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* n o v e l *





PAPUWA~らぶメモ~
3/5






次は誰を訪ねようと思案しながら団内の廊下を歩いていると、突然肩に重みがかかった。

「……!?」
「よォ~、久しぶりじゃねーかキンタロー。オメー真剣な面して何やってんだァ?」
「叔父貴!」

後ろから気配を消して近づいてきたらしい、キンタローの肩に腕を回したハーレムがニヤッと笑いかけた。

「……戻っていたのか。特戦部隊には確かM国での任務があった筈だが」「ンなもん、とぉ~っくに終わったっつーの。あっさりし過ぎててつまんねー任務だったが……M国なだけにMなヤツが多くてな~、ホントはもっと早くに帰れたけど、ちょっと派手に遊んで来ちまったぜぇ」
「また無駄に暴れてきたのか……シンタローが荒れるぞ」
「はっ、そうなったら可愛い甥っ子と軽~く遊んでやるまでだな」

シンタローの怒り狂う様がいとも容易く想像できてしまい、キンタローは嘆息した。
そんなキンタローを見て、何を考えているのか分かったらしくハーレムは可笑しそうに笑った。

「オメーも変わったなぁキンタロー。あんなにキレやすかったお子様が、今は子守りする側の立場か」
「……暴走したシンタローを止められるのは俺だけだ。変わらざるをえんだろう」
「オメーが止めてくれるって分かってるから、シンタローは安心して暴走すンだろ?……いつの間にか、いいコンビになっちまったなオメーら」

相変わらずからかうような口調だったが、珍しく穏やかな表情を浮かべてそう言うとハーレムはキンタローから離れて彼に背を向けた。

「ま、仲良くやれよ。甥っ子ども。じゃあな~」
「――待て、叔父貴」
「あァん?何だよ」
「今俺の懐からかすめ取って行った財布を返してもらおう」

肩を抱いた際にさり気なく抜き取っていたらしい。
あっさりバレてハーレムは「チィッ……!気付いてやがったか!」と舌打ちした。

「微笑ましい話に持っていって誤魔化そうとしていたようだが、俺の眼は誤魔化せん」
「リキッドのヤローなら超簡単に誤魔化せンのにな~。……なァ、ほんのちょぉ~っとでいいから金貸して。次のレースではきっとヤツが来るんだよ、俺の勘が告げてるぜッ」
「今までの統計からいって、叔父貴が競馬で勝つ確率は限りなくゼロに近い」
「馬鹿ヤロー!!散っていく勇者(馬)達に賭ける金を惜しむんじゃねーよ!てめェも男なら何も言わずにドーンと金貸しやがれ」
「散る事が前提の勇者(馬)にか!?」

絶対断る、と答えるとハーレムは暫し激しくブーイングをしていたが、キンタローが折れそうにないのを見て取って、彼の方へと財布を投げて返した。
この叔父の性格からして、実力行使にくらい出てくるかもしれないと予想していたキンタローは、意外に思ってハーレムを見る。ハーレムはやや不機嫌そうな顔をしながらタバコをくわえてそれに火をつけた。
深く吸い込み、溜息と共に盛大に煙りを吐き出す。

「……あ~あ、面白くねぇなー。どいつもこいつもささやかな金を出し渋りやがって」
「ささやかとは到底思えない額が毎月団員達の給料から勝手に差っ引かれているようだが」
「いーんだよ、俺はアイツらの上司なんだから」

特戦部隊の面々が聞けば血の涙を流すであろう非道なセリフを堂々と吐き、ハーレムは口の端を僅かに歪めた。

「……ま、唯一出し渋らずに貸してくれた超男前なヤツぁ、もうココにはいねーからな」
「……」

それが誰を指しているのかを悟り、キンタローは口を噤んだ。
あの青年も決して快く貸していたわけではないのだろうが(むしろ横暴な上司に搾取されていたのだろうが)、彼らの間にあった絆はまがい物などでは無かった。
あの青年の事をほとんど知らないキンタローでさえそう思うのだ、共に戦ってきた特戦部隊の者達は彼が隊を抜けた後、色々と思う事もあるのだろう。
隊長であるハーレムなら、尚更に。

