* n o v e l *
PAPUWA~やっぱりパパが好き~
1/6
カボチャのランタン、魔法のステッキ、黒いマントにトンガリ帽子。
戦利品を腕いっぱいに抱いて駆け寄れば、世界一のパパが最高の笑顔で迎えてくれる。
「やぁシンちゃん、お菓子はいっぱい貰えたかな?」
「うん!もちろんだよパパ。ほら見て、オレが一番だよ!」
持ちきれないお菓子は他の子にあげてきた、と答えると、大きな手で優しく頬を撫でられる。
そのまま抱き上げられて、ポケットに入れていた幾つかのキャンディが足元に転がり落ちた。
カラフルな色彩の包み紙は、見ているだけで心が弾んでくる。
「パパのシンちゃんが一番可愛いからね!パパもシンちゃんの為に、た~くさん甘くて美味しいお菓子を用意したんだよ」
それこそとろけるように甘い声と笑顔で告げ、マジックは最愛の息子に頬ずりをした。
シンタローの小さな手はお菓子で塞がっているので、仕方なく肘で父親の顔を押し退け牽制する。
「ありがとうパパ。でもうっとーしーよ。それにお菓子いっぱいあるから、もういらない」
「しっ、シンちゃん……!鬱陶しいってパパの事が嫌いになったのかい!?」
「ううん、キライじゃないよ。でもくっつかれるとジャマだもん」
邪気の無い笑顔でさらりとマジックの心にナイフを突き刺すと、シンタローの興味はもう他へ移ってしまったのか、辺りをキョロキョロと見回し出す。
ただ戦利品を父親に自慢しに来ただけらしい。
少し離れた場所に従兄弟の姿を見つけ、「パパ!オレ、グンマのとこ行って来る」と言ってマジックの腕の中から飛び降りようとする。
身体を屈めてそんな息子をそっと床に降ろしてやり、マジックは「いいかいシンちゃん?」と言い含めるようにシンタローと目を合わす。
「絶対パパの所へ帰って来るんだよ!知らない人にお菓子貰ってもついて行っちゃダメだからね?というかパパが作ったお菓子以外は食べちゃダメだ、後でパパとお菓子を食べるんだよ!」
「お菓子もらってきた意味ないじゃん。ていうかパパ、このパーティー会場は貸し切りってやつなんでしょ?知らないヤツはそもそもいないよ」
シンタローが退屈しないように、そして華やかなパーティーを楽しめるように、会場は多くの大人と子ども達で溢れかえっている。
だが彼らは皆、マジックが手配して連れてきた信頼のおける者達だ。シンタローにとっても、今まで会った事のある見知った顔ばかりだ。
もっともな事を言うシンタローにマジックはそれでもダメ!と念を押す。
「だってシンちゃんはこんなに可愛いんだもん!しかも今日はいつにも増して可愛い姿なんだから……いつ誰に誘拐されるか分からないだろう!?」
黒い服をズルズルと引きずって、頭には大きなトンガリ帽子。魔法のステッキは今は邪魔だから一旦パパに預けて……いわゆる魔法使いの格好だ。
「こんなシンちゃんに上目遣いで見つめられて『Trick or Treat!』なんて言われてごらん!お菓子をあげるどころかパパの方がシンちゃんを貰いたくなっちゃうよ!!」
「うわぁ、パパ誘拐犯の素質ありだね」
「ハッハッハ、じゃあシンちゃんは魔法使い見習いさんだよ。パパのハートはいつでもシンちゃんにマジカル・トリップしてるからね」
「それってバッドトリップ?」
誰が教えたんだいそんな事!?と取り乱すマジックに、「びぼーのオジサマと高松!」という非常に分かり易い答えを返して、小さな魔法使いは従兄弟のもとへと駆け出した。
後ろで世界一(親バカ)のパパが「シンちゃんカムバック……!」とか何とか叫んでいたが、シンタローは甘いお菓子の匂いだけを残して、軽やかに立ち去った。
「よォ、グンマ!お前も来てたんだな」
