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m1
* n o v e l *





PAPUWA~YOUR SMILE~
1/4




「ねぇねぇシンちゃん!明日は何の日か覚えてる?」
「ああ?明日ぁ~?」
「そう!12月12日だよ」

ニコニコと笑いかけながらも、「……もちろん覚えてるよね?」とマジックは愛する息子にプレッシャーをかけて訊ねた。
だが訊ねられた息子の方はと言うと。

「……さァ?知らねーし興味もねぇな」

と実に素っ気無く答えて淡々と仕事を続ける。
マジックの方には視線の一つも向けてやらず、言外に「邪魔だからどっか行け」アピールをした。

が、その程度でヘコむ親父であるはずも無く。

「シンちゃんってば、いつからそんなに仕事ばかりのお堅い子になっちゃったんだい?もうお昼なんだから一旦手は止めて、パパとお話しようよ」
「あッ、何すンだよ!」

マジックはシンタローの手元からひょいと書類を取り上げてしまう。
ざっと目を通し、その書類が急を要するものではない事を悟ると、シンタローにニッコリと笑いかけた。

「仕事のできる有能な男もいいけど、遊び心を忘れるようではダメだよ。さ、パパとお話しよう!」
「あ・の・なァ~……時間の無駄だからとっとと返せよ!」
「ダーメ。明日が何の日か、言ってごらん?シンタロー」
「……~ッ」

口をへの字に曲げて眉間に深いシワを寄せ、自分をギロッと睨みつけてくるシンタローの視線をマジックは正面から平然と受け止める。
機嫌が悪いシンタローと平気な顔をして向き合える人間は、ごくごく限られている。
しかし父親だからというのもあるのかもしれないが、マジックはシンタローの怒りを恐ろしいと感じた事は今までに一度も無い。
シンタローが本気で怒ってみせても、マジックには子猫が毛を逆立てて威嚇しているようにしか見えないし、可愛らしく爪で引っ掻かれた程度の脅威しか感じない。
――そもそもシンタロー自身が本気で怒る事はあっても、本気でマジックを嫌いになれた事は一度も無いのだから、それも当然かもしれない。

シンタローの喜怒哀楽、自分に向けられる感情の波、些細な反応全てをマジックは喜び、もうガンマ団の総帥として一人前の扱いをしてやらなくてはいけないのだと頭では分かっていても、ついつい子ども扱いをしてしまう。
いささか歪んだ愛の形ではあるが「私のシンちゃんは本当に可愛いなぁ~」とデレデレになって親馬鹿な事を考えてしまう。
彼が本当に恐ろしいと思うのは、シンタローが自分を嫌って、自分の手の届かない場所へ行ってしまう事だ。

――裏を返せば、嫌われる可能性が無いと踏めばグイグイとどこまでも押していくという事でもある。


「シンちゃん、ホントは覚えてるよね?12月12日の事」
「覚えてねーよ。いーからソレ返せ」
「覚えてないって言葉が出てくるという事は、何かがある大切な日だって事は忘れてないって事だよね?」
「ややこしー事言うな。つーかあれのドコが大切な日だっつーンだよ!下らね~ッ」

書類を取り返そうとイスから立ち上がって此方に手を伸ばしてくるシンタローを避けつつ、マジックは満足そうにニッコリした。
その顔を見てシンタローは自分の失言に気付き、「しまった……!」と舌打ちする。

「やっぱり覚えてたんだね!シンちゃんは本当に恥ずかしがり屋さんだなぁ~。照れる事無いのに!」
「照れてねーよ、幸せな妄想に浸ンな!……ッたくよ~、誕生日くらいでいちいちはしゃぐなよな、いい歳して。むしろ歳取った事を嘆け」
「それはいつまでも若々しく、元気なパパでいてほしいというシンちゃんからのお願いかな?」
「前向きに解釈しすぎだぞテメー。つっこむのめんどくせーからポジティブシンキングすンな」

シンタローがいくら悪態をついてもマジックは上機嫌で、その笑顔が崩れる事は無い。
恐らく覚えているだろうとは思っていたが、実際にシンタローの口からそれを聞けると、嬉しさは格別のようだ。

「明日はパパのバースデイを祝ってくれるよね、シンちゃん!パパとっても嬉しいよ」
「何で俺が祝わなきゃなンねーんだよ?調子乗ンな!」
「だってシンちゃんの大好きなパパのバースデイなんだよ!?子どもの頃はよく『パパおめでとー!だいすきッ』って言いながらキスしてくれたじゃ」
「眼魔砲ッッ!!!」


ちゅどーーんッ!!!と爆音と共に吹き飛ばされながらもマジックは

「お祝いしてくれないとパパ拗ねちゃうからねーーッッ!!」

と叫び、シンタローは

「勝手に拗ねてやがれ馬鹿親父ーーーッッ!!」

とこれまた叫び返した。
ある意味微笑ましい親子の交流。
だが部屋の隅に控えていたチョコレートロマンスとティラミスは、

「今月も工事費がかさむなァ……」
「クリスマス前だっつーのに、殺伐としてるな相変わらず」

と諦め混じりに嘆息した。








所々ススだらけになりながらマジックがとぼとぼとガンマ団内の廊下を歩いていると、突然後ろから「おとーさまぁ~!!」と能天気な声で呼びかけられた。
足を止めて振り返ると、グンマが笑顔でパタパタと駆けてくるところであった。