「で、キンタロー。第二の男前になって俺に金を貸す気は」
「毛頭無い」
「ケッ!やっぱ財布代わりにリキッド銀行は手元に置いとくべきだったぜ」

くわえタバコをしぎしぎと噛んでペッとそこらの床に捨て、元部下の人権を完全に踏みにじった発言をしつつ、ハーレムは懐から一冊のファイルを取り出した。

「叔父貴、タバコはきちんと火を消してからしかるべき場所へ捨てろ。
いいか、灰皿へ捨てるのが原則だ」
「あー、分かった分かった」

キンタローはハーレムが捨てたタバコをわざわざ拾い上げると、近くにあった休憩所に備え付けてある灰皿のところまで行き、きちんと火を消してから捨てた。
ハーレムはこれが手本だ、と真面目な顔をして言うキンタローを綺麗にスルーしてファイルをバサバサとめくっている。

「?……叔父貴、それは何の資料だ?」
「ん~?オメーも見るか?リッちゃんと俺らのお・も・い・で」

子どもが見たらトラウマになって三日はうなされそうな凶悪な笑みを浮かべ、ハーレムは「ほらよ」とキンタローにも見えるようにファイルを広げた。
ファイルの中身はリキッドと特戦部隊の写真ばかりで埋められている ――つまり、早い話がただのアルバムだ。
キンタローは沢山貼り付けてある写真にざっと目を通し――。

「虐待の記録か」

スパッと真実を突いた。
そこには禍々しい笑みを浮かべた特戦部隊の面々と、ありとあらゆるイジメ(拷問)を受けて半死半生のリキッド坊やが映っていた。
膨大な記録の中で、リキッドが笑っている写真は一枚も無い。

「やっだな~何言ってやがんだキンタロー。オラ、このソウルフルな写真を見ろ。笑顔のリッちゃんと俺サマが映ってんだろ」
「どこからどう見ても強制された笑顔……いや、これは昇天する間際の天使の笑みなんじゃないか?」

写真には此方に向かって笑顔でピースしているハーレムと、そのハーレムにもう片方の手で首を鷲掴みにされ青い顔をしたリキッドの二人が映っていた。
リキッドの口元は確かに穏やかに緩められている。だがそれは空へ還っていく前の最後の笑みに見えた。

「こんなに儚い笑顔を見たのは生まれて初めてだ」
「そーか、そりゃ良かったな」

ハーレムはフンフン、と鼻歌まで歌いながら上機嫌でアルバムをめくる。

「で、こんなものを突然取り出してどうする気なんだ?」
「バーカ、売りつけるに決まってんだろ。……リッちゃんのこの恥ずかし~い写真集をバラまかれたくなけりゃ、金よこせってな」
「――もしや、リキッドの父親である大統領を脅す気か!?そんな事をすれば戦争になるぞ」

友好国が一転、敵対国になってしまう。
流石に顔色を変えたキンタローにハーレムは楽しそうに笑った。

「とーーーぜん、そう思うよな~?じゃあ大統領と関係が悪化して困るのは誰だ?」

投げ掛けられた質問に、キンタローはそういう事か……とハーレムの意図を察して眉間にしわを寄せた。

「マジック叔父上か」
「正解。シンタローでもいいけどな」
「脅す標的を身内に定めるな!」
「金ぶん奪るのにいちいち手段なんか選んでられっかー!近くに金持ってる奴がいんならそっから攻めンのは常識だろ!!」
「くッ……獅子身中の虫め。なんて厄介な親戚なんだ」

リキッドの人権やら名誉やらはどうでもいいとしても。何とかこの写真集は秘密裏に始末してしまいたいところだ。
ハーレムの手から何とかそれを奪おうとタイミングを計るが、流石にそこまで甘い相手ではない。
さっさと懐にしまってしまい、後はもう隙一つ無い。
後で何かしら手段を講じるしかないだろう、とキンタローは仕方なくこの場は諦める事にした。

――と、そこまで考えて。ふとキンタローは気付いた。
この目の前にいる傍若無人な叔父も、ある意味では写真好きと言えるのではないか?