声を掛けると、白いシーツのようなものを頭からすっぽり被っている従兄弟が「ん?」と振り向いた。
定番のオバケの仮装らしい。シンタローと同じように裾を引きずっているが、グンマの方は今にも転んでしまいそうな危なっかしさがある。
シンタローの姿を認めると、グンマは嬉しそうに笑ってパタパタと寄ってきた。
「わーい、シンちゃんだ!シンちゃんはマホーつかいさんなんだね。ボクはオバケなんだよ~」
屈託のない笑顔で言うと、ふと何かを思い出したように立ち止まって困ったように眉を寄せる。
「――あ、え~っとえーと……おまねき、ありがとーございます。それと、ハロウィンおめでとー!……だよね、高松?」」
「ええ、そうですよグンマ様。よく言えましたねぇ~」
どうやらあらかじめ挨拶を仕込まれていたらしい。隣に立つ高松が鼻血を垂らしながら褒めてやると、グンマは得意そうに胸を張った。
「うん、こちらこそ。来てくれてサンキュー!でもハロウィンおめでとうってのは変じゃねぇ?」
「そんな事ないよー。だって楽しいもんハロウィン!楽しい事はみんなおめでとーで合ってるんだよっ」
「えー、そういうもん?」
「そーゆーもん!!」
「フーン……」
笑顔で断言されると、首を傾げていたシンタローも「ま、いっか」と笑い返す。
「ほら、見てみろよグンマ!オレが他のヤツらからもらったお菓子。いっぱいあるだろー?」
「わ~っ!すごいねシンちゃん!ボクももらったけど、シンちゃんの方が多いや」
「グンマのどれ?」
あれ、と指差されたお菓子は全て高松が持っている。
グンマを恍惚とした表情で見つめて鼻血を垂らしているやたらガタイのいい男――お菓子で子どもを誘い出そうとする誘拐犯に見えなくもない。
そしてその隣で能天気に笑っている美少年(グンマ)。
パパが心配しているのはこういう事か、とシンタローは深く納得した。
「じゃ、オレの分も持ってろよ高松。動くのにジャマだからさ」
「ハイハイ。……まったく、ワガママなお子様ですねぇ~。親の顔が見たいですよ」
ブツブツとぼやく変態はとりあえず無視してお菓子を預けると、シンタローはグンマと一緒に「Trick or Treat!」と魔法の呪文を楽しげに唱えて、会場中をねり歩いた。
* n o v e l *
PAPUWA~やっぱりパパが好き~
2/6
「パパただいまー」
「おかえりシンちゃんッッ!!!」
更に増えた戦利品を大きな袋に詰めて引きずるようにしながら戻ってきた息子を、マジックは熱烈に歓迎した。
ダバダバと滝のような涙を流しながらキツク抱きしめ、嫌がるシンタローにしつこく頬ずりをする。
「待ってたよシンちゃんッ!あと一秒遅かったらパパ捜索隊組んでたかもしれない!!」
「オオゲサだよパパー。サービスおじさんみたいにユーガに待っててよ」
「……それは……パパが優雅じゃないって事かい?」
ガッチリと拘束する腕は外さないまま少しだけ顔を離して訊ねると、シンタローはあっさり頷いた。
「うん。しつこいオトコは嫌われる、パパみたいなヨユーのない大人になっちゃダメだよってこの前サービスおじさんが言ってた」
「さり気なく父親不信になるような事を吹き込まれてるねシンちゃん」
ハハハ、とあくまで爽やかに笑いつつ「素直なのはお前のいい所だけど今すぐ忘れなさい」とやわらかく注意をしてマジックはシンタローを放した。
なんで?と首を傾げているシンタローに「純粋なシンちゃんが汚されるからだよ」と答えながら懐から「悪い子の記録(双子のモンチッチ編)」と書かれたノートを取り出し、ササッと何やら書き込む。
「サービス、おこづかいダウン……と」
「何してるのパパ?」
「ハハハ、何でもないよシンちゃん。ところで……」