「おや、どうしたんだいグンちゃん。ご機嫌だね」
「うんッ、よかったぁ~おとーさまに会えて。僕探してたんだよ!」
「私を?」
「うん。自分のお部屋にいなかったからきっとシンちゃんのところにいるんだろうと思って、さっき総帥室に行ったんだけど……シンちゃんは機嫌が悪いし、もう眼魔砲で壁に穴が開いてたから、今日はおとーさまどこまで飛ばされちゃったのかな~と思って今まで探してたんだ」

えへへ、と笑うグンマの発言は色々ツッコミどころ満載だったが、マジックはさらりと流す事にして微笑み返した。

「そうか、すまなかったね。それで、私に何の用なんだい?グンちゃん」
「あ、はい!あのね、コレをおとーさまに渡しに来たんだよ~」

差し出された物は、口のところにブルーのリボンが巻かれた可愛らしい小瓶だった。
中には得体の知れないピンクの液体が入っている。

――何やらデンジャラスな気配を感じたが、息子から差し出された物をマジックは拒否しなかった。
受け取って光に透かすように翳してみると、透明なピンクの液体がちゃぷんと揺れる。

「何かな?コレは。香水……というワケではないよね?」
「うん、一応飲み物だよ!」
「一応?」
「キンちゃんと一緒に作ったんだ。人体に害は無いはずだから、おとーさま飲んでみて!」

一応、という枕詞が気になって仕方が無い。
だが無邪気に「早く早く!」と促すグンマに、マジックは進退窮まって苦笑いを浮かべた。
グンマの事を信用しないわけでは無論ないが、得体の知れぬものを口に運ぶ事はできない。
それは今までの人生の中でマジックが必然的に身に付けて来たものだった。

「グンちゃん、飲む前にコレが何なのか詳しく説明を」
「それ飲んだらシンちゃんが優しくなるよ」

グビッ!!!


用心深く、慎重に生きるべし――という今までの人生の中で培ってきた教訓を速攻で捨て去り一瞬の早業で瓶の蓋を開けると、マジックは怪しい薬を躊躇う事無く一気に飲み干した。
甘いイチゴシロップにも似た味が口内に広がる。

飲んだ後で我に返り、一瞬ハッとしたが――特に変化は見られない。
遅効性の薬なのか?それとも……と考えに沈みかけたマジックだったが、グンマの歓声でそちらに意識を戻させられる。

「わぁ~い!おとーさま潔いね!コレで明日はシンちゃんと仲良しさんだよ」

仲良しさん、の言葉にマジックはブッと鼻血をふいた。

「何が何だか分からないけど、ありがとうグンちゃん。この薬の効果は明日出るのかい?」
「うんっ、そうだよ。楽しみにしててねおとーさま!人体実験はしてないからどうなるか分からないけど」
「え、私が実験台?」

結局最後まで何の説明もせず、グンマは「じゃあね~おとーさま!」と呑気に手を振って去っていった。
残されたマジックはちょっぴり後悔しないでもなかったが、あそこで躊躇おうが躊躇うまいが、最終的には飲んだだろうと思い直して空になった小瓶をポケットにしまった。

「まぁ、パパとシンちゃんはいつでも仲良しさんだけどね」

そう嘯くと、マジックは自室に戻っていった。







PM11:37――マジックはいつもよりも少し早めにベッドに入った。
あと20数分で自分の誕生日である。
グンマの薬を飲んでから既に10時間近くが経つが、今のところ異変は現われていない。

(何の薬だったんだろう……もしや精力剤の類!?パパまだそんな歳じゃないよグンちゃん!パパはまだまだ現役さ!!)
シンタローに聞かれたらまた眼魔砲で吹っ飛ばされそうな事を考えつつ、マジックは天井を見上げてフゥ、と溜息をついた。
昼間のシンタローとの会話を思い出す。
あの子は情の深い子だから、きっと忘れてはいないだろうと思っていた。
案の定、しっかりパパの誕生日を覚えていた(スルーしようとはしていたが)。
いくつになっても可愛い息子だ。だが、果たして昔のように祝ってくれるのだろうか?

「小さい頃は、二人で一緒にバースデイケーキを作ったのになぁ……。私の膝の上に乗って、出来上がったケーキを『パパおめでとー。ハイ、あーんして』ってサイコーの笑顔で言いながら食べさせてくれたのに」

おいしい?って聞くから、もちろんおいしいよ!と答えると、シンタローは嬉しそうに笑ってパパだいすき!と言いながら抱きついてきたものだ。

思い出してまたダクダクと鼻血が溢れてきたので、マジックはティッシュの箱を手元に引き寄せてそっと鼻血を拭った。

だが、興味が無いと言い切った昼間のシンタローを思い出し、「シンちゃんホントにお祝いしてくれないつもりかな……」と小さく独りごちる。
くすん、と少し寂しくなりながら、マジックは眠りについた。







翌朝。目を覚ましたマジックはベッドの中で軽く伸びをし、

(おや……?今日は何だかいつもよりも身体が軽い気がするな)