参考にはなるだろうと、キンタローはノートとペンを取り出した。
「時に叔父貴、訊ねたい事があるのだが」
「あ?ンだよ突然。俺の隠し財宝の在り処なら教えねーぞ」
「あるのか財宝」
「俺のヒミツのプライベート写真や勝負服、勝負下着、愛用してる枕とかが置いてある」
「それはただの私物だ。……もう財宝の在り処は分かった、叔父貴の部屋だろう」

心配せずとも誰も狙わん、と太鼓判を押してやり、キンタローは漸く本題を切り出した。
何故写真を撮るのか、写真を撮るという行為はハーレムにとってどのような意味があるのか、と。
ハーレムは怪訝そうな表情でキンタローを見つめたが、すぐにまたいつものようにニヤリと笑った。

「まぁ俺が写真なんか撮るのは、大概目的がある時だな。今回みてぇに写真で人を脅すとか、からかうネタにするとか」
「……なるほど。その目的の内容はともかくとして、利益を得る為に写真を撮るというのなら確かに理解しやすいな」
「写真は形になって残るからな~。残したい思い出も残したくない思い出も、全部そのまんま残りやがる。……その時の一場面を切り取って、な」
「ああ、そうなるな」


「……。ッたく、キンタロー。頭かてぇな~オメーは」

生真面目にメモを取っているキンタローの頭を、ハーレムは唐突に撫でた。いや、それは撫でるというよりも頭を掴むような乱暴な仕草だ。
髪をぐしゃぐしゃにかき混ぜる。
キンタローは突然の事に驚いて顔を上げ、何かの嫌がらせか?と眉を寄せる。

――キンタローは知らないが、それはハーレムがシンタローやグンマ、リキッドなど、彼が近しく思っている相手に対して稀に見せる行動だった。
ハーレムはイタズラをした悪ガキのような顔で、ニッと笑う。

「いちいち頭で考えてンじゃねーよ、見えるモンも見えなくなっちまうぜェ~?。……オメーはまだまだ知らねー事や気付いてねー事がたくさんあるみてぇだしな」
「……どういう意味だ?」
「さぁな~。まァ別に悪い事じゃねーよ。これからゆっくり知っていけ。……おら、一緒に歩いてくれる奴らがいんだろ?」

見てみろ、と顎で示された方に視線を向けると、そこにはシンタローがいた。
誰かを探しているらしく、時折周囲に視線を飛ばしながら通路を歩い
ている。

「シンタロー?何故ココに……」
「さーな。オメーを探してんじゃねぇか~?見つかったら色々うるさそうだし、俺はもう戻るぜ。一眠りしてぇしな」

「仲良くやれや」ともう一度言うと、ハーレムは豪快に欠伸をしてその場を立ち去った。


一方シンタローはというと、どうやらあまり機嫌がよろしくないらしく、眉間にシワを寄せてずんずんと歩を進めている。
シンタローは普段、遠征で外に出ている事が多く、ガンマ団に戻ってきても総帥室で仕事をしている時間が圧倒的に長い。よって、ヒラの団員達はあまり総帥の姿を見る機会がない。
偶然そこを通りかかった団員達は、何故シンタロー総帥がこんなところに……と驚いて暫し呆然としていたが、ハッと我に返ると慌てて通路の端に寄ってシンタローに敬礼した。
シンタローはそんな団員達に「おう」と軽く声をかけながら堂々と(見ようによっては偉そうに)歩いていたが、少し離れた場所にいるキンタローに気付くと、僅かに表情を和らげた。

「ンだよ、オメーこんなとこにいやがったのか。探しちまったじゃん」
「どうしたシンタロー。何かあったのか?」

互いに歩み寄り、返された言葉にシンタローは少し居心地が悪そうに鼻の頭をかいた。

「いや、別にそういうワケじゃねーんだけど……あー、ところで写真がどうのって話はどうなったんだ?調査、上手くいってンの?」
「順調、とは言い難いな。高松とアラシヤマとハーレム叔父貴からデータを採ったが、これだけでは足りん」
「げっ、サイアクの人選!つーか獅子舞戻ってきてンのか?」