ノートをしまいながらコホン、と咳払いをし、さり気なさを装って話を振る。
「し、シンちゃんはサービスを気に入ってるようだねぇ。ずいぶん懐いちゃって、パパちょっとだけ寂しいな~なんて……」
ドキドキしながらチラリチラリ、とシンタローを横目で窺う。
シンタローはそんなマジックを不思議そうに眺めている。
マジックはごくり、と唾を飲み込むと、意を決してその問いを口にした。
きっと大丈夫、息子の愛情を信じ・ろ☆と自分に言い聞かせて。
「でもどんなにアイツに懐いたとしてもっ、シンちゃんが世界で一番だ~い好きvなのはとーーーぜんこのパ」
「サービスおじさん!」
――――――迷い無く答えたシンタローに、一瞬で空気が凍る。
遠くの方で、高松がグンマを連れてさり気なく場所を移動した(「さぁグンマ様、あちらの方へ行きましょうねぇ~」「えー?どうして高松?」「大人気ない親父に八つ当たりされるかもしれないからですよ」)。
だがマジックは何とか持ち直し、
「……ハハハ、やだなぁパパとした事が。今幻聴が聞こえちゃったよ。さぁシンちゃん!教えておくれッ、お前が一番好きなのは……」
「びぼーのオジサマ!」
――One more please?
「……恥ずかしがらなくていいんだよシンちゃん、素直に」
「素直におじさん」
現実見ろよ、と真顔で答えた息子に、マジックは心が折れて泣き崩れた。
だがマジックの発した次の言葉に、シンタローは「ええーっ!?」と不満の声を上げた。
「シンちゃんの11月のおこづかい、大幅カット!」
「何でだよパパ!?」
「パパの深い愛情を受け取ってくれない悪い子のシンちゃんには、オシオキが必要だからさ」
「ゼンゼン関係ねーじゃん!そういうの、シットに駆られた男のリフジンな仕打ちって言うんだろっ」
「ハッハッハ、まぁ~たあの愚弟と変態ドクターの入れ知恵か。双子のモンチッチ、おこづかい無し。高松、減給」
さり気なくハーレムが巻き添えを食ったが、親子は気にも留めなかった。
シンタローは不満いっぱいの顔でマジックを睨みつけるが、当のマジックは「あぁ、シンちゃんのそんな顔も可愛いなぁ~」と呑気に悦っている。
らちがあかない事に気付き、シンタローはクルッとマジックに背を向けてスタスタと歩き出した。
駄々をこねるか怒って向かってくるか――と考えていたマジックは予想外の息子の行動に驚き、慌てて後を追った。
「シンちゃん、怒っているのかい?」
「……」
当たりめぇだろ、という黒いオーラが漂う。
シンタローは懸命にマジックを引き離そうとするが、大人と子ども……それもかなりの長身の部類に入るマジックとでは、歩幅が違いすぎる。
マジックの方もシンタローの意地が分かるので簡単に追いついて捕まえるには気が引けてしまい、どうしたものか……と思案しながら少し遅れて後をついていく。
だがその行為が余計にシンタローの感情を逆撫でする。しかもずるずると引きずっているマントの裾が時折足元に絡みついて、油断すると転びそうになる。
広い会場を一周したところでシンタローはついに我慢できなくなって振り返った。
「~~~っ、もう!ついてくンなよパ……!」
パパ、と続けようとして。
不意に足元が滑った。
え、と思う間もなく身体が宙に浮く。そこがちょうど運悪く階段の上だったと気付いたのは、追いかけて来た父親の形相を見てからだ。
「……っ、シンタローッ!!!」
伸ばされる腕。驚愕したマジックの表情。切羽詰った叫び。一瞬の浮遊感。――そして、こんな状況にはひどく不似合いな、甘いお菓子の香り。
――――パパ――――
応えるようにマジックを呼んで。
シンタローは、目を覚ました。
PAPUWA~やっぱりパパが好き~
