殴ってくれても。
何してくれてもええんどす。
わてのこと、あんさんの好きにしてほしいんどす。

せやから、わてのこと信じてください。
ほんまに…ほんまに好きなんどす。
答えてください。
わてのこと好きでっしゃろ?
シンタローはんが、わてのこといくら邪険にしたかて、認められない心の奥の奥の奥には、わてへの気持ちが隠されているって知っています。
でもそれを素直に出すことが出来ないのも分かっています。
せやからわては笑います。
シンタローはんがわてにわろてくれるように。
優しゅう笑います。
臆病な子ぉが、初めて一人で歩き出すのを見守るおかあはんのような気持ちで。
なんや、いつもと立場が逆どすなぁ…。
シンタローはん、眉間に皺よってますわ。
へぇ、臆病なのはわての専売特許なのは知ってます。
せやけど、恋っていうのはすごいものなんどすえ?
臆病者をえらい自信家にしてくれるんですわ。
待つのには慣れとりますさかい、ゆっくり考えておくれやす。
せやけど…あんまり待たせすぎると、わてかて不安になってまうてこと覚えてておくれやす。
臆病になってるあんさんの手ぇ引っ張って、わての腕ん中閉じ込めてまうかもしんまへんなぁ。
小鳥のように震えるあんさんを、きゅう…って抱きしめて、あんさんがなぁんにも考えられないように、むつかしいことばっかり考えてまうオツムん中、からっぽになるまで抱っこしてまうかもしれませんで?
そないしたら、あんさんはわてのことだけ考えてくれますやろ?
覚えててください。
わての腕んなかだけや、あんさんがゼロになれんのは。
わてだけが、ゼロんなって赤さんのようになったシンタローはんを守ってあげられるんや。
だから、あぁ…だから、はよ来てください。

a
* n o v e l *

PAPUWA~君に触れる僕の手~
1/2



ポタリ。
――ポタリ。
「…………」
熱い雫が、俺の頬を濡らす。
それを拭いもせず、瞬きもせずに。俺は俺の上で静かに泣く男を見上げる。
「シンタローはん……」
かすれた声で俺の名を呼んで、そいつはまた一つ、雫を落とした。

熱い。

俺に触れる指も、唇から零れる吐息も、その涙も雫も、信じられねぇ程に熱くて。
「……馬鹿じゃねぇの、お前」
嘆息して、俺はそいつ――アラシヤマの髪を、くしゃりと乱暴な仕草でかき混ぜる様に撫でてやった。




「ほんっっっっとに、馬鹿だろてめぇ!!なぁぁんど言ったら分かるんだよ?ああん!?俺の許可無く汚すんじゃねぇーッ!!!」
「ゆ、許しておくれやす~シンタローはん!わ、わても何とか堪えよう思うとるんどすぅ~」
「思うだけじゃ意味ねぇんだよッ!次ふいたらマジ殺す、つーか今すぐ一回殺るから二度殺す」
「そ、そないな殺生な……!ああっ、でもイケズなシンタローはんも大好きどすえ?」
「聞いてねぇよンな事はッ!」
ったく……と呟いて、俺は汚れたシーツを洗う手に力を込めた。
汚れた、と言っても、別に色っぽいもんじゃねぇ。まぁ確かに血痕がついてたりシワが寄ってたりして一見アレした後のシーツっぽくも見えるが……。
「どーしてくれんだよコレ?鼻血は落ちにくいんだぞ!勝手に人が寝てる布団に潜り込んできやがって……鼻血ふいてんじゃねぇよこの引きこもり」
ぶつぶつと愚痴る俺に、アラシヤマは隣で土下座しながら「へぇ…!ほんま、すんまへん!!」と申し訳無さそうに謝っている。
勝手に添い寝した上に、人の上に乗っかって鼻血垂らしてる変態に気付いたのは、昨日の深夜……いや、もうとっくに日付けが変わって今日になった時の事だった。

『…………何やってんの、お前』
『え?!え、えーと……し、シンタローはんと友愛の契りを結びに…』
『キショイ事言ってんじゃねーよ眼魔ほ…ッ!』
『ちょっ、ちょっと待っておくれやすー!!』