と妙な違和感を覚えた。
寝起きであるにも関わらず、マジックは素早く意識を切り替えて状況を把握する為に身を起こした。

するとパジャマがスルリとずり落ちて、華奢な両肩が露になる。
寝る前はジャストフィットしていたはずの服が、ダボダボになっていた。


「……」


マジックは一秒だけ呼吸を止める。
頭の中でシンちゃんとのラブメモリーが走馬灯のように駆け抜けた。

(シ・ン・ちゃん……)

現実逃避気味に愛らしい息子の姿を思い浮かべる。
クールダウンするどころかそのままトリップしてしまいそうになったが、ついでに不吉な愚弟達との記憶までうっかり思い出してしまい、一気にテンションが下降した。
だがそのおかげで冷静さを取り戻し、マジックはなるほど、と小さく頷いた。

「コレが薬の効果か」

自分の口からもれたその少年特有の高い声に、分かってはいてもいささかぎょっとした。
いつもの自分の声ではない。声変わりする前の、子どもの頃の自分の声だ。
サイズが違いすぎて最早衣服としての役割を果たしていないパジャマを脱ぎ捨て、身体を丁寧にチェックする。
まだ発展途上の身体――しかし、しなやかで筋肉もそれなりに付いている。
ベッドを下りて全身を映す鏡の前に立つと、マジックはほう、と感嘆の声を上げた。

「まさか若返りの薬とはね……グンちゃんとキンちゃんもとんでもないものを作ったな」

歳の頃、10歳前後といったところだろうか?
幼いながらも鍛えられた身体に、キツイ眼差し。
青く輝く両の眼は、鏡に映った自分を真っ直ぐに見据えている。
面白がるように口の端を上げてみると、少年のマジックは皮肉げにニヤリと笑った。

「……今の私より、子どもの時の私の方が目付き悪いんだなぁ~」

やはり歳を取って少しは丸くなったという事だろうか(一応外見上は)。
ニッコリと笑顔を作ってみると、鏡の中の少年マジックも笑い返してくる。
うん、可愛い。金髪碧眼の天使のような美少年だ。
とりあえずマジックは素肌の上にガウンを羽織ると、机に置いてあった携帯でグンマの番号をコールした。

『はいはーい。おはようおとーさま!薬の効果どうだった?』

すぐに弾けるような明るい声が返ってくる。
薬の効果が知りたくて、朝早くからワクワクして待っていたのだろう。

「おはようグンちゃん。バッチリみたいだよ」
『わッ、おとーさまの声じゃないみたい!……ちゃんと若返ったんだね~。よかった、成功して!失敗したらどうしようかと思ったよぉ~』
「ハッハッハ、失敗したらどうなっていたのかちょっとだけ知りたいような知りたくないような」
「知らない方がいいと思うよォ~」

あはは、と能天気に笑うグンマにマジックは「ドクターの教育が悪かったのかな……?」と一瞬だけマッドサイエンティストな育ての親を疑った。
しかし自分に一服持ったのが高松であれば容赦はしなかったが、グンマは愛すべき息子である。基本的に身内に甘い青の一族であるマジックは、深く追求しない事にした。

「念の為に聞いておくけど、副作用は無いんだね?」
『体質にもよるけど多分大丈夫のはずだよ』
「体質っていうのが少し気にかかるが……で、効果はどれくらいなんだい?」
『う~ん、今日一日はそのままなんじゃないかなァ。キンちゃんは正しい用量であれば明日には戻る、って断言してたけど』
「正しい用量?でもそんなの聞いてないし、もう全部飲んじゃったよ?」
『うん、ゴメンねおとーさま。伝え忘れちゃった。でも量はその小瓶一本で大体合ってるはずだよぉ~』「グンちゃん……」

何ともアバウトな答えだったが、マジックはグンマを信用する事にした。
電話の向こうから聞こえてきた言葉に、自然とマジックは柔らかな笑みを浮かべる。

『シンちゃんは小さい子に優しいでしょ?だからコレは、僕とキンちゃんからおとーさまへのプレゼントだよ』

歌うような声で、ハッピーバースデイ、と告げられた。









朝早くから黙々と仕事を片付けていたシンタローは、不意に鳴った来客を告げる電子音にハッとして顔を上げた。
途中で集中力が切れてしまい少しムッとしたが、ちょうど書類を書き終えてひと段落ついたところだったので中断するには悪くないタイミングだ。
ずっと下を向いていたせいで肩がこっている。
一旦休憩してもいいかな……と思いながら軽く伸びをすると、シンタローは机の上のボタンをピッと押して内線を開いた。

「ダレ?」

簡潔に訊ねると、いつもは淀みなく即答する秘書が電話の向こうで何故か躊躇っている気配が伝わってきた。

「……?オイ、どーした?誰が来たンだよ」

怪訝に思って再度訊ねると、秘書は言いにくそうに

『あの……マジック様が、おいでです』

とたっぷり間を開けてから答えた。

「親父?まァ~た意味も無く来たのかヨあの馬鹿」

うぜぇな~とシンタローはぼやいて特大の溜息をついた。
マジックは特別な用が無くとも、「シンちゃんの顔が見たかったんだ」と言っては毎日毎日シンタローの部屋へと押しかけてくる。
ムカつくくらいに最高の笑顔で、「シンちゃん、今日も可愛いね!!」と言うのだ。
――とっくに二十歳を過ぎた息子に言う事なのか?それって。
いつまで経ってもガキ扱いされて腹が立つやら照れ臭いやらで、シンタローはマジックのその顔を見るとどうしても問答無用で殴り飛ばしたくなる。