嫌そうに顔を歪めたシンタローに、キンタローは「ああ」と頷いた。
先程予想した通り、シンタローの機嫌がやや下降したのが分かり、思わず微苦笑を浮かべる。

「後で報告書が届くだろう。怒鳴り込むのはそれを見てからにしてくれ」
「見るまでもねーけどな。…………で、大丈夫か?お前」
「何がだ?」

唐突な問い掛けに怪訝そうな顔をするキンタローから僅かに視線を外しつつ、シンタローは「だーかーら」ともどかしげに言った。

「調査……つって、変なヤツにばっか話聞いてんじゃんオメー。しっかりしてるくせに変なとこで騙されやすいしよォ。……で、今そのノートどんな事になってんだよ。見せてみな」

ほれ、とあくまでも偉そうに手を差し出してくるシンタローに、キンタローはノートを渡した。
……どうやらキンタローを心配して様子を見に来たらしいが、照れ臭くて言えないようだ。

シンタローは几帳面さを窺わせる綺麗な字体で書かれたキンタローのノートに目を通し――うんざりした顔をして肩を落とした。

「みごっっっとに、イヤな方向に偏ったデータが出てンじゃねーか!何だよ、この悦に入る為とか愛と友情のストーリーとか人を陥れる手段とかいう回答者の人格疑うような答えはッ」
「回答者の人格が歪んでいるのだろう」
「オメーも分かってんならこんなヤツら対象にしてんじゃねーよ!」

もっともな反応を示し、シンタローは「やっぱ様子見に来てやって正解だったぜ」とぶつぶつ怒りながら呟いた。

「もしや、俺を心配して見に来たのか?」

思い当たって訊ねると、シンタローはバツが悪そうに顔をしかめて「… …まーな」と小さく肯定した。

「過保護かとも思ったけど、ちょうど仕事が一区切りついたし……暇つぶしも兼ねて見に来てやったんだよ。感謝しろよナ」

面倒見が良いのはシンタローの元からの性格だ、だがその対象を弟以外の者へと向ける時、それを照れ臭く思うのもまた彼の性格だった。

「シンタロー……」

「……ンだよ」


二人は見つめ合った。
胸を満たす家族愛が暖かく彼らを包み込み――。


「そういうところがお前の美徳だが、余計なものにな憑かれる可能性もあるぞ。注意しろ。いいか、具体的に言えばナマモノとか粘着質なストーカーとかだ」

「具体的過ぎて泣きそうだよ馬鹿ヤロー」


夢も希望も無いキンタローの一言で一瞬の内に散っていった。




キンタローはコホン、と軽く咳払いをし「話を戻すが」と前置きをしてから本題に入った。

「そういえばシンタロー、お前も無類の写真好きだったな」
「んあ?別に好きってほどでもねーけど……普通じゃねー?」
「いや、そんな事はないぞ。お前の作ったコタローのアルバムは先日100巻を突破した。これは常識で考えて並大抵のものではない」
「……数えてたのか、俺のコタロー・コレクション」
「100巻突破を記念して何か催し物でも開くか?」

素で訊ねるキンタローにシンタローは黙って首を横に振った。
何だか自分がマジック似のダメ人間になってしまったような気がして、少し切ない気分になった。

「そうか。……では改めて問おう。何故お前は写真を撮るんだ?」
「ん~……何故って言われてもなぁー」

シンタローは困ったように眉を寄せ、がしがしと頭をかいた。


自分が写真を撮る理由……コタローの写真を撮る理由……。

100巻突破……可愛いコタロー……可愛い可愛い俺の弟……。


「シンタロー、鼻血を拭け。赤い総帥服が更に真紅に染まるぞ」
「あ、ホントだ」

いつの間にかダクダクと溢れていた鼻血で足元に血だまりが出来ていた。
キンタローに借りたハンカチで鼻血を拭いながら、「うーーーん」とシンタローは唸り……結局、シンプルな回答をした。


「コタローは俺の大切な弟だから」


「…………。そうか」


キンタローは暫しの間、考え込むように目を伏せ――短く相槌を打つと、「分かった、協力感謝する」と言った。
シンタローはそんなキンタローの様子を黙って眺めていたが、ふと何かを思いついたように「……あ」と呟いた。
ん?と怪訝そうに此方を見るキンタローにシンタローは誤魔化すように「いや、何でもねーよ」と軽く手を振る。

「で、調査はもう終わったのか?」
「……何となくだが、答えが分かってきたような気がする。だがもう少しだけ――そうだな、マジック叔父上にも訊ねてみるとしよう。叔父上と会えるだろうか」
「またサイアクの人選しやがって……。ま、行って来いよ。俺が繋ぎ取っといてやるから」