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カボチャのランタン、魔法のステッキ、黒いマントにトンガリ帽子。
戦利品を腕いっぱいに抱いて駆け寄れば、世界一のパパが最高の笑顔で迎えてくれる。
「やぁシンちゃん、お菓子はいっぱい貰えたかな?」
「うん!もちろんだよパパ。ほら見て、オレが一番だよ!」
持ちきれないお菓子は他の子にあげてきた、と答えると、大きな手で優しく頬を撫でられる。
そのまま抱き上げられて、ポケットに入れていた幾つかのキャンディが足元に転がり落ちた。
カラフルな色彩の包み紙は、見ているだけで心が弾んでくる。
「パパのシンちゃんが一番可愛いからね!パパもシンちゃんの為に、た~くさん甘くて美味しいお菓子を用意したんだよ」
それこそとろけるように甘い声と笑顔で告げ、マジックは最愛の息子に頬ずりをした。
シンタローの小さな手はお菓子で塞がっているので、仕方なく肘で父親の顔を押し退け牽制する。
「ありがとうパパ。でもうっとーしーよ。それにお菓子いっぱいあるから、もういらない」
「しっ、シンちゃん……!鬱陶しいってパパの事が嫌いになったのかい!?」
「ううん、キライじゃないよ。でもくっつかれるとジャマだもん」
邪気の無い笑顔でさらりとマジックの心にナイフを突き刺すと、シンタローの興味はもう他へ移ってしまったのか、辺りをキョロキョロと見回し出す。
ただ戦利品を父親に自慢しに来ただけらしい。
少し離れた場所に従兄弟の姿を見つけ、「パパ!オレ、グンマのとこ行って来る」と言ってマジックの腕の中から飛び降りようとする。
身体を屈めてそんな息子をそっと床に降ろしてやり、マジックは「いいかいシンちゃん?」と言い含めるようにシンタローと目を合わす。
「絶対パパの所へ帰って来るんだよ!知らない人にお菓子貰ってもついて行っちゃダメだからね?というかパパが作ったお菓子以外は食べちゃダメだ、後でパパとお菓子を食べるんだよ!」
「お菓子もらってきた意味ないじゃん。ていうかパパ、このパーティー会場は貸し切りってやつなんでしょ?知らないヤツはそもそもいないよ」
シンタローが退屈しないように、そして華やかなパーティーを楽しめるように、会場は多くの大人と子ども達で溢れかえっている。
だが彼らは皆、マジックが手配して連れてきた信頼のおける者達だ。シンタローにとっても、今まで会った事のある見知った顔ばかりだ。
もっともな事を言うシンタローにマジックはそれでもダメ!と念を押す。
「だってシンちゃんはこんなに可愛いんだもん!しかも今日はいつにも増して可愛い姿なんだから……いつ誰に誘拐されるか分からないだろう!?」
黒い服をズルズルと引きずって、頭には大きなトンガリ帽子。魔法のステッキは今は邪魔だから一旦パパに預けて……いわゆる魔法使いの格好だ。
「こんなシンちゃんに上目遣いで見つめられて『Trick or Treat!』なんて言われてごらん!お菓子をあげるどころかパパの方がシンちゃんを貰いたくなっちゃうよ!!」
「うわぁ、パパ誘拐犯の素質ありだね」
「ハッハッハ、じゃあシンちゃんは魔法使い見習いさんだよ。パパのハートはいつでもシンちゃんにマジカル・トリップしてるからね」
「それってバッドトリップ?」
誰が教えたんだいそんな事!?と取り乱すマジックに、「びぼーのオジサマと高松!」という非常に分かり易い答えを返して、小さな魔法使いは従兄弟のもとへと駆け出した。
後ろで世界一(親バカ)のパパが「シンちゃんカムバック……!」とか何とか叫んでいたが、シンタローは甘いお菓子の匂いだけを残して、軽やかに立ち去った。
「よォ、グンマ!お前も来てたんだな」