いそいそと部屋にやってきてはシンタローを情熱的にかき口説き、その度に邪険にはね除けられて泣く泣く帰っていく(もしくは強制的に退場させられる)マジックなワケだが……何故今日に限って秘書の口がこうも重いのだろう?
既に日常茶飯事ではないか。

シンタローはふと疑問に思ったが、

(今日はアイツ、誕生日だかンな……ど~せ年甲斐も無くはしゃいで、周りを思いっきり引かせてンだろ)

と結論付けた。
だがそれにしても、いつもは何のアポも取らずにズカズカと入ってくるマジックが、わざわざ秘書を通すとは。
秘書もいつもならマジックに強引に押し通されてしまうのに、今日は何故か頑張っているようだ。
シンタローは不審に思って首を傾げた。

「?…………ま、いっか。いいぜ、通せよ」
『お、お通ししてもよろしいのですかッ?』
「おう、ウゼーけどちょっとだけ気ィ向いた。さっさと来いっつっとけ」

秘書は何か言いたげであったが、結局『了解しましたシンタロー総帥』と答えて、内線はプツリと切れた。

「……まさか、そんなに警戒されっほど大はしゃぎしてンのか?アイツは……」

普段は顔パスのマジックが警備室に止められて、シンタローに通してもいいかと秘書が許可を求めてくるほどのはしゃぎっぷり……?

想像すると何やらサムイものを感じる。
やっぱ通したのは間違いだったかも、とシンタローが後悔し始めた頃――扉が開いて件の人物が中に入ってきた。








サラサラの金髪。理知的な光を宿した青い眼。
顔立ちはどちらかと言えば甘く、繊細で整っているが、その表情は年齢にそぐわない落ち着きを持っていて一つ一つの所作が洗練されつくしている。
見る者にひどく大人びた印象を与える少年だった。


シンタローは予想外の人物の登場に、ポカンと口を開けて彼を見つめた。
真紅のパリッとしたスーツに身を包んだ少年は、そんなシンタローを真っ直ぐに見つめ返してニッコリと笑いかける。

文句なしの美少年である。
シンタローは思わず鼻血をふきそうになったが、

「おはよう坊や。パパだよ」
「はァいッッ!?」

少年の口から発せられた言葉にズルッとイスからずり落ちそうになった。


――パパ!?


唖然として思わず素っ頓狂な声を上げるシンタローに、少年――薬で若返ったマジックは、ニコニコと上機嫌で笑いかけながら歩み寄っていく。
机越しに顔を近づけると、シンタローは状況を呑み込めずに盛んに目を瞬かせた。
それが可愛くて、マジックはクスクスと笑ってしまった。

「今日も可愛いね!シンちゃん」
「なッ……!?」

驚いて目を見開き、何か言い返そうと口をパクパクさせるが……子ども相手に怒鳴るのは気が引けたのだろう、シンタローはどう反応すればいいのか判断に窮した。困ったように眉が下がってしまう。
シンタロー本人に自分が今どんな顔をしているのかという自覚は無いのだろうが、あまり見る機会の無いその無防備な表情にマジックは胸がきゅんきゅんしてしまった。ついつい相好を崩してしまう。

「……だ、誰だよお前?気色ワリー冗談言ってンじゃねーよ!」
「冗談なんかじゃないさ、シンタロー。パパだよ、コレはパンダだよ」
「『パ』しか共通点ねーぞ。つーかそのぬいぐるみどっから出した!?」

咄嗟にツッコミを入れて差し出されたパンダのぬいぐるみを壁に向かってブン投げたシンタローだが――このやり取りにデジャビュを感じて「……その下らねーギャグ、どっかで聞いたような……」と眉間にシワを寄せた。

「シンちゃんってば、大好きなパパの事が分からないの?ショックだな~」
「俺は10歳児の父親を持った覚えはねぇ」
「ハッハッハ!シンちゃんはナイスミドルなパパを見慣れているものねぇ~。やはりこの姿の私より、普段のパパの方が好きなんだね!」
「ハリきりムカつくッッツ!!!」

思わず叫んでから、ふと「……って、このムカつき具合も何か覚えがあるような……」と思い、シンタローはまじまじと目前の美少年を見詰める。
信じ難い。信じ難いが、先程の秘書の戸惑った様子を思い出す。
何故秘書が今日に限って自分に連絡をよこしてきたのか。
何故マジックは未だに現われず、代わりにこの少年がいるのか。
――しかもよくよく見れば、この少年は……確かにマジックに似ている。

