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ss1
* n o v e l *

PAPUWA~俺達類友!~
1/4



その日、アラシヤマは朝から浮かれていた。
およそ二ヶ月に及ぶ遠征から帰還し、報告書を持ってウキウキと限られた者しか入る事の許されない総帥室へ向かう。
「フフフフフ…シンタローはんに会うのも66日と13時間ぶりどすなぁ~。
ああっ、心友との再会はわての胸をこないにも熱く狂おしく燃え上がらしますえ!」
興奮しすぎてうっかり本当に炎を出してしまい、報告書の端が少し焦げた。
だがアラシヤマは慌てず騒がず炎を消して、笑顔で自分を迎えてくれるであろう友の事を思った。
きっと彼は自分の無事に安堵し、再会を喜んで、
  「疲れただろう?ご苦労だったな、久しぶりに会えて嬉しいぜ心友。今日はお前の為に時間を割くよ」
と優しく労ってくれるだろう。
想像(妄想)しただけでまた燃えてきた。
「あんさんの心友アラシヤマ!今すぐ行きますえ……!!待ってておくれやすシンタローはん!!!」
今、会いにゆきます。
一方的な愛を燃え上がらせて、アラシヤマは友のもとへと駆け出した。



一方その頃、総帥室。
シンタローは猛烈な悪寒に襲われて、思わず口にしていたコーヒーを口の端からだぁっとこぼした。
即座にハンカチで口の周りを拭きつつも突然顔面蒼白になっているシンタローを見て、キンタローは怪訝そうに首を傾げた。
「どうした、シンタロー。冷房が強すぎるのか?」
「いや、そうじゃねーけど……何か今すぐこの場所から逃げるべきだって俺の第6感が叫んでる」
「シックスセンスか」
「ああ、エマージェンシーだ」
緊急事態発生を告げるサイレンが鳴り響き、「逃げて下さい逃げて下さい!」と頭の中でしきりにもう一人の自分が叫んでいる。
切羽詰ったその魂の叫びにシンタローは迷わず従う事にした。
ガン!とイスを蹴り倒すように立ち上がり、ドアの方へ足早に向かう。
「逃げるぞキンタロー。ここは危険だ」
「なに?もしや……敵襲か?」
鋭い眼で此方を見、自分の後をついてくるキンタローにシンタローは苦々しく顔をしかめて首を横に振った。
「多分ちげーよ。だがもっとタチが悪そ……」
言いながらドアを開け――その先に立っていたモノとバッチリ目が合ってしまい、シンタローは硬直した。



アラシヤマはその瞬間、息をするのも忘れた。
ドアをノックしようとする手が震えて、心臓が口から飛び出しそうな程にバックンバックン鳴り、
極度の緊張で身体はスーッと冷えて顔色は今にも倒れそうなブルー。この状態で彼に会ったら、自分は心臓発作を起こして死んでしまうのでは?
という妙にリアリティー溢れる未来予想図まで浮かんでいた。
だがそれでも会いたい。
例え鼻血をふこうとも心臓が外へ飛び出ようとも興奮のあまり声が裏返ってセリフを噛んでしまおうとも……シンタローに会いたい!
意を決してノックしようとした瞬間、ドアが先に開いた。
声にならない声を上げて、アラシヤマは目前に立つ男を見つめた。