珍しく、さして反対もせずにそう応えるとシンタローは特注で作らせた自分専用の携帯電話を取り出して、直接マジックへとかけた。

「もしもーし。親父?俺だけど。これからそっち行くから、時間あけといてくれよ。……あ~、いちいち過剰に反応すんじゃねーよ鬱陶しい!用があんのは俺じゃなくてキンタローだ!……いや、そうじゃねーけど聞きてぇ事があンだってさ。とにかく部屋から出ずに待ってろよ、いいな?」

かなり一方的に予約を取ると、シンタローは返事も聞かずにブチッ!と電話を切った。

「よしっ、これでいいだろキンタロー」
「……?ああ、助かった」
「いいって。んじゃまた後でなー」

妙に協力的な態度を取って、シンタローはニッと笑うとどこかいそいそとした足取りでその場を去っていく。
後に残されたキンタローはやや不審そうにそんな彼を見送ったが、考えてもシンタローの意図は読めなかった。
首を傾げながらも、キンタローはマジックの部屋へと歩き出した。

* n o v e l *





PAPUWA~らぶメモ~
4/5






「やあ、待っていたよキンタロー」

イスにゆったりと腰掛けて、相も変わらずシンタローの人形を抱いたまま、マジックはにこやかにキンタローを迎え入れた。

「何か私に聞きたい事があるそうだね?珍しいな」

そう言いながら軽く手を振って、側に控えていた二人の側近を下がらせる。
話し易いようにとの配慮だろう。
人払いが済んで二人きりになると、キンタローはマジックの前へと歩み寄った。

「その……わざわざ時間を割いて頂いて申し訳ありません。大した事ではないのですが、叔父上に訊ねたい事があります」
「何だい?キンタロー。……フフ、そう緊張しなくてもいい。総帥職を退いてからというもの、私は暇を持て余しているからね」

何でも聞きなさい、と鷹揚に頷いて見せるマジックに、キンタローは幾分肩の力を抜いた。
――この叔父を前にすると、ハーレムに対する時とは違い、キンタローはつい身構えてしまう自分を感じていた。
自分達は同じ青の一族ではあるが、共に過ごした時間はあまりにも短く、また状況が特殊すぎた。ぎこちなさを感じてしまうのも無理は無いだろう。
……ちなみにハーレムはあのような性格なので互いに気を遣い合う必要は皆無である。


「――俺は、最近疑問に思う事がありました。人は何故写真を撮り… …記録を残そうとするのかと」

静かに語り始めたキンタローに、マジックは黙って耳を傾ける。

「研究対象としてデータを集める為だというのなら、俺も納得できる。
しかしマジック叔父上やシンタロー、高松、ハーレム叔父貴を見ていると……それだけではないような気がしてきました」
「……うん、そうだね」
「だから俺は、人が記録を残そうとするその理由を、その行為の意味を知りたくて彼らから話を聞きました」

自分の中で答えを模索するように目を伏せ、キンタローは一度深く呼吸をした。
マジックはそんな彼を穏やかな光を宿した目で見つめる。

「答えは、見つかったのかい?」
「――よく、分かりません。何かに気付きかけているような気もするが……まだ確かではない」

独白するように呟いて、キンタローはギュッと拳を握ると視線を上げてマジックを見た。
何かを訴えかけるその眼差しにマジックはふっと微苦笑をこぼした。

「まったく……お前は素直で真面目な子だな。シンタローが心配するわけだよ」

抱いている人形の頭を一撫ですると、マジックはおもむろに机の引き出しを開けて一冊の分厚いアルバムを取り出した。
机に置かれたそのアルバムの表紙には、「I LOVE シンちゃん【シンタロー5歳の記録《下巻》】」と書かれている。

「……。叔父上、これは?」
「シンちゃんとパパのラブラブな思い出が詰まったアルバムだよ。シンちゃん5歳編は上・中・下巻に分かれていてね、これは冬から春にかけての思い出が詰まっているのさ!」

