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* n o v e l *

PAPUWA~やっぱりパパが好き~

3/6



「…………ッ!!」


シンタローは声にならない声を上げてバッと跳ね起きた。
心臓が激しく鼓動を刻み、じっとりとした嫌な汗が背中に浮く。

「……ぁ……?」

カラカラに乾いた喉から、寝起き特有のかすれた声がもれる。
シンタローは混乱しながらも、状況を把握する為に辺りを見回した。

綺麗に片付けられ、整頓された部屋。机の上にある時計の秒針。見慣れた靴。枕元にある弟の写真。そして、壁にかけられた赤い総帥服――。
ガンマ団内にある、シンタロー専用の私室だ。
それらが意味するものは。

「………………夢?」

ぼーぜん、と呟き。
シンタローはキツク握り締めていたシーツを離した。
いまだにバクバクしている胸に手を当てて、はぁ~……と大きく息をついた。

「何だよ夢かよ!……くそぉ、せっかくの睡眠が台無しだぜ。親父、ぶっ殺す」

完全に八つ当たりな事を呟いて、シンタローはがしがしと頭をかいた。
総帥としてガンマ団を継いでからというもの、シンタローはその激務故にほとんど休みを取っていなかった。流石にこれ以上は無理だと判断したキンタローによって、ムリヤリ与えられた休息の時間。
その僅かな時間を利用して身体を休める筈だったのだが……。

「何かムダに疲れたな……コタローの夢なら大歓迎だったのによォ。まぁ美少年の俺はイイ感じだったが、親父本気でいらん」

チッ、と舌打ちをして、それでも何故か記憶を追ってしまう。
ハロウィンでの出来事。まだコタローはいなくて、自分もまだ(不本意ながら)マジックを父親として慕っていた頃の思い出。

「……あの後、結局親父がクッションになってくれたんだっけ……?」








間一髪我が子を腕の中に抱き込んだマジックだったが、そのまま階段を転げ落ちた。
シンタローはかすり傷一つ負わなかったが、目を開けて事態を把握すると火がついたように泣き出した。

「パパっ、パパ!目を開けてよ、パパ……!」

マジックは軽い脳震盪を起こしただけだったが、幼いシンタローには分からない。すぐに騒ぎに気付いた者達が駆けつけシンタローはマジックから引き離されたが、シンタローは泣きながら父を呼び続けた。

「やだよパパ!パパっ、パパぁ……!!」

ごめんなさい、と泣きながら謝っていると、マジックが僅かに身じろぎをした。

「……しん、ちゃん……?」
「パパ!パパ!?」
「マジック総帥っ、まだ動かれては……」

案じる部下に緩く手を振って「大丈夫だ……」と告げると、マジックはゆっくりと上体を起こした。
シンタローは自分を父から引き離した者の手を振り切って、マジックに抱きつく。

「ごめ、なさいパパ……!オレが、階段から落ちたりした、からっ」
「……いいんだよシンちゃん。……それより……どこも怪我は無いかい?」

だいじょうぶ、と頷くシンタローに、マジックは心底ほっとしたように微笑んだ。

「そうか……。お前が無事なら、私は構わないよ」

頬に伝う涙を優しく指で拭われて、ますます涙が止まらなくなる。
シンタローはごしごしと乱暴に目を擦って、ごめん、とまた謝った。

「……おじさんがすきって、うそだよ。いや、うそじゃなくてホントにすきだけど……でもオレ、やっぱりパパがすき。パパが一番だいす」

き、と言い終わる前に。
大好きなパパの鼻腔から滝のように噴出した鼻血で、親子は真紅に染まった。






「うわぁ、奈落」

その後、阿鼻叫喚の地獄絵図と化したパーティー会場の惨状まで思い出し、現在のシンタローはげんなりと肩を落とした。途中まではいい話だったのに。
父親の鼻血で溺れかけたというある意味マジカル・トリップな出来事は幼いシンタローのトラウマとなり、美貌のおじさまへの傾倒はこの時確実となった。

トラウマな過去を思い出して朝からブルーな気持ちになったが、それ以上に、いくらまだ幼かったとはいえあのマジックに向かって「パパ大好き!」なんて言っていたとは――あまりにも恥ずかしすぎて、シンタローはその場で壁に頭を打ち付けたくなった。

「えぇいっ、今すぐ消えろ忌まわしい思い出めッ!親父も夢ん中にまで出張してくんじゃねーよ!!」

かなり無理のある八つ当たりをしつつ、シンタローは枕元にある写真立てを引き寄せる。

「ッたく、とんでもねー親父だぜ。あんな危険人物にだけはなりたくねーな。……なぁコタロー」

デレデレと締まりの無い顔で最愛の弟の写真に語りかけ、シンタローは漸くベッドを降りた。ちなみに彼に、自分のブラコンっぷりは父親にそっくりであるという自覚は無い。

床に立って「んーっ」と伸びをすると、シンタローは頭の中で今日一日の予定を組み立て、それを実行するべく動き出した。



* n o v e l *

PAPUWA~やっぱりパパが好き~

4/6




自室を出ると、そこはトリップ地帯でした。


「なっ……何だこりゃあぁぁぁー!?」


カボチャのランタン、魔法のステッキ、黒いマントにトンガリ帽子――。
甘ったるいお菓子の匂いをプンプンさせて、魔法使いの仮装をした従兄弟が壁に色とりどりの飾り付けをしていた。