いつもならそのまま吹っ飛ばすところだが、隣でパプワとチャッピーが熟睡してんのを思い出して辛うじて踏み止まった。別にそんくらいの事でこのスーパーお子様達が起きるとも思えねぇが、まぁ何となく。いつにも増して挙動不審な目の前の引きこもりに、ふと違和感を感じたというのもある。
『んだよ、何か言い訳でもあんのかぁ?ちょっと待ってやるから言ってみろ。あとその鼻血を拭いてさっさと俺の上から退け』
『へっ?ゆ、許してくれはりますのん?』
『許すなんて一言も言ってねぇよバーカ。パプワ達が起きるかもしんねぇから、眼魔砲は今は勘弁してやってるだけだ』
今は、というところにわざとアクセントを置いて、ケッと嫌そうに顔を背けてやると、アラシヤマは「し、シンタローはぁ~ん!」と情けねぇ声を出した。
『じ、実は……今日来たのはちゃんとした理由があっての事どす。今日は特別な日やから……シンタローはんに一番に会いたかったんどすえ』
アラシヤマの言葉に俺は「はぁ?」と眉をひそめた。
特別な日?確か今日は九月十一日……いや、もう日付け変わってるから十二日か。
『……』
『……』
ドキドキ、と何やら期待してるらしい面持ちで俺を見つめるアラシヤマからさり気に目をそらしつつ、俺は寝起きでまだ上手く回らない頭をぼんやりと働かせる。
何かあったっけか?今日。思い出せねぇなー。
『……つーか、さっさと退けって言わなかったか?俺。鼻血も拭け変態』
『鼻血は気合で止めましたえ!これはもう乾いとるんどす!』
『いやマジでキモイから。なに偉そうにしてんだよ。つか退けってもう三回目だぞテメ』
最終勧告、と付け足して不機嫌に睨んでやったが、アラシヤマは退く様子が無い。妙にきっぱりと「嫌どす、退きまへん」と返して、俺のシャツの胸元をギュッと握り締めた。
その様子に眉間にシワが寄るのを感じながら、俺は低い声で言った。
『いい加減にしとけよアラシヤマ。なに、オメー。俺にぶっ殺されにきたワケ?死ぬ程めんどくせぇけど、そんなに死にてぇなら……』
『そんなんと違いますッ!』
『……っ?』
思わぬ激しさで言葉を遮られ、俺は驚いて目を見開いた。
そんな俺を見て、アラシヤマは一瞬後悔した様に目線をそらしたが、下唇を噛むとすぐにまた俺を真正面から見た。
『ほんまに……分かりまへんの?今日が何の日か』
そっと、躊躇いがちに指先で俺の頬に触れ。
線をなぞる。
唇に親指を当てられて、何故か、ぞくりと背筋が震えた。
『……わかんねぇな。何の日だよ?』
『……ほんまにイケズなお人や。ここまで来ると鈍いんとちゃいます?まぁそないなとこも好きやけど……』
『んだとテメ……っ』
カッとして悪態を吐こうとするが、口を開けるとアラシヤマの指に舌先が触れてしまい、慌てて言葉を飲み込んだ。
アラシヤマはほんのりと頬を紅潮させて、その指で俺の唇をゆっくりとなぞる。
『……ッ』
乾いた指が、妙に艶かしい動きで唇を撫でていく。むず痒い様な気色悪い様な、変な感覚に確かな「色」を感じてしまい、俺は咄嗟にアラシヤマの手を跳ね除けようとした。
『照れ屋どすなぁシンタローはんは』
だが一瞬早く手を引いたアラシヤマは、さっきまで俺の唇に触れていた自分の親指をペロリと舐め、チュッと音を立てて口付けた。赤い舌が挑発する様にひるがえり、嬉しそうに口の端がにんまりと上がる。
『間接チューどす』
『ぶっ殺ぉぉぉーす』
『お、怒らんといておくれやすシンタローはんっ。か、かかか軽いジョークやないどすか!?』
俺の本気の怒気に気付いたのか、アラシヤマは慌てて指を離した。
そのくせ、いまだに俺の上から退く気配は無い。
『~~ッ、あーイライラする!何なんだよマジでオメーは!?用がねぇならとっとと帰れ!眼魔砲食らわすぞ!!』
『せやから用はあるんどす~!心友のシンタローはんならきっと分かってくれると思うとりましたんに!』
『友達は夜這いなんかかけねぇし鼻血はふかねぇ。いい加減目ぇ覚まして現実を見ろニッキ臭い引きこもり。頭の病院紹介してやろうか?』
冷ややか~な目で親切にも指摘してやると、アラシヤマは血の涙を流してどこからともなく取り出したハンカチの端をそっと噛んだ。
『フ、フフフ……シンタローはんの言葉はいつもわての胸深くに突き刺さりますなぁ。これも歯に衣着せぬ真の友達やからやろうか……』
『確実に友情も愛も無いがな。行ったっきり帰ってこれねぇ真の一方通行だ』
つーかハンカチを噛むな。
アラシヤマはふう、と一つ大きく溜息をつくと、恨めしそうな目で俺を見下ろした。
『今日はわての……』