「まさか……ほんとォ~~に、あの馬鹿親父なのかお前!?」

順応力はピカ一の息子の言葉に、マジックはうん、と大きく頷いて「よくできました」というようにシンタローの頭を撫でてやった。


「シンちゃんのだ~いすきなパパだよ!分かったら、おはようのキスをさせてくれるかな?」


シンタローは反射的に眼魔砲をぶっ放そうとしたが、美少年のマジックにそのような事はできるはずもなく。
妙~な敗北感を味わいながら、この美少年を見つめる事しかできないのであった。


* n o v e l *





PAPUWA~YOUR SMILE~
2/4




「グンマとキンタローが作った若返りの薬ィ~?」

マジックの説明を聞くなり、シンタローは露骨に顔をしかめて「……うさんくせ~な」と言った。

「でも実際に若返っているだろう?ほらほら、シンちゃんの好きな美少年のパパだよ!」
「好きじゃねーよそんなバッタもん」
「……バッタもん!?シンちゃんッ、どゆ事それ!?」

驚愕するマジックに

「そのまんまの意味。本物の美少年っつーのはコタローの事を言うンだよ」

とシンタローは素っ気無く答えた。
だが先程から、シンタローは極力マジックを視界に入れないようにしている。
中身がマジックだと分かってはいても、やはり美少年の威力はなかなかのものらしい。
マトモに見るとその可愛らしさにウッカリ陥落してしまいそうになるので、シンタローはさり気なーく視線をそらすようにしていた。

「ひどいなァ~シンちゃんってば。もっとパパに優しくしてくれてもいいんじゃない?今日はパパ、誕生日なんだし」

そんなシンタローの事情を分かっているのかいないのか、マジックはシンタローの隣に移動して横から顔を覗き込んだ。
サラリと揺れる金髪がシンタローの頬をくすぐり、少し拗ねたようなマジックの眼差しがシンタローを捉えた。

「……ッ!!?バッ、ちけーンだよ顔が!気安く寄るなッ」

シンタローは慌てて身体を引き、マジックの肩をグイッと押した。

マジックとコタローはあまり似ていない。
だがそれは、二人の身に纏う空気や性格の違いからくる表情の差異によるものであって、よく見ればやはりどこか面影がある。
それでなくとも、金髪に青い眼と共通点があるのだ。しかも今は歳も近い。
シンタローは、少しでも「コタローに似てる!」と思ってしまった相手に対しては、底抜けに甘くなってしまうタチだ。
今のマジックには否が応でも反応してしまう。
見た目は子どもでも中身はいつものマジックなのだと頭では分かっているが、油断すると鼻血をふきそうになった。
心臓に悪いので、できればあまり近寄らないで欲しい――マジック相手に鼻血ふくなんて、何か負けたような気になるし。

「シンちゃん?どうしたの?」

いつの間にかまた、シンタローは困ったような顔をしていたらしい。
マジックが小さく首を傾げて不思議そうに訊ねてくる。
その姿にコタローが重なって見えて、シンタローは「やっぱ親子なんだよなぁ……」と思った。
何も答えないシンタローに何を思ったのかマジックは暫し思案していたが、ふっと目を細めて口元を笑みの形に緩めると、シンタローの頭を優しく撫でた。
シンタローは咄嗟にその手を跳ね除けようかとも思ったが、撫でてくれる手は存外心地好く、

「……気安く触ンなよな、若作り親父が」

とそっぽを向いてふて腐れたように悪態をつくに留めておいた。
これは別に、頭を撫でているのがマジックだからではない。コタローにちょっとだけ似てて、俺好みの美少年だから許してやってるだけだ!
と何故か必死に自分に言い訳しながら。

「若作りはヒドイなァ~。そんな事言っちゃって、パパ泣いちゃうよ?」
「おー、泣け泣け。泣きやがれ。うっとーしいから寒空の下で一人寂しく泣いて来い」

シッシッ、と言わんばかりに手を振るシンタローの頭をマジックは未だしつこく撫で続け、

「あ、シンちゃん枝毛」

とさり気なく話題を変えた。

「え、マジ?」

反応してついマジックの方を向いてしまったシンタローの額に、ちゅっと何か暖かいものが触れる。

「…………」
「フフッ、なぁ~んちゃ……」

「って」と言い終わる前にシンタローの放った蹴りが勢い良く机を向こう側の壁まで吹っ飛ばした。
どんがらがっしゃーーーん!!と派手でお約束な音を立てながら壁にぶち当たり、重厚な造りの机が見事に真っ二つに割れる。
シンタローは憤怒の表情で仁王立ちになると、マジックを見下ろしてパキッポキッと指を鳴らした。

「てンめェ~~……気色わりー事してンじゃね~よこの筋金入りの変態親父が!美少年の格好してなかったら、折れてたのはテメーの肋骨だぞコラ」
「あの勢いで蹴られたら折れるのは肋骨だけじゃないと思うんだけど」
「ン~、そうかもナ?気になンなら、何本イクか試してみる?」

俺手伝ってあげる、と額に青筋浮かべながら笑顔で協力を申し出るシンタローの言葉を、マジックは丁重にお断りした。

「シンちゃんは本当に照れ屋さんだなぁ~」
「……照れ屋って言葉の意味、分かってるか?」
「もちろん!辞書を引いたら、パパの可愛いシンちゃんの事って書いてあるよ!あ、ちなみにコレはパパが書いたんだけどね」

