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* n o v e l *





PAPUWA~stade dumiroir~








がり。がり、と微かな音を立てて、咥内にある丸い塊を噛み砕く。
小さく顎を動かして。その塊を小さな小さな欠片にすると、漸く嚥下した。
そんな微かな音ですら、目の前にいる男は聞き逃さなかった。
この静かな、静か過ぎる空間では存外響いたのかもしれない。

「何だよ、それ」
「飴玉どす」

本を読んでいたシンタローは、ちらりと視線を上げた。
アラシヤマは口を開けて空になった咥内を見せてやる。
赤い舌が覗いたが、それだけだった。その上に先程まであった飴玉はもう、存在しない。
アラシヤマは小さく笑った。

「薄荷の匂い、します?」
「ハッカ……あれって、美味いか?歯磨き粉みてェな味」

わざわざ好んで食べるようなもんでもない、とシンタローは独り言のように呟いた。
さして興味をひかれた様子は無く、彼の視線はまた本へと戻る。まるでアラシヤマなど存在しないかのように。

夕暮れ時の図書館に、彼ら以外の生徒の姿は無い。
遠くで司書が、退屈そうに欠伸をした。
長テーブルには二人の影が伸びる。
アラシヤマは窓の外へ視線を向けた。

「今日の夕日は、やけに赤いわ。火ぃ見とるようどす」

返事は無い。アラシヤマも、期待してはいなかった。
士官学校で配給される揃いの紺の学生服のポケットから、赤い袋に包まれた薄荷味の飴玉を取り出し、ころりとテーブルに転がす。
彼も普段好んでこういったものを食べる訳ではなかったが、今日は何故かそんな気分だった。
お裾分けどす、と言ってシンタローの方へ転がす。

「……赤い色、嫌いどすか?」
「……別に。でも赤い服は、マジックを思い出すから好きじゃない」

シンタローは本から目を離さずに言った。
どこかつまらなそうな退屈そうな表情を装っているが、父の名を口にした瞬間、何かに激しく苛立っているような、焦っているような光がその眼に宿るのをアラシヤマは見逃さなかった。
アラシヤマはそんなシンタローの姿に満足して、その眼が好きだ、と思った。
何度挑戦しても決して勝てず、常にNo2に甘んじている自分も、きっと今の彼と同じような眼をして、彼を見ているのだろう。自分達は全く似ていないが、届かない相手に屈折した想いを抱いているという点では、結局同じようなものなのかもしれない。
足掻いて、それでも抜け出せずにいるシンタローを見ると、アラシヤマは嬉しくなって口元を笑みの形に歪ませた。


「シンタロー」

「なに?」

「アンタが死んだらその眼、わてが貰いますわ」

そしてこの薄荷味の飴玉のように、粉々に噛み砕いて嚥下してあげよう。


シンタローはアラシヤマを見ないまま、素っ気無く言い放った。

「やらねーよ」



薄荷の匂いが、ほのかに辺りに漂っていた。










END

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