* n o v e l *





PAPUWA~stade dumiroir~








がり。がり、と微かな音を立てて、咥内にある丸い塊を噛み砕く。
小さく顎を動かして。その塊を小さな小さな欠片にすると、漸く嚥下した。
そんな微かな音ですら、目の前にいる男は聞き逃さなかった。
この静かな、静か過ぎる空間では存外響いたのかもしれない。

「何だよ、それ」
「飴玉どす」

本を読んでいたシンタローは、ちらりと視線を上げた。
アラシヤマは口を開けて空になった咥内を見せてやる。
赤い舌が覗いたが、それだけだった。その上に先程まであった飴玉はもう、存在しない。
アラシヤマは小さく笑った。

「薄荷の匂い、します?」
「ハッカ……あれって、美味いか?歯磨き粉みてェな味」

わざわざ好んで食べるようなもんでもない、とシンタローは独り言のように呟いた。
さして興味をひかれた様子は無く、彼の視線はまた本へと戻る。まるでアラシヤマなど存在しないかのように。

夕暮れ時の図書館に、彼ら以外の生徒の姿は無い。
遠くで司書が、退屈そうに欠伸をした。
長テーブルには二人の影が伸びる。
アラシヤマは窓の外へ視線を向けた。

「今日の夕日は、やけに赤いわ。火ぃ見とるようどす」

返事は無い。アラシヤマも、期待してはいなかった。
士官学校で配給される揃いの紺の学生服のポケットから、赤い袋に包まれた薄荷味の飴玉を取り出し、ころりとテーブルに転がす。
彼も普段好んでこういったものを食べる訳ではなかったが、今日は何故かそんな気分だった。
お裾分けどす、と言ってシンタローの方へ転がす。

「……赤い色、嫌いどすか?」
「……別に。でも赤い服は、マジックを思い出すから好きじゃない」

シンタローは本から目を離さずに言った。
どこかつまらなそうな退屈そうな表情を装っているが、父の名を口にした瞬間、何かに激しく苛立っているような、焦っているような光がその眼に宿るのをアラシヤマは見逃さなかった。
アラシヤマはそんなシンタローの姿に満足して、その眼が好きだ、と思った。
何度挑戦しても決して勝てず、常にNo2に甘んじている自分も、きっと今の彼と同じような眼をして、彼を見ているのだろう。自分達は全く似ていないが、届かない相手に屈折した想いを抱いているという点では、結局同じようなものなのかもしれない。
足掻いて、それでも抜け出せずにいるシンタローを見ると、アラシヤマは嬉しくなって口元を笑みの形に歪ませた。


「シンタロー」

「なに?」

「アンタが死んだらその眼、わてが貰いますわ」

そしてこの薄荷味の飴玉のように、粉々に噛み砕いて嚥下してあげよう。


シンタローはアラシヤマを見ないまま、素っ気無く言い放った。

「やらねーよ」



薄荷の匂いが、ほのかに辺りに漂っていた。










END

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