声を掛けると、白いシーツのようなものを頭からすっぽり被っている従兄弟が「ん?」と振り向いた。
定番のオバケの仮装らしい。シンタローと同じように裾を引きずっているが、グンマの方は今にも転んでしまいそうな危なっかしさがある。
シンタローの姿を認めると、グンマは嬉しそうに笑ってパタパタと寄ってきた。
「わーい、シンちゃんだ!シンちゃんはマホーつかいさんなんだね。ボクはオバケなんだよ~」
屈託のない笑顔で言うと、ふと何かを思い出したように立ち止まって困ったように眉を寄せる。
「――あ、え~っとえーと……おまねき、ありがとーございます。それと、ハロウィンおめでとー!……だよね、高松?」」
「ええ、そうですよグンマ様。よく言えましたねぇ~」
どうやらあらかじめ挨拶を仕込まれていたらしい。隣に立つ高松が鼻血を垂らしながら褒めてやると、グンマは得意そうに胸を張った。
「うん、こちらこそ。来てくれてサンキュー!でもハロウィンおめでとうってのは変じゃねぇ?」
「そんな事ないよー。だって楽しいもんハロウィン!楽しい事はみんなおめでとーで合ってるんだよっ」
「えー、そういうもん?」
「そーゆーもん!!」
「フーン……」
笑顔で断言されると、首を傾げていたシンタローも「ま、いっか」と笑い返す。
「ほら、見てみろよグンマ!オレが他のヤツらからもらったお菓子。いっぱいあるだろー?」
「わ~っ!すごいねシンちゃん!ボクももらったけど、シンちゃんの方が多いや」
「グンマのどれ?」
あれ、と指差されたお菓子は全て高松が持っている。
グンマを恍惚とした表情で見つめて鼻血を垂らしているやたらガタイのいい男――お菓子で子どもを誘い出そうとする誘拐犯に見えなくもない。
そしてその隣で能天気に笑っている美少年(グンマ)。
パパが心配しているのはこういう事か、とシンタローは深く納得した。
「じゃ、オレの分も持ってろよ高松。動くのにジャマだからさ」
「ハイハイ。……まったく、ワガママなお子様ですねぇ~。親の顔が見たいですよ」
ブツブツとぼやく変態はとりあえず無視してお菓子を預けると、シンタローはグンマと一緒に「Trick or Treat!」と魔法の呪文を楽しげに唱えて、会場中をねり歩いた。
* n o v e l *
PAPUWA~やっぱりパパが好き~
2/6
「パパただいまー」
「おかえりシンちゃんッッ!!!」
更に増えた戦利品を大きな袋に詰めて引きずるようにしながら戻ってきた息子を、マジックは熱烈に歓迎した。
ダバダバと滝のような涙を流しながらキツク抱きしめ、嫌がるシンタローにしつこく頬ずりをする。
「待ってたよシンちゃんッ!あと一秒遅かったらパパ捜索隊組んでたかもしれない!!」
「オオゲサだよパパー。サービスおじさんみたいにユーガに待っててよ」
「……それは……パパが優雅じゃないって事かい?」
ガッチリと拘束する腕は外さないまま少しだけ顔を離して訊ねると、シンタローはあっさり頷いた。
「うん。しつこいオトコは嫌われる、パパみたいなヨユーのない大人になっちゃダメだよってこの前サービスおじさんが言ってた」
「さり気なく父親不信になるような事を吹き込まれてるねシンちゃん」
ハハハ、とあくまで爽やかに笑いつつ「素直なのはお前のいい所だけど今すぐ忘れなさい」とやわらかく注意をしてマジックはシンタローを放した。
なんで?と首を傾げているシンタローに「純粋なシンちゃんが汚されるからだよ」と答えながら懐から「悪い子の記録(双子のモンチッチ編)」と書かれたノートを取り出し、ササッと何やら書き込む。
「サービス、おこづかいダウン……と」
「何してるのパパ?」
「ハハハ、何でもないよシンちゃん。ところで……」
ノートをしまいながらコホン、と咳払いをし、さり気なさを装って話を振る。