どこからともなく取り出したやたら分厚い辞典には「シンタロー辞典:マジック著」と書いてあった。
わざわざ「照れ屋」の項を引いて「ほら見て見て」とシンタローの方へ向けてくる。


てれ-や【照れ屋】:本当はパパの事が大好きなのに、照れてしまって素直にその想いを表現できないシャイで可愛いシンちゃんの事。類義語――ツンデレ。


「コレを世界共通の辞典にする事が今のパパの野望なのだよッ!!」
「眼魔砲」

マジックがこつこつと書き溜めた辞典は一瞬で消し炭になった。

「をおッ!?私のシンちゃん辞典が!!」
「無意味なもん作ってンじゃね~よ、暇人ですかいアンタはッッ!!?」

おぞましい悪の野望を一瞬で消し去り、シンタローは「誰かコイツを止めて……ッ!!!」と本気で願った。

――ちなみに、額に落とされたキスに実はあの時一瞬だけ、心臓が止まりそうになるくらいビックリしていた事はシンタローだけの秘密である。
(誰がツンデレだ、クソ親父……ッ!)








「ねぇねぇシンちゃん、一緒にご飯食べよう!」

「ねぇねぇシンちゃん、一緒にお散歩しよう!」

「ねぇねぇシンちゃん、一緒にお昼寝しよう!」

「ねぇねぇシンちゃん、一緒にお風呂に」

「一人で入っとれ」


ひどーい!と抗議の声を上げるマジックに、シンタローは耳を塞いで聞こえないフリをした。
――マジックが押しかけてきてからもう何時間経っただろうか。外はもうとっくに暗くなっている。

「ああ…今日一日の俺の予定が……」

シンタローはガックリと肩を落とした。
一日中マジックに付き纏われ、精神的にかなりこたえている。
シンタローがコタロー似の美少年に弱いと十分に分かった上で、マジックは子どもの特権をフルに使って攻めてきた。
食事中に「はい、あーん」を強要し、腹ごなしの散歩中には当然のように手を繋いできて、お昼寝と称して布団に枕を二つ並べる。

「えぇいッ、何考えとンじゃおのれはーーーッッツ!!」

フラストレーションが溜まるが少年マジックに攻撃する事はどうしてもできなかったので、明後日の方向に眼魔砲をぶっ放しておく。
偶然(?)何かに当たってしまったらしく、「シンタローはぁぁん……」とお空に向かって遠ざかっていく声が聞こえたような気がしたが、シンタローはストーカーの存在を認めたくなかったので聞かなかった事にした。


見た目が子どもでも中身は所詮マジック、顔を見るからいけないんだッ、と思ってツンとそっぽを向きいつものように拒絶してみたりもしたが――悲しそうな声で「シンタロー……」と名前を呼ばれてしまうと、どうしても冷たくしきれない。
チラリと視線をそちらに向ければ、上目遣いに自分を見つめる青の瞳。

……分かってる。コレは親父。腐っても親父(いやむしろ今は光輝いてるけど)。でも、でも……ッ!

可愛いもんは仕方ない。
シンタローはぶーーッと鼻血をふいて、結局マジックを甘やかしてしまった。

そうこうしている内に、すっかり夜というわけだ。
一応ギリギリで仕事は終わったが、気疲れが半端でない。
休憩の合間合間にちょっかいをかけてくるものの、マジックが仕事に口を挟む事は無かった(流石にそこら辺はわきまえているらしい)。しかし、マジックに側にいられるだけでシンタローには相当のプレッシャーがかかる。
前総帥であるマジックには負けられねぇ、負けたくねぇ!という思いが焦りとなって表に出てしまい、仕事にいまいち集中できなかった。
それでも意地になって何とか今日の分のノルマは達成したが、そんなシンタローをマジックは一歩下がって見守っており、それが余計にシンタローのプライドを刺激した。
余裕かましやがって……いつまで経っても俺はアンタに敵わねーのかよ?と。
シンタローは新しく用意された机に突っ伏して、ハァ……と嘆息した(朝破壊した机はティラミスとチョコレートロマンスによって手際よく処分されている)。

その時シンタローの頭をいつもよりも小さな手が、ポンポンと軽く励ますように叩いた。
机の上に伸びたまま顔だけを上げると、マジックがこちらを見下ろして微笑んでいた。

「今日もお疲れ様、シンちゃん」
「……」
「ちょっと疲れちゃったかな?」
「別に。大した事ねーよ」

負けず嫌いなシンタローが咄嗟に強がると、マジックは「そっかぁ」と相変わらずの笑顔で頷く。
シンタローは美少年スマイルにまた悩殺された。

「……親父、一生子どものままでいれば?」
「シンちゃん……ナイスミドルなパパの事を全否定かい?」
「だって今の方がぜってぇイイもん」
「ハハハ、パパちょーっと複雑だぞォ~。シンちゃんってば相変わらずつれないね!」

子どもの自分にはこんなにも寛大で無防備なのに……と少しだけマジックは切なくなった。
シンタローは暫くぼんやりとマジックの顔を見つめてその美少年っぷりを堪能していたが、シュン、と扉が開いて誰かが部屋に入ってくると、我に返って身体を起こした。