張りのある声でそう言うと、マジックは「見てごらん」と笑顔でキンタローにアルバムを差し出した。
受け取ると、ズシリと腕に重みがかかる。キンタローの筋力を以ってしても片手では持てずプルプルと腕が震えた。

「叔父上、腕が攣りそうなんですが」
「頑張れキンちゃん」

サラリと笑顔で流されたので、キンタローは仕方なく頑張ってみる事にした。

素直にページをめくると、そこにはシンタローの笑顔が溢れていた。
まだあどけない表情。カメラを構えているのは父であるマジックなのか、何の陰りも無い全開の笑顔を此方に向けている。
オモチャを持ってはしゃぐ姿、無防備な寝顔、信頼に満ちた眼差し、屈託の無い笑み――中には駄々をこねて泣いているような写真や、頬を膨らませてそっぽを向いている写真もある。
だが全てに共通して言えるのは……そこにある暖かな空気であった。

「撮る側の愛情と、撮られる側の愛情……その両方が伝わってくるだろう?」


かけられた声にハッとして顔を上げると、マジックは微笑んで彼を見ていた。

「お前が聞きたいのは写真を撮る理由、だったね。

私は形に残しておきたいんだよ。いつかこの手から離れていく、大切な者達の姿を。想いは消える事は無い、だが思い出は知らず知らずの内にぼやけて輪郭が不鮮明になっていくものだ……でもこうして形に残しておけば、いつでも愛する者の姿と、共に在ったその時の事を再現する事ができるだろう?」

息子の姿に似せて作った人形を慈しむように撫でるマジックのその姿は、ガンマ団の非情な元総帥などではなく――ただの普通の、子を愛する親のものだった。


「感傷だと思われるかもしれないね。だが私はシンタローを……可愛い子ども達を、心の底から愛している。いつか別れが来ると知っているからこそ共に過ごす時間、その一瞬一瞬が愛おしくて仕方ないのだよ」
「叔父上……」


キンタローはアルバムに目を落とした。
冬から春へと移り変わっていく親子の記録――最後の写真は、満開の桜の木の下。息子を抱き上げて笑うマジックと、父親に抱き上げられて楽しそうな笑顔で応えるシンタローの姿だ。
シンタローへと注ぐマジックの視線には確かな愛情が溢れていて。
シンタローもまた、曇りの無い目でマジックを見ている。
幸せな親子の写真。


「……」

それを見つめるキンタローの表情からも、険が取れて自然と口元が笑みの形を刻んだ。


そんなキンタローを見てマジックは満足気に一つ頷くと、「それにね」とイタズラっぽく付け加えた。

「写真を見れば自分がいかに愛されて、大切にされていたのかを知る事ができる。いわば写真とは愛の証であり愛の記録――ラブ・メモリー略してらぶメモってところだね!」
「叔父上、その略し方はいかがなものかと」
「ハッハッハッ、聞こえないぞ~キンタロー」

アルバムを閉じてそっと机の上に戻すキンタローに、マジックは柔らかな声音で続けた。

「――忘れてはいけないよ。キンタロー、お前も皆に愛されているんだという事をね」

「……俺が、ですか?」


意味が分からず戸惑うキンタローを前に、マジックは楽しげに笑った。
そして――キンタローの背後で勢い良く扉が開いた。

* n o v e l *





PAPUWA~らぶメモ~
5/5






「よォ、キンタロー。変態親父に毒されてねぇか~?」
「やっほー。おとーさま、キンちゃん!」
「シンタロー!グンマ!?」

突然の闖入者に驚いて声を上げるキンタローをよそに、二人は何の遠慮も無くズカズカと部屋に入ってきた。

「どうしたんだ、お前ら」
「バーカ、オメーの様子見に来たに決まってンだろ。親父に変な事吹き込まれたりしてねーだろうな?」
「らぶメモ……」
「あァん?」
「いや、何でもない。それより……ン?何だそれは、グンマ」

何か分厚い本のような物を持ってフラフラしているグンマに気付き、キンタローは声をかけた。
するとグンマは嬉しそうにニッコリと笑い、その分厚い本――写真の詰まったアルバムをキンタローの腕にドサッと預けた。

「はいキンちゃん!キンちゃんのアルバムだよ~」
「なに!?俺のアルバムだと……?」
「大変だったんだよー。写真集めて一枚一枚丁寧に張って、しかもすっごく重かったんだから」