「し、シンちゃんはサービスを気に入ってるようだねぇ。ずいぶん懐いちゃって、パパちょっとだけ寂しいな~なんて……」
ドキドキしながらチラリチラリ、とシンタローを横目で窺う。
シンタローはそんなマジックを不思議そうに眺めている。
マジックはごくり、と唾を飲み込むと、意を決してその問いを口にした。
きっと大丈夫、息子の愛情を信じ・ろ☆と自分に言い聞かせて。
「でもどんなにアイツに懐いたとしてもっ、シンちゃんが世界で一番だ~い好きvなのはとーーーぜんこのパ」
「サービスおじさん!」
――――――迷い無く答えたシンタローに、一瞬で空気が凍る。
遠くの方で、高松がグンマを連れてさり気なく場所を移動した(「さぁグンマ様、あちらの方へ行きましょうねぇ~」「えー?どうして高松?」「大人気ない親父に八つ当たりされるかもしれないからですよ」)。
だがマジックは何とか持ち直し、
「……ハハハ、やだなぁパパとした事が。今幻聴が聞こえちゃったよ。さぁシンちゃん!教えておくれッ、お前が一番好きなのは……」
「びぼーのオジサマ!」
――One more please?
「……恥ずかしがらなくていいんだよシンちゃん、素直に」
「素直におじさん」
現実見ろよ、と真顔で答えた息子に、マジックは心が折れて泣き崩れた。
だがマジックの発した次の言葉に、シンタローは「ええーっ!?」と不満の声を上げた。
「シンちゃんの11月のおこづかい、大幅カット!」
「何でだよパパ!?」
「パパの深い愛情を受け取ってくれない悪い子のシンちゃんには、オシオキが必要だからさ」
「ゼンゼン関係ねーじゃん!そういうの、シットに駆られた男のリフジンな仕打ちって言うんだろっ」
「ハッハッハ、まぁ~たあの愚弟と変態ドクターの入れ知恵か。双子のモンチッチ、おこづかい無し。高松、減給」
さり気なくハーレムが巻き添えを食ったが、親子は気にも留めなかった。
シンタローは不満いっぱいの顔でマジックを睨みつけるが、当のマジックは「あぁ、シンちゃんのそんな顔も可愛いなぁ~」と呑気に悦っている。
らちがあかない事に気付き、シンタローはクルッとマジックに背を向けてスタスタと歩き出した。
駄々をこねるか怒って向かってくるか――と考えていたマジックは予想外の息子の行動に驚き、慌てて後を追った。
「シンちゃん、怒っているのかい?」
「……」
当たりめぇだろ、という黒いオーラが漂う。
シンタローは懸命にマジックを引き離そうとするが、大人と子ども……それもかなりの長身の部類に入るマジックとでは、歩幅が違いすぎる。
マジックの方もシンタローの意地が分かるので簡単に追いついて捕まえるには気が引けてしまい、どうしたものか……と思案しながら少し遅れて後をついていく。
だがその行為が余計にシンタローの感情を逆撫でする。しかもずるずると引きずっているマントの裾が時折足元に絡みついて、油断すると転びそうになる。
広い会場を一周したところでシンタローはついに我慢できなくなって振り返った。
「~~~っ、もう!ついてくンなよパ……!」
パパ、と続けようとして。
不意に足元が滑った。
え、と思う間もなく身体が宙に浮く。そこがちょうど運悪く階段の上だったと気付いたのは、追いかけて来た父親の形相を見てからだ。
「……っ、シンタローッ!!!」
伸ばされる腕。驚愕したマジックの表情。切羽詰った叫び。一瞬の浮遊感。――そして、こんな状況にはひどく不似合いな、甘いお菓子の香り。
――――パパ――――
応えるようにマジックを呼んで。
シンタローは、目を覚ました。
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