「おう、キンタローか。どうした?」
「どうした、ではない。シンタロー、お前こそどうしたんだ?今日は早めに仕事を切り上げて、例のブツを」
「ぅわッ!?ちょッ、待て待て!今ココで言うなッ」

慌てて言葉を遮るシンタローに、キンタローは怪訝そうな顔をした。
だがシンタローがマジックの方を気にしているのに気付き、なるほど、と頷く。

「大体の事情は分かった。……ところで叔父上、おめでとうございます。俺達からのプレゼントは無事に届いたようですね。グンマに預けていたので少し心配だったのですが」
「ああ、素敵なプレゼントをありがとうキンタロー。お陰で今日はシンちゃんとずっと一緒にいられたよ」
「喜んで頂けたのなら何よりです」

グンマから既に「成功!」との報せは貰っていたのだろうが、自分達が作った薬の効果を直接目にしてキンタローも満足したようだった。

「どういうプレゼントだよ、まったく」
「シンタローは気に入らなかったのか?案を出したのはグンマだが俺が、いいか、この俺が手を加えたこの薬を」
「ハーイハイハイ、わぁったから強調しなくてよろしい。……ま、確かに眼福だったしオッサンに付き纏われるよりは断然マシだったけどナ」

いっそずっとこのままで……と不穏な事を呟くシンタローにマジックは慌てて「ヒドイよシンちゃんっ」と口を挟んだ。

「パパの事嫌いなの!?」

いつもなら「うん、大ッ嫌い」と即答して悲しみに暮れるマジックを笑ってやるところだが、ウルウルした目で見つめられてシンタローはうっかりときめいてしまった。

「う……。や、そういうワケじゃ……」
「じゃあパパの事好き!?」
「うう」
「……嫌いなの?」
「まさかッ!!!」

シュンとするマジックを反射的に抱き締めてシンタローは思いっきり頬ずりした。
可愛い可愛い可愛い。手触りのいい金髪がコタローを思い起こさせて、大のブラコンであるシンタローはうっとりした。
無論マジックもうっとりした。ああッ、シンちゃんから抱きついて(これは抱き締められてる状態だけど)くれる日が来るなんて!と。

抱き締め合って鼻血をふいているある意味似た者同士な親子を、キンタローは止める事もできずにただ見守っていた。
迂闊に口を挟むと惨劇を起こしかねない。

暫くそのままで放っておいて、そろそろいいか、と頃合を見計らうとキンタローはシンタローに声をかけた。

「シンタロー、時間が押しているぞ」
「ン?……あッ!」

ハッと我に返り、シンタローは「やっべ、今何時だ!?」と聞き返した。

「10時12分を回ったところだ」
「もうそんな時間かよ!」
「いつまでも叔父上と遊んでいるからだ」
「好きで遊んでたワケじゃねーっつのッ!」

慌てた様子で自分から離れようとするシンタローをマジックは残念そうな顔をして見上げた。
もっとくっついてたいのに!と言いたげなその縋る眼差しにシンタローは一瞬後ろ髪を引かれたようにピタッと動きを止めたが、キンタローに再度「時間だぞ」と言われると煩悩を払うようにブンブンと頭を振ってマジックから手を放す。
折角手に入れた至高の時間を奪われてマジックは柳眉を寄せたが、シンタローがそそくさとどこかへ行こうとしているのを見てはっしと愛する息子の服の端を掴んだ。

「な、何だよ親父……」

どさくさにまぎれて立ち去ろうとしていたシンタローは、仕方なく足を止めて振り返った。
マジックはシンタローの服をしっかりと掴んだまま、
「どこへ行くのかな?シンちゃん。……さっきからやたらと時間を気にしているようだが、これから何か予定でも?」

と訊ねた。声音こそいつものように優しげなものだったが、その眼は笑っていない。
嘘を許さない眼でじっと見つめられ、シンタローは微妙に目をそらした。
そらした時点でアウトだと分かってはいたが、これからの「予定」を考えるとマトモにマジックの顔を見る気にならなかった。

「……べ、別にいいだろ?いちいち口挟むなよ」
「プライベートな事なの?」
「だーかーら、口挟むなって!」

シンタローは明らかにそわそわしている。
時折壁にかけられた時計の方を見て、苛立っているような表情も覗かせた。

――誰かとデートの約束でもあるのだろうか?そんなシンタローを見て面白いはずもなく、マジックの声にも僅かに険が混ざる。

「シンタロー」
「……ッ」

低く抑えられた声で名を呼ばれ、シンタローはギクリとして身を強張らせた。
いつもよりもずっと高い幼い子どものものではあるが、その声の発し方はマジックが息子を叱る時のものと同じだ。
条件反射的に身構えてしまう。

「私には言えないような事なのかい?」
「……そ、いうワケじゃねーけど……」
「言いたくない、と?」
「…………」
「そういえばさっき、キンタローが例のブツがどうのって言ってたよねぇ~」

聞こえてたんかい!?とシンタローは心の中でつっこんだ。
反応ゼロだったので聞こえてなかったのだろうと思っていたのに。
やはりコイツは性格が悪い、とシンタローは内心頭をかきむしりたい衝動に駆られた。
シンタローが助けを求めるようにキンタローの方を見て必死に目で合図すると、キンタローは真面目な顔をしてコクリと力強く頷き返してきた。
どうやら思いは通じたらしい。