困惑しているキンタローの疑問には一切答えず、褒めて褒めて!と要求するグンマの頭を、シンタローは呆れたように軽く叩いた。

「あいた!……シンちゃんひどいよ~!」
「うっせ、キンタローが混乱してっだろ。……大体グンマ、お前アルバム作るの楽しんでただろ」

グンマは叩かれた頭を押さえてシンタローに非難がましい目を向けていたが、その言葉にすぐにまた笑顔に戻った。

「そうだね、大変だったけど楽しかったね!キンちゃんのアルバム作ってる間、シンちゃんもずぅ~っと楽しそうに笑ってたもんね~」
「それは言わなくてよろしい」

即座にまたグンマの頭を叩き落す。照れ隠しもあってか先程よりも威力が上がっていた。

「ぶぇ~~ん!たかま……」
「ば、バカっ、変態ドクターなんか呼ぶんじゃねーよ!ココで鼻血ふかれたらアルバム汚れっだろ!」

いささか慌ててシンタローが止めると、グンマもその可能性に行き当たったのかピタリと泣くのをやめた。
一方、話の主役であるキンタローは渡されたアルバムを持ったまま、どう反応すればいいのか分からずそんな二人の漫才めいたやり取りをただ見つめていた。
それに気付いた二人は漸く言い合いをやめ、改めてキンタローの方を向く。

「あ~……まァ、そういう事だ。それ、俺とグンマが作ったオメーのアルバム」
「一生懸命作ったんだよ!」

「俺の、アルバム……?」


シンタローとグンマの顔を順に見回すキンタローの肩を、誰かがポンと叩いた。
振り返るとマジックが立っており、「さあ、開けてごらんキンタロー」
と優しく言った。

「……」

キンタローは頷いて、アルバムの表紙を開きページをめくった。

そこには――穏やかな表情を浮かべたキンタロー自身が映っていた。シンタローやグンマと共に、時に笑って時に喧嘩をして――そんなごくごく当たり前の日常が、幸せな時間が、そこに映っていた。

「これは……」

目を見張り、言葉を失うキンタローの横にグンマが並ぶ。キンタローの顔を覗き込んで、裏表の無い澄んだ瞳で笑いかけた。



「キンちゃんも、自分の写真が欲しかったんだよね?」と。




「――俺は………っ?」

呆然としているキンタローの肩に、突然ガッと腕が回された。
そのまま肩を組まれて、もう片方の手で頭をぐしゃぐしゃと撫でられる。ハーレムとよく似た仕草だ。
驚いて横を見ると、シンタローが可笑しそうにクックック、と笑っていた。

「シンタロー……」
「ンだよ?まぁ~だ気付いてなかったのかオメー?……ほんっとキンタローらしいよな~」

「なぁ?」とシンタローがキンタローを挟んで反対側にいるグンマに同意を求めると、彼もまた可笑しそうに笑って「だよね!」と頷いた。

「俺は別にそこまで形にこだわんねーけど。ま、いいんじゃねーの?
たくさんバカらしい写真撮って、ジジイになった時みんなでそれを肴に酒でも呑もうぜ」

仕草は乱暴だが温かみのある口調でそう言うと、シンタローはニッと人懐こく笑った。

「え~?シンちゃん、僕お酒はヤダよ!ココアがいいな」

キンタローが何か言葉を返す前に、グンマが横から口を挟んだ。

「あ~?ジジイになっても味覚はお子様か?グンマらしいけどよ~」
「好物がカレーライスのシンちゃんに言われたくないもん」
「テメ、カレーをバカにすっと総帥権限でオヤツの時間無くすぞグンマっ」
「うぇ~ん!シンちゃんがイジメるよー!おとーさまァ~~!」
「イイ歳して親父にチクんな!!」
「ハッハッハ、ケンカはおやめ子ども達」

低レベルなケンカを始めるシンタローとグンマ、そして幸せそうに鼻血を垂らしながらそんな彼らを見守るマジック。


「……」


当たり前の日常が。笑ってしまうくらい、バカバカしいこの日常が。
日常として、当たり前に今ここに存在するという事を彼らは幸せだと感じている。
それが決して「当たり前」では無いという事を、彼らはよく知っているから。