「あ、シンちゃん!起きたんだね、おはよー」
「おはようじゃねーよグンマ!おまっ、何やってんだよコレ!?……ああああ、スプレーなんか使ってヘタクソな落書きすんな!オメーはどっかのヤンキーか!?暴走族か!?そういう汚れは落とすの大変なんだぞッ!」
「あはは、早速お母さんみたいな事言ってるね」
「うむ、少し落ち着けシンタロー。このスプレーは俺が、いいか、俺が開発した特製スプレーだ。濡らしたスポンジで軽く擦るだけですぐに文字や絵が消えるという優れものだ。安心しろ」
「ちっとも安心じゃねーよ、つかお前もなに混ざってンだ!止めろよこの馬鹿の暴走をっ!」

紙で作ったお花を丁寧に丁寧に壁に貼り付けていたキンタローは、ふう、と息をついた。
お花の列はきっちりと横一列に並んでいて、一ミリの狂いも無い。
手に定規を持ったままキンタローは満足気に口元を緩めた。

「……どうだシンタロー。これならお前も文句はあるまい」
「大有りだこの天然ボケ」

会話のキャッチボールをしてくれ、と思いながらシンタローはうんざりと頭を押さえた。
キンタローはいつものスーツ姿だが、グンマの格好はどこからどう見てもハロウィンの仮装だとしか思えない。
ごてごてと飾り付けられた団内の壁もよくよく見ると、程よくデフォルメされたコウモリや三日月、定番のカボチャの絵と、ハロウィンらしいものが目立つ。
グンマが描いたカオスな絵や、キンタローの描いた無駄にリアルなドラキュラの絵なども多数存在したが、まぁそこら辺は目を瞑ろう。

「……今日ってハロウィンだったか?」
「ううん、違うよ?でももう10月になったから、待ちきれずに用意しちゃったんだ」

悪びれた様子も無くあっさりと答えられたのでは、怒る気も失せる。
チラリとキンタローの方を見やると、彼は真剣な面持ちで定規を手に、新しく花を貼る場所を検討していた。

「……そういや、キンタローにとっちゃ初めてのハロウィンか」

思い当たって呟くと、グンマは何も言わずにただ微笑んだ。
シンタローは暫し思案してから……仕方ねぇなー、というように苦笑してみせる。
真剣そのもののキンタローは、初めてのハロウィンというイベントに心弾ませているようだ。自分達の子どもの頃を思い出し、シンタローとグンマは思わず顔を見合わせて、小さく笑った。
ガンマ団総帥としてやる事はまだまだ山のようにある。本当はハロウィンに浮かれている場合などではないが――たまにはこんなのも良いだろう。大切な家族の為に。


「うんうん、仲良き事は美しきかな、だね。微笑ましい光景だなぁ、ねぇシンちゃん」
「脈絡も無く現われるな、そして俺の背後に立つな」

お手製のシンタロー人形を抱いてニッコリ笑うマジックに、シンタローは振り向きざまに眼魔砲を放った。
だがあっさりそれは避けられ「シンちゃんは本当に恥ずかしがり屋さんだね」と動じずにコメントまでされて、シンタローのこめかみに青筋が浮く。
先程見た夢まで思い出してしまい、余計にささくれた気分になった。

「ちくしょー、昔も今も奈落だぜ。早く殺るしかない!」
「ハッハッハ、シンちゃんの事は愛してるけど、パパもそう簡単には殺られてあげないぞー」
「テメーの存在そのものがバッド・トリップ……!」

一瞬、まだ見ぬ毒キノコ(背中にしねじと書いてある)がシンタローの脳裏を駆け抜けた。

「え、なに今の不吉な予知夢。久しぶりにナマモノの予感?」
「どうしたシンタロー。何か嫌な夢でも見たのか?」
「うん、何か近い将来に嫌なキノコとお知り合いになる予感がする」
「えっ!?スゴイやシンちゃん!ボクもキノコと友達になりたいな~」
「菌類と友情を育むな。アラシヤマみたいになりてーのかグンマ!?」
「ほう。キノコが食べたいのなら、パパが最高級のキノコを取り寄せてあげようか?シンちゃん」
「よぉーし、一口で致死量に達する最凶のキノコ持ってこい親父」
「ハッハッハ!そんな禍々しいキノコ何に使う気なのかな~?」


暫く和やかに(?)親族で語り合っていたが、シンタローはグンマの関心がまたハロウィンの飾り付けに向いているのに気付いた。

「……おい。グンマ、キンタロー。今日の昼までにキリがいい所まで終わらせろよ」
「なに?だが、俺はお前の補佐という仕事が……」
「いーからいーから。俺はゆっくり休ませて貰った事だし、オメーらも息抜きしろよ。……飾りつけすんの、楽しいんだろ?」

図星をつかれたらしく黙りこんだキンタローに、シンタローは可笑しそうに笑った。

「ただし、オメーらは加減てもんを知らねーからな。息抜きで疲れちまったら意味ねーし、一応昼までを区切りにしろ。で、続きはまた明日。――OK?」
「うんっ、ありがとうシンちゃん!」
「……了解した、シンタロー」

小さい子どもを見るような目でグンマとキンタローを眺め、シンタローはおう、と頷いてニッと笑った。

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