そうと悟るとシンタローは「ゴメンッ、美少年!」と心の中で謝りながら服を掴んでいるマジックの手を強引に払った。
ちなみに、シンタローが良心の呵責を感じるのはあくまでも美少年のマジックに対してであり、マジックそのものに対しては何ら痛む良心は持ち合わせていない。

「あッ、シンちゃん!?」
「ワリーな親父、野暮用だ。ついてくンじゃねーぞ!?」

後頼むキンタロー!と声を張り上げると、シンタローは素早く身を翻して部屋を出て行った。
即座に追いかけようとしたマジックだが後ろからキンタローに羽交い絞めにされてしまい、身動きが取れない。

「シンちゃーーーーんッッツ!!!」

悲痛な声で名前を呼んだが、彼が戻ってくる事は無かった。

「キンタロー、シンちゃんが汚されちゃうよ!私の知らないところでどこの馬の骨とも分からないヤツに可愛い可愛いシンタローが汚されてしまう……!!」
「むしろ叔父上の頭の中でシンタローが汚されている気がするのだが」

キンタローは冷静ではあるが適切ではないツッコミを入れた。
この場でそのような事を言ってもマジックの暴走が止まろうはずも無い。


「……キンちゃん。今なら私の邪魔をしたのは不問にしてあげるから、シンちゃんが誰とどこへ何をしに行ったのか教えてくれないかな?」
「……それを言ったら、恐らくシンタローが烈火の如く怒るかと」

キンタローの言葉にマジックはますます険しい顔つきになる。
腹立たしいが、先程のシンタローの態度を見れば確かにそうなるであろう事は容易に想像がついた。
シンタローはこの後の「予定」とやらを誤魔化したがっていたし、裏でこそこそと嗅ぎまわるようなマネをすれば間違いなく怒り狂う。
聞きたい事があンなら本人に聞きやがれ!というのがシンタローの流儀だ。まぁ当のシンタローは真正面から聞いても素直に教えてくれる事は滅多に無いが。

「ヒドイよシンちゃん……パパはシンちゃんに隠し事なんて……そりゃあ山のようにたくさんあるけど、でも他の人とデートなんて絶対しないのに!」

マジックは「パパはシンちゃんに隠し事するけどシンちゃんがパパに隠し事するのは嫌なんだ!」と元祖俺様な理論を振りかざした。
ココにシンタローがいれば間違いなく「ガキの理論使ってンじゃねーよオッサン!!!」とつっこんでくれた事だろう(シンタロー本人に、自分もソッチ側の人間であるという自覚はあまり無い)。

シンタローのデートの相手が誰なのかマジックは暫く真剣に考えていたが、あまりピンとくる人物は浮かんでこなかった。
シンタローは確かにモテる。老いも若きも男も女も関係なく引き寄せるその輝きは、天性のものだろう。
だがシンタローはあくまでもノーマルだ。マッチョなアニキ共しかいないこのガンマ団で、どうやって相手を見つけるというのか?
ましてや、新生ガンマ団を背負っていくと決めてからは仕事に忙殺されて休む暇も無いシンタローだ。仕事の上で女性と会う事はあるが、プライベートとなると女性と付き合うどころか知り合う機会すらほとんど無い。
そもそもシンタローに恋人ができれば、このマジックが気付かないはずがない。

「うーん、つい取り乱してしまったが……シンちゃんに恋人がいるワケないか。あの子はパパ大好きっ子だものね!」
「叔父上、願望が入り混じった発言は謹んで下さい」

シンタローが聞けば間違いなく血の雨が降るであろうセリフを平然と吐き、マジックは爽やかに笑った。
シンタローに恋人現る!の可能性を潰してとりあえず多少は冷静さを取り戻したらしい。
それを察したキンタローは、未だ羽交い絞めにしていたマジックの身体を漸く放した。だが警戒は怠らない。
マジックは身体の自由を取り戻して軽く肩を回すと、「さて……」と呟いた。
キンタローの方へ向き直ると、口元に薄っすら微笑を浮かべて彼を見上げる。

「あの子に嫌われるのは嫌だから、ちゃんと本人の口から説明してもらう事にするよ。だがシンタローがどこにいるのかを知らなければ話にならないな。――ところでキンタロー」
「……。はい」
「お前は色々事情を知っているようだったね?私の邪魔をしたのだから、せめて一つくらいは質問に答えてくれてもいいんじゃないかな~」

ね?そう思うよね?と強制的に同意を求めて可愛らしく首を傾げてみせる。
優しげでありながら、有無を言わせぬ強さを込めた声音だった。
見た目は愛らしい子どもの姿なのに、目が笑ってない。
逆に薄ら寒いものを感じる。


「…………」

キンタローは暫し遠い目をしてから、

(――すまない、シンタロー……俺はこの最大の敵に、勝てないかもしれない)

と早くも負け犬な事を思った。
ちったァ根性見せろヨ!!!と怒り狂うシンタローの声が聞こえたような気がした。


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