凝視されている。
見つめる、などという生易しいものではない。ガンをつけているのとも違う。
ただひたすらに凝視されている。
「……あ、アラシ…ヤマ……」
しまった、今日はこいつが帰ってくる日だったか!!
思わず呻くように相手の名前を呼んで、シンタローは心の中で思いっきり舌打ちする。
そうこうしている間に、アラシヤマは喜色満面になって叫んだ。
「しっ、シンタローはぁぁぁぁぁん!!!会いたかったどすえぇぇ!?
心友の帰りを喜んでおくれやすっ、労っておくれやすっ、熱く抱き締めておくれや……」
バン!!
皆まで言わせずにシンタローはドアを閉めた。
「さ~あ、今日も張り切って仕事するぞぉキンタロー」
「シンタロー、今ドアの外に何か」
「ん!?何言ってんのオメー。何にもねーよ、やだな~」
「爽やかにわての存在無かった事にせんといておくやすっ!」
即座にドアを突き破ってムリヤリ中に入ってくるアラシヤマに、シンタローはチッ……!と舌打ちした。
「顔見るなり舌打ちどすかシンタローはん!?やっぱりわての存在に気ぃついとるんやないどすか!」
「あ~、今日は疲れてんのかなぁ俺。根暗で友達いなくてしかもストーカーのニッキ臭漂う幽霊が見えたような気がしちまったよ」
「あんさんの中でわての存在既に過去のもの!?……いやいや、わては騙されまへんえシンタローはん!あんさん今嘘つきましたな?
さっきバッチリ目が合いましたやないの。シンタローはんの瞳の中にわてが映り、わての瞳の中にあんさんがおりましたえ!?」
これでどうだ!と言わんばかりに存在を主張するが、シンタローはアラシヤマに背を向けて耳を塞いでいる。
「俺はなぁーんも見てねーし聞こえてねーぞぉ~」
「シンタロー……聞こえていないのなら返事をするのはおかしいぞ。いいか、今のお前の発言は返事をしていると受け取れるわけで」
「えぇい、二度言うな!いいからさっさとそこの亡霊追い出して、ドア閉めやがれキンタロー」
キンタローはやれやれ、というように一つ溜息をつくと、失意のアラシヤマの手から報告書を奪い取り、その背中を押してムリヤリ部屋から追い出した。
閉めたドアの向こうで呪詛の声が響き渡っていたが、二人は無論、黙殺した。