キンタローは腕の中にあるアルバムに目を落とした。
写真の中で自分は彼らに――大切な家族に、囲まれていて。
その表情は自分自身でもハッとさせられる程に、穏やかな、無防備なものだった。

「キンタロー」

不意に名前を呼ばれて顔を上げると、マジックが此方を見ていた。


「これからは、みんなと一緒に思い出を作っていこう」


「――……ああ。そうですね、叔父上」


応えて、キンタローは柔らかな笑みを浮かべた。








「はいキンちゃん、高松からのプレゼント!」
「……?何だこれは。百科事典か?随分と分厚いな」
「アハハ、違うよ~アルバムだよ。キンちゃんが写真欲しがってるって教えてあげたら、高松が送ってきたんだ。これぜぇーんぶキンちゃんの写真だって」
「この量がか!?」

驚愕するキンタローに、グンマは「うん、そう」と何も考えてなさそうな笑顔であっさりと頷いた。
キンタローの机の上には百科事典ほどの厚さがあるアルバムが20~30 冊積み上げられている。のーーーん、とそびえ立つアルバムからは並々ならぬ執念のようなものが感じられた。

「一体いつの間にこんなに撮ったというんだ」
「えーっと……隠し撮り?キンちゃんがお風呂上りにバスローブ姿でくつろいでる写真とかあるし。高松のコレクションの一部らしいよ」
「グンマ、警備室を呼べ」

まさか自分にもストーカーがついていたとは、と慄然とするキンタローの後ろで、「だあぁぁぁッ!鬱陶しいッッッ!!」というシンタローのキレた叫び声と眼魔砲が壁をぶち破る音が轟きと共に響き渡る。
振り返ると、カメラらしき物を持ったアラシヤマがちょうど吹き飛ばされていくところだった。
そしてそんなシンタローを少し離れた場所から、「シンちゃん、こっち見て見て!ほら、チーズ!!」とマジックが撮影してたりした。

「………………」
「愛され過ぎるのも大変だよね」

妙に冷静な口調で、グンマがぽつりと呟いた。





「よう、キンタロー……あんま思い出思い出ってこだわり過ぎンのも、アレだよな……問題ありだよな?」

マジックとアラシヤマに付き纏われてぐったりしているシンタローと、高松が仕掛けた盗聴器及び盗撮に使われたカメラ探しで同じくぐったりしているキンタロー。
二人は崩れ落ちるようにソファに座り込んで、胡乱な目で天井を睨み付けている。

「ああ、その通りだな……シンタロー、お前も弟可愛さで犯罪を犯さないように気をつけろ。いいか、弟相手でも犯罪は犯罪だ……」
「分かったから二度言うな……」

疲れ切った声で会話を交わすと、二人はそれからハァ~~……と重い溜息をついて目を閉じた。
……日頃の疲れもあってか、間もなく二人分の小さな寝息が聞こえ始めた。

――そして、そっと二人に近づく影。
普段であれば人の気配に気付かぬ筈はない二人だが、余程疲れているのか――それとも接近してくるその気配が二人にとって馴染み深いものであった為か――ピクリともせずに眠っている。
二人の寝顔を息を殺してそうっと覗き込むと、僅かな間があってからパシャッと小さな音を響かせる。それは写真を撮った際に漏れる、シャッターを切る音だ。
二人はその音に微かに眉を寄せたが、目を覚ます気配は無い。
写真を撮った人物は彼らの寝顔を眺めて、くすりと笑った。

「……無防備な顔してるなぁ二人共……ふふ、こうしてると双子の兄弟みたいにそっくりだね」

微笑ましげに呟いて、カメラを持ったグンマは部屋の照明を落とすとそっとその場を立ち去った。

「おやすみ、シンちゃんキンちゃん」と囁いて。






後にこの時撮られた写真を見たシンタローとキンタローの二人は、少しバツが悪そうに、少し照れ臭そうに顔を見合わせ。
グンマは「いい写真でしょ?」と得意げに胸を張った。

キンタローは生真面目に頷いてシンタローを呆れさせ、グンマは明るい声を響かせて笑った。


そんな日常を過ごしながら――キンタローは、「今度は俺が写真を撮ってみよう」と思った。




END

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