* n o v e l *

PAPUWA~俺達類友!~
2/4




「うう、キンタローめ……わてとシンタローはんの熱い友情に嫉妬しとるんどすな?
死線を潜り抜けて育んだわてらの友情をぶち壊そうやなんて、おこがましい事どす……!」
見当違いな恨み言をぶつぶつ呟きながら、アラシヤマは悄然として廊下を歩いていた。
遠征帰りで今日は一日、空いている。だからこそ久々の休暇に友と過ごしたかったのだが、会いに行く口実となる報告書は、キンタローに奪われてしまった。
本当に友達であるのなら何もわざわざ口実を作る必要は無いのだが、変な所でもじもじと躊躇してしまうアラシヤマは、もうシンタローに会いに行けそうになかった。
そして実際、用も無いのに会いに行けばシンタローは間違いなくアラシヤマの事を無視するだろう。
正式な用があってもあの仕打ちだ(アラシヤマの自業自得とも言えるが)。
「はぁ~……仕方ありまへんな。まぁシンタローはんの顔は見れた事やし、わての無事な顔も見せれたわ。……今日はわてのシンタローはんとゆっくり語り合って過ごす事にしまひょ」
フフフ……と暗く笑いながら、アラシヤマは懐から藁人形を取り出した。
よく見れば、その人形は白いシャツと黒いズボンのようなものをはいており、長い髪の毛のようなものも生えている。髪の毛は緩く結ばれていた。
「シンタローはん、今日はこれから何しますぅ?やっとゆっくりできますえ。あ、何ならこれからカフェへ行って、お茶しまへん?わてのオゴリどす!
……え?何言うてはりますのんシンタローはん!いやどすな~、そない遠慮しはらんでも!わてらの仲やないどすか!……フフフ、シンタローはんはほんまにシャイどすなぁ~」
「気持ち悪いわ馬鹿弟子が」
不意に響いた冷ややかな声と同時に、ボウッ!と一気にアラシヤマの手の中にあった人形が火をふいた。
「だっはーーーん!?わ、わわわわてが精魂込めて作ったシンタローはん人形があぁぁぁ!!?」
「作るな込めるな泣き縋るな!!……私は貴様の師である事を心の底から恥に思うぞ、アラシヤマ」
床に落ちて一瞬で灰になった人形に取り縋って泣くアラシヤマを、マーカーは心底嫌そうに見下ろして言い放った。
「私を不快にした罪は重いぞ。今すぐ逝け」
「あんた鬼や師匠!!まぎれもない鬼畜どすわッ!!!……ちゅーか、いつの間に現われましたん?」
うっうっ……と嗚咽を漏らして集めた灰を胸に掻き抱きながら恨めしそうに見上げてくる自分の弟子を睥睨し、マーカーはフン、と不機嫌そうに鼻をならした。
「私の気配も感じ取れなかったのか、この馬鹿弟子が。――大方、あの方にまた拒絶されて落ち込んででもいたのだろう。
一方的に心友などというふざけた呼び方をしてストーキング行為まで働いているのだからな……当然と言えば当然だが」
無様な奴め、という侮蔑の視線をありありと注がれて、アラシヤマは「あんたかて友達おらへんやないどすかこの冷血漢!!」と心の中で思い切り叫んだ。
声に出せば間違いなく殺されるので、心の中だけに留めておいた。
……もう一人の自分が「わての弱虫……!!」とも叫んでいたが、その声には聞こえないフリをした。
「ところで師匠、こないな所で何してはりますのん?どこかへ行く途中どすか?」
「私は今から休憩を取りに行くところだ」
「もしかしてわざわざ外に?特戦部隊なら部屋も広うおますし、休憩室も別に用意されてますやろ」
「あそこに居ては気が休まらん」
その言葉に瞬時に獅子舞とイタリア人の顔が浮かび、なるほど、とアラシヤマは納得した。
他人から見れば、この目の前の中国人も一緒にいて気が休まらない相手であるが。
どっちもどっちや!と思いながら、アラシヤマは漸く立ち上がり、不器用な愛想笑い(マーカーは気色悪い笑顔だと思った)を浮かべて師匠に一礼をした。
「休憩の邪魔したらあかんし、わてもう行きますわ。さいなら、お師匠はん!」
そそくさと立ち去ろうとするが、背を向けた途端、頭をぐわしっと掴まれた。
「ほう……お前も漸く気遣いというものを覚えたか。良い傾向だな」
「お、おおきに……せやけど師匠、何で手に力が入ってますのん!?」
頭を掴む手に徐々に力を加えられて、握り潰されるのでは!?とアラシヤマは顔を引きつらせた。
マーカーは酷薄な笑みを浮かべて厳かに告げた。
「愚かな弟子だが、成長が見られて嬉しいぞ。では、感心な弟子に、私からのプレゼントだ。
――その相も変わらず腐って歪んでどうしようもない性根を、私が直々に鍛え直してやろう」
「全然プレゼントと違いますやん!!?ほんまは褒めてもおらんやろ師匠ーー!!!」
当たり前だ、と呟いて、マーカーは嫌がるアラシヤマを引きずって訓練所へ向かい歩き出した。










「はぁい、シンちゃん。大好きなパパが会いに来たよ~!」
「……今日は厄日か?」
新たな客にシンタローは脱力して机に突っ伏した。
「何言ってるんだい。最近シンちゃんったら忙しくて、あんまりパパを構ってくれなかったろう?我慢できなくて私から会いに来ちゃったよ」
語尾にハートでも付きそうなウキウキした声音で話しかけられ、シンタローは不機嫌に眉を寄せてケッ、と吐き捨てるように言った。
「そういうセリフは女が言うもんだろが。いや、コタローなら許せるっつーかめちゃくちゃ言って欲しいけど!アンタに言われても気色悪いだけなんだよ。
どこの世界にいちいち息子の仕事場に押しかけて邪魔する父親がいるんだよ!?」
「やだなぁ~邪魔なんかしないよ、私は久しぶりに親子水入らずで過ごしたいだけさ。仕事の話なんて野暮だよシンちゃん」
「自分の発言の矛盾に気付いてるかオッサン?」
殺気を込めて睨みつけても、マジックはどこ吹く風でニコニコと上機嫌にシンタローを見つめている。
「やっぱり可愛いなぁシンちゃんは。写真やビデオじゃない、本物にやっと会えてパパとっても嬉しいよ!」
「俺はどこぞのアイドルか!?」
父親が息子に向かって言うセリフとは到底思えない。だがシンタローの隣に立つキンタローにも優しい笑顔を向けて、
「いつもシンちゃんの補佐、ありがとう。この子の世話は大変だろう?キンタローもちゃんと休みは取れているかい?」
と労わりの言葉をかけているのを見ると、至極マトモな人物に見えてしまう。
「ああ……暴走するシンタローを止めるのは大変だが、俺にしかできないからな。休みは今のままで満足している」
「そうか。二人が仲良しさんみたいで私も嬉しいよ。でもシンちゃんが暴走したらパパも止めてあげるからね!」
「むしろアンタが暴走してんだろ!!」
愛する息子のツッコミを優雅にスルーし、マジックは勝手にソファに腰を下ろした。
キンタローが秘書に持ってこさせたコーヒーを機嫌良く受け取り、さぁ今日は何をしようか!と完全に居座る気のようだ。
「何もしねーよ、つか何もすンな。今すぐ帰って風呂入って寝ろ」
「こんなに早くベッドに入っても眠れないよ、まだお昼じゃないか。……ハッ、そうか!シンちゃん!!
それはパパとおよそ20年ぶりに一緒にお風呂に入って同じベッドで眠りたいという遠回しなおねだ――」
「眼魔砲!!!」
溜めナシで必殺技を放ち見事にそれは当たったが、マジックは不屈の闘志で立ち上がった。
「ハッハッハ、シンちゃんは照れ屋さんだなぁ~」
「うっわ、すっげー殺してぇ。つーかどっかの根暗ストーカーを彷彿とさせる発言に俺、理性ブチ切れそうなんデスが」
「耐えろシンタロー。あれでも前総帥、お前が手を下したとあっては色々厄介だ」
キンタローが労わるようにシンタローの肩をポンポンと叩いた。
シンタローはイライラした様子を隠そうともせず、貧乏ゆすりをするように不機嫌に床を足で何度も蹴りながら、さっさと帰れよ!と言った。
だがマジックは心得たもので、ニッコリと爽やかに笑いながらパチン!と指を鳴らした。
「……?ティラミス?チョコレートロマンス?何やってんだよオメーら」
どうやら合図があるまで部屋の外で待機していたらしい。マジックの側近であるティラミスとチョコレートロマンスが失礼致します、と礼をして中に入ってきた。
ガラガラと押している台の上には白いシーツが掛けられている。きょとんとするシンタローとキンタローの二人だが、辺りに漂い始めた香りに「っあ……」とシンタローが反応する。
「フフ、そうだよシンちゃん。今日はシンちゃんのだぁーい好きなカレーライスを作ってきたんだよ!もちろんパパの手作りだからね!」
シンタローはさっきまでの威勢はどこへやら、ぐっと言葉に詰まった。
何だかんだ言っても、自分の好みを最もよく把握しているマジックの作るカレーは、文句無しに美味い。材料選びの段階から何日もかけて、吟味に吟味を重ねた上で作られたまさに神の一皿、THE・親父の料理。
この歳にもなって親の作ったカレーが好きです、などと言うのは死んでも嫌だったが、目の前に置かれると誘惑には勝てない。
「…………よぉし、よく分かった。オイ、親父」
息子に呼ばれて、マジックは弾んだ声で応えた。
「何だい!?Dear my son!!」
「痛い目見たくなかったら、そこのカレー置いてとっとと失せな」
「――――――シンちゃん」
「今なら命だけは勘弁してやるよ<」
爽やかな笑顔でチンピラまがいの脅しをかけられ、マジックはハンカチをきつく噛み締めながら本気で泣いた。
「うっまそうだなぁ~。よう、お前も食うかキンタロー?!」
マジックを追い出した後、ウキウキしてカレーをよそうシンタローの姿がそこにあった。



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